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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第七章 ~ 勇者、ギンガ・フィクサ・ソレイユ ~
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[19歳] 怖い女たちの尋問

 アサシン……この国に伝わる言い伝え。

 勇者を殺し、平和な王国を崩して混沌の闇に沈めるという絶対悪の存在だ。


 しかしそんなアサシンとメイリーンの再会を見ていると、もしかするとこの男の言うように、伝説に語られるような悪霊とは違うのではないかという疑念が湧き上がってくる。



 この森に来る少し前、メイリーンがとても強い印象の話を聞かせてくれた。

 キャンプで焚火を囲むと獣人の侵攻があった夜、村が焼かれた事を必ず思い出すという。


 炎を見ると獣人の侵攻に村が焼かれたことを連想する。トラウマのようにフラッシュバックして、ひどいときには過呼吸を起こしたりしたそうだ。そんなつらい思い出だけど、思い出すのが嫌じゃないという。


 そこでは獣人の槍に貫かれようと地面に叩き付けられようと、這ってでも、獣人の足にしがみついてでもメイリーンたちを逃がすために奮闘したヒーローが居たのだという。忘れるなんて絶対に嫌だと言った。

 だからメイリーンはトラウマになるほど酷い記憶でも、忘れるなんてことせず、ずっと胸に抱いて生きてくのだと言った。


 再会できたという、たったそれだけの事で"あの"鉄でできてるんじゃないかと見紛うばかりに強いハートをもったメイリーンが見るも無残なほどボロボロに泣き崩れている。


 あの男は、それほどまでにメイリーンの大切な幼馴染の友達なのだ。


 今すぐにでも、後ろから斬りかかってでも倒しておくべき存在。そんな絶対悪がなぜメイリーンの幼馴染で、ディアッカの恋人? なのかといま置かれている立場を呪ってギンガは立ち尽くす。


「ギンガ? どうした。疲れたのか?」

「いえ、ちょっと……。私は大丈夫」



 ディムがアサシンであるという事実が深刻に響いたのはギンガばかりでなく、エルネッタのほうも心は穏やかではない。


 ソレイユ家は勇者の血族だ。

 自分の血縁の者を殺しにくると言われるアサシンがディムだとは考えたくもないことなのだが……。それでもディムの戦闘力が高すぎるその理由を少しだけ理解できたような気がした。


 ギンガが警告したアサシンの正体がディムだったという事実を知って安堵したのか、エルネッタは槍を降ろし、ダグラスも剣を地面に突き立てたあと、秘密基地の大樹に背中を預けて一息ついた。


「なあダグラス、お前はディムがアサシンだと聞いて驚かないのか?」

「んー、アサシンって人間なんだろ? 俺はそれを聞いて安心してんだ。だってディムは死なないんだぜ? それは人じゃないからな、アサシンだと言われて妙に納得してるよ」


「へえ……そういう納得の仕方もあるのか……」


 と、たった今もこのモデル体型の若い美人に押し倒されて、ニヤニヤしながらイチャイチャしてやがるディムを冷たい目で見下ろしながらエルネッタは力いっぱい蹴飛ばしてやれば徒歩で10日かかるラールまででもひとっ飛びで帰れるんじゃないかってほど力が漲ってくるのを感じていた。


「ダグラス、ちょっとこの子をディムから引き離してやってくれないか。イライラするんだ」

「無理。手を出したら噛まれる。どうせそろそろ泣き疲れるから待ってればいい」



----


 捜索パーティリーダーのデニス・カスタルマンはメイリーンの涙がひと段落するのを待って、今すぐにこんな場所からは撤退しようと提案したが、ただの1ミリたりとも検討されることなく華麗にスルー。どういう訳か助けに来たはずのディムを怖い女たちが囲んで尋問しようという流れになった。


「ディム、正直に白状しなさい」


 ディムの背中に抱き付いたメイリーンが脅迫的な言葉を投げかける。


「なんで尋問されるのさ!」

「私はそんなことしない。だって優しいもの。質問よ」


 この状況はディムにとって相当マズい。エルネッタは久しぶりに感情のない殺人ロボのような目で見てるし、背後から抱き着いてるメイのほうも、質問の答えに間違えたらいつでもチョークスリーパーに移行できるといういろんな意味で男殺しのポジションに収まってる。



