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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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尋問 初級編

 救援に来てくれたキキョウ会メンバーが、敵を引き付けてくれてる間に屋敷の中を制圧しよう。

 屋上からバルコニーに降り立つと、そこで見物してた男を問答無用で叩きのめす。開いたままの窓から部屋に侵入して、威力偵察を試みる。


 もう屋敷の中に巡回をしてるようなのは全然いない。

 魔力感知によれば、この三階で人がいるのは一か所のみ。そこに複数人が集まってる。

 分かりやすいわね。ここの親玉であるゲルドーダス侯爵家の次男とやらと、その護衛と側近あたりが集まってるんだろう。ひょっとしたら、侯爵家の長男や当主もいるのかもしれない。


 護衛はともかく、侯爵家の貴族とその側近は生け捕りだ。せっかくの機会だし、身分や今までのやり口からして様々な後ろ暗いことに精通してるに違いない。外道どもに遠慮なんかいらないし、色々な情報源になってくれるだろう。


 無人の通路を歩いて、人が集まってる部屋の前に到着する。

 ここに至って恐れるものは何もない。睡眠系のガスもネタは割れた。もし煙やガスが撒かれようものなら、即座に退避すればそれだけで問題なくなる。万が一、想定外の事態が起こっても、キキョウ会のメンバーがきっとすぐに駆け付けてくれる。ならば、進むしかない。



「どっせい!」

 例によって豪快に扉を蹴破ると、護衛らしき奴らの足元から、即座に鉄のトゲを生やして串刺しにする。今の私はまともに立ち会う気なんてさらさらない。

「ぎゃっ!」

「あ、足が、いああああああっ」

「護衛は何をしている! 早く仕事をしないか!」

「な、何なのだ、これは!?」

「このっ、また僕に向かって! どこまで邪魔をすれば気が済むんだっ」

「ひっ、き、貴様! どうやって!?」

「早くどうにかしろっ! 護衛の役目を果たさんか、何のために高い金を払ってると思ってるんだ!」

 まだ立ってる奴らがいる。目障りね。

 今度はソフトボール大の鉄球を生成すると、どてっ腹を目がけて次々に投擲。手加減はしてるけど、全員を漏れなく昏倒させた。


 拷問部屋にいた中年貴族、ゲルドーダス侯爵家の次男か。倒れ伏したバカどもを見ると、身形からして侯爵家の貴族はこいつだけっぽい。他にも立派な服装の奴はいるけど、取り巻きの下級貴族か側近辺りだろう。

 こいつらは全員生け捕り。情報班に引き渡して、丁重に絞ってやろう。情報の引き出し以外にも、貴族家への取引材料として役立ってもらう。

 鉄球の一撃で死に掛けてるのもいるようだから、仕方なく回復はしてやった。殺してしまっては台無しだからね。


 部屋に入って横手を見れば、私の第一目標である外套はすぐに見つかった。ご丁寧にハンガーに架けてある。装備や薬品類もハンガー脇の棚に綺麗に並べてあるわね。検品でもしてたんだろうか。うん、漏れなく全部あるようね。よしよし。

