表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編

刹那。

作者: 天童美智佳

純文学かどうかはわかりません。

 少女の手に握られた、銀色。

 仄白い闇に閃くそれは、鋭く尖って三日月の軌跡を辿り、白皙(はくせき)の筒に迫っていた。

 薄茶の瞳に水晶の雫を溜めた少女は、鋼の切っ先を目前にして尚、微塵も臆さない。(きらめ)く刃を映す水鏡は凍てつき、淀む空気の中で深い(かげ)りを帯びていた。

 冷たい金属が、一点の曇りもない肌に吸い込まれていく。首筋を伝う滴が胸を濡らした瞬間、少女の細身は小さく震え、徐々に傾き始めた。

 (おぼろ)になる視線が宙を泳ぎ、机上の写真立てに飾られた二つの笑顔を捉える。虚しいほどに(まばゆ)いその輝きを遮るように、白い瞼はふっと降ろされた。そして、時の流れはいよいよ遅くなる。

 実際に経過した時間で言えば、ほんの一瞬。柔らかな喉は、温かな肌は鉄に穿(うが)たれ、あたりに赤の飛沫を散らした。直後、解けたリボンがはらりと垂れるかのように、真紅の液体が少女の身体を滑り落ち、床の上に蜷局(とぐろ)を巻く。

 足元に広がる水溜の中に、少女が(くずお)れたとき――その桃色の唇は、確かに湾曲していた。それは喜びの証なのか、それとも狂気の発露なのか。

 ひとつ、明らかなこと。過ぎ去った刹那はもう、戻らない。

 飛び散った朱い露は、薄い硝子の奥で微笑を浮かべる少女の隣に佇む、もう一人の目元へと。やがてゆっくりと流れ落ち、その頰に一筋の河を描いた。

ご高覧、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この2人の間に、何があったのか…どうしても考えてしまいますが、それは置いときます。 第一印象は、なんだこれ!?ですが、もう一度、注意深く読み直し、冷たく、綺麗な世界観に、死の瞬間を凝縮し…
2018/06/12 16:47 退会済み
管理
[良い点] まあ、殺人の話でしたね。 あり一匹殺しても罪悪感に駆られるオイラが、人なんて殺したら……。 大量殺人犯になるか、捕まるかのどちらかです。 じゃあ、今度は長編を見てみます。
[一言] うまく言えないのですが、今の季節に冷たい空気を思い切り吸い込んだ時のような感覚に陥りました。 美しいです。
2018/01/03 12:06 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