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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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流行

 最近のキキョウ会では、ある事が大流行中だ。それによってウチのメンバーの魔法技能は著しく成長することに繋がった。

 使える魔法の等級が上がったのもいれば、そうじゃなくても単純に威力や効果が増大してるんだ。

 その大流行によって、面白いように効果上昇するもんだから、魔法訓練への熱が大フィーバー。もう魔力回復薬の需要が追い付かないほどだ。

 きっかけは魔法が苦手な見習いへの助言だった。あれは地下訓練場での一幕だっと思い返した。



「――あの、魔法はイメージだって分かってはいるんですけど、どうしても上手くいかないんです」


 戦闘班に所属するメンバーは、身体と武器を使った戦闘以外にも魔法戦闘の技能が求められる。

 自身の魔法適正を伸ばすこと以外にも汎用魔法を使いこなし、他者が使う様々な魔法まで含めて、総合的な知識を身に付けることまでも要求される。


 戦いを制するには単純な力と技以外にも、知識が必要になってくる。知らなければ対応のしようがない場合ってあることを考えれば、知識の重要性が理解できる。

 すべてを知ることは無理にしても、一定以上の知識を得ることはキキョウ会メンバーとしての義務でもある。


 やらなければ多いけど、まずは自分が得意とする魔法を作り伸ばすことだ。

 それさえおぼつかないようじゃ、全般的に上手くはいかない。初歩の初歩に立ち返ることだ。


「ふーむ、それは頭の中で上手くイメージできてないからね。漠然としたイメージじゃ、効果もそれなりにしかならないわよ」


 超基本的なことなんだけど、それこそが難しいってのはまあ分からなくはない。


「何かコツとかないでしょうか?」


 人それぞれイメージのやり方ってもんがある。こればかりは抽象的なものだ。

 言葉で説明するのはなかなかに難しい。あ、言葉か。


「そうね、言葉に出してみたら?」

「言葉、ですか」

「あんたは火の魔法に適性があったわね。なら、こういうのはどう?」


 私には火の魔法適正はないから、複雑な魔法を使うことはできない。ただし火は汎用魔法の範疇でもあるから、初歩の第七級魔法なら誰でも使える。

 初歩の魔法しか使えなくても、強固なイメージ補正と十分な魔力が伴えば、馬鹿にできない効果を生み出すことが可能になるんだ。

 適性がなければ難しい魔法を使うことは不可能でも、単純に出力を上げるだけなら話は別となる。


 目を閉じてから右手を前に突き出し、おろむろに『呪文』を詠唱した。


【灼熱と閃光を秘めし、我が魂の呼び声に応えよ。内なる赤き地獄を顕現けんげんせよ! ヘルブラストファイヤー!】


 ちょっと子供っぽかったかもしれない。やけくそ気味に適当な言葉を並べてしまった。

 どうせだからと大げさに悪ノリしつつ、普段はやらない詠唱して魔法を放つ。すると詠唱の内容は完全にテキトーだったにもかかわらず、豪快な炎が噴き上がった。


 一般的には魔法適正がなければ、たき火にくべる程度の火を出すのが精々といったところだろう。

 それが馬鹿みたいな魔力量と強固なイメージ合わされば、攻撃魔法っぽいのが使えてしまう。慣れれば詠唱でのイメージ補正だって必要ない。


「嘘っ!」

「え、会長って火魔法の適正持ってましたっけ」

「さすがはお姉さまです」


 見習いたちが騒ぐなか、ヴァレリアたちも今更ながら驚いてるようだ。


「適正なんかなくたって、あのくらいの威力ならイメージの力で出せるわ」

「あの、わたしのよりもずっと威力が高いように見えたんですけど……」


 ちょっと落ち込んだ見習いでも、嘆くことはない。

 魔法適性がある以上、火の魔法に関しては必ず私の上を行くはずだ。


「あんたも言葉に出してみたら、もっとイメージしやすくなるかもよ? 色々試してみなさい。適正持ちなんだから、練習すれば絶対できるわよ」


 素直にうなずいた彼女に、イメージしやすそうな火に関する適当な詠唱を教えてやる。イメージ補正の足しにになればそれでいいんだ。

 ぶつぶつと呟くのを見て、あとはしっかり練習しなさいと言って地下訓練場を後にした。



