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連続する包囲網

「――次のセーフエリアは北東の端、また遠い!」


 試合開始からすでに一時間以上が経過し、第三セーフエリアが発表された。

 すでに二十以上ものチームが脱落している。やはり広大な戦場での移動と、その途中で起きる戦闘はかなりの負担だ。戦闘はともかく、なにより移動が厳しい。


 現在地が戦場の端だった場合、次のセーフエリアが反対側の端になってしまえば、それだけで移動距離は相当なものだ。対角線上の端っこ同士ならもっと移動が厳しくなる。

 次回の公式戦がどうなるかは全然わからないけど、少なくともこの辺のルールは見直しがありそうだ。


 思うにセーフエリアへのタイムリミット後に訪れる十分間のインターバル、そこで戦いが起きれば、決勝大会は早い段階で決着する。たぶんルールを設定した奴らは、早期の決着を期待したんじゃないだろうか。残存チームすべての大将機が集まっているのだから、仕掛けるならそこがいいに決まっている。


 でも実際には、その十分間で積極的な戦闘は起こっておらず、主には次に向けての準備に費やされていた。これは戦闘に入った場合に、すっぱり十分で切り上げられないことや横やりを想定するからだろう。

 もし次のセーフエリアが遠い場所だった場合、戦闘に時間を使えば単純に移動が間に合わず、敗北が決定的となる可能性がある。それを恐れ、次のセーフエリアが発表されるまでは、現在のセーフエリアから少し離れて、他のチーム同士が戦って共倒れになる展開をどのチームも期待している。そんな消極的な考えが透けて見える。


 現在のところ、聖エメラルダ女学院もこの時間については、拙速な攻めよりも、守りや移動に重点を置いているようだ。動くとしたら、もっと数が減ってからになるだろう。

 下手に動いては、多数のチームを敵に回して囲まれる。それで次のセーフエリアに間に合わずに敗北することが、ウチにとって最悪の展開だ。攻めに出ないのは、それを考えてのことだろう。



 さて、残存チームはいまだ四十二もあるけど、各チームの戦力は徐々に削れてきている。

 ここまでの経過でどのチームが手強いかというのは、なんとなく互いにわかってきた頃合いでもあるはず。親切に実況があれこれ教えてくれるからね。

 当然ながら我らが聖エメラルダ女学院は、ほぼすべてのチームに警戒を向けられていると考えていい。


 実況がうるさく紹介する以外にも、ウチは単純に移動速度が群を抜いて速く、それだけで非常に目立つ。さらに移動時には大抵、四つの部隊にわかれて行動し、敵よりも少ない数で相手を翻弄するからより目立ち、実況が興奮気味にがなり立てる。隙あらば移動中のついでとばかりに、大将機を撃破までしているのだから、注目を浴びる頻度が高くなるのもしょうがない。

 誰がこの戦場の王者か、決着がつく前の時点で主張しているかのような圧倒的な実力と戦果だ。


 そしてこうなれば、今後の流れもわかってくる。

 これはバトルロイヤルだからね。数を頼みに強いチームを潰すのは自然な流れだ。

 打ち合わせなどしなくたって流れがそうなるし、ウチがどこを攻めるとか関係なく、必ずそうなる。そして、その時が訪れようとしているらしい。


 ここで問題になるのは敵の数よりも、セーフエリアまでの距離と時間だ。私としては、まだ余裕があるように思える。


「回り込まれてる! しかも多いよ、どうするハーマイラ」

「セーフエリアを無視して包囲展開? でも、あの動きなら……全部隊、合流!」


 ハーマイラの指示に、四つの部隊が敵の移動のレベルの低さをあざ笑うかのような、見事な速度と軌道で集結を始める。

 各部隊の行動と連携が、気持ちがいいほどに鮮やかだ。これは四十七人全員が、他校のエース級と呼ばせる腕がなければ無理だ。それだけ他校とは際立った違いがある。


「これは面白くなってきました! 十五ものチームが包囲態勢を敷こうというなか、聖エメラルダ女学院は分散していた部隊が一点集中! ここからどうなってしまうのかー!」


 親切なことに、実況が敵チームの数を教えてくれた。魔道人形が着るカラフルなビブスは、数が多いと非常にわかりにくい。

 それにしてもだ。一点集中とは、ハーマイラも派手なことをする。ウチの実力なら部隊は四つにわかれたままでも、包囲を突破し逃げ切ることは可能だ。それをわざわざ集めたということは、何かやる気だ。


「円陣に展開!」


 続けられたハーマイラの指示によって、我が部の連中は何をするのか全員が理解した。

 四十七体の魔道人形が、わずか数秒で完璧な円陣を形成する。背中合わせの陣形は、どの方向にも均等な戦力を向けることができる布陣だ。

 それに応じるのは十五もの敵チーム。もたもたと時間をかけ、いびつな形ながらも完全に包囲した。


「来るよ!」


 セーフエリアへの移動時間があるから、敵にも余裕や暇はない。さっそく強敵、聖エメラルダ女学院を倒すべく動き出した。

 ただし、即席に共闘する敵チームは、当然ながらタイミングを合わせられない。綺麗な一斉攻撃はできず、バラバラとした動き出しによる攻撃だ。そんなものを見てしまえば、ウチの連中にとっては迫力のなさに拍子抜けする思いだろう。