Q1:なぜ生きているのか。

A1:死んでなかったから。


「アレで死なないなら殺す方法がないわよ? アサシンって不死身なの?」

「殺す方法を吟味しないでくれるかな!」



Q2:今まで何をしていたのか。

A2:そこのエルネッタさんとラブラブで暮らしてた。


「私たちがどんな思いでいたか……生きてたならそれを知らせるのがスジってもんでしょうが。なんか超ハラ立つんだけど……ダグラスも何か言ってやってほら」

「ディムは気楽なヒモ暮らしでいま幸せなんだとさ」


「貴族の娘にぶら下がるヒモとか最低」

「ちゃんと働いてるじゃん! いまもほら、いまも!」



Q3:なんでソレイユ家の女とラブラブなのか。

A3:そうなる運命だったから。


「そこの女、ディムをよくもこんな危険なトコに連れてきたわね、あとでシメてやるから」

「自分が遭難したことを棚上げにしてよく言うよ、そもそも6年前アンタを助けようとして死ぬ思いをしたって聞いたけど……」


「ううっ……ディムごめんなさい、ディムが死んだのわたしのせいだよね」

「まだ泣くんかい!」

「ぼくまだ死んでないからね!」



Q4:こんな危険なところで何をしているのか。

A4:どこぞのお転婆娘がヘタ打って遭難したから捜索者サーチャーのぼくが指名された。


 ……グググッ


「がはあぁっ、チョークチョーク! 首が絞ま……」



Q5:なぜあのグリフォンがピーちゃんなのか。

A5:ピーちゃんじゃなくてトールギス。女の子だし、セイカの森とメイたちを守ってくれてた。


「ピーちゃんありがとうね、もう焼き鳥にしようなんて言わないからね……」

「そんなこと言うからメイに懐かないんだ。トールギスは言葉が分かるんだから、迂闊な事言っちゃダメだからね」


―― ピィ



Q6:なんでディムが【アサシン】なのか。

A6:ぼく知らない。なんかの間違いだと思う。


「そうなの? それなら仕方ないわね……」

「メイリーン! そこたぶん一番大事なトコ! ちゃんと聞いてよ」

「ディム、後でいいからちゃんと話せよ、嘘は許さないからな」


 13歳で離れ離れになってからのことを詳しく話を聞かれたので、まあエルネッタさんには嘘ついてるのバレバレなんだけど、アサシンの件は適当にごまかしておいて、あの夜、結局あの刺青オークといっしょに濁流の河に落ちて、その後ずーっと下流まで流されて、気を失ったまま河原に打ち上げられてて、今にも腐って死にかけてたところをエルネッタさんに命を助けられたことを話すと、さっきまでシメてやるとか言ってたメイが掌を返した。


「ありがとうございます。まさかディムの命を救ってくれた恩人だったとは……そうとは知らず失礼なことを言ってしまいました。ごめんなさい。……ほら、ダグラスもディムもこっちきて、一緒に謝りなさいよ!」


「えーっ、なんで俺が……」

「ダグラスはいいとしても、なんでぼくが? おかしいよね?!」


 メイはディムとダグラスの二人を巻き込んで、何度も何度もお辞儀を繰り返していた。

 ディムはなぜかメイの怒りを買っているらしく、頭を下げる角度が足りないとかで、頭をグイグイ押し下げられたりした。


 メイは離れ離れになって六年経った今でも、悪ガキトリオのリーダーで、いちばんお姉さんだ。



「ギンガ、ほらこいつがわたしの弟分、ディミトリよ。いっつも話してるあのディムだから、ディムって呼んであげて。奥手だと思ってたのにまさかソレイユ家の令嬢といい仲になってただなんてね。もしかするとギンガの身内になるかもしれないわよ」


「本当にこの人が話に聞くディミトリさん……なの? 間違いなく? メイと同い年で幼馴染の?」

「そうよ? 何かおかしなトコあるの? さすがにアサシンになってることには驚いたけど、それだけよ? だってディムだし。ディムならドラゴンになってても大丈夫。だってディムだし」


「何でもいいみたいな言い方やめてもらえるかな!」


「ふうん、私は認めたくないんだけどアサシンなんて……」

「好きでアサシンやってるとでも? もしぼくがキミのような勇者に生まれてたらこの人生は違ったものになっていたと思うかい?」


「生憎もしもの話に興味はないの。もう一度聞くわ、あなたはメイリーンの幼馴染で、ディアッカの、えーっと彼氏? ディミトリさんで間違いないの?」


「そうだよ、うん。間違いないけど、勇者の鑑定ではどう見えてるのさ?」


「私にはあなたの嘘が見える……」


 そう言うとギンガはディムを一瞥したあと押し黙ったまま踵を返しメイの傍へ。

 たった2メートルぐらい移動しなくてもいいのに、ディムの目の前から居なくなるためだけに移動したように見えた。


 感じが悪い。

 アサシンだってことで露骨に嫌われたのは初めてだけど、こういうのが日常的に続くとなるとさすがに傷つく。

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