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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第七章 ~ 勇者、ギンガ・フィクサ・ソレイユ ~
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[19歳] 戦力差


 ギンガは大声を張り上げて仲間に警戒を促す。


「アサシン! アサシンがいる! 全員背中を合わせて! 全方位防御を! なんでこんな森にアサシンが……」


 それでも一番前で剣を構えるギンガ。絶望的なステータス差を目の当たりにしても、仲間の先頭に立ち続ける。


「アサシンだと! どこだ!」

 ダグラスがプリマヴェーラの前に立ち塞がり、メイリーンも密集隊形に入った。


「見失った? 私の目に映らない……どこへ? 闇に沈んだ? みんな警戒を! 密集して早く! 背中を守って、盾の後ろに」



 ギンガが見失ったというアサシンはすでに脇をすり抜けていて、ダグラスやエルネッタたちと雑談を始めたところだった。


「ほんと、この秘密基地さ、他の人に教えたらぶん殴るって言ったのメイだったよね、たしか」

「そうだった! じゃあメイが他の奴らを連れてきたら誰がぶん殴られるんだ?」


「なあディム、この森にはアサシンがいるらしい……。わたしはどうすればいいんだ?」


 鑑定スキルもちのギンガがアサシンを見たと言った。ほかでもないこのセイカの森で。

 エルネッタは少し前にディムから、もし自分がアサシンだったらどうする? と聞かれたことがあった。


 エルネッタの察しの悪さは恋愛限定だ。ギンガの言うアサシンが誰のことかなんて否が応でも誰の事かは察しが付く。


「そのアサシンは悪いアサシンじゃないよ。きっとエルネッタさんのことが好きな、いいアサシンだよ」

「いいアサシンなんて考えたこともなかったな」


「いい盗賊もいるんだからさ、いいアサシンがいてもいいじゃん。で、ダグラス、こっちはもう終わった? あっちのほうは全部片づいたよ。ってかトールギスが強い強い、木が切り倒されてて少し広くなったエリアじゃもうトールギス無双でさ、ぼくも頑張ったけど負けたなこりゃ……」


 ダグラスやエルネッタたちと親しく雑談するディムの顔をじっと見つめる青い瞳があった。

 とても不思議そうな表情をして、瞬きすることも忘れて、じーっとディムの姿に目を奪われていた。

 ディムも美女にじっと見つめられるのに慣れてるわけでもなく、ちょっと視線が気になっていたのだけれど、その顔には見覚えがあった。


「ん? メイ? もしかしてメイ? うわー、分かんなかったよ、すっごい奇麗になってるじゃん!」


「ディ……ディム?」

「久しぶりっ、元気そうで何よりだね。うわデカっ! 伸びたね、175ぐらいある? えっと、トールギスもダグラスもほら……みんな揃ってセイカの森だなんて、何年ぶりだよ?」



 ―― バチン!!


 ディムは一瞬何が起こったのか分からなかったが、頬がめくれ上がるほどの痛みと、鼓膜が破れるんじゃないかって耳がキーンとする音が響いた。まったく、『聴覚』スキル発動してる者の身にもなってほしいよ……。


 目の前に星が散ったところを見ると、どうやら思いっきりビンタされたらしい。

 頬が熱く、ヒリヒリして痛い。油断してたせいか首にガツンときた。芯にくるパンチだった。


「痛いよ……メイ……」

「夢じゃ、ない?……」


「間違ってるよそれ。普通は自分のほっぺをツネるよね!」


 メイリーンはおもむろにディムのシャツをまくり上げ、13歳のとき、自分を庇ってゴブリンの骨槍こっそうを受けたときの傷を……確認した。

 ディムの左側頭部、指で髪を梳き上げ、ゴブリンに刻まれた三本の爪痕も……みた。


「夢じゃないの? 本当にディムなの?」

「まあ、何度か死んだようなもんだけどね、命を拾われたおかげでここに立ってる」


「うわああ、うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! ディム、ディムうううう」


 メイリーンはディムに抱き付いただけじゃ飽き足らず、縋りつくように押し倒して、人目など1ミリもはばからず、まったく敵の死体だらけという、到底ロマンチックとは言えないような夜の森で、うわんわんと大声で泣き続けた。


 敵の第二波攻撃を呼び寄せたりとか、涙が流れすぎて体重が減ってしまうとか、脱水症状になってしまうんじゃないかっていう、別な心配をしてしまうほど泣き続け、一時的に涙の生産が追いつかずにスンスンと鼻をすすりながら、また涙が帰ってきて「うわあああああぁぁん、ディムうぅぅ」などという涙の自転車操業まで使って、おそらく六年分の涙を全ていま流しきるほどの泣きっぷりを見せた。


 そんな折にでもディムの鼻は冷静に要塞のほうから流れてくる風から食事の匂いを嗅ぎ分けていた。

 さっき門から打って出た100もの獣人たちが敗北したのに、またこんないい匂いが漂っている。食事の用意がされてるんだ。もしかすると非番だった者たちも引っ張り出さたのかもしれない。


