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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] トールギス

 今の今まで包囲されていたのが、エルネッタさんの機転により挟み撃ちとなり、有利不利の立場が瞬時に逆転、慌てて背後に回り込んだ冒険者パーティに対処しようと振り返った獣人たちと総力戦が始まろうとしていた。


 背後から現れたエルネッタたちに対応するため不用意に振り返ったオークをディムが急襲する。


「ぼくはまだ戦えるよ! よそ見をするなんて愚かだ」


 うるさいとばかりにディムを薙ごうと大斧を振り上げたオークにエルネッタの槍が突き刺さり、ダグラスが斬り込む。数の上では完全に獣人優勢だが、背後から襲われる格好になり、余所見をしたらその隙を逃さず斬り込んでくるディムに背を向けることも出来なくなったオークたちは次々と倒されて行った。


 勢いでは互角といったところだった。


 朝の光の中、遥か高空からこの戦いを見ている者が、戦場を中心に大きく円を描き、旋回し始めた。



 ファサッ……。軽い羽ばたきの音が消えてゆく。



 そしてまだ低い太陽の光を遮った。


 影だ。


 なにか大きなものの影が戦場を横切った。


 獣人たちは不穏なものが頭上を横切ったと知って動揺が広がる……。


 一瞬空を見上げた刺青のオークが大声で叫んだ。



「逃ゲろおぉぉ!」


 刺青のオークが叫んだ言葉は警戒を促す言葉ではなく、たったひとこと『逃げろ』だった。

 即断で戦闘中止と撤退を指示する、切羽詰まった命令だ。


 浮足立つ獣人の部隊を目の前にし、好機とばかりにエルネッタが存分に槍を振るい、ダグラスも両の手に握られた剣をもって次々とオークどもを斬り裂き、血飛沫を浴びていた。


 何が来たのか分からないが、獣人たちはパニックに陥っている。今のうちに数を減らしておくのは常套手段だ。


 ディムがよそ見をする刺青オークに短剣を突き立てようと身を沈めた時だった。


 それは空から、遥か高空から狙いを定め、ディムが倒そうと決めた刺青のオークを横取りするかのように、疾風の如く襲い掛かった。



―― キィ――ッ!!


 刺青オークの分厚い胸板に、たった一度の攻撃で穴を穿ち、掴んで空へと持ち去ろうとする大きな影。


 羽ばたきと同時に巻き起こる突風と、白い翼が刺青オークを高空まで運び、落とすだけというシンプルな攻撃でもって絶命させる。あの屈強な刺青オークですらこの有様だ。"それ"は、まるで子どもがおもちゃで遊ぶように、殺戮を楽しんでいるようにも見えた。


 それはセイカ村出身のディムやダグラスですら初めて見る白い影だった。


「グッ……グリフォンだあああぁぁ!! みんな小屋の中へ!」

「グリフォンよ! ダグラス早く逃げてぇ!」


 パーティリーダーのデニスさんと人生経験だけは豊富なプリマヴェーラさんが悲痛な叫びを上げた。


 グリフォン、こんな所で遭遇するだなんて思わなかった。

 上半身が猛禽類でありながら、身体の後半身は獅子というキメラのような超一級の幻獣だ。

 翼長よくちょうは5メートル以上あるだろうか、ディムですらその神々しい姿に瞬きを忘れてしまうほどだった。


「ディム! 何をしている、小屋へ早く!」

 ディムの反応が鈍い。エルネッタはディムの前に立ち塞がり、守るように盾をかざした。


 戦慄するエルネッタの事など気にも留めないのか、グリフォンは獣人たちを襲うのを休まない。

 その攻撃力はすさまじく、前足のツメのひと握りするだけで分厚い革鎧を貫通し、いかなる肉体であっても大穴を穿ち絶命させる力と、大斧を振りおろすよりも速いスピード。そして200キロはあろうかという重量をいとも容易たやすく高空へと運ぶ上昇力まで持ち合わせている。オークどもが一目散に逃げるわけだ。


 巨体でありながら動きも素早く、精密機械のように動いてはオークたちの攻撃をかいくぐって全てに死を与える。まるで高い知能を持っていて、オークたちとの戦い方を熟知した歴戦の戦士のように、瞬く間に五体、六体と倒してゆく。もはや戦いでも狩りでもない。ただの虐殺だった。


 小屋へ逃げろと言ったものの、ディムの前に盾を構えて動けないエルネッタと、グリフォンの襲来と眼前で繰り広げられる大虐殺に腰を抜かしてしまって立ち上がることすらできなくなった神官ハイデルを守るため、エルネッタと同じく動くことができなくなったデニス・カスタルマン。


