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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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河沿いの首

 謎の集落を見なかったことにして、無事に河までたどり着いた私たちキキョウ会一行。

 あとは河沿いを下流に向かって進むだけで王都に到着できるって寸法だ。もう迷う心配もない。天気もいいし、少し暑い気候は河沿いを進むのには涼しげで気持ちがいい。見通しのいい景観とブルームスターギャラクシー号の上で全身に受ける風が、これからの旅路の順調さを予感させた。


 そんな爽やかな気持ちを台無しにする光景が目に入るまでは。

「お姉さま、あれは何でしょう?」

「……見なかったことにしたいわね」

 目のいい私にはそれがなんだか分かってしまった。そしてヴァレリアにも見えてるらしい。私に聞きたいのは、どうしてそんなことになってるのかってことだろう。

 後続のみんなもそれに気が付き始めたようで騒がしい。

 私たちは河原から少し離れたところを走ってるんだけど、問題のソレは河原、それも水流の間近にあった。



 徐々に近づく問題のソレ。私は見なかったことにしてそのままスルーしたかったんだけど、後続の若衆が騒ぐんで無視もできそうになかった。

 仕方なく河原の近くで停車すると、徒歩で砂利を踏みしめながら問題のソレに近づいてゆく。好奇心旺盛な若衆は何故かはしゃいでるようだけど、私には何が面白いのかまったく分からない。

「会長、あれは何をやっているんでしょうか? 遊びですか?」

「面白いことしてますよね!」

 ちっとも面白い光景じゃないと思うんだけど……。


 問題のソレとは、河原に頭だけを出して埋められた人たちの姿だった。

 まさに雁首揃えてって感じで、一列に埋められてる哀れな光景だ。動いてるし時折大声を出すもんだから、幸いにも生きてるのは分かる。まぁ生きてなかったら、わざわざ近寄ったりしないけどさ。

「お、お前ら、女か!? ちょうどいいところに来てくれたぜ。ちょっと助けてくれねぇか!」

「頼む、もう後がねぇんだ! 礼ならするからよ!」

 どいつもこいつも悪そうな顔をした奴らだ。手ひどく殴られたみたいで、人相の悪い顔がより凶悪になってる。


 どういうわけか分からないけど、ボコボコにされたあげく、河原に埋められたってところね。河の水のギリギリのところに埋まってるから、ちょっと雨でも降ったらすぐに水没するだろう。そんなところに現れた私たちは、さしずめ救いの女神って感じかな。

「礼って言ったわね。聞いた以上はしっかりもらうけど、何を寄越すつもり?」

 何も言わなくても、穴から出すくらいはしてやるつもりだったけど、聞いた以上はもらうわよ。自分から言い出したんだし文句あるまい。後ろで若衆がなにやら私に対して不穏な言葉を口にするけど、聞かなかったことにしておいてやろう。

「ず、ずいぶんと気の強そうな女だな。しっかりしてやがるが、俺らも金はねぇし……そうだ! うめぇ魚食わしてやるぞ。それでどうだ?」

 タダ飯にありつけるってのも悪くはない。それにこいつらがここにいるってことは、町が近くにあるはずだ。ずっと道なき道を走って、誰とも会わない旅だったからね。ちょっとくらい寄ってみるのもいいかもしれない。

「魚はたらふく食わせなさいよ。で、あんたらどうしてそんなことになってるわけ?」

「それを話す前に、とりあえず穴から出しちゃくれねぇか?」

 仕方なしにみんなで穴からズボッと引っこ抜いてやると、ご丁寧なことに縄でグルグル巻きにされた状態だった。ここまでされたんじゃ、自力で脱出するのも難しいわね。ずいぶんな念の入りようだ。恐怖を味わわせながらじっくりと殺すつもりだったのか、後で命だけは助けてやるつもりだったのか知らないけど、ここまでやるのは尋常じゃない。ただの喧嘩ってレベルじゃないわね。

