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インタビュー・ウィズ・バッドレディ 後編

本日2話目(後編)です。

「まずお伺いしたいのは、インタビューをお受け頂いた理由です。これまでにも何度かオファーを差し上げていたのですが、今になってお受け頂けたのは何か理由があるのでしょうか?」

「そうね。理由はもちろんあるわ」

 当然、ブロマイドの件はおくびにも出さない。発端を率直に語ってやる。


「最近キキョウ会に関するデマが多すぎるというのが、きっかけよ。捨て置けないような記事にはウチも反論しないとね。下らない噂は全部、嘘と明言しておくわ。今回は、そのために取材を受けることにしたのよ」

「デマを払拭したいという事ですね。それでは、弊社を選ばれたのはなぜでしょうか? 他にも数多くのオファーがあったのではないかと思うのですが」

「私があなたたちの雑誌を気に入ったから、とでも言っておくわ」

「それはありがとうございます。弊社で調べたところですが、キキョウ会への噂として、直近ではこのような記事が書かれているようです」

 インタビュアーが、わざわざ調べてまとめてくれたらしい、デマ記事の一覧を見せてくれる。面白いのから酷いのまで一通り。


 キキョウ会はなんでもかんでもオープンてわけじゃない。言えなかったり、曖昧にしておきたいことがあったりする。当然だけどね。

 だけど言える範囲であれば、特に真相に近い惜しい記事なんかには、間違いを正しながら本当のことを話してやった。そして否定すべき記事は明確に否定しておいた。

「一つ一つの記事へのコメント、ありがとうございます。読者の方にも良く伝わるのではないでしょうか」

 それにしても、こっちが言いたいことを聞いてくれる質問力。事前のすり合わせが多少はあったとはいえ、キキョウ会の現状や、私個人のことを良く調べてるのが伝わってくるわね。

 最初の出会いの印象はともかく、すでにこのインタビュアーには好感を持たずにいられない。

 これで今日の目的は果たせた。あとは記事ができたらチェックするだけだ。


「次に最初の質問に繋がるのですが、メディアへの露出が少ない事には何か理由があるのでしょうか?」

「あるわよ。そのきっかけは私たちが取材を受けた時に、話した内容と全く違う内容の記事を書かれたことが挙げられるわね」

「いい加減な記事が原因なのですね」

「それも一社だけじゃなくて、いくつもね。私たちが話すことを、まともに受け取らない記者しかいないもんだから、取材を受ける意味なんてなかったのよ。何を話したところで、どうせ嘘しか書かれないんだからね」

 これは嘘でも出まかせでもなく本当のことだ。怒りを通り越して呆れたもんよね。そりゃあメディアとは距離を置くってもんよ。


「信用以前の問題ですね。それでは取材の意味がありません。せめて取材内容を否定する裏付けでもあれば違ったのでしょうが」

「あるわけないわね。全て想像の産物よ。さっきのデマ記事と一緒。ウチも広報でも立てたほうがいいのかな」

「広報の方がいらっしゃれば、取材がしやすくなりますね」

「それなら、あなたをスカウトしようかな。どう? ウチにくる?」

「本当ですかっ!?」

「ちょっと、マーガレット! 取材中ですよっ!?」

 カメラマンに怒られるインタビュアー。冗談で言ったみただけだけど、広報の件は検討してもいいかもしれないわね。



 キリのいいところで、お茶が入れ替えられ一息入れる。少しだけ休憩したらまた再開だ。まだ取材は終わってない。

 インタビューの再開に際し、足を組み替えて姿勢を変えた。ふぅ、座って話してるだけでも、慣れないせいか妙に疲れるわね。

「それでは次に参ります。キキョウ会は急速に事業を拡大、成功に導いた優れた実績がありますが、改めて現在展開中の事業を教えて頂けますか?」

 経営の話になったか。宣伝になるからいいけど。

「まずは酒場と花屋の経営ね。これがキキョウ会の最初の事業だし、この成功が全ての礎と言ってもいいかもしれないわね。それから賭博場。今では収益の中心になってるし、今後の店舗拡張や新たな営業所の開設も計画中よ。あとはコンサルタント業務といったところかな。ここらがキキョウ会の中核事業になってるわね」

「成功に成功を重ねて現在の規模の事業を築いておられるのですね。ちょっと気になる発言がありましたが、新たな営業所の計画があるとか?」

「まだ計画中の段階だから、実際にできるのは先になるわね。商業ギルドや建設ギルドとの折衝もあるし、行政区への申請やら何やらで忙しいところよ」

 忙しいのは私じゃなくて事務班だけどね。


「少し先になるようですが、実現はほぼ確実なのですね。その計画に伴うものと思われますが、キキョウ会の支部や賭博場のある周辺の土地なのですが、買い占めておられるというのは本当でしょうか?」

