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遠距離攻撃

「放て!」


 突進が一時的に止まった影響で、逆茂木さかもぎの前で大混雑の様相を見せるカプロスの群れ。

 指揮官らしき職員が合図を送ると、そこに襲いかかる色取り取りの攻撃魔法。

 特に凄い奴が何人かいるみたいで、強大な魔法が放たれる気配がいくつかあった。あー、もっとちゃんと観察したい。


 轟音と激しい光の後には、焦土と化し、元は丘だったところが抉れて巨大なクレーターと化す光景があった。


「なにあれ、凄いわね……あんなことできるんだ」


 想像以上の結果に驚いて思わず呟くと、近くの配置になってた職員がいつの間にかすぐ横に。独り言に対して、律義に返してくれる。


「そうね。あの魔法使いたちの力があれば、なんとか乗り切れるかも。あなたが作ったバリケードも凄かったけどね」

「でもあのクレーターは予想外だったわ。何人かでやったことだとしても、あの威力は想像以上ね。ちょっと舐めてたかも」

「世の中、上には上がいるってこと。ほら、まだ終わってないわよ。カプロスはまだまだやってくる。丘がなくなって見通しが良くなった分、ちょっと辛い現実が見えるわね」


 職員が言ったように、遠くまでよく見えるようになった分、軽く絶望感が芽生えそうになった。

 だって、地平線の向こうまで群れが続いてるし……でも、群れが途切れてるのか、次がくるまで少し間がありそう。


 大規模魔法を使った魔法攻撃担当は少し休息するようだ。さすがに、あんなのを連発するのはできないらしい。

 私もここからは投擲術の出番かな。群れがクレーターまできたら攻撃を開始しよう。ふん、腕がなるわね。

 そういや、投擲にガントレットは邪魔ね。せっかく着けて貰ったけど取っちゃおう。


 さっきの魔法とカプロスの群れに驚いたせいで、おかしかったテンションが元に戻ったかも。

 ふ-っ、もうちょっと落ち着こう。



 投擲術で物を投げて大群に被害を与える。

 どんな剛球を投げられたとしても、私の手で握れる程度の大きさの物じゃ、大群に対して一撃で大きな被害を与えるのは無理だ。

 石や鉄球じゃなくて、もっと硬くて比重の重い、例えばタングステンとかでも大して変わらないと思う。ましてや、さっきの大魔法とは比べるべくもない。


 あの魔法の威力は想像以上だったけど、迎撃用の塀のド真ん中の配置を強引にぶんどったのには、もちろん勝算というか、私にも大規模破壊の策があるからだ。

 なんてったって、ここは異世界。既知の鉱石や金属を使う必要なんてどこにもない。

 こんな場面にうってつけのファンタジーな鉱物があるんだよね。勉強した甲斐があるってもんだ。


 その秘密兵器はノヴァ鉱石といって、大きな圧力を加えると爆発する希少な鉱物なんだ。

 しかもタングステン以上に密度が高くて、爆発の規模も相当なものなんだとか。ただ、凄く希少な鉱石ゆえに爆発の事例どころか、鉱石のサンプルすらほとんどなくて、その現象自体を疑ってる人もいるらしい。


 ダメならダメでしょうがない。とりあえずやってみるってのが私の方針。為せば成る、為さねば成らぬ何事も! なんてね。ノリと勢いで軽くやってみるだけ。溢れる闘志とテンションに身を任せて。


 希少なはずのノヴァ鉱石を当たり前のように手のひらに生成。

 ラブラドライトのような不思議な色合い、ずっしりとした重量感、図鑑で見たイメージ通りだ。鉄の数倍は重さがあるけど、身体強化状態の私にとっては、むしろ丁度良い感じの重さだ。

