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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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公開練習という名の示威行動

 我らが聖エメラルダ女学院は、現在進行形でとんでもなく目立っている。


 まずは一回戦でのあざやかな勝利だ。

 大将機と思わしき一体の魔道人形をピカピカ光らせたあげくに、大きな音を立てる魔道具を装着して目立たせる奇策。

 そんな魔道具を使っただけでも話題になるのに、そこに加わったのが他校とは隔絶した明らかに高い実力だ。


 最大五十体で参戦できる魔道人形戦で、人形を一体も失わない完全勝利は難しい。それを易々と成し遂げたのだから、これはすごい。

 一回戦で戦った三校とはもう実力が違いすぎて、ウチの実力を測るには全然足りなかったことだろう。


 だから私たちに話を聞きたい奴らは大勢いる。

 魔道人形倶楽部関係者をはじめとして、新聞や雑誌を扱う連中もだ。

 学生競技だしいまは大会中だから、積極的な接触はないにしろ、あちこちからの熱い視線は感じるというもの。

 これに関しては王者を目指すのだから当然とも言える。鬱陶しい視線や探ろうとする思惑は、想定内だから特に問題ない。


 そして面白いのがいまの状況だ。ウチを気にする多くの連中が戸惑うのは、試合内容とは別にした試合後の奇行にある。

 常識的には自分たちの出番が終わったら、偵察のために他校の試合を見学するのが普通だ。


 ところが我が校はいきなり試合会場の周りを走り始めた。

 清楚なグレーの制服から着替え、ジャージ姿になったお嬢たちの姿も珍しく感じるだろう。

 そんなお嬢様たちが、整列した状態でランニングを始めた。それも魔法を使わなかった場合で考えると、もう全速力で走るくらいの猛スピードで。


「いち、いち、いちに!」

「そーれっ!」


 早くも一周目を走り終え、ハーマイラたちの声が近づいてくる。

 掛け声に合わせて歩調も合わさっている。いちで左足を前に出し、にで右足を前に出す。

 隊列もペースも乱さずに結構な速度で走るお嬢の集団は、それだけでかなり目立つ。一周で四キロメートル程度はある会場の周囲を爆走し、声まで出すのだから否が応でも耳目を集める。


 最初は恥ずかしそうにしていた部員たちだけど、一周走り終えるころにはもう開き直ったらしい。

 元気な掛け声を上げながら、堂々と走っていた。


 私の腹積もりとして、今日は試合に勝った上でとことん目立とうと思っている。

 試合内容で目立ち、その他の行動でも目立つ。我らが聖エメラルダ女学院が話題を独占してやる。

 魔道人形戦は大陸北部で人気のある競技だから、今大会を通じて超目立ってやるつもりだ。

 王者は陰の実力者のポジションじゃいけない。最初から我こそが王者であると高らかに謳い上げてやれ。


 一周、二周、三周、それらにかけた時間はほんの三十分程度にすぎない。

 それでも試合会場が、変な熱を帯びてきたのがわかる。

 試合の盛り上がりとは別に、場外で盛り上がることは普通はないだろう。それを巻き起こしている。


 走り終えて息を整える部員たちに、いつものように告げる。


「よし、五分休憩。それが終わったら各自魔道人形の用意。基礎錬のメニューはミルドリーが決めなさい」

「はい!」


 今日は試合当日、しかもここは試合会場だ。でもそんなことは関係ない。

 顧問の私が暇な時間を使って練習しろと言っているんだ。軽い練習をやる学校はいっぱいあるけど、がっつり基礎錬をやる学校がないってだけの話。別に変なことをしているつもりはない。


 我らが聖エメラルダ女学院が、いつものように振る舞うことによって、得られるメリットがたくさんあると見込んだ。だからやる。


 ウチにとっては普通だけど、他校にとっては尋常ならざる厳しい練習を見せつけ威圧する。

 耳目を集めることによって、人目のある状況で魔道人形を使うことに慣れさせ緊張をほぐす。

 いろいろな意味で注目を独占して目立つことにより、聖エメラルダ女学院の復活を広く印象付ける。

 注目が集まれば、もし妙な企みをする奴がいても実行が難しくなる。


 目立つということは、感情的に恥ずかしいと思う以外には案外メリットが多い。

 まあこれで負けたら恥かもしれないけどね。私たちは勝つ気しかないから、これでいい。


「じゃあ、いつもの型の練習から始めるよー!」


 ちょっとした休憩後に、号令係のミルドリー副部長が声を出しながら天幕を出た。これを受けて他の部員たちが速やかに準備して練習が始まる。


 練習試合で対戦した学校も、噂だけでウチが強いと知っている学校も、聖エメラルダ女学院の練習内容を気にせずにはいられない。

 強い学校がどんな練習をしているかってのは、誰もが気になることだから、ウチの天幕付近には自然と人だかりが増えていく。


 見ろ、ウチの連中の実力を。

 型の練習は、魔道人形に決まった動きを順次させるだけの練習だ。でもその動きが全体的にビシッと整っていて、しかも速い。おまけに繊細さまで感じる動きになっていれば、レベルの違いをまざまざと見せつけたも同然だ。