 ふーむ、本当に良く調べてるインタビューだ。熱心な仕事ぶりには感心するわね。

「よく知ってるわね。別に隠すようなことじゃないし、本当のことよ。元々は廃材置き場や空き地しかないような寂れた場所だったからね。キキョウ会の支部だって元は廃ビルだし。今でこそ多くの人がやってくるようになったけど、その前は本当に何もなかったから、土地を買うにしても相当安かったわよ」

「先見の明があったおかげと言う事でしょうか。そこを利用した事業計画を立てていらっしゃると」

「まあそうだけど、その辺はさっきも言った通り計画中の段階だからね。まだ最終的に決まったことはないし、残念ながら今は答えられないわね」

「そうですか、残念です。お決まりになりましたら、ぜひ取材をさせてください」

 その時には盛大に宣伝してもらおう。こいつなら丁寧に取材して良い記事に仕上げてくれそうな気がする。


「また事業についてですが、キキョウ会ではたくさんの難民やスラム出身者を雇われているそうですね」

「彼女たちはやる気に満ちてるからね。きちんとした教育と報酬を与えさえすれば、とっても良く働いてくれるわよ」

「雇用においてもたくさんの貢献をなされているのですね」

 この半端ない、よいしょっぷりは何なのかね。むしろ怖くなってきたんだけど。

 店舗で雇ってる従業員の環境についても細々と聞かれるものの、キキョウ会正規メンバーについては何もなし。そこはNG項目だからね。



 そして五大ファミリーとの関係を問われる。

「さて、ここで気になる五大ファミリーとの関係を伺います。様々な憶測が飛び交いますが、キキョウ会としてはどのようなスタンスで五大ファミリーと向き合っているのでしょうか」

 これに関しては大手メディアも含めてデマしかない。真相に近いものすら皆無の状況だ。

 キキョウ会が事実上どこそこの傘下なのではとか、噂のような実力が考え難いことから大手組織の庇護下にあるとか、想像逞しい。


 エクセンブラにきて間もない頃に突撃インタビューを受けたことがあったけど、ブルーノ組とやり合ったことについて、私たちの言うことは全然信じてもらえなかった。ここまで勢力を拡大した今となっても、キキョウ会の実力を疑い続けてるのが大多数というのが実感かな。

 果ては五大ファミリーの幹部との愛人関係が疑われるとか、ふざけたことを書いてるのもあったしね。


「キキョウ会は五大ファミリーに対して、とてもフラットな関係だと思ってるわ。今はどこの味方でもないし、敵対関係でもないからね」

 相互不可侵協定が結ばれてる今、マクダリアン一家とも表向きには敵対関係ではないはず。

 実際には小競り合い程度なら、どこでも起こってるけど、本格的な抗争には至らないだろう。少なくともしばらくの間はね。

「中立という事になるのでしょうか」

「そういうことじゃないわね。利害関係が一致すれば、どこであろうと味方になるし、逆なら敵になるわ。今はそれがないだけのシンプルな話よ」

 今のところキキョウ会は独立独歩の勢力だけど、協力できる相手となら手を組んでもいいと思ってる。

 誰でも彼でも敵対するなんて馬鹿げてる。それでも全てが敵になるっていうんなら、存分に相手になるけどね。そのくらいの覚悟がなきゃ、やっていけないのが実情でもある。



「ここでせっかくですから、女性の読者が気になる質問や、プライベートな質問をさせて頂こうと思います」

「うん? まあ、答えられることであれば」

 そんな質問があるなんて聞いてなかったけど、まあいいわ。

「キキョウ会にはユカリさんを始めとして、大変にお美しい方が多くいらっしゃいますが、美容について何か特別な事をされているのでしょうか?」

 おっと、そうきたか。美容となれば女の読者には気になるところだろう。


 キキョウ会には確かに綺麗どころが多くいる。別に見た目で雇ったわけじゃないけどね。とはいえ、ガサツなメンバーが多いから、当初は見た目に気を遣うのも少なかったけど、私やフレデリカがうるさく言うからマシになったというのが本当のところかな。

 人は見た目が九割なんて話をどこかで聞いた事があるけど、一定の真実を突いてると私は思う。もちろん全てじゃないことは分かった上での話だ。肝心なのは中身だけど、残念ながら中身ってのはすぐに分かるもんじゃないからね。

 だからキキョウ紋を背負う以上は、見た目も気にしてもらう。


 まずは最低限の身だしなみから。幹部連中は元が悪くなかったのもあるし、訓練や講義によって知識や教養を身に付けていくと、自然と自信がついて虚構のない実の伴った堂々たる態度になる。

 普段からの姿勢や歩き方なんかも、戦闘訓練を通じて良くなるし、美しさの基礎はそうしたところで磨かれていったと思っていいかな。


 あとは食事や地味に私の超複合回復薬によるところもあるかも。常に健康状態は最善に保たれるし、必要な栄養素も十分だ。髪や肌の張り艶はそこらにいる女どころか、金持ち商人や貴族だって目じゃない程だろうし。

