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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第七章 ~ 勇者、ギンガ・フィクサ・ソレイユ ~
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[19歳] 夜目の効かないもどかしさ

 エルネッタにはディムがそう簡単に発見されるとは信じられなかった。

 なぜなら戦闘中のディムの姿は目の前に居ても、直視し続けることが難しいからだ。


「まさかあのバカ、わざと発見されたのか……トールギスをアテにし過ぎだそれは」



―― ド―ン!ドーン! ドドド――ン!


「なっ!! なんだ」


「魔法使いよ! ファイアピラーを連発してるわ! まさか自陣の中で……」


「あああっディム! わたしは先に行ってるから! みんなも急いできてくれ!」



―― ドドドドオオオオォォン!


「ぐああああっ、なんだ? なんだあ?」

 いくつもの閃光がおこったあと空気を切り裂くような爆音がした。腹に響く圧力のある音だ。

 百戦錬磨の傭兵、エルネッタをしてもひるんで動きが止まる。


「雷の魔法!、しかも轟雷クラスの連発? そんな高位の魔法を獣人が使えるわけがない、エルフでもそんな伝説級の使い手、歴史上何人かいるぐらいなのに……」


「くっ、ディム!……ディムゥゥゥ!!」


 エルネッタは真っ暗でろくに見えもしない夜の森を躓きながら走って走ってセイカ村、つまり獣人たちの要塞門へと向かう。だが秘密基地から村の入り繰りまで直線距離でも300メートルはある。夜目の効かないエルネッタが急いだところで10分近くはかかる距離だ。



 こんな真っ暗闇の森の中で一歩進むのにも難儀しているというのに、こんどは要塞内部から断続的に爆発音が響き渡る。



―― ドドドオオォォドドオオォォン!


 今度は爆発音!

 遥か高所まで立ち昇る黒煙と、高密度、高温の炎。あれは油に引火したときの炎と煙だ。


 エルネッタは逸る気持ちとそれでも思ったように進めない不甲斐なさで、涙目になりながらも走った。

 ディムが居ないと真っすぐ走ることすらできないのだ。



 夜目は利かなくとも森を熟知していて、感覚だけで走れるダグラスとメイがエルネッタに追いついた。


照明弾ライトバルーンもう一発上げようか?」

「ダメだ、暗闇のほうがディムに有利なんだ……灯りは欲しいけど、照明弾は上げないでくれ」

「わかった、急ぎなよ!」


「エルネッタ姉さん、ここは足もとが悪い。むやみに走っちゃダメだ。俺についてこい」

「木の上は無理だ、地面を走ってくれ!」


「どんくさいわね! 木の枝から枝へ飛ぶの。なんで出来ないかな!」

「できるかあ!」


「ディアッカ! 私は見えるからわたしについてきて」

「ギンガ! たすかる」


「神官とエルフと騎士のひとは遅れてくるから、私たちは先に向かいましょう」


 とはいえ地面はディムとトールギスが倒した100もの獣人たちが無造作に転がっていて、地面はところどころ血泥になっていてぬかるむ。深夜の森の狭い道をランタンももたず獣人どもの死体を踏まずに走ることなんて無理だ。


 泣き言なんていってられない状況を受け入れ、踏もうが躓こうがディムのもとへと走る。


 エルネッタはギンガに手を引いてもらいながら暗闇を走ってようやく森を出た。

 ディムが飛び込んで行ってからまだ5分ぐらいしか経ってないというのに、中の戦闘音は止んでいて、さっきまでものすごい音で応酬されていた魔法も術者がいなくなったように静まり返っている。


 先行していたダグラスとメイは、エルネッタとギンガの姿を確認すると、要塞の重厚な門を叩き始めた。


―― ドンドン! ドガッ!