 恐れるものはなにもない。そして満を持して、ハーマイラが命令を下す。


「全方位、突撃!」


 円陣を構成する四十七体の人形が、まるで弾丸のように一斉に外側に向かって突進する。

 敵からしてみれば、これは完全な不意打ちだった。ウチが守りに徹すると思い込んでいた奴らにとって、突撃はまさかの展開だろう。敵は包囲態勢を取っていたけど、それは裏を返せば互いの援護が難しい配置でもある。


「これは凄まじい攻勢です! 聖エメラルダ女学院の魔道人形が、まるで爆発でもするかのように散開し、包囲網とぶつかっています!」


 短めの槍を装備したウチの魔道人形が、弾丸のような勢いのままに激突。隙あらば体に当てて撃破し、盾で防御されれば構わず盾に当てて吹っ飛ばす。魔道人形の勢いと武器に込められた魔力の違いが、彼我の明瞭な実力差を浮き彫りにしている。


「セーフエリアへの到着まで、時間に余裕あり! 各自包囲網を抜け次第に、部隊ごとに合流! 逃げる敵が大将機と判断した場合には、部隊ごとに無理をしない範囲で追撃! ただし、深追いは厳禁で!」

「はい!」


 全体への命令を下しながら、ハーマイラは広い範囲を俯瞰するように目視と同時に魔力感知で戦場を見ている。実力を上げたものだ。

 そうして早くも敵包囲網はガタガタになっていた。十五ものチームで作り上げた包囲網は、すでに瓦解したと言っていい。

 ウチの作戦は完全に他校の想定を上回っている。全方位に同等の実力者を配置可能などというそれは、他校には決して真似のできない戦術だ。


「驚異的です! 聖エメラルダ女学院による完璧な多面戦! 包囲していた十五ものチームが、わずか数分で七チームまで減少しています!」


 次々と大将機の撃破を表す光魔法が打ち上がっている。もはやどこのチームが敗れ去ったかなんて、わからないくらいだ。

 そんななか、聖エメラルダ女学院はたった一体の撃破も許すことなく戦い続けている。まさに驚異的と言える戦果だ。


 全員がエース級。


 その評判が誇張でないことを示している。むしろ敵が感じる実際の強さは、噂以上だろう。いくら連携が上手くいっていないとしても、あれだけの数で囲んでさえ一方的にやれることを思えば、それは恐ろしい実力差だ。

 この場所からは離れている他校のチームにも、実況の声は聞こえている。終盤に向けて、ますます我が校は警戒されるだろう。


「本隊に合流! セーフエリアに向けての移動を優先します!」


 調子に乗って敵を削っていると、思った以上に早く時間は過ぎるものだ。そうしているうちに、時間にあまり余裕がなくなっていた。それにセーフエリア付近で他チームが待ち構えているかもしれない。それを突破か迂回する時間は考えておいたほうがいい。

 ウチを包囲したチームが大幅に数を減らし、大将機がまだ生き残っているチームもまさに蜘蛛の子を散らすように逃げている。どれが大将機がわからなければ、追撃は時間の無駄だ。


「現在、残り十七チームです! もはや中盤戦は過ぎ、終盤戦に突入したと言っていいでしょう!」


 もうそんなに減ったのか。


「ミルドリー、見える? セーフエリアのほう、たぶん手前で固められてる」

「まだ距離あるけど……あ、ホントだ。また複数校での協力? なんかもう、ウチ対その他全チームみたいになってない? ちょっと防御が分厚いように見えるけど、このまま突っ込んで突破できると思う?」

「今回は先ほどとは違って、あちらは攻撃を考えずに防御を固め、わたしたちがセーフエリアに入ろうとするのを妨害するだけだと思う。挑戦はしてみたいけど、この本番でそれは少し無謀かも」

「一点突破か分散か、手間取れば最悪、時間切れになるね」


 進路を妨害しようとしている魔道人形はざっと数百体はいて、細かい数はわからない。ひょっとしたら五百体くらいいるかも。その数が行く手を阻まんとすることに徹すれば、ウチの実力がいかに抜けていても突破は簡単にはいかないだろう。

 試してみて無理そうならいったん退いて策を考える、ではたぶん時間オーバーだ。無策で突っ込むのはイチかバチかの賭けになってしまう。何らかの策が必要だ。しかし悩んでいる時間はなく、早い決断が必要になる。


