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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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細かく丁寧な足場固め、そして妥協なき追い込み

 魔道人形大会ベルトリーア予選が終わって二日。

 嫌な予感あるいは予測というのは、どうしてか当たりやすいものだ。

 あの日以来、不快な噂が飽きもせず根強く広まっている。それは学院のなかや繁華街で聞こえてくる話し声によっても明らかだ。

 当然、噂なんぞを真に受けるマヌケは少ない。ただ面白おかしく話のネタにしているだけだ。


 それでもネタにされるほうはたまったものではない。私のような悪党でさえ鬱陶しいと思うのに、これが未熟なガキならダメージになってしまう。

 しょうがなく、ここは倶楽部の顧問として、そして生活指導の講師として厳格に対処するしかない。特に学院内は私の講師としての仕事の範疇だ。


「ねえ、魔道人形倶楽部のあの話聞いた?」

「聞いた聞いた、不戦勝のやつ。裏工作したんだって?」

「その話? 権力使ってどうこうなんて、うちの学院が非難されるだけなのに。ホント、迷惑」


 こういうのは一つずつ丁寧に潰さなければ、他人の気持ちも迷惑も顧みず、何度でも繰り返す。それがガキというものだ。

 いや、そんな奴は大人でも普通にいるわね。悪意のある噂を娯楽として楽しみ、嫉妬心を隠しながら他者を攻撃する。最悪の場合には単なる噂を真に受けて、自分を正義の側と思い込んで攻撃する馬鹿だっている。こういうガキがそのまま育つと、無自覚な悪意を振りまく極めて迷惑な大人になるのだろう。


 毎度思うし絶対に違うとも思うけど、確固たる意志や目的に基づいて、明確な悪意を持って、他者を貶めようとする私のような奴のほうがまだマシだ。無自覚に、見も知らぬ奴の噂を広めるような真似は、仕事柄決してしないからね。


 やったら、やり返される。少なくとも、私たちにはその覚悟がある。安全圏に身を置いていると勘違いしながら、無意味に悪意をばら撒いたりしない。


 さて、お説教の時間だ。

 こんなしょうもない話をさせるなよと思うけど、しょうがない。生活指導の仕事だ。


「そこの三人、いまの話を私にも聞かせて欲しいわね」


 放課後の廊下の片隅で話す内容は、人の減った校舎内の環境のせいで割と遠くまで聞こえてしまう。地獄耳の私なら尚更だ。他者に聞こえる意識はなかったのか、声をかけたら驚いたらしく固まってしまった。答えない三人に向かって続ける。


「どうした、私には聞かせられない話?」

「いえ、その」

「そんなわざわざ、先生に聞かせる話では」

「ね、ねえ」


 学院内にいる時の私は、黒ベースの戦闘服にサングラスが標準装備だ。近づいてそのサングラス越しに三人を順にねめつける。

 言い逃れはできないのと理解したのか、観念したような、悲しそうな、そして気まずそうな表情を浮かべている。


「私の部屋に寄っていきなさい。お茶くらい出してやるわ」


 問答無用で歩き出せば、生徒たちは従うほかない。大人しく付いてきた。

 そうして狭い部屋のなか、私を前に三人が並んで座る。宣言通りに茶だけ出してやっても、緊張のためか手を出さない。せっかく淹れてやったのに、これはこれで気に食わない。まあいいけど。


「さっきの話、包み隠さず聞かせてもらうわよ。それと誰からそんなくだらない嘘を聞いたのか、お前たちが誰に広めたかも含めて、詳しい話を聞こうじゃない」

「嘘って、そんな」

「わたしたちはただ聞いただけで」

「そ、そうですよ。別にそんな」

「ほう? 嘘とは思わなかったって? じゃあ、よっぽど信頼できる人から聞いた話ってことよね。魔道人形倶楽部の当事者に、話を聞こうと思えば聞ける同じ学院生なのに。で、お前たちにその話を聞かせた、そいつが言えば無条件に、何でも、真実と、思い込んでしまうほどの人って誰?」


 いるわけない。意地の悪い質問だけど、こういうアホは懲りることでしか学習できない。


「黙っててもわからないわ。なんなら、お前たちの交友関係ある奴ら、全部に聞いて回ろうか? 私はお前たちの学院の友達どころか、親類縁者やよく行く店まで全部調べ上げて、しょうもない嘘を吹き込んだ犯人を探し当てる。絶対に突き止める。なに、吹き込まれた話を全部真実だって思い込むほどの相手よね? だったら難しい話じゃないわ。やれないと思うなよ? そして、そんな相手はいなかったと判断すれば、お前たちはこの私に嘘をついたってことになる。学院の生活指導に対する嘘、これが何を意味するかわかるわね。私は決して処分をためらわない。これまでの多数の指導で、それは広まっていると思っていたけど。まさか、知らなかった?」


