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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第七章 ~ 勇者、ギンガ・フィクサ・ソレイユ ~
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[19歳] 血とコロリタケの晩餐

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 一方こちら時間を少し戻して、ディムが空から防護壁を飛び越えたところだ。

 トールギスを従えて上空から要塞内部に飛び込んだ。まずは辺りをぐるりと見渡してざっと状況を把握する。


 自分の家があったところ、石造りのコールタールのような黒く汚れた建物が建ってる。

 角が丸くなった建築様式なので、これが獣人たちの文化なのだろうか。


 家の前、用水路を挟んで向かいの広くなっているところは、ディムの父親が一生懸命作ってた畑だった場所だ。

 毎朝まだ暗いうちから起き出して土づくりから綿花の世話をしていたし、夜は朝霞星弥あさかせいやに【夜型生活】アビリティが発動するまでずっと畑仕事をしていた。ここは父が手塩にかけて育てた畑だった。


 そんな、畑のあった場所に、獣人たちが便所を建てて強烈な悪臭を放っていることに、なんだか例えようのない怒りを覚えた。単に感傷的になった訳じゃなく、心の内側を焼き尽くすような、激しい炎のような感情に戸惑う。

 こんな嫌な気分になったのは初めての経験だ、こんなにも頭に来たのも、もしかすると初めてかもしれない。



―― ギリッ


 無意識のうちに奥歯を噛み締めたディムは、まず樽の上に座っているゴブリンに目を付けた。

 ディムの『知覚遮断』スキルは『知覚』スキルを持たぬもの、もしくは特に意識していない者に対して、存在を希薄にする効果がある。もちろんステータス鑑定を防ぐのも『知覚遮断』の応用となる。


 このスキルの効果でディムの姿を網膜に映しておきながら、そこに敵がいるとは認識できない。

 両の手に短剣を構えると、手の届く位置にいるこのゴブリンの脇腹に突き刺したうえで、グリッと捻り上げた。


「ギャアアアァァァアアアアァッ!」


「……んー、いい声だ。お前の死体をあそこの便所に突っ込んでやる」


 最初に弱そうなゴブリンを突き刺して悲鳴を上げさせるのは作戦だった。

 気が付いたもの、集まってきた者、片っ端から首を裂いて倒れていった。


 ディムはエルネッタたちが後を追ってくることは分かっていたので北門の裏からかんぬきを外しておいた。これでなんとかなるだろう。


 そして自ら道を切り拓きながら襲い来る敵を無造作に倒しながら、まるで大木の林立する森の中を吹き抜ける疾風のごとく駆け抜けて、ひと塊ごとに倒しながら出てくる奴らを片っ端から倒してゆく。


「トールギス、隠れてるやつらと遠隔で狙ってるような奴も任せる」



―― ピィ♪


 『気配探知』スキルを持つトールギスを敵に回して物陰に隠れるなんて無意味だ。

 翼を持って自由に空から襲うグリフォンを屋根の上から狙おうなどというのも、愚かなことと言わざるを得ない。



―― カン! カン! カン! カン! カン! カン!


「くっ、耳に響くなこりゃ……」


 ようやく全体が襲撃に気付いたらしい。なにせ少なくない数のオークやゴブリンたちの動きが鈍くて、襲撃があったことを報告するのが遅れたのにも理由がある。


 実は半刻ほど前、攫われた勇者パーティ三名の所在を確認するため要塞上空からトールギスを偵察に出した際、秘密基地にあったキノコのバスケットにあった猛毒のコロリタケをトールギスに預けて、調理している夕食の鍋にこっそり投入するよう指示しておいたのだ。


 無味無臭のコロリタケ毒は大鍋に僅か混入しただけで状態異常を引き起こす猛毒だった。


 どうせ後で忍び込む予定だったから、デニスやプリマヴェーラたちの負担が少ないよう予めコロリタケを仕込んでおいたおかげで獣人たちの抵抗が弱まったのだろう。大鍋にコロリタケ数本。これだと致死量に満たないだろうが、食事をした者に限ってはフラフラなってしまって、満足に戦えるわけがない。


 ケガの功名と言ってしまえば、別にどうでもよかったのだが、せっかく弱ってるんだから遠慮なく倒す。自分たちの砦が襲撃されているのだ。休んでいる者など一人としていない。総出で応戦する獣人たち、指示をする声、気合を入れる怒号が飛ぶ。


 獣人たちのほうも侵入者を迎え撃ち、なめた真似をしてくれたことを後悔させるため続々と集まる。


「どうせエルネッタさんたち追っかけて飛び込んでくるんだから、ひとりも見逃しちゃダメだぞ」



―― ピィ!


