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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 捜索者、失業の危機

また一人ディムのパーティに仲間が加わりました。


「この獣人どもの死体は置いたままにするしかないな、わたしらはどうする? 夜まで小屋で休むか……いたたたっ」


 エルネッタはディムの肩に手を回そうとしたところ、トールギスに甘噛みされた。


「痛っ……噛まれた! なんでわたしの手を噛む? このっ」

「エルネッタさん怒っちゃダメだよ、トールギスは言葉が分かるからね、ちゃんと話して」


「話し合うって? わたしはグリフォン語なんて話せないんだが」

「トールギス、ヒトに変身できるんじゃないの? 変身スキルにヒト型ってあったけど」


 トールギスはパサッと羽音をたてて、ディムの肩から軽く飛び立つと、また黄色い光に包まれ、ヒト型のシルエットに変身したのと同時にストンと音を立てて着地し、自分の足でゆっくり立ち上がった。


「んっ」

「スキル見たよ。ってかトールギスおまえ可愛い声してんな。ずっとその姿でいなよ」

「やだ、身体重いし飛べないし肩にも乗れない」


 言葉は話せるようだ。どこで人の言葉を習ったのだろうか。

 そういえば旅好きで山好きの桜田さくらだディミトリが入れ替わってるとき『タカもインコと同じで、言葉を教えたらしゃべるかも知れへんやろ?』とか言って言葉教えてた。


 ずっと肩にとまって会話を聞いてたんだから、それで覚えたのだとして不思議じゃない。


 へんな関西弁じゃなくて本当に良かったと思う女の子トールギスは11歳というそのまま11歳の少女の姿をしていた、身長は130センチぐらいだからこのまま肩に乗せてやるのもやぶさかでない。


 ショートカットの白髪に白のミニ丈ワンピースを着ていて、裸足はだし。靴を履いていない。

 さすがに猛禽だから眼光は鋭いかと思いきや、目尻が少し垂れていてすこし眠たそうな表情を見せるけど、瞳の色は猛禽類を象徴する見事なまでの黄金に輝いている。


 街に連れて帰っても耳が尖っているのでエルフと言い張れば大丈夫だろう。


「プリマヴェーラさん、トールギスはエルフと言い張れば大丈夫そう?」

「ええっ? この子、エルフってことにするの? そうね、白髪は稀にいるから大丈夫だし、耳も大き目だけどヒト族の目には同じに見えるかな。だけどエルフの目には違和感しか残らないね、あと金色の瞳はヒトでもエルフでも見た事ないわ。注意点としては鑑定眼で見ても鑑定できないことぐらいかな。大きな街ではアビリティを監視してる監視者ウォッチャーがいるから行かないほうがいいわ」


 プリマヴェーラの鑑定眼スキルだとトールギスの鑑定ができないらしい。


「なるほど分かった。ありがとう、んじゃトールギスはエルネッタさんに謝りなさい」

「なんで?」

「噛んたからだよ」

「肩に触ろうとした。肩は私の場所」


 ディムとトールギスのやり取りを見ていてエルネッタは "なるほど" と膝を打った。

 トールギスは今でこそ少女の風貌をしているが、正体はグリフォン。森を縄張りにする空の王者だ。

 つまりトールギスはいま縄張りを主張している。それは本能であって、ワガママでもなんでもない。


「わかった。わたしはディムの肩に触らない。もし触れることがあったとしても借りてるだけで侵略の意思はない。肩はおまえのものだ。それでいいな?」

「うん」


「ぼくの身体を勝手に分割統治しないでもらえるかな!」

「いや、これは大切なことだぞ」

「たいせつ!」


 どういう訳か、エルネッタさんとトールギスが絶妙に気が合ってる様子。

 さっきまで盾構えて奥歯鳴らしてたのに、なんでそんなに早く打ち解けることができるのか。



「タカって強くなるとグリフォンに進化するのか?」


 ダグラスもダグラスで、トールギスの事をポケ〇ンみたいに言い出すし。


「トールギスには変身魔法のスキルあるんだ」

「ええっ? じゃあ本体は何なんだ? いまの女の子の姿か? それともタカだったのがグリフォンに化けてたのか?」


「あの戦闘力を見る限り本体は間違いなくグリフォンよね」


 魔法の知識豊富なプリマヴェーラさんが言うには、グリフォンは魔法を使える個体が珍しくないらしい。そもそも幻獣種というのはこの世界ではドラゴンとキマイラとグリフォンしか存在しないらしく、そのどれも森で出会うようなことがあったら命はないのだそうだ。