 取り敢えずの敵を倒して荷物を取り返した私はようやく留飲を下げた。一先ずだけどね。今回の落とし前は必ず付ける。


 一応、取り戻した外套と装備に対して浄化魔法を掛け捲る。なんとなく気分的に。

 気が済んだところで外套に袖を通して装備一式を身に纏うと、最後に魔道具のかんざしで紫紺の髪を一纏めにする。こうすると、なんとなく気が引き締る気がする。

 さてと、みんなに合流しようかな。倒れてるこいつらの回収は若衆にやってもらおう。



 部屋から出ると階段を駆け上がって来た月白の外套を身に纏う美少女が目に入った。

「お姉さまー! ご無事でしたか!?」

 ヴァレリアは勢いよく駆けてくると私に抱き着いて無事を確かめる。

「問題ないわ。でも、良く来てくれたわね」

 柔らかな髪を狼耳ごと撫でまわしながら妹分を労う。

 一日くらいしか離れてないはずだけど、随分と久しぶりな感じがするわね。

「下の階は?」

「大丈夫です。全員、地獄に送り届けました」

 おいおい、地獄って。無闇な殺生はしないキキョウ会だから、いくら怒り狂ったヴァレリアでも半殺し程度の意味だろうけど。まぁ別にどっちでもいいけどさ。


 もう敵の脅威もなさそうだと少しの間ヴァレリアと話してると、どやどやと駆け上がって来る集団が現れた。

 ジークルーネたちだ。外にいたのを見た時よりも人数が少ないから、他のところで敵の拘束や私の捜索でもしてるんだろう。

「ユカリ殿、ご無事だったか。ヴァレリアも無茶をするな」

「会長! 良かったです!」

「うおおおおおお、姐さん!」

「ヴァレリア! 先行し過ぎだよ!」

「あたし、会長の無事を皆に伝えて来ます!」

 ジークルーネたちに問題ないことを伝えて状況を確認する。

「私は見た通り大丈夫よ、みんなのお陰で助かったわ。下はどうなってるの?」

「敵の排除はほぼ完了している。今は敵の拘束と家捜しといったところだ」

「さすがね、ジークルーネ。みんなも良くやってくれたわ。早速だけど、その部屋に首謀者たちがいるから身柄を拘束しておいて。色々と面白い話が聞けるかもしれないから、情報班に引き渡しておいて欲しいんだけど」

「なるほど、それは楽しみだな。おい、やっておいてくれないか」

「はい!」

 ジークルーネは若衆に拘束を命じると、私と連れ立って階下に下りる。


「ジークルーネ、助かったわ。改めてみんなにも礼をしないとね」

「何を言う。あの"集合の合図"はユカリ殿だろう? こうして平然としてる姿からして、救援など不要だったのではないか?」

「そんなことないわよ。細かいことは後でみんなと一緒の時に話すけど、結構ヤバかったのよ」

「なに? ユカリ殿が窮地に陥るなど余程のことだな。後で詳しく聞かせてもらおう」

「うん。あ、そうだ。地下に捕まってる人たちがいるから、彼女たちも助けておこう」

「そうか。若衆には隈なく探せと命じているから、もう確保しているかもしれないな」

 明らかに囚われの身の人たちだし、敵と誤認される心配もないだろう。

 もし既に発見してたら、ウチのメンバーなら丁重に助け出してくれてるはずだ。



 今回の私の救援については、ジークルーネが主導して幹部たちは留守番と通常営業を優先させたらしい。

 以前の教訓から軽々に戦闘班の幹部は動かさず、副長のジークルーネが出ることで戦力のバランスを崩すことなく事態に対応する。ジークルーネが戦闘班の若衆を選抜してヴァレリアと共に出撃に備え、オフィリアたち遊撃班と情報班には周辺の索敵と情報収集を徹底させる。

 戦力の適切な割り振りは、さすがは元騎士団所属のジークルーネといったところか。


 一階のロビーでジークルーネとヴァレリアと共に、若衆が仕事を終えるのを待つ。

 敵の拘束と連行、囚われの人の救助、金目の物の回収。周辺の警戒とキキョウ会本部への連絡も行われてる。今回の件はエクセンブラ守備隊への通報はしない。通報してしまっては奴らの身柄を引き渡さないとならないし、それでは私たちが好き勝手できなくなる。

 この騒動には必ず黒幕がいるはず。そいつらに一泡吹かせないことには気が済まないからね。


 しばらくしてキキョウ会のメンバーがロビーに勢揃いする。

 敵も全員が拘束された状態で連れて来られた。捕まってた人たちは地下牢の彼女たちだけじゃなく、他の部屋にもいたらしい。捕まってた人たちについては特に用事もないし、簡単な事情聴取の後に解放してやった。どこへなりとも行ってくれて構わない。お礼をどうのって話があったけど、今はそんな場合じゃないし不要とした。

 どうしても礼がしたいなら、後日に改めてもらうってことで、ここはお引き取り願う。


「みんな、ご苦労様。そこの貴族と側近っぽい奴らは情報班に引き渡すから、一応は丁重に扱って。取り敢えず、車両に放り込んどこう。それから、下働きの者や護衛の連中はどうでもいいわね。武装解除は終わってるみたいだし、装備は没収して後は捨ておこうか」

