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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第七章 ~ 勇者、ギンガ・フィクサ・ソレイユ ~
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[19歳] ギンガは剣を抜いた

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 とりあえず上で寝てる聖騎士の人は小康状態を保っているのでそれでいいとして、メイがどうあってもあと三人のメンバーを助けるまで帰らないとクダ巻くので、相手に準備する時間を与えてやる必要もないし、じゃあ今夜のうちに助け出すかという事になった。


 一刻(二時間)ほど休憩して、各自戦闘食レーションなどでエネルギー補給しながら身体を休めておいて、深夜、砦にこっそり忍び込んで攫われてしまった三人を救出する作戦だ。

 何を隠そう、影の薄さには自信があるし。


 ま、敵の第二波攻撃がなければの話だけど。


 そのためにまず三人が捕らわれてる牢を見つけておいてもらうことにした。


「トールギス、ちょっと偵察お願い」


―― ピィ!



 トールギスが夜の空へ飛び立った。タカモードで矢の届かない高空から敵や建物の配置を偵察で明らかにしてもらえるだけで相当有利に戦える。その間にも身体を休めておこう。


「エルネッタさん、要塞を監視しながらメンテナンスするから湖畔のほうに行こうか」

「ん、分かった。しっかり仕上げてくれ。わたしのアサシン」


「ディム、一刻(二時間)後だからね、あてにしてるわよ。ダグラスも身体を休めて」

「分かってる。でも俺はあてにしてないのな」


「キノコ食べたぐらいで体壊すなんて虚弱体質、役に立たないし」

「基準についていけねえって」


 ちょっとでも休んどいたほうがいいのに、ダグラスとメイは仲がいい。

 二人の掛け合いを横目で見ながら、ディムはエルネッタの身体をメンテナンスして少しでも数値を高めておくことにした。


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□ ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性

○ステータスアップ効果

●状態異常 解離性同一性障害

 ヒト族  レベル069

 体力:117000/134200

 経戦:SSS→★★

 魔力:E→D

 腕力:SSS→★★

 敏捷:S→★

【聖騎士】★ /片手剣A/短槍★/盾術★★★/両手剣D

『真実を映す瞳』C/『経験値ボーナス』D/『全ステータスボーナス』D


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 まったく、ここにきてこの成長。

 トシで落ちるなんてことはないらしい。


 エルネッタさんの手を引いて星明りと照明弾ライトバルーンに映し出された湖畔のほうに出た。

 さっき船が突っ込んだ岩場のすぐそばだ。目のいい獣人じゃなくても照明弾ライトバルーンの明かりで、湖畔にカップルが佇んでることぐらい要塞側から確認できる。秘密基地の足もとには大勢の獣人たちが倒れていて落ち着かないけど、ここなら少しは心が落ち着く。


 もちろん先客がいなければ、の話だ。

 残念ながら満天の星空の下、湖畔の水際で、ひとりの少女がいて背中越しに振り返ると、ディムたちと目が合った。


「おっ? ギンガ、どうしたんだ? 星空に魅入ってるのか?」


 勇者アビリティをもつソレイユ家自慢の娘が夜空を見上げながら黄昏てる真っ最中だった。


 アサシンは勇者を殺す者と言われてる。勇者の血を引くエルネッタさんはまだしも、勇者本人であるギンガの目に、はたしてディムはどう映っているのだろうか。


 ギンガはディムのアビリティ、スキルをみて、嘘が見えると言った。

 勇者の鑑定でどこまで見えてるかは分からないけどきっと複数アビリティも見られたはずだ。



「ディアッカ、なんでアサシンと一緒なの? もしかして知らなかったの? それにそいつは……」


「知らなかったわけじゃない、ディムは告白してくれたよ。ただわたしはディムがアサシンだなんて信じたくなかったから、うやむやにしてただけなんだ」


「じゃあ王都うちには帰らないつもりなの?」


「んー、そうだな、ギンガにバレてしまったからな。こりゃあもう潮時ってトコだろうな。ディムがどこか外国に逃げようって言ってくれたんだ、わたしは報酬を受け取ったらディムと一緒に、どこまでも逃げようかと思う」


 エルネッタはディムの肩に手を乗せ、頼れる相棒を誇るように言った。

 

「ありがとう。どこでもいいや、治安が良くてのんびり暮らせそうなところがいいな。じゃあもうエルネッタさんの隠し事って、あと王族の婚約者ってことだけ? 他にはもうない?」


 二人の視線がディムに集まった。そしてエルネッタさんは一瞬だけ戸惑ったような表情を見せたが、ディムが知っていてもおかしくないと留飲を下げた。


「知ってたのか。でもよく調べたな……」

「まあ、ディアッカ・ソレイユっていやあ有名人だし、ポロっと口を滑らせるような奴もいるってことだよ」


「えっと、ディム、これだけは信じてほしい。親が勝手に決めてきた縁談なんだ。王家とソレイユ家は1000年前からこうやって親戚関係を続けている。わたしは嫌だったんだ。だけど私の力じゃどうしようもなくて、逃げ出すしかなかったんだ」