 とことん詰める。これは脅しじゃないと理解させる。

 それに職権乱用とは誰にも言わせない。当初荒れていたこの学院を立て直した実績は伊達じゃないんだ。


「……申し訳ありませんでした」

「すみません、その」

「わたしたち、そんなつもりじゃ」

「難しいことを言ったつもりはないわ。誰にその話を聞いたのか? 私はお前たちに謝って欲しいなんて、少しも思ってないわよ。で、誰?」


 謝れば許してもらえる、誤魔化せる、そんな甘ったれた考えは捨てろ。私の質問からは決して逃げられない。

 沈黙しながら互いの顔色をうかがっいていた三人は、腹をくくったのかようやく口を開いた。


「その、同じクラスの……」

「わたしは倶楽部で……」

「たまたま廊下で聞いてしまって……」

「具体的な内容は? どんな話だったのか、過不足なく答えなさい。嘘をつけばわかるわよ?」

「えっと、その……」


 三人は順に似たような話をする。買収だの脅迫だの、本当にくだらない噂でしかない。


「その噂は完全に事実無根よ。この私が断言する。で、次はお前たちが誰に嘘を広めたかよ」

「嘘って、そんな」

「言い訳はいらない。早く答えろ」


 ぽつぽつと話す名前をわざとらしくメモに書き留めた。


「わかった。特定できた生徒には、同じ話をするからそのつもりで。それにしてもすごいわね」

「なにが、ですか?」

「決まってるじゃない。お前たちは耳に入ったことの全部を、何の疑いもなく信じたわけだ。たまたま聞いた何の確証もない噂でしかない嘘を、あたかも本当のことかのように。三人で話していたわね、迷惑だなんだって。しかもそんな嘘を広めていたわけだからね。それで、どうするつもり?」


 理解できない馬鹿には丁寧に教えてやる。


「お前たちが広めることに加担した嘘によって、魔道人形倶楽部とそこに所属する生徒、そして聖エメラルダ女学院が受けた損害を、どう補填するのかって言ってんのよ。わかってないみたいだけど、被害が生じている以上、お前たちは加害者の一味よ? 学院への寄付金に影響が出てるからね」

「……え?」

「ま、待ってください」

「そんなこと、たくさん噂があって、わたしたちは別に……」

「おい、貴族の娘が甘ったれたこと抜かすな。お前たちの家にはメンツってもんがないわけ? 学院だって同じことよ。それを傷つけた責任は、お前たちみたいなガキには到底取れるもんじゃない。だから、お前たちの家に取ってもらう。この場でお前たちがちょろっと叱られれば、それで済む話じゃないのよ。どれだけ大きな話か、これでやっと理解できた?」


 顔色を真っ青に変えた生徒にだって容赦はない。


「もう一つ教えてやる。いいか、やったことは消えたりしない。なかったことにならない。お前たち三人が、しょうもない嘘八百を吹聴して回る女、あるいはしょうもない嘘に簡単に騙される女だってことは、貴族社会を駆け巡る。噂としてね。でもこれは嘘じゃなく、本当のことよ」


 やったら、やり返される。体験して学習しろ。

 まあ、人の噂も七十五日というように、くだらない噂なんてどうせすぐ誰もが忘れる。それも学習になるだろう。


「……ど、どうすれば」

「許してもらえるかって? そんな話じゃないのよ。親からは怒られるだろうし、婚約者の家からはどう見られるだろうね。でも安心しなさい。今回の件には似たような奴が大勢いるからね、お前たち三人はそうした連中の一部にすぎないわ。特段に目立つことはおそらくない。そして今後、学院生活を真っ当に送るなら、生活指導としての厳しい処分は勘弁してやる。素直に話してくれたからね。噂話が好きなんだったら、この件は積極的に広めていいわよ。ただし、嘘や誇張が混じれば……」

「しょ、承知しています!」

「理解してくれてよかったわ。ちなみにこの話をしたのは、今日だけでお前たち含めて十五人よ。なかにはかたくなに話そうとしない生徒もいたから、そういうのは普通に処分を下したわ」