 トールギスなどは飛ぶことも面倒だとばかりに千切っては投げ千切っては投げという表現のまま、前足の巨大な爪を武器に、ただ握って身体を破壊するという、技術もくそも何もいらない技で獣人たちを蹂躙する。



―― ド―ン!ドーン! ドドド――ン!


 わざと姿をさらし敵を集めるディムとトールギスの襲撃に有効な手を打つことができず、激しい魔法が撃ち出される。炎の魔法ファイアピラーだ。爆発的な燃焼を見せ、上空まで立ちのぼる爆炎が空を焦がす。

 魔法使いゴブリンのファイアピラーが着弾したのだ。


 しかしディムは落ち着いて、魔法を食らってから結界で押し返す。もはや炎の魔法ごときではディムの髪の毛一本すら焦がすこと叶わず、張られた結界の前に急激に冷めて行く。燃焼を禁じる結界と耐熱障壁の多重効果だった。



―― ドドドドオオオオォォン!


 たったいま魔法を撃ってきた魔法使いをマークしたトールギスが轟雷の魔法で反撃する。

 多少の障壁を持っていたとしてもトールギスの轟雷をレジストするまでには至らない。黒焦げになったあとも雷は地面に消えず、すぐ横に、またすぐ横にいる獣人たちを襲う。

 木に落雷があると、雨宿りしている人を通ってゆく雷の特性に似たような現象、雷そのものが意志を持って次々と獣人たちの身体を貫いていくように見えた。


 轟雷という大きな魔法を同時に6発、速射砲のごとく連発するトールギス、短剣を持って戦闘しているディムが無事で済むわけはないのだが、結界魔法のレジスト効果のおかげで、静電気に髪が逆立つ程度にしか感じない。


「さすがあるじ」

「巻き込まれてるよ! もしレジスト出来なかったらどうすんのさ!」


 電撃のみならず音の衝撃波までも無意識のうちにレジストするディムであった。


 トールギスは人型に変身後、疾風のように建物に入ると室内に隠れている獣人たちを次々と倒してゆく。


 獣人たちは罠を張ったつもりだった、そこは油の倉庫、つまりここへ炎の魔法を撃ち込んで、グリフォンを焼き殺すつもりだ。


「いまダ!」

 号令が響くと炎魔法がいくつも発動し、思惑通りに油に引火する。室内で爆発的な燃焼を始めると、少女姿のトールギスは躊躇せず風の魔法を使った。


 燃焼効率をさらに上げる風の魔法を使ったのだ。



―― ドドドオオォォドドオオォォン!


 石造りで籠城できる強度の建物が、一階から四階まですべての窓から高温の炎が噴き出し、建物そのものが破壊されるほどの大爆発が起こった。


 そして窓から飛び出したトールギスは落下しながら姿をグリフォンに変え、さらに外から風の魔法を撃ち込んだ。


 ディムは驚き、そして身を護る態勢をとった。あれほど強固な結界魔法に護られていながら肌の露出部分を庇うぐらいの熱量だった。


「トールギスは賢いな。罠にハメられた仕返しを忘れないなんて、いったい誰に似たのさ」

「あるじが教えてくれた」


 仕返しを教えたのは誰だ? ……性格を考えると細山田ほそやまだディミトリか? それとも桜田さくらだディミトリか。どっちにしろ性格のいい奴じゃない。我ながら。


 建物が炎上したことで辺りは昼間のように明るくなった。……せっかく薄暗い中で無双してたのにな、こりゃリューベンにある前線基地にも襲撃がバレたはずだ。増援になると面倒だ。


 大きな火災になり、ディムが戦闘している場所が煌々と照らし出される。

 ここは村の中央広場のあったところだ。メイの家は……ああ、いま燃えてるあたりか。


 ここまで戦闘力の差を見せつけるとオークやゴブリンどももおいそれと何の策もなしに斬り込んでこなくなり、ディムが通りをゆっくり歩いて侵攻するのに、対峙する獣人たちがジリジリと下がりながら遠巻きに包囲する形となった。ここはセイカ村の中央にあった広場のところだ。右の角を曲がれば、6年前必死の防衛戦を繰り広げた橋のあった場所。


 ディムは囲まれることを好まなかった。


 獣人たちのステータスをざっと見渡してみても、コロリタケの状態異常が出てるやつはもういない。

 森のほうの裏門近くにいた奴らは、夕食を遅くとったやつらだった。ここからが本番だ。


 包囲する獣人たちの中央で足を止めたディムのすぐ横にトールギスがグリフォンの姿のまま降り立った。

 そして翼を大きく広げて威嚇する。



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