[19歳] 疲労と困憊と獣人の追撃戦
エルネッタさんはレベル60なんていう、これまで見た人族では最高レベルに達していながらも不満を漏らした。
そんな会話を聞いていたダグラスも気になったようだ。
「なあディム、前から気になってたんだけど、レベルって何よ?」
「うーん、段位みたいなもんだよ。ちょっとまってね」
えーっとダグラスのステータスは……っと。
ついでに全員分を。
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□ダグラス・フューリー 19歳 男性
ヒト族 レベル057
体力:55340/65920
経戦:S
魔力:E
腕力:S
敏捷:C
【騎士】S/片手剣S/両手剣S/盾術B
□デニス・カスタルマン 49歳 男性
ヒト族 レベル049
体力:42790/44250
経戦:B
魔力:-
腕力:A
敏捷:C
【騎士】B /片手剣A/盾術S
□プリマヴェーラ・ハーレ・シャデイレン 162歳 女性
エルフ族 レベル065
体力:47650/49900
経戦:C
魔力:S
腕力:E
敏捷:C
【魔法使い】B /炎術S/風術C/鑑定眼C/弓術C
□ハイデル・ショーラス 28歳 男性
ヒト族 レベル036
体力:08821/25540
経戦:C
魔力:C
腕力:E
敏捷:E
【神官】C /回復魔法C/鈍器E/盾術F/薬草調合C
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「段位? なんだそれ」
ダグラスは段位といって頭をひねった。
どうやらこの世界じゃ柔道も空手も合気道もないから何段と言われても分からないらしい。
「レベルっていうのは、強さを表すひとつの物差しみたいなもんだよ。普通の人ならどれだけ腕っぷしが強くてもレベル30あれば相当強い。兵士や傭兵でもだいたい38ぐらいまでかな。40超えると頭一つ抜けた強さを持ってる。ダグラスは57だから相当なもんだと思うよ? カタローニを襲った盗賊団、あいつらずっと獣人と戦ってた兵士だとして、レベル45から最強でも55だったからね、エルネッタさんのレベル60なんてヒトを越えてるよ」
「なに? 俺はまだエルネッタさんより弱いって事か!」
「あはは、当たり前だ、ヒヨッコくん。ちょっと修行が足りん」
「3しか離れてないからな! 年齢を考えると……」
「はああ? 何か言ったか?」
「ダグラス、シーっ! 女性に対して年齢の話はダメだ。……えーっと、そうだプリマヴェーラさん」
「私にトシの話を振らないでもらえるかな」
「ちがうって……プリマヴェーラさんの鑑定眼はどこまで見えるのかな? レベルは見えない?」
「え? 鑑定眼でレベル? しらない。えーっと、氏名と種族と、細かいことは分からないけど、ディミトリくんはSSSSSで、あとアビリティとスキルがいっぱい。どう考えてもヒトを越えてるのはキミだよね。アビリティは絶対ひとりに一つだと思ってたわ。なぜ複数アビリティ持っているのかを知りたいのだけど?」
プリマヴェーラさんの鑑定だと……、
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□ディミトリ・ベッケンバウアー ヒト族
SSSSS
【アサシン】/知覚/宵闇/知覚遮断/短剣
【追跡者】/足跡追尾
【理学療法士】/鍼灸/整骨/ツボ
【結界師】/聴覚/結界
【冒険者】/摂食
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年齢は見えてないって言ってたから、こんな感じに見えてるらしい。
だけどさ、
「それ年齢の話と引き分けにして言わないことにしたよね?」
「あら? 口が滑っちゃった。だってチラっと見たら様変わりしてるんだものー」
く――っ……
ダグラスのお気に入りじゃなければそのへんの木に縛り付けて置き去りにしてやりたい。
「ちなみにプリマヴェーラさんレベル65だからね、ダグラス負けてるから」
「なんだと! マジか!」
「…… ?」
「……」
ダグラスが誘いに乗って年齢の差を指摘しない!