「そう、なんですね」

「お前たちは貴族の娘よ。別に貴族に限った話じゃないけど、言葉には気をつけなさい。噂話だろうが何だろうがそいつに食いついて、言葉を発した時点でそれはもうお前自身の言葉になるのよ。誰から聞いたとか、みんなが言ってるとか、そんなことは関係ない。わかったら、今日は帰りなさい」


 うなだれたまま三人は出て行った。

 ちっ、まったく面倒な。仕事だからしょうがなけど、こんなつまらん話をいちいちしたくもないってのに。

 ま、嫌われ者上等の立場だ。これが仕事と割り切ろう。



 その後もルーチンワークとなっている放課後の巡回を終えると、これまたいつものように倶楽部の様子を見に行く。

 当然ながら部員たちの耳にも、くだらない噂は届いてしまっている。気にしなければいいとわかっていても、スパっと割り切るのは難しい。そういうのは慣れが必要だ。


 ただ部長と副部長が決勝大会に向けて、部員たちを集中させようと頑張っている。その心意気に応えようとする多くの部員の気持ちも伝わってくる。だから倶楽部内の雰囲気は思ったより悪くない。逆に一体感が生まれているような気までする。

 壁際の椅子に座って基礎錬の様子を見守っていると、終わり次第に集まってきた。


「調子はどう?」

「正直なところ落ち着きません。決勝大会を前に、噂などで集中を乱したくないのですが」

「変なやっかみで、噂をネタに突っかかってくるのがいますからね。逆になぜか謝ってくる人もいて、困る場面もありましたが」

「あ、それわたしもクラスであった。いきなり謝ってきて、何かと思った」

「これもまた噂ですが、イーブルバンシー先生が取り締まっているとか?」


 広まっているようで、結構結構。


「当然よ。実害のある嘘を放置なんて、学院の講師としても生活指導としても、ついでに魔道人形俱楽部の顧問としても見逃せないからね。徹底的に追及して、責任取らせるわよ。お前たちもそれなりの家の娘なんだから、言動には気をつけなさい。わかってると思うけど」

「先生の教え子ですからね」

「それより先生、連盟から何か返事はあったの?」

「まだよ、イーディス。正規のルートで無視を決め込むようなら、直接乗り込むしかないけどね。回答の期限は七日後になってるから、それまでは待つわ。まあ、あれこれ気にはなるだろうけど、気にせず毎日の練習を続けなさい。どんな噂があろうが、決勝大会で勝てば全部吹き飛ぶから」

「はい、そうですよね。わたしたち部員にできることは、それだけです」

「じゃあ練習の続きやろう!」


 それでいい。


「――こちらレイラです。また一つ拠点が判明しました。近場で時間のある人は向かってもらえますか?」


 キキョウ会専用のオープンチャンネルで垂れ流される通信内容は、先日の魔道人形戦で、我が校が不正を働いたとかどうとかの噂を積極的にばら撒く連中を叩きのめすためのものだ。


 どうやら今回は三流雑誌社の責任者宅を襲撃する話らしい。

 所詮は末端の連中だ。殺しはしないし、殴りもしない。正体不明の不審者が複数訪れ、無言で家をぶっ壊すだけだ。

 犯人を示す証拠など残らないし、被害を訴え出てもまともに取り合ってもらえない。そういう段取りがついている。これが本物の権力と癒着するということだ。


 警告などという優しさは与えず、理由を話すこともなく、徹底的に破壊する。理由など、自分の胸に聞けばいい。

 泣いて許しを請おうが、怒りをぶちまけようが、私たちは構わずにやり遂げる。


 末端じゃなければ、もう少し過激にいく。

 仕掛けてきやがった奴らの中心に近ければ近いほど、高い勉強代を支払わせる。


 そうやってどいつもこいつも捜しだし、シラミのように潰して回る。

 細かく丁寧に、一人残らず追い込む。

 それがこっちの流儀だって、心の底から理解するまで。

 どこまでも、付き合ってやる。とことんやってやる。

今回は講師として偉そうにお説教をかましていましたが、次回は学院外の敵対者をズバズバと追い込みまくります。

やればやるほど大変なことになってしまいそうではありますが、劇中ではなるべく簡単にさくっと次につなげたいと思っています。

また、活動報告を更新しましたので、そちらもチェックしてみてください!

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― 新着の感想 ―
うーんうーん……ストレスフルだなぁ 生活指導のイーブルバンシー先生としても 反社のユカリとしても最大限動いてはいるんでしょうけど どうにもこういったいい加減なデマってのは手強いですよね 面白可笑しくデ…
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