 グリフォンのひと睨みで動きを封じられてしまったプリマヴェーラはダグラスに逃げろ逃げろと懇願しているけれど、ただひとり盾を持たず、二本の剣をクロスで構えたままプリマヴェーラの前から動こうとしないダグラス……。獣人たちの生き残りは次々とこのグリフォンに殺されてしまって、散り散りバラバラに逃げてしまった。小屋の前の広場は飛び散った血液と、無造作に転がされた惨殺体で溢れかえった。


 そして付近に獣人たちが居なくなったことを確認すると、グリフォンはバッと翼を翻して振り返り、ディムたちと睨み合う。


 エルネッタの歯噛みの音がギリッと聞こえた。相当まずい状況らしい。


 だけどディムはエルネッタを手のひらで制止する。動かないでというサインだ。


「ディム! 盾から出るな!」

「大丈夫、大丈夫だから槍をおろして……」


「なっ? ダメだ、私から離れるな!」


「大丈夫だから。エルネッタさんは槍をおろして、ダグラスも剣はもういらない」



----------


☆ トールギス 11歳 女性

 幻獣種グリフォン族グリフォン亜種メタモルフォス・グリプス

 レベル184

 体力: 3436400/3543220

 ■■:■■■■■■■

 ■■:■■■■■■■

 ■■:■■■■■■■

 ■■:■■■■■■■

【変身魔法】/変身(猛禽)S/変身(ヒト型)C

【属性魔法】/雷術SS/風術S

【障壁魔法】/耐雷障壁SSS/耐炎障壁SS/物理障壁SSS/耐風障壁SSS/耐魔法障壁SS

 /対刺突防御SS/対斬撃防御SSS/対打撃防御S/幻視B/気配探知B/低気圧A/聴覚SSS/視覚SSS


----------


 このグリフォンが獣人たちと戦う戦力差はまるでライオンとネズミほどの差を感じた。

 ディムはこのグリフォンがどれほどの強さで、自分たちとどれほどの戦力差があるのかとステータスを覗き見したのだ。


 『知覚』スキルを使ってステータスを覗いてみたら名前が分かった。


 トールギスだ。


 後になって考えるとディムの目を真っ直ぐ見つめるその眼差しに覚えがあった。

 6年前とは似ても似つかないが、ディムのピンチと見て助けに飛び込んでくるあたり、確かにあのタカのトールギスで間違いないのだろう。


 ステータスのうち黒塗りになって分からない部分は隠されているというよりも、文字化けしているようで、人に向かって使うのとは勝手が違って判別不能という感触だ。それでも名前が分かったことでこのグリフォンの正体が判明したことは大きな収穫だった。



 ディムはエルネッタが制止するのも聞かず、盾から身を乗り出すと両手を広げた。


「トールギス? おっきくなったなあ……。ぼくを助けてくれたのか、ありがとうな」


 ディムがその名を呼ぶとグリフォンの身体から眩いばかりの黄色い閃光が放たれた。

 全身フラッシュになったかのように、圧力すら感じるような光だった。


 トールギスは光に包まれたかと思うと、ちいさくちいさくシルエットが変化し、小型の猛禽類になった。

 フワッと空中に飛び出しトールギスはパタパタと羽音を響かせ、ゆっくり飛行しディムの肩に "ちょん" と止まった。まるでそこが自分の居場所だとでも言いたげに。


 瞬きをすることも忘れて、ただドライアイになるがまま、ディムの肩に止まったタカから目を話すことができなくなったプリマヴェーラと、顔を見合わせるだけで言葉を失うダグラス。


 槍の構えを解いて安堵のため息を漏らすエルネッタと、状況が呑み込めなくてどうすればいいかわからず、そのまま防御姿勢を崩さないデニス・カスタルマン。


 ドン引きのパーティメンバーのなか、ディムの肩にとまったトールギスに向かって話しかけるダグラスの姿があった。


「やあキング……、いまのキングだったのか? いまの……」

「その名前ダメ。トールギスは女の子なんだからね」



―― ピイッ


「うおっ、返事した。マジか! キングちゃんと呼ぶのはダメか?」

「ちゃん付けたらなんでも女の子になると思ってんのな!」


「なるだろ!」

「兄ちゃん! 父ちゃん! 爺ちゃん!!」


「ぐっ……」


「おっちゃん!」

「ぐあぁぁぁ、くっそ、キングの名前がトールギスになっちまいそうだ……」



―― ピイッ


「また返事した。ああ、負けを認めるよ。トールギスな。ギスって言い難いんだけどな……」


 ディムが森でトールギスを拾ったのは8歳の頃だったから……。

 逆算すると11年目。トールギスの年齢も11歳。


 トールギスの名前論争は、ディム11年目の勝利だった。


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