 グリフォンはだいたいが雷か風の魔法に秀でていて、ひとたび怒らせると風を巻き雷鳴をとどろかせて嵐を呼ぶと言われている。もちろんプリマヴェーラさんはグリフォンと会った事なんて生まれて初めてだし、もし過去のどこかで会ってたら生きちゃいないと言ってた。


「だけど変身魔法ってすごいわね。人族に変身したら関節も骨格も人になるし、鳥類にはできない眼球運動もできるようになるのね、まさかグリフォンに横目で睨まれるとは思わなかったけど……もしかして、ヒトと子どもを作れたりして……」


 要するにトールギスはグリフォンの姿が本来の姿で、タカの方は世を忍ぶ仮の姿ということだ。


 かっこよすぎる。


 ディムやダグラスたちがセイカの村に帰ってくるまで、トールギスはずっとひとりで戦ってたということだ。


「そっか、トールギスはぼくの帰りを待っててくれたのか。ごめんな遅くなって……」

「んっ」


 詫びの気持ちに、世界一短い返事で頷くトールギス。


 ディムは安堵して張り詰めた糸が切れったせいか、トールギスの頭をなでてやるとそのまま小屋の前で倒れるように座り込んでしまい、いつの間にかエルネッタさんにもたれて眠りこけてしまった。


 目が覚めたのは夕刻、いい感じに空が真っ赤に燃え上ってる時間帯だった。


 ディムが寝ている間は全員が交代で小屋の周囲、獣人たちがこないか見張りを担当した。

 だけどトールギスが小屋の屋根にとまって全方向に目を光らせてくれていたおかげでみんなゆっくりと疲れを癒すことができたらしい。


 迂闊にも長時間眠りこけてしまったことで手薄になっていたエルネッタさんのメンテナンスを念入りに始めたところ、このマッサージスキルをつぶさに観察していたプリマヴェーラさんが何かに気付いたらしい。


「ちょっといい? ただマッサージを受けてるだけなのに、エルネッタさんの鑑定評価あがったの。ねえディムくんのマッサージってステータス上がるの? ちょっと、わたしにも教えてくれないかな」


「限界を超えてステータスを上げるにはアビリティ必要だと思うけど、身体を常に100%の状態に近付けるという目的ならきっとアビリティもスキルもいらないし、やってるうちにスキルは覚えるかもね」


 すぐさまダグラスが実験台と称されてプリマヴェーラさんの前にうつ伏せで寝かされた。

 まな板の上の鯉というか、単純にプリマヴェーラさんの趣味の筋肉をずっと触っていたいだけという不純な動機がすっごく見え隠れするけれど、それはエルネッタさんの身体にずっと触れていたいというディムの願望と同じようなものだ。


----------


□ ダグラス・フューリー 19歳 男性

 ヒト族  レベル059

 体力:62590/70440

 経戦:S

 魔力:E

 腕力:S

 敏捷:B

【騎士】S/片手剣S/両手剣SS/盾術B



----------


 プリマヴェーラはディムの手元を見ながらマッサージをコピーしながらも、きちんと理詰めで理解しようとするから覚えが早い。エルフって魔法に向いてるって言うけど、もしかしたら頭の構造が理詰めなのかもしれない。