 幹部たちも今では自覚があるようで、平のメンバーたちへの教育も熱心だ。自分と同じように磨き上げてやろうという気概を感じる。

 大抵の人間は磨けば光る原石のようなものだ。キキョウ会にいれば、嫌でも磨き上げられるって状況なのが大きいのかも。

 幹部が魅力的であれば、下の者たちも自然とそれに近づこうとするだろうしね。


「ありがとう。美容については、そうね。キキョウ会ではメンバーに厳しい訓練を普段から課しているわ。それが影響してるのかもね」

「例えばどのような事でしょうか?」

「うーん、まずは教養を身に付けること。それから運動をすることね。当たり前のことだけど」

「その当たり前の事が難しいのでしょうか。美容について何かご意見を頂けると読者の皆様も喜ばれると思うのですが」

「サービスしたいのは山々だけど、一言では難しいわね。キキョウ会で特別なカリキュラムでも組んで講習会でも開こうか?」

「それは大変興味深いですね。ぜひとも、ご一考ください」

 ビジネスとして美容教室やダイエット教室のようなものを開設するのもアリかもしれないわね。うん、金のにおいがする。



「続きまして、女性が気になるファッションについてです。キキョウ会のトレードマークにもなっている黒と白の外套はもちろんですが、特にユカリさんの服装は思わず溜息が出るほど素晴らしいと思います。大変お似合いですし、色気と言いますか、魅力を存分に引き出しているように見受けます。どこのブランドをご利用されているかだけでも教えていただけませんか?」

「これは知り合いの職人が趣味で作ってくれてる物よ。だから既製品じゃないし、有名ブランドってわけでもないわ」

「オーダーメイドなのですね。やはりその職人のお名前を伺うわけにはいかないのでしょうか」

 私は別にオーダーしてないけどね。まあそれはいいとして、勝手にトーリエッタさんの名前を出すのも迷惑だろう。

「そうね。今度聞いておくわ」

「よろしくお願いします。個人的にも気になるところですので」

 あくまでも個人的にということであれば、服飾店ブリオンヴェストくらいは紹介してもいいかもしれない。トーリエッタさん自身が作ってくれるかは分からないけど、あの店の職人であればクオリティは問題ない。



「それから、普段から忙しくされている事と思いますが、お休みの日には何をされているのでしょうか」

「休日? 別に普通よ。あなたと変わらないと思うけど。買い物をしたり、知り合いと会ったりね。特別なことは何もないわよ」

「贔屓にされているお店などはあったりするのでしょうか」

「あるにはあるけど、迷惑になるかもしれないから取材ではちょっとね」

「では何か趣味などはありますか」

「趣味ねぇ」

 結構食い下がってくるわね。ここぞとばかりに色々聞かれるけど、インタビュアーに悪意がないのが分かるから悪い気はしない。個人的な興味を多分に含んでるのかもしれないけど、それでも仕事熱心なのも伝わってくる。

 まあいいわ。えーっと、趣味ね。趣味は色々ある。実益も兼ねてるけど、研究と訓練が最初にくるかな。


 研究は各種魔法から魔法薬、魔道具と幅広く、いつまで経っても終わることはないだろう。

 訓練も同じ。やればやるだけ強くなるし、できることもどんどん増える。それが楽しくて、もっともっとやりたくなる。

 でもインタビュアーが聞きたいのはそういうことじゃないだろう。研究と答えたら、どんな研究とか聞かれるのも面倒だしね。

 そうなると一般的な趣味を答えておくのが無難か。

「趣味は読書かな。小説から研究論文まで、興味が湧けば何でも読むわよ」

 実は自分も読書が趣味だというインタビュアーと少し盛り上がって、私個人への質問はそこまでにしてもらった。



「それでは最後になります。これからの目標などありましたら教えてください」

「そうね。キキョウ会としての目標は、計画中の事業を実施して成功させること。それに尽きるわね」

「期待しております。本日はありがとうございました」


 その後は雑談という名の隠れたインタビューを適当に躱しながら退散する。

 雑誌が出来上がって発売されてからじゃないとまだ判断できないけど、悪くない感触だったと思う。

 この雑誌社ならまた取材に応じてもいいと思うくらいにはね。



 当初はいくつも取材を受けるのは面倒だったから、一社だけに限って取材を受けるつもりだった。

 ところが最初が好感触だったもんだから、調子に乗ってもうひとつ受けてしまったんだ。

 でも、これが失敗だった。


 次のところは中立ではあったんだけど、地獄の沙汰も金次第って奴ね。ようは提灯記事を載せる代わりに出すもん出せってことだ。

 私は別に提灯記事を書けって言ってるわけじゃなくて、本当のことを書けって言ってるだけなんだ。

 担当者の態度が気に食わなかったし、こっちが意図したとおりになるかも不透明。はっきり言って無駄になりそうな気がしたから、さっさと取り止めてしまった。


 メディア対応は難しいし、なにより面倒くさい。

 将来的に専任を据えるってのは、本気で検討するべき事項ね。

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