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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] セイカの森へ

 トールギスが空からあらかじめ偵察してくれたおかげで、冒険者パーティは敵が待ち伏せしていない道を選んで進むことができた。セイカ村の端っこを舐めるように進み、ディムの家の前を走って、用水路の蓋板を踏んで森に向かうのもいいけど、それじゃあきっと、また100単位の獣人と戦闘になるし『追跡』スキル持ちの獣人を巻くためには川の中を歩くか、空を飛ぶか、森に入って木渡りなんていう忍者のような動きをするか、それか船に乗って湖を渡るしかない。


 一旦沢の横まで下りて、山の斜面をかけぬけ、横から湖のほとりにでる。

 湖の湖畔をまわる周回コースを通ると獣人たちが待ち伏せてるという情報なので、大きく迂回してやり過ごす形になるけれど、戦闘がないぶん時間的ロスもない。

 実際にトールギスの見立ては正確で、敵の待ち伏せが予め分かってるだけで、この敵地にあっても安全に進むことができる。


「ショーラスさん、そこ滑るから気を付けて」

「あ、はいすいません、もう転びました……でも大丈夫です、セルフ回復魔法でケガは治りますから」


 ディムたちが子どもの頃は細い獣道がついていた漁場の小屋に上がる道に来ている。

 昔はセイカの者が自由に歩いていた獣道も殆ど草に覆われ、僅かに水が流れているのだろう、苔生す岩場と化していて、こうい岩場はものすごく滑る。


 山歩き、森歩きに慣れていない、特に都会育ちの人たちは相当な苦労を強いられる。

 つまりディム、ダグラスとトールギスという地元民以外の四人は装備品の重さも相まって酷い難所を通行しているということだ。戦闘で心身ともに衰弱するか、滑る岩場の通行で心身を擦り減らすかの違いでしかない。


 とはいえ、ディムの担当はエルネッタを抱き上げることだし、ダグラスがプリマヴェーラをエスコートしてるので、実質苦労してるのはパーティーリーダーのデニスと、神官のショーラスだけだ。

 ヤギがとんでもない岩場を上り下りするように、ディムとダグラスはこの滑る急角度の岩場も難なく通り抜ける。


「ふああっ、やあっと湖畔に出た。この小屋がそうなのか」


 装備を付けてのハイキングといったところ。風通しの悪いじめじめ湿った岩場を登るのだから相当きつい思いをして上がってきたのに、小屋は退廃してて屋根に穴が空き、船着き場になってた桟橋も腐って板が落ちてる。


 船は……ああ、トールギスの言った通りたしかに残ってるけど、半分が水に沈んでしまってて、船体も水を吸っているらしく、普通に考えたらもうダメだ。

 向こう岸はうっすらと見えているのだから泳いで行けば手っ取り早いのだけど……。


「ふう、これぐらいなら水魔法でなんとかなりそうだけど、わたし水魔法つかえないのよ。あなた結界魔法使えるわよね? 水を排除する結界でなんとかならない?」


「ディムおまえ魔法まで使えたのか! どれだけわたしに隠し事があるんだ……」

「またこんど説明するよ……」


 水を排除する結界なんて使えるかどうかは分からないのだけど、昨夜の戦闘で魔導師から受けた炎魔法の消し方は覚えた。結界魔法は障壁魔法のように壁を作るだけじゃなく、対象物から範囲を守ることができる。結界魔法があると、強風の中でも風の影響をまったく受けずに涼しい顔で読書したり、激しい雨に降られても、少しも濡れることがないらしい。これまで意識して発動したことはないが、昨夜の戦闘で炎結界の張り方はなんとなく覚えた。それをそのまま水に対応させればいい。


 結界を発動。湖水の侵入を禁止する。


 自分の身体に結界を張り、湖に足を踏み入れてみると……。ん、水が避けてくれるから足は濡れない。

 超強力なファンタジー要素で水をはじく撥水加工のようなものだ。


 なるほど、水と火とでは使い勝手がかなり違う。


 じゃあ、水を吸って重くなり半分水没してるボートに結界を投げてみるとする。


 大きさはおよそ船の板に沿わせて結界を操作するのだけど、術者であるディムの目にも見えないのだから難しい。ならば……と『知覚』スキルを発動させて『結界』も見えるようにすると、