 私はこの所業に妙な感心を覚えながらも縄を強引に引き千切って拘束を解く。他のメンバーたちも私と同じようにして力づくで縄を引き千切ると、おっちゃんたちを助けてやる。

 その余りにもあっさりとした力業を目の当たりにして、思うところでもあったのかおっちゃんたちは顔を見合わせて頷き合った。


 穴から出された上、縄の拘束まで解除されて安心できたのか、上機嫌にワケを話すおっちゃんたち。

「ふぅ~、助かったぜ。……それがな、実は俺らは長いこと、ここらの河での漁業権を巡って争ってる相手がいてな。いい加減に決着をつけようってことで、勝負をすることになったんだ。ところが奴らときたら、流れの釣りの達人を用心棒に雇いやがって。汚ねぇ奴らだぜ!」

「……釣り?」

「そうだ。釣りで対決をすることになってたんだが、まさか奴らがあれほどの達人を味方に付けるとはな。俺たちもプロの端くれだが、奴はレベルが違いすぎて全く勝ち目がねぇ。まんまと負けちまった俺たちは、怒り狂って襲い掛かったんだが、用心棒は腕も立つ奴でな。ご覧の有り様ってわけだ」

 てっきり、近隣の町でロクでもない組織同士の抗争でもあって、その見せしめになってるもんだとばかり思ってたんだけどね。それが漁業権?

 いまいちな説明だったけど、要は荒くれ者の漁師同士の争いってことか。あんまり関わりたくないわね。それに如何にも怪しい釣りの達人ってのがまたね。それに加えて、その状況のこいつらをノコノコと町に連れて行ったらトラブルが起こるのは間違いない。


 そうね、こいつらの町がもし遠すぎるようなら、そこまで行くのも面倒な話だし、魚料理は諦めてスルーしようかな。

「ちょっと聞きたいんだけど、あんたらの町まではどのくらい? それと王都までは?」

「俺たちはここから南にしばらく行った町のもんで、歩ける距離だし遠くはねぇ。王都までは結構距離があるな」

 聞いてみれば、町までの距離もそう遠くない。魚を食べさせてもらう約束もあるし、王都まではまだまだ掛かるみたいだし、ちょっと寄ってみてもいいか。厄介事は避けられそうにないけど、まぁいいや。



 漁師たちは普段は歩きでこの河原まで移動するらしい。今回は徒歩に付き合うのもかったるいんで、大型ジープに乗せて運んでやることにした。

 そんな漁師たちはデルタ号の異様に驚いたようだけど、何か琴線触れるものがあったのか、驚いた後はしきりに感心したように褒めたたえてた。こんなところに、グラデーナのセンスに通ずる奴らがいたとは。意外と趣味のいい奴らね。


 毎日の仕事場所であり、徒歩で移動できる距離らしく、車両で移動するとほどなく町が見えてきた。小さな外壁しかないけど、それなりにガッシリとした守りで、大型の魔獣が集団で出なければこれでも十分なんだろう。

 謎の集団が町に近づいてきたんで、門番たちがあわただしくなってるのが見えた。そりゃそうよね。ド派手なデルタ号はもとより、複数台のバイクや車の集団なんてそうそういるもんじゃない。何事かと思われて当然。


 これ以上脅かすのもなんなんで、ノロノロとした速度で門に近づく私たち一行。そのまま近寄って停車すると、武装した男たちに取り囲まれた。

「な、女の集団だと!? なんだ貴様らは! 娼婦なら他所へ行け。ここには宿もないぞ!」

 出会い頭に随分な言い草だ。オフィリアたちがおっかない顔でバイクをゆっくりと降りる。私も止めたりしない。こんなド田舎の門番如きに下手に出る必要なんて全くない。女が格下に見られる社会であっても、全ての女が言われっぱなしだと思うなよ。


