[19歳] 超ウルトラスーパー不審者
物語りが終盤に差し掛かってるというのにまーた新キャラ出ました。じつは序盤からちょこちょこ出てる人だったりします。
よろしく愛してやってください。
もう魔法使いも弓使いもそう数は居ないはずだ。
ならば突っ込んで片っ端から……。
ディムが短剣の血脂を拭き取り、次の血を流そうとしたその時だった。
正面の人垣が大きく割れ、向こう側から三人の男が歩いてきた。一人遅れていて小走りになってる。
まだ革の装備をちゃんと着けていない奴までいる始末だ。
中央のひときわ大きな男……。
鬼だ。
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■ ファルコア・ギーヴン 48歳 男性
オーガ族 レベル112
体力:974900/986692
経戦:★
魔力:-
腕力:★★
敏捷:S
【バーサーカー】SS/二刀流S/片手剣SS/刺突剣S/ウォークライA
■ カンダルフェ・ギマール 55歳 男性
オーガ族 レベル087
体力:744100/748590
経戦:S
魔力:-
腕力:★
敏捷:B
【狂戦士】S/大槍A/大斧SS
■ エンリコ・カスタル・ウェイドネス 122歳 男性
エルフ族 レベル85
体力:65084/68477
経戦:S
魔力:-
腕力:★
敏捷:B
【射手】S/弓術SS/短剣S/追跡A/足跡消しB/気配消しB/薬草の知識A/擬態C
■ ヴェルザンディ 9歳 女性
妖精族ピクシー レベル45
体力:3888/4082
経戦:B
魔力:★★
腕力:E
敏捷:S
【魔法使い】S/炎術SS/風術A/回復魔法A
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鬼にしか見えない男、オーガ族で名をファルコア・ギーヴンと出た。
そういえばメイとギンガが要注意だといってた勇者とタメ張る戦闘力をもっているらしい。
2メートルを超えた筋肉マンみたいなすっごい脳筋っぽい身体に大きな角が生えてる。まるでバッファ□ーマン(注:伏字です)だ。
革の装備を付けていても上半身は逆三角形なのが分かる。メイはクワガタ獣人って言ってたけど、確かにクワガタっぽく見えないこともない。だけどクワガタのアレはツノじゃなくて大顎だということを忘れちゃいけない。だから鬼でいい。
虎のパンツを履いてる訳でもアフロヘアな訳でもないけど、日本人の感覚では鬼としか言いようがなかった。
あれっ? ステータス表示には四人いる?
妖精? ああっそうか、オーガが持ってる。ランタンに見えたけど、あれは妖精が入ったケージだ。
15センチぐらいか? 20センチはない。子どものころ母さんが読んでくれた絵本の妖精だ。
すっごく珍しくて、もうこの世界には、居るのか居ないのかも分からないって聞いてたんだけど……やっぱ居たんだ。虫かごのようなケージに入れられてるってことは、逃げられたら困るんだろう。
「こいつ……、まさかグリフォンを操るテイマーが居ようとは。……鑑定士はまだか」
「鑑定士だ! レディ・ピンクを呼んで来い、あの女、まったく役に立たねえ……やる気あんのか?」
「ええっ? もしかして全員集合するまで待ってろって? ウソでしょ、揃う前に数を減らすでしょ普通」
ディムは獣人たちの会話に横から割り込んだ。話をすると見せかけておいて瞬間移動するかのようなスピードで踏み込み、妖精のケージを持ってるオーガ【狂戦士】の懐に入ると、最初に手首を斬り裂き、いちばん殺しやすい妖精のカゴを奪った。
まずは魔法使い、次が回復魔法を使う神官。これは戦闘から学んだ教訓だ。
魔法を使えて回復魔法も使えると言う妖精から殺さないといけない……。
ディムはケージの中で怯える妖精と目が合ってしまった。
「9歳って、こんな妖精さんが……、くっそ……」
妖精を殺すことに僅か一瞬だけ躊躇したディムはたったいま手首の筋を斬られてパニックに陥ろうとする体力74万のオーガを短剣で狙った。ディムの動きを視認できていないのだろう、これほどの強者であっても難なく、いともたやすく、短剣は頸動脈に吸い込まれるようにストンと穴を穿つ。体力が74万というのだから実に74万もの血が流れるかと思ったら、そうでもなかった。
引き抜いた短剣の切っ先の向かう方向にエルフの弓師が棒立ちだ。
まだこっちに気付いてないらしい。
短剣の軌道のまま円弧を描くように振ると、スパっと、まるで豆腐を切るように手ごたえなく、喉が裂けた。
突然目の前に現れて剣の間合いに入ってきたこの男に驚いたオーガのバーサーカー、背に十字を描いていた赤い鞘の剣を二本とも抜き、ようやく構えた。
ディムの動きにまるでついて行けていない。このオーガは何か状態異常を使われたと考えているようだが、それは違う。単純明快にスピードの差を見せつけただけなのだ。