 我ながら化け物じみてると思うけど、下にいる巨大な剣を背負ったゼノビアを見ると、これは特別なことなんかじゃないとも思える。


 資料によれば、圧力といっても相当なレベルの圧力が加わらないとノヴァ鉱石は爆発しないらしい。これも不安要素よね。どの程度なら爆発するのか。

 ひょっとしたら音速以上で投げるかもしれないから、空気抵抗の圧力で爆発するかも。そこまでいかなくても、着弾時の衝撃でちゃんと爆発するのかどうか。

 どうしたもんか。ちょっくら投げて試してみるか。


「おーい! ちょっと試しに投げるから、離れてて! 衝撃波に気をつけないと死ぬかもっ! いくわよっ!」

「ちょ、ちょっと待てー!」


 大声で周りの塀の上も下にも警告する。身体強化状態での投擲は初めてなんだ。どのくらいの威力が出るか分からないから、一応ね。

 近くに誰もいないのを確認して、お試しの第一投。


「ていっ!」


 上半身だけでの全力投球でも、良い感じの手応えあり。本当は思いっきりトルネードしたいんだけど、ここは狭いからね。

 手からリリースした時に、激しい衝撃波が起こって髪をかき乱す。


 どぉーーーん


 人が投げたとは思えない飛翔音に、轟音と共に起こった破壊的な着弾。

 こりゃ相当な速度……むぅ、気のせいか戦車砲くらいの威力は出てそうなんだけど。


 だけど肝心の爆発が起こってなくない?

 期待した結果と違う。いや、想定以上の威力ではあるんだけど。土の地面だし着弾の衝撃程度じゃ爆発しないのか、となると。

 ――あれしかないかな。


 なんて考えてると、もう少しでカプロスがクレーターまでやってきそう。

 ぶっつけ本番でいくしかないってことで、再び警告。


「どんどん投げるから、絶対に私に近寄らないで! 下のみんなは、カプロスが近づくまでは横に避難してなさい! 巻き添えで死にたくなかったらね!」


 一方的に宣言して、投擲準備に入る。


 普通なら無理だと思う作戦だけど、スキルと魔法が絶対の成功を確信させる。

 お試しで投げた分、より正確に感覚も掴んでる。大丈夫、私はやれる。

 スキルの力は偉大だ。投擲に関する必要なあらゆる感覚が、私の体を無自覚に最高効率で動かしてくれる。

 どんなに遠くの小さな的だって、届く範囲なら絶対命中。風も重力もコリオリの力も何もかも、全てが手の内にある。そんな感覚。

 事前に説明していたなら止められただろう、無茶で無謀な作戦の決行だ。


「ヘルファイア一号、行ってこい!」


 ノヴァ鉱石をクレーターに向かって、大きな山なりの放物線を描く軌道で投げた。


「ヘルファイア二号、全速前進! あったれーーー!」


 即座に気合一閃。一号の予測到達地点に向かって、二号を全力投球。

 リリースの直前にノヴァ鉱石の形状を有翼徹甲弾のように変形させて、さらなる安定を図る。


 カプロスの群れの先頭、その直上で投げたノヴァ鉱石同士をぶつける馬鹿げた作戦。こんな芸当、私以外には到底不可能だろう。

 狙い違わず、二つのノヴァ鉱石は超音速で激突した。


 カッッッ! ドッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 予想をはるかに超えた激しい閃光と轟音。


「……マジ?」


 それを起こした私だけじゃなく、誰もが唖然としてる。

 さっきの大規模魔法攻撃と同じくらいじゃないの、これ。


 えーっと、これって自画自賛してもいいよね? いいやつだよね?

 やばっ、テンション上がってきた!


「ふ、ふふふ、あーーーーーはっはっはっはっはっ! じゃんじゃんきなさい! 消し炭にしてやるわよ、畜生ども!」


 土煙と爆煙でよく見えないけど、群れは続々とやってくるはず。

 手元に鉱石を作り出すだけなら大して魔力も使わない。どんどん行くわよ!

 誰かが気を利かせたのか、風魔法で煙が払われる。いいわね、狙いどころが大変見やすい。誰か分からないけど、グッジョブ!


 その後は、群れの先頭から少し後ろに向かって、ノヴァ鉱石を投擲、大爆発、風魔法で見晴らし確保。

 爆発で途切れた群れが向かってくる、投擲、大爆発、風魔法、これのループとなった。


 私はハイテンションでひたすら投げ続けるけど、白兵戦組みは退屈そうだし、魔法攻撃組みも若干白け気味。

 まだまだ群れは続くんで、私が飽きるか疲れるかしたら交代してもらうから、今は休んでればいい。



 どれくらいの時間が経ったのか。

 快調に飛ばし続けた私だけに、いい加減ちょっと休みたくなった。魔力、体力、気力、どれもがキツい。

 ずっと私だけで撃退してるもんだから、他のみんなは完全に待機モード。ちょっとやりすぎたかな。もう一度気合入れてもらわないと。

 よく見れば、カプロスの群れの密度が少しだけ薄くなってきたような気がする。

 ちょうどいい。ここらで交代してもらおう。


「チェンジ!」


 叫ぶと、何事? みたいな視線を送ってくる一同。いくらなんでも緩みすぎじゃないの?