 オフィリアたちは武器こそ持ち出してないけど、素手や魔法だけでもそんじょそこらの武装した集団にさえ単独で渡り合える強者だ。門番たちも嫌な予感を覚えたのか狼狽え始める。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! ガードナー、この人たちは俺らを助けてくれた恩人なんだ!」

「そうだぜ、いきなり脅すような無礼な真似は止めてくれ、ガードナー! あんたたちも、ちょっと待ってくれねぇか!」

 漁師たちが転げるようにジープから出てくると、必死に門番たちとオフィリアたちを止めにかかる。

「ヘンゲルにお前たちも! 無事だったのか!」

 知り合いか。それにしても、いくら何でもピリピリし過ぎね。

 門番と漁師たちが話し合って、どうやら私たちが命の恩人であり、その礼のためにちょっとだけ立ち寄ったことが無事に伝わったようだ。


「すまねぇ、ちょっと町では色々あってな。余所者には敏感になってるんだ」

 ひょっとして例の釣りの達人で用心棒って奴のこと?

 一応の謝罪を受けて町に入る私たち。小さな町だからか、車両は町の外に止めておくように言われてしまった。別に構わないけど、もしブルームスターギャラクシー号に何かあったら暴れてやる。それと長居はしないつもりだから、貴族とメイドはデルタ号の中で留守番だ。トラブルが起こりなそうな場所で、のこのこと連れ出すわけにはいかない。

「ここだここだ、遠慮せずにやってくれ。おい、とりあえず酒だ!」

 門から近い食堂に案内されると、さっそく酒が運ばれてきて、約束通りにたくさんの魚料理が振舞われた。

 奢ってもらうメシで遠慮などするはずもなく、私たちは豪快に食べて飲むんだけど、その食べっぷりと飲みっぷりに感心したのか、漁師たちも楽しそうにボコボコに顔を腫らしたまま飲んで食べて歌う。


 酔った勢いで饒舌になる漁師たちは、私たちの助けっぷりが大層気に入ってたようで、さかんに褒めたたえる。やれ、大の男を片手で穴から引き上げただの、頑丈な縄をいとも簡単に素手で引き千切っただの、武装した門番や警備兵に囲まれても眉一つ動かさなかっただのと、大仰に持ち上げまくる。

 おだてられたオフィリアやグラデーナたちは調子に乗りまくって、嘘かホントか分からないような武勇伝を語ってはさらに盛り上がる。調子に乗った漁師が私たちを口説きにくるものの、適当にあしらわれたり酷いのはぶっ飛ばされたりしてる。その振られっぷりを見てさらに盛り上がったりしてるようだ。

 私もその楽しげな空気に当てられて飲んだ勢いで、鉄の塊を生成してそれを握り潰すパフォーマンスをして場を大いに盛り上げた。



 しばらくして夜も更けた頃になると、大勢が酔い潰れてテーブルに突っ伏して寝るのもいれば、床に寝転がって豪快にイビキをかくのも現れ始めた。私は自分だけこっそりと酔い覚ましの薬を飲むと、この後どうしたもんかと途方に暮れる。ここで一晩明かすもね。せっかく町に来たんだし、できればちゃんとしたベッドで寝たいんだけど。漁師たちの何人かは帰ったようだし。

 疲れたのか眠ってしまって寄りかかるヴァレリアを支えながら、一人ちびちびちを飲み直す。偶には静かに飲むのも悪くない。周りのイビキはうるさいけどね、そこまで気にするほどのことじゃない。


 カウンターの奥で物静かな店主がグラスを磨くのを何となしに見てると、扉を開く音が聞こえた。客が来たようだけど、この惨状を見ても怯まず店に入ってくるなんてね。ここの常連かな。入り口を振り向きもせずにそんなことを考えてると、その客はこっちに近づいてくる。