 ハーマイラが一瞬だけチラッと私を見たのがわかったけど、口を出す気はない。彼女もそれは心得ているから、すぐに私から視線を外した。


「部長、いいですか?」

「シグルドノートさん」


 いつもは一歩引いて控えている妹ちゃんが声をかけた。


「全員が生き残る必要はありません。わたくしとハリエットさんが敵を引き付けます」

「おとりになる、ということですか?」

「いまから防衛線の左右に向かって先駆けます。そこで暴れ回れば、中央が薄くなるはずです。そこを一点突破してください。わたくしの部隊は本隊に預けます」

「……迷っている時間はありませんね、わかりました。二人には先行して敵防御線の両翼に突撃、可能な限りの敵を引き付けてください」

「お任せください」


 うなずいた二人の人形は前進を続ける部隊から離れ、矢のような勢いで走り出した。

 秘密兵器の投入か、それも悪くない。アナスタシア・ユニオン総帥の妹と、我がキキョウ会警備局幹部補佐だ。学生競技にはちょっと反則と思う実力者の二人だけど、使えるものは使ったほうがいい。別にその二人じゃなくても、おとり役は十分に果たせると思うけどね。


 それにしても燃えるシチュエーションじゃないか。

 これはあれだ、ここは俺に任せて先に行け、みたいな場面だったと思う。いいわね。


「なんと聖エメラルダ女学院は、たった二体の魔道人形が猛然と防衛線に向かって駆けています! ものすごいスピードですが、しかしこれは無謀ではないでしょうかー!」


 こっちの動きに気づいた実況が、うるさいくらいのテンションで吼えている。

 妹ちゃんとハリエットはタイミングを合わせ、両翼にかみついた。



 別格の二体が暴れ回る。最初の突撃で、それを盾で受け止めた人形が吹っ飛び、振り回した短い槍で左右にいた人形を薙ぎ払った。盾で防がれてはいるけど、その場にとどまることはできずに吹っ飛ばされている。

 そして吹っ飛ばしに巻き込まれた人形が数体倒れ、倒れた人形には槍を突きこんでドンドン撃破を重ねていく。


 槍で突いては撃破し、盾で殴っては吹っ飛ばす。

 決勝大会に残るような学校の生徒は、どこもそれなりに人形操作のレベルが高い。聖エメラルダ女学院と比較してしまえば劣るけど、まあそれなりの実力はあると私から見ても評価はできる。

 それでもあの二人は、比較にならない実力だ。


 例えるならば、操り人形の世界に現れた、意志を持った獰猛な生命体だ。それもあふれんばかりの闘争心を持った怪物が、平和な世界の無害な人形を蹂躙しているかのよう。

 無慈悲なまでの実力差が、如実になって表れている。絶望的なまでの実力差だ。ちょっとがんばって、どうにかなるもんじゃない。

 ここに至って、あの二人は本気を出しているらしい。

 たぶん、これが最終局面に近いと考えたからだろう。周囲に合わせて手加減するストレスは、私よりも遥かに常識的なあの二人も感じていたことらしい。そう理解した。


 もうやっちまえって、そういうことだ。


 二人の暴れっぷりに触発されたほかのみんなにも気合が入る。

 自然と早まる進行速度にそれが出ている。先陣を任されたイーディス隊が、想定どおり薄くなっていた防衛線の中央に突っ込んだ。もう結果は見えている。


「抜けた! ハーマイラ、中央の圧力は弱いわよ! このまま突っ切れる!」

「セーフエリアまで、このまま全速前進! 左右からの攻撃を意識しつつ、移動を最優先! 追ってくる敵は、逆にセーフエリアで待ち構え迎え撃ちます!」

「シグルドノートとハリエットは、あと十五秒だけ耐えて! いまからカウント、無事に抜けてきて!」


 燃え上がるような戦場の気迫と気合は伝播し、敵チームの闘志にも火が付いたかのようだ。驚異的な実力を披露して暴れ回る妹ちゃんとハリエットの人形に、次々とやられながらも恐れることなく立ち向かっている。

 面白いじゃないか。それでこそ決勝だ。結果が一方的だったとしても、あれなら見応えがある。

聖エメラルダ女学院魔道人形俱楽部、決勝大会をがんばっています!

がんばっています!


さて、本作とは関係ないことですが。実は私、新作の投稿を予定しています。

1/27の夜、28に日付が変わる前にはアップする予定で、ただいま死ぬほど見直しを繰り返しています。

そちらも読んでいただけると嬉しいです。なかなか面白く書けていると思いますので、ぜひお願いします。本当にお願いします。

詳しいことは活動報告に書きましたので、そちらもチェックしてみてくださいね。

よろしくです!

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― 新着の感想 ―
>敵は包囲態勢を取っていたけど、 >それは裏を返せば互いの援護が難しい配置でもある 15チーム×50体で聖エメラルダ女学院の魔道人形47体を包囲したつもりが 気が付いたら戦力を薄く均一に分散させられ…
大暴れ!爽快です!新作楽しみにしときます
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