 ただ型に沿って、決まった動きをするだけ。

 それでもこれには、様々に高度なテクニックが詰まっている。だからこそ基礎錬になる。


 込める魔力の量と密度、タイミング。周囲と完璧に合わせるには、自分の魔道人形だけじゃなく他者の魔力を感じる能力も必要だ。

 魔力操作によって動く魔道人形は、そのレベルが魔法の技量に直結している。

 個人で似たようなことができても、集団としてこのレベルにあるのは間違いなく我が校だけだ。

 ある程度の能力がある他校の生徒には、ちょっと練習を見ただけでそれが理解できるだろう。


 聖エメラルダ女学院は全体的に高度な能力を誇り、穴など存在していない。

 恐れろ。ウチと試合することを想像して、無様な負けを想像して恐怖すればいい。

 本番の試合当日という状況で、我が校の練習風景を見てしまったことを後悔しろ。


 これが未来の王者だ。

 ただの練習が示威行動として機能し、精神的に威圧して他校のパフォーマンスを落とす。

 実力だけで勝てるのに、それ以外の要素でも追い込んでやる。

 容赦なく勝つというのはこういうことだ。

 敵に力を発揮させない。そもそもの地力で上回りながら、こっちだけが万全の状態で戦う。そうすれば敗北などあり得ない。


 正々堂々なんて言葉は、中途半端な奴らがほざく戯言だ。

 小細工なしで正面からやって勝つなんて当たり前。我が聖エメラルダ女学院は、どこが相手だろうが小細工なしで勝てる。でも、あえてその上を行くんだ。

 本物の王者は一切の油断を許さず、試合が始まる前から勝利の確率を少しでも高める。負けた時の言い訳を用意する必要なんてなく、やれることは全部やる。


「――あと二本いくよ!」

「はい!」


 ニ十分以上もかけて、ひととおりの型の練習が終わった。

 単に興味があって見学するだけなら、非常に面白い見世物だっただろうけど、周囲にいる他校は一応のライバルだ。一線を画すような練習は想像を絶するもので、息の詰まるような時間だっただろう。

 それが終わったと思ったら、連続してまだ二本も続ける宣言が飛び出したんだ。それも当たり前のように。


 高度な練習はそれだけで体力も魔力も消費するのに、それを長時間続けるからより異常さが際立つ。

 多くの見学者がいるなかで、平然とそれらをやってのける聖エメラルダ女学院の胆力にも驚くべきだ。

 他校の奴らとは立っているステージが違う。王者足らんとする我が校とは、実力に加えて覚悟が違うんだ。それを実感しただろう。



 そうやって時間が過ぎ、午後のいい時間になった。

 さすがに回復する時間を考慮して、練習は昼には切り上げている。

 昼食後に休憩と自由時間を与え、二回戦に備えた。


 まじめな部員たちはふらふらと出歩いたりせず、部隊ごとに集まって話している。

 他校のつまんない試合なんか観る必要ないとは言ったし、実際にそう思うけど、それなりに楽しいとは思う。自由時間なんだから、ちょっとくらい観戦しに行けばいいものを。

 自分たちの次の試合に集中しているみたいだから、別にいいけどね。もうちょっと心に余裕が欲しいところだ。


「間もなく、二回戦第一試合の開始です。出場される各校は、所定の位置に集まってください」


 待機所に設置された魔道具から、どでかい声のアナウンスが流された。

 長いこと待って、やっと出番だ。今日はこの試合が最後だから、思う存分に出し切ればいい。

 部員たちは待ってましたとばかりに、立ち上がってすぐさま準備を整える。


「先生、行ってきます」


 私からぐだぐだ言うことはない。一言だけ言って、送りだすことにした。


「出し惜しみなしで、思いっきりやってきなさい」

「わかっています。皆さん、必ず勝ちましょう」

「はい!」


 みんな気合十分らしい。やっぱり心配無用だ。

 私も安心して試合を観戦するとしよう。

 一回戦と同じように移動し、観客席にどかっと座って見守る。


「これよりベルトリーア予選二回戦、第一試合が始まります。各出場校は――」


 毎度スピーカーから流れるアナウンスによって、出場する各校の名前が順に読み上げられる。

 今回の聖エメラルダ女学院は、西の櫓を示す黄色のビブスを着用している。


 毎度のように声での紹介だけじゃなく、光魔法による巨大モニターのような映像技術も素晴らしい。あれによって生徒たちの様子や、魔道人形の動きが細かいところまでよくわかる。