 なんとなく見えるようになった。水色の空気の層のように見えるのが結界魔法だった。

 『結界』を『知覚』できるといっぺんに使いやすくなった気がする。


 半分沈んだ木造船にくっつける形で水の侵入を禁止する結界を発動すると、水を吸って重くなった木造船が、まるで空気が入れられて徐々に浮かんでゆくゴムボートの如く湖に復活を果たした。


「さあ乗り込んで、プリマヴェーラさんに風魔法お願いしようかな」

「ええっ? 息をするように風を生み出すと言われるグリフォンの前で私の稚拙な風魔法なんて恥ずかしくて使えないわ!」


 プリマヴェーラは適材適所を提案したつもりなのだろう。

 日本人なら"釈迦に説法"という言葉で丸く収まるのだろうが、この世界に釈迦はいない。


「ディム……わたしはお前を信じてるからな、絶対に沈めないでくれよ、頼んだぞ。溺れ死ぬのなんて嫌だからな……」


 エルネッタさんとデニスのおっさんは、今の今まで半分沈んでいた泥船のような木造船に乗るのに難色を示した。エルネッタさんは右腕と頭以外は革装備だけど、デニスのおっさんはだいたい金属鎧で身を固めてる。騎士の鏡みたいな恰好をしてるけど、もし船が沈んだらほぼ溺死確定だから船の信頼性は重装兵にとって死活問題だ。


「大丈夫だよ、もし万が一攻撃を受けて沈むときはエルネッタさんの身体に結界を張るから」

「まて……ちょっとまて、それってどうなるんだ?」

「すとーんと落下するね、湖底まで」


「水深どれぐらいあるんだ?」

「子どもの頃に潜った感覚だと、一番深いところで、うーん、ラールの時計塔の高さぐらいかな?」


「どっちにしろ死ぬじゃないかっ!」


 半ば無理やりエルネッタさんとデニスのおっさんを船に乗せるとトールギスがタカの姿のまま風魔法を効果的に使って、もともと手漕ぎのボートでオールもないっていうのにゆっくりと加速していった……。



----


 ディムは北にそびえる万年雪のつもる山脈から吹き降ろされる冷たい風を頬に受けながら、懐かしい故郷の匂いに浸っていた。目を開けると正面にあるのは悪ガキどもが13まで育った懐かしい森、右を見るとセイカ村があって、森との境界線にあったディムの家の、屋根と煙突が見えるはずだった。


 しかし今は砦のようになっていて黒い壁が囲んでいる。要塞とか砦というより、小さな城のようにも見える。大規模な砦は城のようにも見えた。

 湖のほう、森しかないほうの出口の門が開いている? もしかして自由に出入りできるのかもしれないと思った矢先、その出入り口から獣人たちの一団がゾロゾロ出てきた。


「なあディム、あれは? 篝火か? 松明か……もしかして俺たちバレバレ?」

「んー? こっちを見てるふうじゃないけど、オークを中心に獣人が100ぐらい出てきたけど?」



―― ボッフアアアアアァァァ!


 静寂の森が光ったかと思うと、いくつか火柱が上がって森に火災が広がり、更に高空へと発光体が撃ち上げられた。


「あれはっ、ファイアピラーとライトバルーンの魔法! まさか同時起動? 炎が白い! なんて火力なの、いったい……」


 ライトバルーンというのは照明弾に近い、空に浮かんで長時間光を放ち続ける魔法だ。


「メイか?……いや、メイが森を焼くだなんて考えられないが……」

「メイしか考えられない。トールギス! 加速しろ。メイが森を焼くなんて、よほど追い詰められてる」

「わたしの盾を帆にすれば加速できる! トールギスここに風を」


 さっきまでは無音航行するためゆっくり加速してたけどそんなことも言ってられなくなった。

 トールギスの風魔法に、エルネッタさんのスクトゥムを帆に見立て、強風を受け持っていかれそうな身体を抑え込み、急加速するボート。


「砂地に迂回する余裕はないから土手に突っ込むよ! タイミングよく飛んで着地してね。ダグラスはみんなを秘密基地に案内してあげて、いくらメイでも『追跡』スキルを躱して隠れられるようなところなんてあそこしかない!」


「俺もそう思ってたっ! ディムは?」


「ぼくはトールギスと二人で遊撃に回るよ、メイの炎が燃えてる間に数を減らす。エルネッタさんは勇者たちに合流して、お願い」


「分かった。ディムも気を付けるんだぞ」


「ぼくがセイカの森で獣人なんかに負けるわけないじゃん……」

「俺もだ!」


―― ピィ!