視界に広がる景色が網膜に映ってから脳がそれと認識し、実際に対処するため全身の筋肉に指令を送る、そのスピードよりも速い動きだった。
目で見てやっとディムが動いたと脳が認識していても、その時すでに首を裂かれているのだから、防ぎようがない。気が付いたらやられていたという悪夢のような現象が、種も仕掛けもなく、単なる戦闘力の差だったという、これ以上ないほど簡単な解にこのバーサーカーは辿り着かなかった。
自らが数歩下がったのと同じように包囲の輪は広がる。翼広げることで自らを大きく見せるという野生生物の威嚇を強めながらゆっくりと近づいてくるトールギスをみて、包囲を崩された獣人たちは我に返ったように下がり始めた。
これはあらためて包囲を作り直そうとしているのではなく、恐怖しているのだ。
包囲が遠巻きになったことを受けたディムは囲みの中央で足を止め、手に取ったカゴに入っている妖精の姿をまじまじと観察しているのだ。仮にも女性なのだからセクハラで訴えられでも……いや、9歳の女の子なんだから見るだけでアウトかもしれない。
ディムはその時、妖精って10歳にならなくてもアビリティが発現するんだな……なんてことをぼんやり考えていた。妖精には見ただけで人をリラックスさせるような効果があるらしい。
この戦場のど真ん中で、目を三角に吊り上げていたディムがホッと一息ついた。
獣人たちに向ける眼差しとは打って変わって、とても優しく柔らかな表情で、その手に捕らえた妖精に語りかけた。
「んー、ぼくは母さんから "妖精さんは幸運を届けてくれる" って教わったんだ。だから殺したりしない。でも、まだ敵対する気なら次は容赦することができないからね、いい?」
妖精のヴェルザンディはその警告を聞かざるを得なかった。
小さくこくこくと頷くと、ディムはケージのカギを壊し、ふたを強引に開いた。
トンボのような透明な翅を羽ばたかせて、光の粒を撒き散らしながら妖精はふわっと浮かび上がる。
それでも遠くに逃げて去るわけではなく、遠巻きディムたち襲撃者を窺っている。
逃げたらいいのに、魔法なんて使おうものなら殺さなきゃいけなくなる。
「さてと仕切り直していきますか。えーっと、ファルコア・ギーヴンさん、この要塞の責任者かな?」
「要塞の長はたったいま倒された。さっきまでその妖精のカゴを持っていただろう? そいつが砦の司令官なのだが……、死んでしまったのならもうどうでもよい。私はこの要塞には関係のないただの戦士でな、ただ強いものと戦いたいだけだ。ここには勇者とやらを殺すために来たのだが、くくく……、なるほど、勇者は女だと思っていたが間違いだったようだ。お前が勇者か? ん?」
レベルは確かにこのオーガのほうが高いけど、勇者のチートが凄いから……ステータス的にはギンガの勝ちだ。でも戦闘の経験とかスカスカだし、アホな罠に引っかかるからプラマイゼロでいい勝負するかもしれないけど……。こいつとギンガの戦いなんて見たいとは思わない。
「違うよ、ぼくは勇者じゃない……」
この右側の、橋を渡ったところにある牢に捕虜が囚われているのは分かってる。
こんなところで油売ってる場合じゃないな……。
ファルコア・ギーヴンというオーガ族の狂戦士と、今にも戦闘が始まろうかとしたそのとき、バタバタバタと不細工な足音を響かせて、この鉄火場に遅刻してきたやつ……。
靴の紐すら満足に結ばず、急に呼ばれたから、慌てて出てきたような恰好で、いかにも慌てん坊さんな格好で……駆けてきた。
女だ。
若い女。
獣人たちの味方だからエルフと思ったけど、ヒトにしか見えない、しかも若い。
パトリシアやギンガぐらいの年齢か。
こいつがさっき言ってた鑑定士のレディ・ピンクって奴で間違いないだろう……。
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□ アンドロメダ・ベッケンバウアー 984歳 女性
〇ステータスアップ効果
〇知覚遮断効果(鑑定スキル無効)
〇足跡消し効果
〇自己再生効果(常時)
〇状態異常無効(常時)
ヒト族 レベル144
体力:2549970/2549970
経戦:★★★
魔力:★x4
腕力:★x2
敏捷:★x4
【ヴァンパイア】★/不死者SS/自己再生★★★/知覚S/知覚遮断C/短剣★★★/二刀流A/盾術A/片手剣★/短槍SS/耐火障壁B/耐光障壁S/足跡消しS/気配消しS/気配探知A/変身魔法(蝙蝠)A/状態異常無効
『マッサージ』A/『合気柔術』S/『追跡』A/『擬態』S
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「なんだそりゃ?」
変な声が出た!
この女、とんでもない不審者だった。ツッコミどころが満載すぎる。




