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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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車両、回収!

 バルジャー・クラッドからの報酬をどうするか、幹部会で検討した結果、装甲兵員輸送車を購入することで決まった。

 ウチの人員輸送という意味じゃ、すでにジープとトラックを必要台数分持ってるから現状はそれで足りてる。


 今回買うことを決めた装甲兵員輸送車は、戦闘員が搭乗する目的よりも、非戦闘員を安全に運ぶためといった意味合いが強い。

 移動中の襲撃は十分に想定できることだから、対抗手段の確保は必要だった。そういった荒事は当分起きないはずなんだけど、この先ずっとってわけじゃないから油断は禁物。早めに準備しとくに越したことはない。


 新車を購入する場合、普通、店には代表的な車種のサンプルしかない。したがって、そのサンプルを基に仕様を決定し、発注後に制作される流れだ。

 装甲兵員輸送車なんてサンプルとして存在してるとは思えないけど、金さえ出せば作ってくれないことはないだろう。

 かなり値は張りそうだけど、所詮は他人の財布だ。気にすることはない。


 代わりに中古車の報酬については、街中で普段使いできるような小型車両を譲ってもらう予定になった。

 中古は何台か譲ってくれるって話だったから、小型車両なら三台や四台はオーケーしてくれるだろう。ダメならダメで減らせばいい。


 六番通り併設区画に確保した敷地は、車両くらい何台でも駐車できるほどのスペースがある。

 決まったなら早いほうが良い。特に新車は納品までに時間を要するだろうし、ちゃっちゃと片付けよう。



 幹部会の翌日、暇な私と護衛のヴァレリアでさっそく車両の話を付けに行こうとした。その出掛ける準備中で来客があった。

 事務班の見習いが案内してきたのは、アナスタシア・ユニオン総帥の妹ちゃんだ。外は寒いからかモコモコに着込んでるせいで、可愛らしくも間抜けっぽく見える。


「こんにちは。それともまだ、おはようございます、でしたか?」

「また唐突ね。ていうか早くない? もしかして暇なの?」

「失礼ですね! そんな事はありません。こう見えても方々からお誘いは引っ切り無しなんですよ?」


 怒ったような振りをしつつも、自分でも早すぎる来訪を少し恥ずかしがってるようだ。総会があった日から、まだそんなに経ってないからね。

 とはいっても、それなりに立場ある人の妹だし、実際どの程度の自由が効くのか想像もできない。


 引っ切り無しのお誘といってのも、単純に友達ってわけじゃないだろう。つまらない目的でお近づきになりたい奴なんて、ごまんと居そうだし、どうせそんなところに違いない。

 んでもって、そんな奴らのお誘いなんて嬉しくなんともないだろうとも。だからこそこっちを優先したんだろうね。


「ひょっとして、忙しかったですか?」

「大丈夫よ。せっかくきてくれたんだし、追い返したりしないわ」


 そこで私たちが外套を手に持ってるのを見る妹ちゃん。


「あら、お出かけになるところでしたか?」

「まあね。よかったら一緒に行く? ついでにこの前言ってた、ウチの花屋に案内してもいいわよ」

「そうですね。ご一緒してもよろしいのならぜひ」

「じゃあ先に用事を済ませるから、まずは中央通りに行くわよ。フレデリカ、みんなも留守よろしく」


 本部に残って仕事を続けるみんなに言い残し、ヴァレリアと妹ちゃんを伴ってガレージへ。

 適当なジープに乗って、安全運転で目的地に向かった。



 最初の目的地は移動用魔道具の専門店だ。

 それも中央通りに店を構える大店おおだなで、しかもエクセンブラ唯一の高級店だ。私はここのオーナーと知り合いで、すでに何度かきたことがある。

 ちょっと前にマルツィオファミリーの賭博場で、サシで勝負した中年のおっさんがここのオーナーだ。


 嫌らしい目つきが大きな欠点ではあるものの、気前が良くて気のいいおっさんが代表を務めるここはブーラデッシュ商会。あのおっさんなら私の要求も聞いてくれそうな気がする。


「邪魔するわよ」


 店に入りつつさっと見回せば、広々した店内に何人かの先客がいる。


「これは、ようこそお越しくださいました、ユカリノーウェ様。ただいま代表を呼んで参りますので、そちらへお掛けになってお待ちください。お連れの皆様もどうぞごゆっくり」