 次の日の早朝、いつものように訓練しようと地下に行ってみれば、魔法の炸裂音が響きまくる状況だった。

 それと続々と聞こえてる呪文詠唱の声。


【紅蓮の血を持つ火の化身よ! 我が身に宿りて力を貸せ! ファイヤーボール!】

【青き風の囁きは千の声となって我が意を伝えん! ウィンドヴォイス!】

【我が望みは遥か高みへと至る理にあり! 我が足、我が腕、我が魂こそが全てを凌駕せんと欲す! エクストラパワー!】


 ほかにも、それっぽい呪文詠唱が聞こえる。

 今まで詠唱なんかしてるのは、あんまりいなかったんだけどね。これは昨日の影響かな。


「会長、聞いてください! 魔法の威力が上がったんですよ!」

「わたしの魔法も効果が上昇しました!」


 練習中のみんなは、私の姿を認めるとわらわら集まってきた。

 たしかに高い威力の魔法だったように思う。ちょっとしたアドバイスは、思った以上に効果覿面なようだ。


 魔法が苦手だったり、イメージが十分じゃなかったりした人にとって、特に効果が出てるように思う。

 うん、大変結構じゃないか。というか、あんなもんでレベルアップできてしまうのか。


 これも日頃から魔力を鍛えたり、講義で魔法についての理解を深めたりしてる影響だろう。

 別に呪文を唱えれば絶対に効果が高くなるってわけじゃない。イメージしやすいかどうかの話でしかないから、私やほかの魔法が得意なメンバーは今後も詠唱なんかしないけどね。



 図らずもキキョウ会メンバー全体の魔法能力の底上げに繋がった呪文詠唱。

 その恩恵は何も戦闘に限った話じゃない。

 サポート系の魔法についてはむしろ、直接戦闘とは違った意味で大きな恩恵をもたらしてくれた。中でも特筆すべきは刻印魔法だ。


 新たに幹部となった、第五戦闘班副長シャーロットの魔法適正は刻印魔法。それが開花した。

 元貴族なのに戦闘狂のきらいがある彼女は、戦闘に直結する魔法適正じゃないことに不満があったらしい。


「わたくしの魔法適正は、戦闘では役に立ちませんから」


 シャーロットから何度か聞いた言葉だ。これじゃ貴重な魔法適正も宝の持ち腐れだ。

 元々使えたのは第七級の最下級魔法のみだったから、効果としては気休め程度の効果しかないレベルだ。そうしたことからも、興味を持てなかったらしい。

 もったいない話だ。まあ貴族なら金に困ることはなかっただろうし、華々しい魔法のほうに憧れがあったのかもしれない。


 でも刻印魔法ってのは凄い魔法なんだ。これの優れたところは、適切な魔力の供給さえあれば、その魔法の効果が自動で発動し、しかも半永久的に続くこと。効果を及ぼしたい物や場所に、定められた刻印を施すだけでいい。

 もちろん何にでもできるわけじゃない。

 刻印を施すモノのキャパシティを超越することが不可能といった制限がある。


 たとえば、ただの木の棒にはどんな種類であれ刻印魔法を施すことはできないし、鉄の武器でも下級魔法の刻印を一つ刻むのが精々だ。ミスリルだったら、中級魔法の刻印が二つくらいは大丈夫だろう。素材によって刻める魔法の等級も数も変わる。


 装備品に良く使われる刻印魔法は、軽量化とか硬度を高めるとか、切れ味を高めるといった内容がスタンダードだ。

 便利ではあるけど、キャパシティを超えてしまえばその物自体が壊れてしまうのだから、軽々に実行はできない欠点がある。

 試しにやってみて壊れたんじゃ、取り返しがつかないからね。


 さらに厄介なのは同じ素材の武具だったとしても、どういう基準があるのか、刻印を施せる数や効果が必ずしも一定にならないといった事象が挙げられる。

 記録によれば、鉄製でも中級魔法の刻印が施せた例もあれば、逆にミスリル製でも下級魔法の刻印一つでダメになった例もあるらしい。

 素材によってある程度の線引きはできても、それが絶対とは限らない。これは厄介だ。


 つまり、かなりのリスクがある。愛用の武具に後から刻印を施すのは勇気がいる。

 それゆえに希少な魔法適正ではあっても、使い勝手がイマイチな魔法と認識される。

 だから刻印入りの武具ってのは、それが施された状態で売りに出されるケースがほとんどだ。後からは刻まない。

 いざ買うとなれば高価だし、一般的にたくさん流通する物でもない。刻印が入ってるイコール、素材自体が高価な武具になるしね。


 でもそれが後からとはいえ、タダで施してもらえるなら?

