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冒険者ギルドで人を探すお仕事をしています  作者: さかい
第六章 ~ アサシン ~
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[19歳] 夜明けとともに消失する

 ディムの俊敏★★★★★の全速力は神がかっていて、まるで瞬間移動のように現れては消え、山道を駆け上がってくる獣人たちを襲った。数にして70といったところ。ディムならば一人で相手にできる数であったが、獣人たちはディムに足止めされるのを嫌い、仲間が次々と倒されていくのに、反撃は各々に任せ、まるで無視したように小屋へ向かうスピードを緩めようともしなかった。


 それは大きな誤算だった。


 全軍が足を止めての乱戦になると思っていた。

 だけど獣人たちは個別撃破ではなく山小屋を包囲することを目的としていたのだ。


「くそっ、やっぱり本命はあっちか!」


 獣人たちを追い抜いて小屋に急ぐディムは、追い越しざまに短剣を刺すことも忘れない。

 当初70いた正面の急襲部隊は40にまで数を減らしていたが、ディムが追い越し、小屋の前に着いたときにはもう、向こう側からオーク中心の本命部隊が到着したところだった。スピードまで速いときた。


 肩からびっしり頭まで刺青が施されたオークが2体いる……。

 刺青は恐らく将校とか族長とか、そういう役職付きの強い奴にしか許されていないのだろうか、一見しただけでもひと回り大きい。2メートル30ぐらいあるんじゃないかってデカさだ。


----------


■ヒラルーニカカ・ベラクサーニ 55歳 男性

 オーク族 レベル078

 体力:80266/81300

 経戦:C

 魔力:-

 腕力:SSS

 敏捷:C

【狂戦士】S /大斧SS/大槌S



■ルーライトカカ・レイスローニ 51歳 男性

 オーク族 レベル076

 体力:73308/76280

 経戦:B

 魔力:-

 腕力:SS

 敏捷:D

【狂戦士】S /大斧S/大槌A


----------


 刺青のオークはこの二体だけ、他12体のオークは刺青がないだけで、レベル50台が中心だ。


「このクソども……」


 ディムは悪態を吐きながら刺青オークに狙いを定めた。



 急激に疲労感に苛まれる……。東の空が明るい……。時間切れだ……

 それでも突っ込んだ勢いのままディムは刺青のオークに短剣を振るう……しかし肩に浅く刺さっただけだった。



□ ディミトリ・ベッケンバウアー 19歳 男性

 ヒト族  レベル099

 体力: 42564/104320

 経戦:SS

 魔力:SS

 腕力:★★

 敏捷:★★★★

■■■■■ /知覚B/■■■■■/■■■■■/■■■■■

【追跡者】B /足跡追尾S

【理学療法士】SS /鍼灸C/整骨S/ツボS

【結界師】B /聴覚B/結界B

【冒険者】D /摂食B



 朝になり【アサシン】アビリティが消失したことにより『短剣』スキルも消失。力はあってもスキルはないので針の穴を通すような精密な狙いはもう出来ない。スピードはあっても短剣を疾く振れるだけのようだ。歴戦の刺青オークの皮膚を切ることはできても致命傷には届かない。


 ディムは朝になってもレベルが高いということで戦うことは可能だと思っていた。


 いや、戦える。一対一なら負けることはない。


 ディムは満足に使えない短剣を二刀流で構えると、山小屋を死守するよう扉前に立ち塞がった。

 願わくば、誰も目を覚まさぬうちにと先走った結果がこれだ。ならば本当に誰も目を覚まさないうちに、敵を殲滅すればいい。


 オークたちも、もうディムに対して甘く見るなんてことはしない。

 目の前に立っているのは最強の敵と判断してもいいほどの手練れなのだから。


 刺青のオークは二体でディムから見て左右に別れ、大斧を構えてじりじりと近付き、右側は横に薙ぐスウィング、もう左の側は脳天から降り降ろす必殺の一撃を放つ、同時に複数の弓もちゴブリンが矢を射てディムを襲った。


 背後は死守すべき扉。左右に逃れると矢を受ける。エルネッタさんじゃあるまいしこの大斧の攻撃を防御なんてできない。ディムは交差法の歩法で頭を狙って来たほうの刺青オークの間合いを潰し、数の不利と技術の不足の両方を相殺するため、敵の懐に入るという方法で敵の全ての攻撃を躱して見せた。