「交代よ! 少し休むわ!」


 ようやく出番か、みたいなのを期待してたんだけど、緩みきったこいつらは、え、マジで? 今からやんの? みたいな雰囲気だ。

 見かねた指揮官が気を取り直して、ハッパをかける。


「配置につけ! まだ何も終わっていないぞ! すぐに群れがくる! ユカリノーウェの援護はもうないと思え!」


 そこかしこで、やっと気合の入った声が聞こえてきた。

 完全に引っ込む気はないけど、しばらくの間は任せた。



「あー疲れた」

「やりすぎじゃ。お前さんだけで片付ける気かと思ったわ」


 治癒師組みの待機所に行くと、ローザベルさんが出迎えてくれた。

 幸いというか、戦闘らしい戦闘はまだないから治癒師は暇そうだ。


「そうできれば良かったんだけど、まだ終わりそうにはないのかな」

「いいや、そうでもないぞ。群れの数が明らかに減ってきておるからな。日が沈むまでには終わるじゃろ」

「やっぱそうなんだ」

「ところで、あの爆発は何を投げて起こしておったんじゃ?」


 あれだけの効果だからね。そりゃあ気になるだろうとも。あとで所長や職員にも聞かれるわね。

 現物を見せたほうが話が早いんで、小石サイズのノヴァ鉱石を作って渡す。


「これよ。ノヴァ鉱石っていうんだけど知ってる?」

「いや、わしも結構長生きしとるが知らんかったわ。不思議な色合いじゃな。それにかなり重い」


 小石程度の大きさでも結構な重さがあるからね。ローザベルさんは物珍しそうに重さや色合いを確かめる。


「希少な鉱物だから普通は知らないかもね。その石は強い衝撃を与えると爆発するのよ」

「これが爆発? 危険そうじゃな」


 危険物を手渡されたと知って、ローザベルさんも腰が引け気味だ。


「普通じゃありえないくらいの強い衝撃じゃないと爆発しないから、危険は少ないと思うわよ」

「なるほどのう。しかしその希少な鉱石をあっさりと作り出すとは便利な魔法じゃな」

「まあね。実際に魔法を使ってみると、もっと色々な可能性がありそうに感じるわ」

「そうじゃな。魔法はイメージ。残念ながら戦いが終わればまた魔法は封じられてしまうが、可能性について考えておくことは有益じゃろう。頑張れ若いの」

「頑張るけど、また相談に乗ってくれると助かるわね」

「相談くらいいつでもこい。それよりほれ、特製の体力回復薬と魔力回復薬じゃ」


 小瓶に入った回復薬を渡してくれた。

 伝説レベルに高名な治癒魔法使いが作った薬だからね。ありがたみも増すってもんだ。


「おー、これが。ローザベルさんが作ったんなら効きそうね」

「それは当然じゃが、気力は回復せんからな。飲んだら少し寝ておけ。最後まで油断はできんぞ」

「それもそうね。ありがと」


 喉も渇いてたし、早速小瓶に口をつけると効果覿面。

 疲労がすっと抜けてくのが分かった。どっちがどっちか分からなかったけど、今飲んだのは体力回復薬っぽい。

 一気に飲み干して、続けて魔力回復薬も飲み干す。

 どっちも味は特になかった。でも、すっきりとした軟水みたいで飲みやすい。

 なんかもう、すでに戦えちゃいそうなほど回復したんだけど。


「やめておけ。思った以上に精神は疲れておるもんじゃ」


 釘を刺されてしまったんで、素直に従っておこう。


「何かあったら起こして」

「分かっておる」


 装備を外して横になる。結局、近接戦闘はしなかったな。このまま出番がないと、ちょっと心残りかも。


 起きたらもう終わってるかな。

 そういえば、ゼノビアたちの戦いは見ておきたかった。ちょっとだけ寝たら見に行ってみようっと。

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