 エルネッタさんは少し動転したような口ぶりで取り繕おうとしている。なにか焦っているようだ。

 親が勝手に決めた縁談なんて、わざわざそんなに焦って言わなくても、別にエルネッタさん結婚せずに失踪したんだから言わないでも分かってる。


「別にそんなこと今更どうだっていいよ。婚約なんて破棄してぼくといっしょに暮らしてくれたらいい。この勇者に伝言をお願いすればいいんじゃないの?」

「それもそうだな。ギンガ、頼めるか?」


「はあ? ディアッカ、本気なの? このひと……ディアッカに嘘ついてるよ」

「知ってる、ディムだけはわたしに嘘をつくくせに、離れて行かないんだ」


「ディアッカは本当にこのアサシンのことが好きでそう言ってるの?」

「ああ、そうだ。おかしいか? ディムはこう見えてわたしよりもかなり年上でな……」


 ギンガはどうすればいいか分からなかった。

 幼いころよく遊んでくれたディアッカの笑顔と、母の笑顔が重なる。



 遠い思い出、追憶の中にある幼い頃のことを思い出していた。


 ソレイユ家の屋敷、ギンガはディアッカが遊びに来ていたことを憶えてる。

 ディアッカは本を片手に木剣を持って、物語の登場人物になり切る遊びをしていて、ギンガは少し退屈したのだろうか、暖炉の横の棚、花瓶に生けられた綺麗な赤い花を取ろうと背伸びしたけれど、うまく手が届かず花瓶を落として割ってしまったことがあった。


 綺麗な花を髪につけようと欲張った。この年頃の女の子にはよくあることだ。


 割ってしまった花瓶は、母のお気に入りだった。


 ガシャーンという破砕音が響くと、父親も母親もすぐに駆け付けて、ギンガにケガがないか気遣う。


 しかしギンガはこの花瓶を母がどれだけ大事にしているか知っていた。

 母の大切な花瓶を割ってしまったという責任と、取り返しのつかないことをしてしまったことで胸に大きなつかえるものができて言葉を阻んだ。自分が割ったことを母に知られることを恐れ、胸が押しつぶされてしまって、ごめんなさいが言えなかった。


 そのときだ、ディアッカが思いがけない行動に出た。ギンガの苦しそうな顔を見て「わたしが割ってしまった、ごめんなさい」と嘘をいってギンガを助けたのだ。


 それでホッとしたように表情を緩めたギンガの目をじっと見ながら母が優しく語り掛けた言葉。しかしギンガの心にはとても厳しく突き刺さる言葉だった。


「ギンガ。あなたは本当にそれでいいの? 心が苦しくありませんか?」


 そしてギンガは胸の痛みに刺され声の限り泣いあと、ようやくごめんなさいということばを言うことができた。ギンガがどうやっても口に出せなかった"ごめんなさい"という言葉を言わせてくれたのだ。


 人はみなギンガの母を偉大な勇者といって羨む。

 しかし母の真の偉大さを知る者はとても少ない。


 胸に大きく誇れる母だ。


 いっぱいの愛情をそそいでくれたことも知っている。

 自分が愛されてることも。



 アサシン。


 それはギンガだけでなく、あの優しい母をも殺すものだ。

 それなのにディアッカはアサシンのことを好きだという。


 ギンガはどうすればいいのか分からない。



「違う、違うんだよディアッカ! この男はディミトリなんて人じゃない! この男は勇者を追って異世界からきたアサシンなんだ。いま倒しておかないと父さんも母さんも殺されてしまう。王国も崩されるわ!」


 このアサシン、名を偽っている。メイリーンの幼馴染、ディミトリというのは嘘だ。ディミトリという人物は6年前に死んだはずだ。メイリーンも死んだと言ってた。


 セイヤ・アサカは、メイリーンの幼馴染ディミトリが死んだあと入れ替わったに決まってる。


 そしてディアッカを騙してソレイユ家に近付こうとするその理由は唯一つ。世界にたった二人の勇者を殺し、勇者の血を引くソレイユ家に災いをもたらすものだという結論を導き出した。安直ではあるが当然の帰結だった。


 勇者ギンガ・フィクサ・ソレイユはゆっくりと剣を抜き、切っ先をアサシンに向けて構える。

 ピリピリとした空気なんてもんじゃない、髪が逆立つほどに激しい闘気を噴出させて。


 ギンガは剣を抜いた。考えに考えた末の決断だった。

 しかし甘さを残す。


 まだ迷いを捨てきれていないのに、剣を抜いてしまった。


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