 入り口付近に控えるコンシェルジュが私に気づき、折り目正しく挨拶を寄こす。コンシェルジュはそれだけ告げ、別のコンシェルジュに指示を出して奥に消えた。

 すぐにお茶と茶菓子が出されて、私たちはブーラデッシュさんがくるまで休憩だ。


「あなた、ここの代表と知り合いなんですか?」

「ちょっとした縁があってね。それ以来、ここは何度か利用してるわ」

「お姉さまは顔が広いのです」


 女三人、姦しくも声は抑えめに会話を弾ませてると、ブーラデッシュさんがほどなく登場した。


「おお、ユカリノーウェさん、ヴァレリアさん、よくぞおいでなさった。こちらは初めてお目に掛かるかな?」


 私とヴァレリアに大袈裟な挨拶を送った後、妹ちゃんにも愛想よく振る舞うおっさんだ。


「ええ、わたくしは」

「こっちはアナスタシア・ユニオン総帥の妹ちゃんよ」

「ちょっと! 妹ちゃんとは何ですかっ」


 私たちは妹ちゃんをからかいつつ、ブーラデッシュさんに今回の目的を話す。

 しかし欲しい物の概要を伝えてみれば、徐々にブーラデッシュさんは眉を寄せて難しい顔をした。


「……装甲兵員輸送車、か。概念は理解できるが、そのような車両を作った実績は今までにないな。少なくとも近隣諸国を含めても、そのような車両の話は聞いた事がない」


 それはそうかもね。コストが掛かり過ぎるし、普通なら魔道具を使うか防御に適した魔法使いが同乗すれば済む話だし。

 私たちの要求はただの贅沢だ。


「ふーん。なら他国も含めて、初めてそれを取り扱った商会として名を売れるじゃないの」

「簡単に言ってくれる」


 渋りながらも真面目に検討はしてくれるみたいで、材料費がどうの開発費がどうのと呟きながら、メモ帳になにかを書き殴ってる。


「やるだけやってみるが、費用がかなり掛かるな。ドン・クラッドからの話は伝わっているが、まさか青天井の予算ではないだろう。一度はあちらに相談してみたい」


 そりゃそうね。いくら何でも想定してる金額くらいはあるか。

 あんまりにもケチ臭い予算だったら、直談判に行くかもしれないけど、そこまでヘボじゃないだろう。


「分かったわ。もしダメだったら、軽装甲車両くらいで妥協しとくわ。そこは最低ラインだから、その辺も見積もっといて」

「軽装甲か。さっきの話とはまた変わるな。そちらになる可能性も否めないから、詳しく話してくれ」


 頭の痛そうな顔をするブーラデッシュさんだけど、そこはそれ。仕事なんだから頑張ってもらおう。


 大体のところがまとまれば、後はオプションだ。

 基本の車両だけで満足しないのが私たちってもの。相手の奢りだというのなら、とことん奢られてやる。

 魔道具を使った空調機は当然として、セキュリティ機能は最上の物、自動浄化機能付きのフロアマット、この際フォグランプなんかも付けとこう。ほかにも色々あるけど、あとは要らないかな。不要な物は排除して注文を重ねる。


 そして裏オプション。


「いつものように、リミッターは解除しといてよ」

「分かっているが、無茶はしないようにな」


 この辺はもう以前に散々やりあったところだ。

 時速三十キロ程度しか出せない、ヘボ仕様を無理やり解除する裏オプション。バレたらタダじゃ済まないらしいけど、その時はその時だ。

 一応はもし使うとすれば、本当にヤバい使わざるを得ない時か、誰もいない街の外をぶっ飛ばす時くらいを想定してる。あるに越したことはないから、私は必ず注文する。


「オプション料金もそれなりになるが、これを一緒にドン・クラッドに請求するのは無理だと思うぞ。車体だけで、あまりに高額だ」

「なに、私に払えっての?」

「まあそうなるが」

「ふーん……高額な車体ってのは、当然利益も含めた金額よね?」

「当然だ。そこはこっちも譲れんぞ」

「利益を乗せるのは当然のことよ。でも、乗せ過ぎじゃないかと言ってんの」

「そんな事はない」


 あくまでポーカーフェイスを崩さないブーラデッシュさんだ。そこはギャンブラーらしい。

 だけど私も簡単に引き下がったりしない。奢られにきたってのに、なんで私が出さないといけないのか。


「今回の件、たった一台の車両の割には大金が動くわよね。どうしてそんな大きな商売に結び付くのか、誰のお陰なのか、よく考えて欲しいわね。キャンセルするつもりは無いけど、自腹を切るくらいならもっと安いのに変えてもいいかな、とも思うのよ」