 レベル95に達しているので、スキルはなくともそう簡単にレベル70そこらの敵が無造作にはなった遅い攻撃を食らう事もない。だが反撃に繋がることもない。


 流麗とは程遠い、不細工で拙い反撃を試みる。

 ディムは短剣を針になぞらえて肉体にあるツボを突くと、脇の下から腕に繋がる太い血管と神経を切断した。これは『鍼灸』『ツボ』スキルの応用……もうなりふり構っちゃいられない。短剣のスキルが失われるのと同時に、ディムの戦闘からは余裕など微塵も感じられなくなった。


 朝霞星弥あさかせいやの兄弟、細山田ほそやまだの知識、合気道の応用で、腕を引き足をかけてつまづかせ、バランスを崩すと転んだオークの首を突いて刃先に力を込めた。


 ただレベルが高く、ただ速いだけのアドバンテージを余すことなく発揮することで、ようやく一体を倒した。残る敵は刺青オーク一体と、約50の獣人。


 先日ケスタール砦で見せた、自分よりも大きなものを投げる体術を使えば、刺青オークと言えど容易たやすく倒せるだろう。だがそれは一対一というのが条件だ。これほど多勢に無勢では、逃げながら、または森などに身を隠しながらじゃないと、とてもじゃないが戦えない。


 しかし現状で50以上の敵に囲まれていて、しかも小屋の中に大切な人が疲れを癒すために休んでいる。この扉だけは絶対に破られる訳にはいかない。


 まるで橋を死守したあの夜の再現だ。


 命を懸ける必要がある。


 刺青オークは喉を狙う短剣を防ごうと試みたが、防げずに倒された。

 ディムの腕を掴んでいた手が脱力したのを確認すると、短剣をスッと引き抜いて再び扉の前に立った。


 戦闘のスキルを持たぬ、ただレベルが高いだけの男が、短剣をもって獣人たち50余りの前で、一歩も引かぬ構えを見せる。



 大斧を空振りしたもう一体の刺青オークが次の振りに入ろうとするところを無視してその背後にいる、正面から登ってきた残り50の獣人たちの足下あしもとに向かって頭から飛び込むと、受け身をとり、立ち上がるまでの間に正確でなないが、手の届くところににあるものすべてを切断すると、また刺青オークのもとへ戻り、右手に握ったブラオドルヒを叩き付け、耳から頬にかけてざっくりと切った。


 そしてまた扉の前に戻って拠点防衛に徹する。


 今の攻防で倒れたのは弓を引いたゴブリン二体と、オークの戦士が一体。

 昨夜から休みなしで戦っているディムの息が荒くなってきた。経戦SSSを誇っているからこそ、いまの今まで戦えたのだ。


 それでも扉の前をテコでも動かないという意地を見せる。

 獣人たちはまたディムを幾重にも包囲し、包囲の奥からは弓で狙って隊列を少しずつ変化させ始めた。


 ディムひとりを倒すため、必殺の包囲戦の様相を見せ始めたその時だった。


 いま小屋を包囲するオーク集団の背後から火柱が立ち上がって渦を巻く。高温の炎

 同時に槍を貫き、剣で斬り込んでくる姿が見えた。


「わたしの裏をかくのは10年早い!」

「わははディム、おまえ何でそんな小屋守ってんだ? そこには誰も居ないぞ?」


 背後を回り込んできた刺青オークたちの更に背後、湖の方から思わぬ乱入者があった。



 エルネッタさんとダグラスだった。

 なら今オークを焼いた火炎の魔法はプリマヴェーラだ。


 確かに小屋の中で眠っていたはずのパーティメンバーがいつの間にか背後を狙って来たオークたちの背後に回り込んでいて、ディムからすると挟み撃ちの格好になっている。


「なんでそっちから来るのさ!」

「せっかく気持ちよく寝てたってのに、盾持ちの暴力女に叩き起こされたんだよ」


 小屋に裏口はなかったはずだけど……もしかして窓から出たのか?

 いや、窓は小さい。エルネッタさんの大盾どころか、ダグラスが出るのは無理なはずなんだが……。


「どこから出たのさ」

「「出口を作った!」」


 壁を破ったのか。


 でも、少し休んだからか、それともレベルが上がったからなのか、エルネッタさんの槍が正確さを増しているし、ダグラスの剣は力強さと疾さを増している。


 いつの間にか、オークと対等以上に戦えるようになってる。


 助けられたのは……ディムのほうだった。

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