「よお、あんたらがコイツらを助けてくれたって人たちかい?」

「……あんた誰よ?」

 気安く肩に触れてくる手を払いのけながら聞く。

 馴れ馴れしいそいつに目を向けて見れば、白髪の坊主頭に日に焼けた初老の域に差し掛かったようなオヤジだった。

「話はヘンゲルから聞いてるぜ。コイツらが世話になっちまったな」

 ヘンゲルってのが誰か知らないけど、私たちが助けた漁師の内の誰かなんだろう。初老のオヤジは悪びれずに私の隣に腰かけると、店主に酒を注文した。


「どうやら俺がいねぇ間に面白いことになっちまってたみたいでな。あんたがこの強そうなお嬢ちゃんたちのリーダーかい?」

「まぁね。そういうあんたは?」

「ああ、俺はコイツらの取り纏めをしてるもんだ」

 坊主のオヤジは酒に口を付けると、聞いてもいないのに勝手に事情とやらを語り始める。

「ここは小さな町だが、近くに良い漁場がいくつもあってな。漁師たちは互いの縄張りには手を出さず、困った時には助けっ合って上手くやってたもんだった。だが、いつの頃からか、徒党を組んでデカい顔をするのが出始めてな。それに対抗するために、また別に徒党を組むのが現れた。そんな奴らがいくつも現れては、潰し潰されて何度も無駄な争いをしていたもんさ」

 ド田舎の漁師たちの事情になんて興味はないけど、なんとはなしに聞く私。徒党を組んで争いたがるなんて、どこの世界もあんまり変わらないようね。

「そんなつまらん争いを経て今に至るわけなんだが、今は町の漁師が完全に二つに割れちまってる。しかも一つは余所からやって来たタチの悪い奴らとツルんでいてな。とにかく加減てものを知らん奴らだ。余所者のくせにデカい顔しやがって、あの蛇野郎どもが!」

 語るうちに何かを思い出したのか急に怒り出す。グラスをカウンターに叩きつけたけど、その音に冷静になったのかオヤジは笑いながら謝ると私たちに改めて感謝をした。もういいんだけどね。


 それにしても蛇野郎か。比喩か直接的な何かか。ちょっと気になるけど、まぁいいか。

「今までも酷いケガを負わされたのは何人もいたが、死人を出すまでにはなってなかったんだ。だが今回は別だ。事情を聴いてみれば、ヘンゲルたちは今頃死んじまっていてもおかしくねぇ。本当に助かったぜ」

「偶然よ。私たちはあんたらの争いになんて興味ないわ。王都に向かう旅の途中だから、明日かその次の日か、ちょっと休んだらすぐに出ていくしね」

「それでも助けられた事に変わりはねぇ。ありがとうよ。この町には何もねぇが、魚だけは旨いからな。出て行く前にはまたどっかで食べて行ってくれよな」


 その後はオヤジの愚痴のような話を聞き流しながら飲んでたけど、いい加減に眠くなってきてしまった。どっかに宿か泊まるところがないかと聞いてみれば、漁師たちの集会所があるってことで、そこを貸してくれることになった。

 遠慮なく貸してもらうことにして、酔いつぶれたキキョウ会メンバーを叩き起こそうとするけど、人数が少し足りないような気がする。あれ、気が付かなかったけど、途中で抜けたのがいたのか。幹部はみんないるけど、若衆が何人か。遠征メンバーは全員が戦闘力に申し分ないから、それほど心配はいらないけど、かなり酔ってるはずだからね。大事ないといいんだけど。



 若干嫌な予感を覚えながらも、眠りこける全員を叩き起こして寝床に向かう。

 千鳥足で半分寝ながら歩くメンバーを引き連れながら、深夜の道を歩いてると悪い予感は的中する。


 あれはなんなんだろうね。追剝にでもあったみたいな情けない姿。それは裸に剥けれて放置された女たちだった。もちろんというか、なんというか、いつの間にか居なくなってたキキョウ会の若衆だ。

 はぁ、なにやってんのよ。コイツらは、まったく。

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