「いいんですか?」

「こいつらぶっ殺したところで一銭にもならないしね。どうしても殺したいんなら止めないけど、まぁ無益なことは止めておきなさい」

「姐さんがそう仰るなら……」

 敵も無能ではない。時間を掛ければ拘束も自力で解くだろうし、そしたら勝手にどこぞへ離脱するだろう。もし歯向かうようなら、今度こそ容赦はしない。特に護衛のリーダー格には、撤収の前にその辺を良く聞かせておく。


 持ち帰るものを回収すると、辛気臭い屋敷からはおさらばだ。

「さ、用が済んだらもう帰るわよ」

「皆、引き上げだ!」

 私とジークルーネの掛け声で外に出ると、気が付けばもう明け方。早く風呂に入って休みたい。



 本部に戻ると、寝ずに待っててくれたキキョウ会のみんなを労いつつ、今日のところはもう休むように伝える。

 さすがに今から情報の整理をするのは勘弁ね。全ては一眠りして起きてから。捕らえた奴らを尋問する情報班にも、今夜のところは休むように伝える。


 そうして私はいの一番に風呂場に向かうと、服を脱ぎ棄てて体を入念に洗う。浄化魔法を使ってたとはいえ、こうするとスッキリ感が全然違う。

 気が済むと熱い湯に全身を浸してリラックス。やっぱり風呂はいいわね。ささくれ立った心まで洗われるようだ。後から入って来たヴァレリアやジークルーネたちと、のんびりと湯に浸かってから自室に引き上げた。



 翌、昼過ぎ。

 通常営業からは外れてる私は、ここぞとばかりにたっぷり惰眠をむさぼると、余裕で朝風呂を満喫してから事務所に入る。いつもは早起きして訓練するのが日課だけど、たまにはこういう日があってもいい。


 昨日の顛末や話し合いは夜に行う予定。幹部たちは通常営業があるからね。情報班はすでに尋問を始めてるはずだけど、夜までには多少の情報は引き出せるだろうからちょうどいい。

「おはようございます、ユカリ。気分は良いようですね」

「おはよう、フレデリカ。気分爽快、問題ないわ」

 フレデリカの副官のエイプリルや他の事務所にいる娘たちとも挨拶を交わすと、気を利かせて買って来てくれてた朝食兼昼食をもりもり食べる。


 ヴァレリアは見習いと訓練のために森に行ってるらしいし、ジークルーネとグラデーナも仕事に出てるようだ。

 食事を終えると食休みがてらの雑談をしながら一息つく。

「さてと、じゃあ私も情報班のところに行ってくるわね。何かあったら呼びに来て」

 情報室では尋問の真っ最中のはず。私も様子を見に行こう。



 いつものように関係者以外立ち入り厳禁の情報室へ我が物顔で侵入する。

「ユカリさん! 室長がお待ちですよ。こっちへどうぞ」

 グレイリースが奥の奥にある取調室に連れて行ってくれて、ドア越しに呼びかける。

「室長、会長をお連れしました!」

「ああ、中へどうぞ。あんたも入って」

 固有名詞は禁止らしい。いつもは名前で呼ぶグレイリースもここでは私を会長と呼んだ。


 ジョセフィンの応答を待って中に入ると、ジョセフィンとオルトリンデが揃って私を出迎える。

 そしてもう一人、目隠し状態の男が椅子に座らされていた。ゲルドーダス侯爵家の次男だ。

「会長、昨日は大変でしたね」

「まぁね。室長たちには私の身に何があったのか、それから私が知り得た情報を先に伝えとくわ。それから一緒に尋問に臨もうか」

「はい、では別室に行きましょう」


 ジョセフィン、オルトリンデ、グレイリースには尋問に当たって知っておいて貰った方が良いと思って、私の身に起きたことは全て伝える。

 さっきの男の他は、独房のような構造をした狭い部屋に一人ずつ隔離してるらしい。


 尋問の状況を聞いてみると、あの次男坊は強気の態度を崩さないようで、名前すら喋らず特に進展はなかったらしい。まぁ名前は私が知ってるわけなんだけどね。誤情報の可能性も否定できないけど、それを確認するのは情報班の役目だ。

「なるほどなるほど、ゲルドーダス侯爵家ですか」

「知ってるの?」

「一応は。実は何とも言い難い存在なんですよね。噂にはちょくちょく出てくる貴族だったんですが、接触する事がまず叶わない貴族で有名でした。これは大物を引き当てたかもしれません。やっぱりユカリさん、持ってますね」