 もしかしたらマッサージ師になれるかもしれない。たとえ動機が不純でも。


 筋肉のほぐし、関節の暖め、腱の伸縮、ツボの刺激。

 しっかりついてくる。


「プリマヴェーラさん、そこ少し強めに押してやってもいいよ。これを2セットやればだいたい完了。ステータスを見ながらやれば少しずつ回復していくのが分かると思う、ぼくの場合は毎晩だいたい2時間ほどやれば完了で、ステータス100%以上の状態が二日間持続するから、いざって時に身体が裏切らない……ん? いいじゃん、ダグラス、体力戻ってるよ。もしかするとステータスも微上げしてるかもよ」


「うんうん。不思議だ。なんだか身体が軽い……身体強化の魔法ってやつなのかこれは」


 ダグラスの体力が68359/70440に回復してた。大したことがないと思われるかもしれないけど、初のマッサージで体力+5700というのはすごい。ダグラスの身体に体力として10歳児ひとり分上乗せされた。つまり戦闘食レーションをかじりながら夕刻から日が沈むまでの空き時間に8%もの体力を戻したということだ。


「プリマヴェーラさん、マッサージ経験あるよね?」

「遠い昔にね、母が父にこうしていたのを私も真似たことがあるだけ……」


 遠い昔と言うのが何年前なのかを正確に聞いてみたいところだったけど、まあ怒られるのは分かってるのでやめといた。


 あと、エルネッタさんのマッサージをコピーしていたプリマヴェーラさんに助言として、エルネッタさんは左肩に古傷があって、左肩周辺を念入りにほぐしてるけどダグラスは右手一本でクソ重い両手剣を振りまわしてるんだから右側に負担が大きいはず。右の腰から右わき腹、右肩、右腕など、右側中心のメンテナンスを強く勧めておいた。



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□ ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性

 ヒト族  レベル062

 体力:117000/97500

 経戦:SS→★

 魔力:E→D

 腕力:SS→★

 敏捷:A→S

【聖騎士】SSS /片手剣A/短槍SSS/盾術★/両手剣D



□ ディミトリ・ベッケンバウアー 19歳 男性

 ヒト族  レベル099

 体力:3079200/3338240(32倍)(104320)

 経戦:SS→★★

 魔力:SS→★★

 腕力:★★→★x4

 敏捷:★x4→★x6

【アサシン】SS/知覚A/知覚遮断C/宵闇S/短剣★★

【追跡者】B /足跡追尾S

【理学療法士】SS /鍼灸C/整骨S/ツボS

【結界師】B /聴覚B/結界B

【冒険者】D /摂食B


----------


 よし、日没きた。スキル発動確認。


「おっけ! ぼくは準備完了、湖の湖畔をぐるっと回り込めばもうセイカだし、今朝の獣人どもの一部は撤退したから、ぼくたちがこの小屋にいることは分かってるはず。なのに何の動きもないなんて不自然だ。予定では沢の岩場のところ、王国軍の斥候と落ち合う場所だったところに手がかりを求めて行きたいところだけど、敵の斥候と会ったりするのはいただけないからなあ……」


「なんだディム、回りくどいな、はっきり言ってくれないと分からないぞ?」


「ねえトールギス、この辺でメイ見なかった? って聞けば早いかなと思って」


 トールギスはディムの方をチラッと見たあと面倒くさそうに人型に変身して答えた。


「メイリーンは森にいる」


「手間が省けたよ、ありがとトールギス。ついでにちょっと飛んで、敵の配置とか見てきてくれない?」

「さっき見てきた。湖まわると待ち伏せてる。岩場に沿って森に抜けたほうがいい」


「この先の漁場の小屋のトコにまだ船ある?」

「ある」


「うおー、トールギスすごいな」

「やばい。これは捜索者サーチャー失業の危機だよ……」


 ディムが頭を撫でてやると、その手を引いて耳や首筋をすりすりするトールギス。

 ヒトの姿をしてるときは猫っぽいかな。


「んー、なんか妬けるな!」


「痛たあああ!」


 エルネッタさんに脇腹をつねられた。

 腕力Sで思いっきりつねられるのって、ペンチで掴まれるのと変わらないぐらいの痛みだと思う。



「じゃあ出発しよう、メイが森にいるなら湖の対岸だからすぐだよ」



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