 もちろん、ダグラスもトールギスも負けるわけがない。

 地の利はこちらにある。100%有利なのだから。



 湖を猛スピードで岸に向かって突進するボートも月明かりの中ならば見つかることもなかっただろうに、メイの魔法、ライトバルーンが空にあって光を放ち続けているので、まるで昼間のように航行が明らかとなった。


「森の中から狙撃に気を付けて、もう見つかってるよ!」


 言うが早いか、森の中からファイアボールの魔法とオークの使う大斧が回転しながらものすごい勢いで飛んできた。ファイアボールと並行してなければディム以外の目には見えなかっただろう。


「やばい。避けろ!」

「舵のない船でそれは無理だよ」



――ボッガッボフォウ!


 ボートは岸に激突する寸前に大斧とファイアボールを右舷に受け船体がバラバラになって炎が飛び散った。


 エルネッタの目にディムが見えないのは分かっていたが、まさかダグラスの動きすら目で追えないとは思わなかった。だいたい筋肉質の巨体キャラというのは、こうもヒラリヒラリと森の木々を渡っていくものではない。照明弾ライトバルーンがゆっくりと降りてくる状況で、森の中は闇と光のコントラストが強く、幻惑される光の部分以外、暗い場所は闇に沈んでしまって何も見えない。


 そんな中、ダグラスは木の枝を飛び渡って行くというのに、案内するダグラスについて走れだなんて、エルネッタですらギリギリだというのに、首都育ちのオボッチャマ冒険者たちがついて行けるわけがない。


「あなたたちはわたしの背を見失わないようについてきて!」

「おっ、おう! ってか、夜の森をランタンなしでか! なぜ走れるのが信じられん」


 ランタンなんかつけたら弓兵の的になってハリネズミにされてしまう。


 先行したダグラスは木々の最短距離を飛び渡って秘密基地のある大樹にたどり着いた。ツリーハウスはまだ無事だが、木の下でひとり盾持ち片手剣を振るってオーク三体と勇敢に応戦する影をみつけた。人影だ。オークでもゴブリンでもない。


 華奢なシルエット、おそらく女、おそらく若い。つまりは若い女!


「どっせーい! 義によって助太刀するっ!」


 落下の勢いのまま、オークを袈裟斬りにして一撃で葬ったダグラス、樹上からの不意打ちを受け仲間をひとり倒されたというのに怯みもしないオークたちが二体、五体、いやもっと続々集まってくる。


「あなた達は?」

「勇者を助けに来たっ! 捜索隊だ」


「ありがたいです! 回復魔法を使える者がいるなら、隠れ家に……ひとりは動けない」


 振りかぶるオークと、話に気をとられ大斧の一撃を避けるのに間に合わず、小さな盾で受けようとする女の前に大盾が割り込んできた。



―― ガン!


 力一杯振りかぶって振り下ろされた大斧の攻撃を跳ね返したのはエルネッタの大盾スクトゥム。想像を絶する衝撃が伝わってくるがうまくそれを受け流す。


「んな小さなもんで大斧が受けられるかあ、一歩下がって仲間に背中を預けろギンガ! 他のパーティメンバーはどうした?」


 いくら援軍だとはいえ、いきなり知らない女性に名前を呼ばれたギンガ。少しだけ躊躇したが動けなくなった仲間の情報を伝えるほうが助けになると判断した。


「動けるのは私とメイリーンだけなの、上の隠れ家にグラナーダがいるけど、一刻も早く回復魔法が必要です」


「神官をそこへ、ダグラス、案内をたのむ」

「わかった! ショーラスさんこっちへ、ここを登って」

「どこに? この木に登ればいいんですか?」


「他のメンバーは!」

「私たちは三人、あと三人は捕まって砦に捕らわれてるの」

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