「………………くっ」

「………………ふっ」


 沈黙と睨み合いの時間が少々続くと、ブーラデッシュさんが目を逸らした。


「実のところ儲けに比べれば、オプション如き大した金額ではない。サービスしよう」


 仕方なさそうに笑いながら、結局は折れるおっさんだ。


「最初からそう言いなさいよ、まったく」

「さすがはお姉さまです」


 結果は分かってても、商人としてこのやり取り自体が重要なんだろう。きっと。


「あの、会話の内容は良く分かりませんでしたけど、なにか危ない橋を渡っているのでは?」


 ずっと横で傍観してた妹ちゃんは、リミッターのことを気にかけてるらしい。


「大丈夫よ。バレたら誤魔化すか、黙らせればいいんだし」

「そういう、世の中を甘く見たようなところ、あなたの欠点だと思いますよ?」

「たしかにそうかもね。まあ、なるようになるわ。心配無用よ」

「そうです。お姉さまに不可能はありません」

「あなたたちね……いえ、もういいです」


 呆れたような可笑しそうな微妙な顔で言葉を打ち切る妹ちゃん。何を言っても無駄だと察したんだろう。


 その後、ひと通りの手続きを済ませて、もし何か問題があればキキョウ会に使いを寄越してもらう手筈を整えた。

 問題なければ連絡不要。その場合も出来上がり次第、使いを寄越してもらう。あとは完成まで頑張ってくれ。



 ブーラデッシュ商会を退店し、次は紹介してもらってた中古車ディーラーに向かう。

 到着したのは中央通りからは少し外れた所にある広めの営業所だ。ジープで敷地に入り込めば営業担当だろうか、むさい親父がすぐに建物から出てきた。


「その外套と代紋、キキョウ会だな? 話は聞いてるぜ。女の癖に腕も度胸も男顔負けって話じゃねえか。どんな奴か楽しみにしてたんだ」


 マッチョの親父が、ざっくばらんな感じで話しかけてきた。

 女相手だと横柄な態度の商売人は多いけど、ウチが特別なのかマッチョ親父は意外に愛想がいい。


「上から言われてよ、譲ってもいいのをそっちに集めといたぜ。気に入ったのがあれば持って行け」


 入り口付近に置かれた、この辺の奴か。

 見た感じ、ボロかったりひどい状態のは無さそうだけど。


「中古だがしっかりメンテしてるぜ。十分に働ける奴を用意しといたからよ、心配すんな」


 おっと、疑ってるように見られてしまったか。そんなつもりじゃなかったんだけど。


 改めて並んだ車両を見やる。ラインナップは私たちがいつも使ってるような大型ジープを始めとして、中型と小型のトラック、同じく中型と小型のワゴンタイプ、それらが形や色違いで複数台ある。

 そこそこ揃ってる中から選び放題か。ここの親分も気前がいいらしい。


「欲張るわけじゃないんだけど、何台まで持ってっていいの? まさか全部、譲ってくれるわけじゃないわよね?」

「全部は困るな。すまねえが大型なら一台、中型以下なら二台、小型だけなら三台ってところだな。物によっちゃ、もう少し相談に乗れるかもしれねえが」


 欲しいのは街中で気軽に乗り回せるタイプだ。予備があっても困らないけど、大型と中型は間に合ってるし、予定通りに小型を選ぶとしよう。

 となればトラックはいらないし、ワゴンタイプ一択だ。小さくて安いタイプだし、渋られることもないだろう。


「決めた。小型のそっちの奴にするわ」

「いいのか? 大型のでも結構いい奴を用意したんだがな」

「実は大型車両は、すでに必要分は持ってんのよね。いま欲しいのは小型なのよ」

「そういう事か。てっきりお前さんらが乗ってきたのと同じタイプを要求されると思ったぜ。全部小型でいいなら、トラックタイプになるが一台だけオマケしてやる。ずっと売れ残ってる奴だがな。どうする?」

「ありがたい申し出ね。もちろん、もらっとくわ。使い道はいくらでもあるし」


 親分に負けず、マッチョ親父も気前がいい。譲り受けた車両は、あとで六番通りの駐車場まで届けてもらうことにした。

 同タイプ複数ある車両のどれを選ぶかは、ヴァレリアに適当に選ばせてから引き上げた。

 品もサービスも悪くなさそうだし、お薦めの店としてあそこは覚えとこう。

活動報告にも書きましたが、今後は毎日更新が出来なくなります。

書き溜めが尽きてしまいましたので。。。

今後は週一程度を目安に更新できればと考えています。


更新ペースは落ちますが、今後とも「乙女の覇権安定論」をよろしくお願いします。

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