 対戦する各校の説明を聞き流しながら、私は敵の魔道人形の動きを細かくチェックする。ウチの部員たちもそうしているだろう。

 三校のレベル的に、どこもウチより二段は下と評価した。これなら油断していようとも勝てる。


「お待たせいたしました。これより、二回戦第一試合を開始します――」


 試合開始を告げる光魔法が打ち上がった。


 開始と同時に聖エメラルダ女学院が取るのは、一回戦と同じ作戦だった。

 あれだけ楽に勝ち進み、二回戦の相手のレベルも高くないとわかれば、わざわざ他の手を披露してやる必要はない。


 またもや大将機が派手に光って音まで鳴らす。

 かかってこい、やれるもんならやってみろ。安い挑発みたいなもんだけど、他校を突き放す実力があれば立派な作戦として使える。しかも他校には、あれが本当に大将機かどうかはわからない。


 派手に目立ち、一回戦と同じように堂々と正面に向かって進み始める。

 ただし、さすがに一回戦と同じ展開にはならない。他校は我が校の一回戦をきちんと観戦し、対策を考えてきた。

 地力の違いを考えれば、各個撃破される未来を避けようとするのは当然で、それが表れた形だ。


 三校は事前に示し合わせたかのように、動きの連携を見せる。

 我が校の正面にある東の櫓のチームは防御を固め、北と南の櫓のチームは急ぎ東の櫓に向かって進軍する。

 盛り上がる観客たちは、これを三対一の戦いになると考えるか、入り乱れた戦いを想像したことだろう。


「甘いわね」


 実力の違いを忘れたか?

 その程度の対応策なんかじゃ、隔絶した実力差は跳ね返せない。


 なんせ速度が違う。歴然とした移動速度の差は倍以上にもなる。一回戦の時との違いは、最初からウチが本気で移動を開始したことだ。

 他校がもたもた移動する間に、我が校は猛然と東の櫓のチームに襲い掛かる。

 敵チームの大将機は位置取りと挙動から予測できるし、実力の違いが固めたはずの防御を簡単に打ち破る。

 凄まじい突破力で襲い掛かればあっけなく崩れ、食い破って敵大将機を狙い撃ちだ。


 哀れな東の櫓のチームは、最速で敗れて敗北を示す青い光魔法が空に打ち上がる。

 我が校は結果を見るや東のチームから意識を外して、今度は大胆にも二手に別れて北と南の櫓のチームに戦いを挑む。これは地力の違いがあるからこそ可能な二正面作戦だ。


 ピカピカ光る大将機を東の櫓付近に待機させ、悠々と二校と戦う。

 猛然とした速度、魔道人形に込められた魔力の密度の違いからくる攻撃の威力と硬い防御。基本的な人形操作の技量と精神的な余裕まで合わされば、人数差など表面的な数の差にすぎなくなる。


 目立ちまくる魔道人形を東の櫓に残したことも効果的だ。あれのせいで南北の櫓のチームは、どうしても意識を東の櫓のほうに持って行かれ、目の前に立つ敵に集中できていない。

 襲い掛かる手強い敵から逃げ、大将機を撃破できれば勝利できる。逃げ切れないのがわかりながらも、その誘惑がどうしても脳裏に浮かんでしまう。


 集中できていない敵など簡単だ。我が校の連中はもはや小細工など必要なく、ただ正面から次々と魔道人形を撃破する。

 ほぼ同時に北と南の櫓のチームを示す、桃色と緑色の光魔法が打ち上がり、そのあとでひと際大きな黄色の光が空に輝く。


 我が校の勝利だ。


 黄色の光が空を彩る瞬間、会場は歓声に包まれた。でも、見てみろと言いたい。

 あの聖エメラルダ女学院の面々の表情には、驚きも高揚感も見られない。まるで当然の結果を得たかのような冷静さで、次の行動に移っていく。あいつらもわかってきたじゃないか。

 たぶん、そうした姿に観客たちは今一度、真の強者の在り方を見せつけられた思いだろう。


 うん、悪くない。軽く振り返ってみても、あまりに堂々とした、単なる奇策とはいえない勝利だったと思う。

 一回戦とこの二回戦の勝利を合わせ、王者らしい戦いと勝利を見せつけられたと評価できる。



 こうして大会本の初日が終わった。

 聖エメラルダ女学院が、話題を独占する完全勝利の一日だった。

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― 新着の感想 ―
>完全勝利の一日 これに尽きますが、王者復活の意思がユカリだけじゃなく 部員一人一人にまで行き渡って共有されていますね まさしく横綱相撲!あるいは試合前の派手な大口パフォーマンスからの圧勝ですね! …
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