 目を輝かせるジョセフィンとオルトリンデに、はてな顔の私とグレイリース。どういうこっちゃ。



 曰く、ゲルドーダス侯爵家とは旧ブレナーク王国の侯爵家で、王宮の暗部を担う役割を持つ家柄であるらしい。

 それが本当なら、かなり重要なポジションを担う貴族といえるだろう。そんな重用される役目の家だけど、国家の滅亡とともに没落。今回の顛末は、様々な犯罪に手を染めながら力を蓄えて、復権を狙った思惑の一環だったんだろうと推測してる。今のところは。


 そもそも私を狙った動機が不明だけど、暗部を担うという侯爵家が単独で思いついたこととは思い難く、どこかの勢力と結託してる可能性が高い。これも推測に過ぎないけど、そういった細かな前提を利用しつつ尋問へ繋げていくんだろう。単純に暴力によって吐かせるだけよりも、こっちもある程度の事情は把握してるぞって思わせた方が吐かせやすい。

 尋問の対象も複数いるし、ちょっとずつでも掻き集められれば、大体の絵図は見えてくるはずだ。



 改めて取調室という名の尋問室へ入る。そこは時には拷問部屋としての役割も果たす。必要ならね。

 私はまどろっこしいのは好きじゃないけど、餅は餅屋。取り敢えずはジョセフィンたちに尋問は任せる。暴力が必要な場面になったら私がやってやる。

「お~、待たせたね、おっさん。そんじゃ、早速喋ってもらおうか。さっさと吐いた方が身のためだよ。じゃあ取り敢えず名前は?」

 いつもよりも多分にフランクなジョセフィン。何か考えがあるんだろう。

「ふん、貴様らのような下賤な女共に話すことなど何もないわ! 貴様らの方こそ、儂を解放した方が身のためだぞ! 下賤な民は知らんだろうが、我が家の力に掛かれば、こんな場所なぞすぐに知れるぞ。後悔しても遅いからな!」

 目隠し状態で拘束されてる割には強気なもんね。こいつらの関係者からしてみれば、こいつらが居なくなった時点でキキョウ会が関わってるなんて当然の帰結だろう。

 だけど私たちからしてみれば、攻めて来るならば飛んで火にいる夏の虫。戦時体制のキキョウ会に油断はない。やれるもんならやってみろ、いつでも掛かって来いってのよ。


「おっさんさ~、強気なのも結構だけど、調子に乗るのは止めといた方が良いよ? ね、ゲルドーダス侯爵家の次男さん」

「っ……」

 何か口にしようとして、とっさに押し黙る侯爵家の次男。墓穴を掘るほど間抜けじゃないらしい。

 さっきまで調子よく喋ってたのに、急に黙り込むのも微妙だけどね。

「こっちとしてはさ、ちょっと事情を知りたいだけなんだよね。なにせウチの会長を襲ったわけでしょ? その理由を知りたいのは当たり前だよね? 取り敢えずそこだけでいいからさ、教えてくんない?」

「ふん、儂は何も知らん」

 無言でいればいいものを。こいつは多分、おしゃべりな奴なんだろうね。こういう奴は必ず喋る。どうしても無傷で解放したいって奴じゃないし、しばらくしても粘るようならジョセフィンもやり方を変えるだろう。私はそれまで待機だ。


 ジョセフィンの話術は巧みで、世間話をしながら少しずつ少しずつ相手の殻を破っていく。時折、オルトリンデが近くに寄って無言の圧力を掛けるコンビプレーも光る。私とグレイリースはその様子を感心しながら見守った。



 ただ、どうしても話の核心には繋がらない。そこで一時休憩して、別の奴の尋問に移ることにした。いきなり暴力ってのは、痛みを逃れるための誤情報を掴まされたりで良くないらしい。少しずつ情報を集めて噓が吐けない、あるいは噓を吐いてもすぐに察せるほどに観察が終わってからがいいらしい。私には分からないテクニックなんかがあるらしいし、やっぱり簡単にはいかないんだろう。


 他の奴らの尋問を順次行いつつ、情報を集めていく。これは時間がかかりそうね。今日中にはとても終わりそうにない。別に急ぐわけじゃないし、気長に待とうか。大半を情報班に任せつつ、私は適度に休みながら尋問の様子を見守った。

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