「ダメだ! 門が開かない。……破壊するぞ!」


 ダグラスはすぐさま走って、さっきの戦闘で倒したオークの戦士から大斧を奪って、走り戻ったままの勢いを大斧に乗せて力一杯を門にぶつけた。


 激しい破砕音がすると、反発的にギィィっと音を立てて、門が少し開いた。


 エルネッタが隙間に槍を差し込んでテコを抉るように押すと、ダグラスもそれに応じ、ガッガッガッとどこかでチェーンがスプロケットから外れたような重厚な音を立て、ズレるように開いてゆく。


「遅くなった! ディムさんはどこだ!」

 デニスがプリマヴェーラとショーラスを率いて到着した。門はダグラスがこじ開けたおかげで人が一人通れるだけ開いたところだ。


「突っ込め! わたしからはいるぞ!」


「次は俺だああっ!」


 大盾持ちのエルネッタを先頭に、正面から敵地に攻め込む戦士たち、威勢よく大声を上げて突入したダグラスも、中に入った者から言葉を失っていった。


 構えた剣も槍も、そこではもうもう無意味だった。動くものなど何もないのだ。


 要塞内部は昔の長閑のどかなセイカ村の面影は一切なく地面ですらところどころがコールタールの沁みに汚染されたところが黒光りしながら異臭を放っていて、篝火の光に映し出される破損した建物を彩った瓦礫と、そこいらに無造作に転がっているのは、獣人たちの死体、死体、死体……。



「ここは、ディムの家があったところ……」


 メイリーンが指さしたのは、破壊された建物。大きな穴が空いた壁には巨大な爪痕が残されている。

 敵の中にモンスター級の獣人がいないとするならば、これはトールギスの爪だ。


 爪を打ち込まれて肋骨ごと胸を握り潰された死体と、喉を裂かれた死体、首と胸を突かれ倒された死体。

 要塞の湖の側の門裏は練兵場を兼ねていて広い運動場が用意されていたが、そこはただ無造作に死体が積み上がっていただけだった。


 盾持ちのエルネッタ、ギンガ、デニスが盾を構えながら、死体を踏まないよう、注意しながら足を運び、巨木の丸太のようにゴロンと転がっているのをうまくかわし、またいで超えて、一歩、また一歩と、確実にディムの居るほう、いまも戦闘してるであろう、獣人たちの騒がしい声に導かれる。



「中央広場のほう、メイの家があったほうから剣戟の音がする!」

「わたしが先行するっ!」

「盾から出るな! また分断されるぞ!」


 エルネッタはメイリーンの首根っこを掴んで引き留めた。こんな敵地にど真ん中で勝手に突っ込んでバラバラになったら多重遭難は必至だ。


「全員がひとつになって行動する必要がある。盾の後ろから絶対に出るなよ」


 エルネッタとデニスは隠れた敵の襲撃に注意しながら、倒れてる者も槍で突き刺しながら慎重に要塞奥へと進む。ここに入った事のあるメイリーンの案内では、オークたちの死体を辿っていくとするならば、村の周囲をぐるっと反時計回りに周回しているように見え、そして戦闘の怒声は村中央広場のあったほう、中央にあるこの特徴のない石積み建物の向こう側から聞こえる。



 壁を背に、大盾に隠れながら、それでも早足で戦闘音のするほうへ移動するエルネッタたち、敵襲を警戒しながら慎重に移動してゆく。オークの戦士よりもレベル的優位なエルネッタ、ダグラス、メイリーン、ギンガの四人が前を守り、魔法使いのプリマヴェーラと神官のショーラスを死守しながらだ。


 建物の陰、出入り口、階上の窓や屋根の上など物陰になって見えづらい部分に敵が潜む。森の中のゲリラ戦よりマシとは言え、全方向、矢だけでなく魔法にまで警戒しながら一歩、また一歩と確実に奥へと足を進めた。


 ベテランのデニス・カスタルマンが提言する。


「奥に入りすぎだ。前後を挟まれたら全滅するぞ」

「いいえ大丈夫よ、この人たちの戦闘力なら多少オークに囲まれてもきっと大丈夫。問題は私たちが足を引っ張ってるってこと」


「分かってる! 私たちの力じゃこれ以上奥へは行けないって言ってんだ!」

 デニスはまだこの道の先に救わねばならない味方が三人もいるというのに、これ以上進む力がない自分の不甲斐なさを恥じたことが大声を出させた。


「大丈夫だ! わたしの盾で守ってみせる。絶対だ」

 エルネッタはいまにも駆け出して行きたい思いをグッと噛みしめて飲み込む。


 油が燃えているのだろう、黒煙をもうもうと吐き出し続ける建物火災の向こう側にディムはいる。

 しかし、旧セイカ村の中央部分、ディムが居るであろう場所に近付くに従って、どんどん喧騒は収まり、静かになっている。



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