 所持してる武具が大きなキャパシティを持った素材だったなら?

 万が一失敗しても、取り返しがついたとしたら?


 我がキキョウ会には、貴重な刻印魔法使いがいる。訓練によって魔力は鍛えられ、講義によって魔法への理解を深め、呪文詠唱によるイメージ補正によって、中級魔法が使えるまでに至った刻印魔法使い。シャーロットだ。


 特別な素材が使われたキキョウ会の外套が、大きなキャパシティを持つだろうことは間違いない。

 見習い含めて、所持してる武器だって悪い素材を使った物などまったくない。

 さらに、失敗して壊れてしまっても補充が可能だ。今となってはウチも貧乏所帯じゃないし、作り直してもらえばいいだけ。予備だってあるから、失うことを恐れる必要がない。


 リスクを恐れる必要がなければ、刻印魔法は有用極まりないだけだ。もう大いにやってもらうことにした。

 実験込みで、希望者の外套には刻印魔法を施してもらう。

 それも希望する効果をできるだけたくさん。壊してしまっても全然構わないし、むしろ限界を探って欲しいとすら思ってる。


 みんなの様々な要求に応えてどんどん魔法を使っていけば、シャーロットの魔法の腕はさらに上達する。

 将来的にもし上級魔法の刻印ができるようになれば、その存在価値は計り知れないものになる。



 これが呪文詠唱に続いて、最近のキキョウ会での流行だ。みんなして好き勝手に次々とシャーロットに刻印を要望する。


「会長、わたくしの刻印魔法が有用なのは理解できました。ですが忙し過ぎます……」


 疲労して愚痴る姿は、普段のお嬢っぽい凛々しい感じが鳴りを潜めて、なんだか妙な色気を感じる。


「ひと通り全員分やれば、少しは落ち着くわよ。今こそ練習のやり時と思って頑張りなさい」

「はあ、それもそうですわね」


 ウチには潤沢な回復薬がある。

 精神力が持つ限り、どこまでだって戦える!


「ところでシャーロット、私の靴と手袋にも刻印して欲しいんだけど」

「……もう、とことんやってやりますわ! 貸してくださいませ!」


 あ、でもこれはトーリエッタさん謹製だから、壊れない程度に抑えて欲しい。

 一応、あんまり壊されまくっても困るんで、最初は外套そのものじゃなく生地に対して限界まで刻印を施してもらって、素材その物のキャパシティをある程度見定めてもらった。

 その甲斐あって、最初の段階以降は破壊される装備もかなり少ない。


 私の外套は壊れることなく、裾のほうに綺麗に刻印が並んでる。

 キキョウ会メンバーの羽織る外套は、もはや価格のつけられない代物だろうね。


 シャーロットの刻印魔法はもちろん金になる。特に鍛冶屋からすれば垂涎ものだ。

 彼女自身は金儲けに対して興味は薄そうだけど、能力を秘匿するか、大っぴらに公開して金を稼ぐかは本人に任せるつもりだ。

 どちらにしてもメリットとデメリットはある。


 もちろん、キキョウ会としては金を稼いで上納金をたくさん納めて欲しいけどね。凄く稼げることは目に見えてるわけだし。

 シャーロットは戦闘班の副長でもあるから、金稼ぎばっかりやってられても困るんだけど、どうなることやら。


 あとはリリィを中心に花をアレンジした装飾なんかも流行ってるみたいだ。

 無骨者の集まりとはいえ、時折垣間見せる女っぽいそうしたところは案外悪くない。

 このささやかな趣味の集まりは何となくだけど、とても良いものに思えて私も参加することにしてる。

 花の乙女が戦闘ばっかりじゃ、やっぱりダメだ。文化的な行いも奨励していこう。

何気なく戦力アップを果たしました。

次回、「次なる一手」です。

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