「なあ、エルネッタさんの時だけ年齢の差だったよね?」
「えっ? 俺が言うのか? いいんじゃね? 年齢なんて関係ねえよ」
……っ。
「ダグのむっつりスケベ! エルネッタさんの機嫌を損ねたんだからプリマヴェーラさんも機嫌を損ねるべきだろ!」
「ディムそれはおまえ、どっちかというとメイの言うような理屈じゃね?」
「すまんが静かにしてもらえないか。いまは休みたいのだが……」
……。
……。
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ディムたち冒険者パーティが山小屋に逃げ込んで2時間ぐらいたった。エルネッタさんの身体のメンテナンスもだいたい仕上がった。こうやっていつでも戦える身体を維持することが肝心だ。
ダグラスはプリマヴェーラさんと肩寄せ合いながらいびきかきはじめてるし、エルネッタさんもマッサージを受けながらスヤスヤと寝息を立て始めた。みんな疲れてる。
時刻はもうすぐ夜明け、つまりディムの【アサシン】アビリティは消失して、普通のレベル95になる。
レベル95もあれば素手でも戦えるだろうか。
『聴覚』スキルを発動させておいてよかった。小屋まで続く足跡を追跡している獣人がいるのだろう、結構な数の獣人たちが坂を駆け上がってくる。夜明けまでにどれだけ倒せるか……。
エルネッタさんの背中にそっとタオルをかけてあげると、ディムは短剣のベルトを確かめ、小屋を出ることにした。
「ん? んんー? ディムどこいくんだ?」
エルネッタさんが目を覚ました。寝てたくせに手を離したら起きるなんて……、睡眠が浅いようだ。
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□ディアッカ・ライラ・ソレイユ 29歳 女性
ヒト族 レベル060
体力:95440/88075
経戦:SS→★
魔力:E→D
腕力:SS→★
敏捷:B→A
【聖騎士】SS /片手剣A/短槍SS/盾術★/両手剣D
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エルネッタさんはスタミナがあって長時間戦える人だからもうちょっと休みさえすれば大丈夫だ。
「ちょっとトイレ行ってくるからね、覗いちゃヤダよ」
「手を洗ってこいよ? 私の身体を触るんだからな……」
たったこれだけのやり取り。エルネッタは少し違和感を感じ、少し訝しむ。ディムの表情から何か決意めいたものを感じ取った。
「わかったよ。下に沢があるから、沢まで行くから」
そういって小屋を出て行くディムの後姿を見送りながら、エルネッタは身体を横たえた。
ディムはそっと音がしないようにドアを開け、山小屋を出ると日の出前、東の空が明るくなっているのを感じた。『聴覚』スキルで聞こえた獣人たちの足音と息遣いは数えきれないほどだ。
街道の遭遇戦で8パーティ49体の敵と戦って殲滅したんだ。それ以下ってことは考えにくい。
きつい戦闘になるだろう、考えるだけでため息が出そうだ。
聴覚スキルに反応。
背後だ。マズい、後ろの湖の方からも小走りに回り込んでくる足音が聞こえる。数は10あまり。
予め退路を断つなんて戦術を使ってくる獣人がいるなんて考えもつかなかった。知能の低いオークどもの戦術じゃあない。いざとなったらエルネッタさんたちを逃がそうと思っていた湖の方角が安全じゃなくなった。
前方は荷車が上がってこられる山道だけど、背後は湖で、湖の畔をぐるっと回り込めばセイカ村だ。せめて森の中ならオークどもの大型武器は満足に振れずこっちが有利になるんだけど……残念ながら山小屋は開けた岩場の空き地に建てられてる。守るのに不利でもないと判断したから山小屋に逃げ込んだのだけど、背後の湖の側から敵に回り込まれてるとするならば明らかに不利だ。挟み撃ちにされている。正面の道を上がってくる敵の方が数は多いけど、背後から襲うほうが本命だろう。背後を抑える要の部隊が弱ければ話にならない。
「くっそ、どうする? 意地を張り通すしかないか……」
どっちもどっちだ。ならば近いほう、正面から登ってくるほうの獣人を急襲する!




