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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第八章 ~ 勇者、ヒカリ・カスガ・ソレイユ ~
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[19歳] 王都ゲイルウィーバーにて(後編)

「どうぞ、お確かめください」

 手紙を渡したアンドロメダはやっと自分の役目を終えたかのように安どの表情を見せると、つぎはヒカリとレーヴェンドルフに温かい眼差しを送っている。


 ギンガは両親が手紙を受け取るのを見ていて、得も言われぬ違和感を感じ取った。

 まず、両親が手紙を受け取ったときの反応が対称的であったこと。

 母は封書を開封する前から時間が止まったように動きを止めていたし、父のほうは手紙そのものよりも、このアンドロメダのほうに興味を持ったようで、じっと顔を見ながら首を傾げたり頭をひねったりしているのだ。


「アンドロメダさんといったね、あの……、私とどこかで会ってますよね」

「うーん、どうでしょうか? どこかで会っているかもしれませんね、でも私はよく誰かに似てると言われるので、勘違いされているのかもしれませんよ?」


 アンドロメダはいけしゃあしゃあと惚けたようなことを言ってお茶を濁したが、ギンガが見たところ、アンドロメダは父レーヴェンドルフを知っている。たった今、父がアンドロメダに投げかけた『どこかでお会いしたことはないだろうか?』という問いも、父がアンドロメダを知っていることに他ならない。

 きっと父とアンドロメダは過去に会ったことがあるのだろう。


 ギンガの目は勇者のチートが含まれていて、少し離れていてもチラッと見えただけで、見えた分は把握している。父に充てられた手紙は宛名にちゃんと "レーヴェンドルフ・フィクサ・ソレイユどの" と書かれてあったのが見えた。しかし母に充てられた手紙は見たこともない外国語で書かれていて、封筒の表面、つまり宛名のところにはヒカリ・カスガ・ソレイユと書かれているはずだと思っていたのだが、ギンガの知る文字ではなかった。


「なあおい、信じられん。ヒカリ、ちょっとこれを見てみろ……」

 レーヴェンドルフがいま手渡された手紙をヒカリと二人で見ながら、まるで世界の終わりでも見ているかのような、まるで絶望のど真ん中にいて立ち尽くすような表情をみせた。


 ヒカリも自らの鑑定スキルで何度もアンドロメダを鑑定しているのだろう。訝しむというよりも驚いた顔が印象的で、レーヴェンドルフとなにやら耳打ちをしたあと真剣な眼差しで議論を始めた。


 まったく、玄関先に突っ立ったまま、ギンガが弟たちと遊んでやってる間も三人で一通りの話し合いを続けると、しばらくして緊張はほどけ、アンドロメダはまずレーヴェンドルフと堅く握手を交わした。



 その後アンドロメダは客人として扱われることになった。

 すぐに使用人が呼ばれ、アンドロメダは娘であるギンガよりも先に風呂に呼ばれていった。


 ギンガは両親の手に渡った手紙に何が書かれてあったのかは分からないが、食事を用意させるから、父レーヴェンドルフがその前に書斎に来て欲しいと熱心に誘っていたので、きっとこの女、984歳というのは本当で、ギンガの『見通す目』に狂いはなかった。


 何しろギンガの父、レーヴェンドルフは考古学者なのだから。聞きたいことは山ほどあるだろう。


 ギンガはどうせ見せてくれないことは分かった上で、手紙の事を母にきいてみた。


「母さん、さっきの手紙……何なの?」

「ああ、そうね、父さんも母さんもね、昔の知り合いから手紙をもらったのよ。そんな事よりも、ギンガの話を聞きたいわ」


 などといつものように穏やかな母を演じてはいるが、気が動転していることは見て取れた。

 その証拠に、たったいま受け取ったばかりの手紙をクシャクシャっと丸めたと思うと、手のひらにギュッと握り込んでボッと燃やしてしまったのだ。驚いたのはギンガのほうだった。母が炎の魔法を使うところなんて初めて見たというのもあったが、所謂いわゆる"この手紙は自動的に消滅します"とでも言わんばかりの魔法に驚いた。母はこの手紙を誰にも見られたくなかったのだ。


 どうせ何て書いてあったのかは分からないけれど、だいたいの察しはついた。アンドロメダが隠し持っていた古い手紙だ。誰が書いたのかも、だいたい想像がついた。だけどギンガはそれを敢えて知らないふりをすることに決めた。父と母が我が家に受け入れたアンドロメダの事はもう詮索しないことにしたのだ。考えに考えた末、複雑な思考の果てに導き出した答えがそれだ。


