刹那。
純文学かどうかはわかりません。
少女の手に握られた、銀色。
仄白い闇に閃くそれは、鋭く尖って三日月の軌跡を辿り、白皙の筒に迫っていた。
薄茶の瞳に水晶の雫を溜めた少女は、鋼の切っ先を目前にして尚、微塵も臆さない。煌く刃を映す水鏡は凍てつき、淀む空気の中で深い翳りを帯びていた。
冷たい金属が、一点の曇りもない肌に吸い込まれていく。首筋を伝う滴が胸を濡らした瞬間、少女の細身は小さく震え、徐々に傾き始めた。
朧になる視線が宙を泳ぎ、机上の写真立てに飾られた二つの笑顔を捉える。虚しいほどに眩いその輝きを遮るように、白い瞼はふっと降ろされた。そして、時の流れはいよいよ遅くなる。
実際に経過した時間で言えば、ほんの一瞬。柔らかな喉は、温かな肌は鉄に穿たれ、あたりに赤の飛沫を散らした。直後、解けたリボンがはらりと垂れるかのように、真紅の液体が少女の身体を滑り落ち、床の上に蜷局を巻く。
足元に広がる水溜の中に、少女が頽れたとき――その桃色の唇は、確かに湾曲していた。それは喜びの証なのか、それとも狂気の発露なのか。
ひとつ、明らかなこと。過ぎ去った刹那はもう、戻らない。
飛び散った朱い露は、薄い硝子の奥で微笑を浮かべる少女の隣に佇む、もう一人の目元へと。やがてゆっくりと流れ落ち、その頰に一筋の河を描いた。
ご高覧、誠にありがとうございます。