 今夜中に第二波攻撃も覚悟しなくちゃならない。100もの兵が壊滅したんだ、こっちには相当数いると勘ぐってるはず。次出てくるのは100どころじゃないだろう。獣人たちの中にグリフォンの生態に詳しい者がいるなら森を焼き払われるなんてことはないだろうけど……。


 それに、これだけの大音量で泣いてたらきっと要塞で耳をすまして聞いてる『聴覚』スキル持ちの斥候には聞こえてるてるだろうから、こちら側に犠牲者が出たと思わせたかもしれない。それはそれで都合がいい。



----


 ディムが幼馴染のメイリーンと抱き合って涙の再会を果たしているのを、すこしイラっとしながら見ているエルネッタはギンガに再確認しておきたいことがあった。


「なあギンガ、念のための確認なんだが、ギンガが見たアサシンって、いままさに女の子に押し倒されて気持ちよさそうにしてるこのバカのことで間違いないんだな」


 ギンガはメイリーンが抱きしめて離さないディムから目を離さずに、無言のまま頷いた。


 しかしギンガが考えていたイメージと実際のアサシンは天と地ほどにかけ離れている。

 まさかこんな優男がアサシンだなんて、ステータスを読み取った自分の目を疑ってしまうほどだった。


 圧倒的な力量差にも息が詰まるほど驚いた。

 しかしギンガの見たステータスの中で最も注目すべきはその圧倒的な戦闘力を示す評価値ではない。


----------


□ セイヤ・アサカ 19歳(54歳)男性

  出身地 異世界ニホン、オーサカ・ウェルナンシティ

 (父タクト・アサカ、母マヒロ・アサカ)

 ヒト族 異世界人 転生者 第五戒の追放者


・全ステータスアップ 効果

・暗視 効果(常時)

・毒耐性 効果(常時)

・対魔法結界 効果

・耐熱障壁魔法 効果(自動)

・聴覚強化 効果

・足跡追尾スキル 効果

・嗅覚強化 効果


 体力:■■■■■■□□□□ 戦力差 圧倒的不利

   :3079200/4896840


 経戦評価SSSS     戦力差 約2倍(警告)

 魔力評価SSSS     戦力差 約4倍(警告)

 腕力評価SSSSSSS  戦力差 約4倍(警告:挽回不可能)

 敏捷評価SSSSSSSSS戦力差 約5倍(警告:挽回不可能)


【アサシン】★マスター/知覚/知覚遮断/宵闇/短剣★マスター/二刀流

【追跡者】熟練者 /足跡追尾

【理学療法士】超越者/鍼灸/整骨/ツボ/マッサージ

【結界師】熟練者 /聴覚/結界/自動障壁

【冒険者】習熟者 /摂食

 /合気柔術/温泉鑑定士/視覚誤認/投擲


■ 戦力差  = 1:712

■ 勝利確率 = 1/1966


----------


 勇者のスキル『見通す目』は彼我の戦力差までをも鑑定し、その結果の評価値から戦闘を有利に導くものだ。相手と自分、どちらがどれぐらい強いのか、いったいどこがどう強いのか。どのようなアビリティの加護を受けていて、どんなスキルを持っているのか。一対一の対等な条件で戦った時の勝率までも瞬時に計算され、表示する。まるでウェアラブル端末を仕込んでいて使い勝手のいいアプリで必要なすべての情報を見ているかのように。


 数値はある種残酷な評価を下す。このアサシンと戦った場合、ギンガの戦闘力が1ならアサシンの戦闘力は712という、目を疑うような数値と、対等の条件で戦った場合の勝利確率1966分の1という絶望的な値をはじき出していた。


 つまり戦ったら確実に殺されるという意味だ。


 ギンガの『見通す目』スキルは世界でも類を見ないほど秀逸なスキルと言われている。彼我の戦力差に加え、更には両親の名と兄弟姉妹が居ればその名まで分かる。


 ギンガの目をごまかして、偽名など使うことは許されないし、出身地まで隠すことはできない。


 勇者のごまかしようのない『見通す目』で確認した。

 この男はディミトリなどという男ではなく、セイヤ・アサカという異世界人だ。


 そしてギンガにはこの名に覚えがある。


 幼い頃から母に異世界の話を何度もしてもらった。馬に引かせるわけでもないのに、馬の何倍も速く走る乗り物や、絵が動いて物語を話してくれる本とか。遠くにいる人と話をするアイテムとか、まるで全てが魔法でできた夢のような世界の話。


 ギンガはその不思議な話を聞くのが好きで、何度も何度も母にねだって、幻想的なおとぎ話のような世界に浸っていたのだ。


 その話の中にたびたび登場する男の子の名前。

 それがセイヤ。……セイヤ・アサカという名だった。


 偶然なのかもしれない。だがしかし、『見通す目』スキルを使えるようになって何度も見た母の出身地が、このセイヤ・アサカの出身地とほぼ重なる。偶然だなどと考えるほうが不自然だ。


 この男は母がしてくれた異世界の話に出てくるセイヤに間違いない。


 それがどういう訳か、いまこうしてアサシンとなり、圧倒的な力を持ってギンガの前に現れた。


 異世界からやってきたのだ。母でも破れなかった世界の壁を破って。

 母を殺しにきたとしか思えない。


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