「ねえ母さん、ディアッカ覚えてる?」

「……? ディアッカ? ええ覚えてるわ。ディアッカどうしてるかしらね?」


「私たちの捜索隊にディアッカが居たの。ラールって街で傭兵をしてるんだって」

「ええええーっ! すぐ本家に連絡しないと。ディアッカは家出したのよあの子……」


「セイヤ・アサカはディアッカの恋人だった。ディアッカは戻らないって言ってたけど……」


「え? なんですって? ちょっと待ちなさい、それは聞き捨てならないわ。セイヤがディアッカに手を出したってこと? 二股かけてんの? どういうことか詳しく!」


「やめてよ、セイヤさんいいひとよ? 助けてくれたの。私を」


「へー、ギンガがあのセイヤをいい人って言った? わたしのギンガに手を出しただけじゃ飽き足らず、ディアッカと二股かけるなんて許せない。ギンガ! お母さんは許しませんからね!」


「ちがうちがう、違うって母さん。手を出してなんかいないの、早とちりしないで。あの人はほら、ディアッカの恋人だし、私は……でも、セイヤさん優しいひとだった。だからディアッカを追わないであげてほしい。あの二人、どこまででも逃げるって。きっと幸せなんだよ」


 そういって、二人のことを思い出しながら、幸せなんだと言ったギンガの表情が曇ったことを、ヒカリは見逃さなかった。


「ねえギンガ、あなたもしかしてセイヤのことが好きになった?」

「うーん、分かんない。でもあの人、私にもう剣をとらなくていいって。守ってくれるっていったから。ディアッカのことが好きなくせに、悪い人なの」


「あのバカ、そんな事を言ったのね……。セイヤに会う理由ができました。母さんが行って、あのバカをぶん殴ってやらないと気が済まないから」


 ギンガはこんなにもイラついてる母の顔を見るのは初めてだったので、少し、いや、大いに笑った。

 腹の底から込み上げてくる笑いが自然に出てしまった。

 なによりあのアサシン、セイヤ・アサカのことをバカと吐き捨てるように言ってのける母の姿を見るのが痛快で楽しいものだった。


 そしてギンガの屈託のない笑顔を見て母ヒカリはホッとしたように安堵の表情を浮かべる。

 やっと娘が帰ってきたのだと実感したのだ。


「んっ、やっと笑ったわね。おかえりなさい。ギンガ」

「母さん、さっきただいまの挨拶は済ませたってば、もうボケた? 心配だよ」


 ギンガが汗を洗い流し、洗濯したての騎士服に着替えると待たせてあった馬車に乗り込む。

 勇者として国王に戦勝報告するため王城へと向かったのだ。




 ギンガを送り出し、屋敷に残ったアンドロメダは、食事よりも先に離れにある書斎へと招かれた。

 主であるレーヴェンドルフの招待だった。


「久しぶりだね、アン……まさかキミが昔のままの姿で私の前に現れるなんて、思ってもみなかった」

「そうですね、お久しぶりです、レーヴェン。会いたかったわよ」


「私もさ。いや、しかし。まさかキミが……」

「はい、やっと手紙が渡せました。そんな事よりも、魔法の件なんですが、お願いしていいですか?」

「そうだな、私には魔法の適性がないから無理なんだ、ヒカリの力を借りなきゃどうしようもないな。ああ、しかし何といって説得すればいいんだ。まずはアン、キミと私のことから話さないといけない。それで? ギンガはどうなるんだ?」


「手紙には何て書いてあったか知りませんけど、きっと書いてある通りです」

「そ……、そうか。私はもうパズルの全てのピースがはまったように感じているよ。涙が出そうだ」


 レーヴェンドルフはアンドロメダの知り合いだった。アン、レーヴェンと、愛称で呼び合う仲だった。

 まだ幼い子供たちを使用人に任せ、妻ヒカリを書斎に呼ぶと、まずはアサシンを倒すため協力してほしいと言ったが妻ヒカリは了承しなかった。


 レーヴェンドルフはヒカリに宛てられた古い手紙は見ていないが、あっちの手紙にもたぶん、似たようなことが書かれていたのだと理解した。


「アサシンはセイヤよ。セイヤ・アサカ。あなたも知っての通り、私の元カレなの。今さら会いたくないんだけど、ディアッカの恋人だっていうじゃない。ギンガを助けてくれた恩人でもあるから、まずはお礼を言わなきゃいけないわ。最初から敵対することを考えないで」


 レーヴェンドルフはディアッカの消息が明らかになり、無事で暮らしていることをまずは喜んだ。

 そして妻の元カレ、セイヤ・アサカという男がこの世界に来ていて、勇者を殺すアサシンだということを聞いて、それならばやはりセイヤと会わないで欲しいと言った。


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