6話路地裏で
僕が高校に入る少し前、季節は丁度冬の終わり頃だった。何気なく、人通りの少ない路地裏を歩いていると、端っこの方に小さな段ボール箱が置いてあった。
気になったので近づいてから、立ち止まり中を覗いて見るとそこには寒そうに震えながら、泣いている猫がいた。
見たところ首輪がなかったので、多分捨て猫だろう。僕はポケットの中からハンカチを取り出し、猫の入っているダンボールの中にそっと入れた。
こんな事ぐらいしかできない自分が情けないけど、ないよりはましかもしれないと思いながら、そのダンボール箱から離れ再び歩きだした。
数日後。僕はあの猫がどうなっているかが気になって、また路地裏の方に向かっていた。そして、ようやく、たどり着くと、ダンボール箱の前にはしゃがんでいる女の子がいた。
何やら手には缶詰めのようなものを持っており、それをダンボールの中に入れていた。
すると女の子は小さな声で呟いた。
「ほら、ふたを開けたから食べれるだろ。本当はこんな事しちゃいけないけどな。特別だぞ」と言って立ち上がり、ダンボール箱から離れて歩き去って行った。
あの子、眼帯をしていたな。怪我かな?と思いながら、と考えて僕はダンボール箱に近づいて中を確認するとそこには、ふたのあいた猫用缶詰めを食べている猫の姿があった。
よく見るとハンカチも変わらずに置いてある。良かった。まだちゃんと生きているんだなと思い、少し安心した。
でも僕以外にもこの猫を気にかけている人がいたなんて、またどこかで会えたら話をしてみたいなと考えて、おいしそうに猫缶を食べている猫をしばらく眺めていた。