多忙な服飾店と探し物
オフィリアたち冒険者が合流してから間もなく、ジークルーネの元同僚も加わってくれた。
彼女の名前はオルトリンデといって、騎士団にいた時は主に斥候役として活躍したらしい。
敵情の偵察や監視、情報収集などを得意にしてる。この経歴のせいか、我がキキョウ会の情報担当であるジョセフィンとはすぐに仲良くなった。ジョセフィンも本職が入ってくれたお陰で、少しは楽ができるようになるだろう。
元エリート騎士だけあって、オルトリンデは隠密系のスキル持ちでもあった。ジョセフィンも似たようなスキルを持ってるから、能力的な相性もいい。これからもっと上手くやってくれるだろうと期待するばかりだ。
ちなみにオルトリンデはちょっとした事情から、正規メンバー以外にはお披露目してない状況になってる。ま、そのうちにって感じだ。
さて、やって参りました。お馴染みの服飾店ブリオンヴェスト。
我がキキョウ会が誇る墨色と月白の外套の作製を任せる、服飾品を作ったり仕立てをやったりする優れた工房だ。
「悪いわね、また貸切りにしてもらって」
「いえいえそんな、毎度ありがとうございます。今回は大人数がいらっしゃいますし、貸切りのほうがこちらにとっても都合がいいんですよ」
いつもの店員さんと軽く挨拶を交わす。
何日か前に大勢で押しかける相談をしたところ、今日の午後を貸切りにしてくれたんだ。
まだ外套を持ってないオフィリアや見習いたちのため、まとめて採寸してしまって、デザインも決めてもらう。
見習いたちは昇格したわけじゃないけど、正規メンバー入りも近いってことで、モチベーションを高めてもらう意図もある。
今は墨色と月白の外套をどっちも与えることにしてるから、いずれは両方所持することになる。今回、採寸するメンバーのはとりあえず一着だけ先に作ってもらう手筈だ。
その前にちょうど仕立て上がったらしい、ローザベルさんとコレットさんの分をぞれぞれが受け取ってる。
さっそく着込み始めるお茶目な二人だ。まだ先行して一着作ってもらっただけなんだけど、意外なことに墨色を先に作ったらしい。
「これまでわしらは白を基調としたローブばかり着ておったからのう。せっかく悪の組織に入ったんじゃ、黒のローブもなかなか似合っとるじゃろう?」
「むっふっふっ、どうよ!」
コレットさんまで墨色のローブを着用し、ポーズまで付けてローザベルさんと並び立った。ドヤ顔が妙に似合う。
見慣れた治癒師の白ローブよりも、こっちのほうが似合ってる気がするのは気のせいだろうか。それより悪の組織ってのはなんなのよ、もう。
二人が着てるのは外套ってよりは、形は完全にローブのそれだ。背中のキキョウ紋や内側に施された魔導糸の刺繍も完備されてるみたいで、性能も着心地もきっと満足できるはずだ。
持てる技術を惜しげもなく投入してくれた、服飾店ブリオンヴェストの店主はここにいない。最近のトーリエッタさんは、弟子が十分に育ってるのをいいことに、工房での仕事を投げっぱなしにしてるらしい。
なんでも弟子が仕事をこなせるようになった上に、経営も十分以上に潤ってる状況だ。それで仕事よりも趣味の仕立てに没頭してるんだとか。実はさっきの店員さんがぼやいてた。
ちなみに以前は報酬として渡した墨色と月白の金属糸は、提供を止めることになった。これは流通させ過ぎると予期しない問題を引き起こしてしまうかもしれないってことで、トーリエッタさんと話した結果そうなった。
その代わりには、別の金属糸を多種多量に提供することで合意してる。
トーリエッタさん個人に対しては、売り物じゃなくて趣味で作ってるだけだから、もう欲しい分だけ金属糸や金属片は渡しちゃってる。
ともかく、凄腕の店主は潤沢な資金を元手にして、様々な糸や生地、部品など金に糸目を付けずに買い漁り、興味の向くまま好き放題に色々と作ってる。
そしてその作品群から私に似合いそうって軽い感じで、どんどんプレゼントされてしまってる。
私が訓練時に使ってるリュックや戦闘用のグローブも、実はトーリエッタさんが趣味で作った作品だ。
それらの品は最初から私に向けて作ってくれた感じもあってズバリ聞いてみれば、私を見ると何故か創作意欲が搔き立てられるとか何とか……意味はよくわからない。
なんにしても、創作意欲溢れるトーリエッタさんによって小物から服から下着、さらには戦闘に使えそうな防具に至るまで、たくさんの品をもらいっぱなしで、自分で買う必要があるものなんて無くなってしまう勢いだ。
特に服と下着は多すぎて、すでに持て余す感じになってる。素材も縫製もデザインもどれも一級品だから、おいそれと捨てることもできない。サイズも私にぴったりだから、誰かにあげるのもね。困ったもんだ。
さらに言えば、その作品群は一旦は弟子に披露するから、そのクオリティの高さとオリジナリティに彼らの創作意欲も向上するらしい。店主、そして師匠としての役割はその点では果たされてるみたいだ。
たった今も専用の工房に引きこもって何かしら作ってるんだろうと思われる。
いつもの店員さんと、会計を任されてる店員さんとで今回の費用を見積ってもらい後日の精算とする。
さすがに今回は発注した量が量だから、全部の完成まではかなりの時間を要する。ブリオンヴェストの職人たちも制作スピードはかなり上がってるらしいし、人数も増えてるけど、全部できあがるのはまだまだ先になる。
必要なことだけ済ませたら、これ以上は私がいてもしょうがないし、あとは任せて退店だ。
トーリエッタさんも顔を見せないってことは、作品作りに没頭してるはずだ。挨拶くらいしたかったけど、邪魔しちゃ悪いし今はやめとこう。
同じく用の済んだはずのローザベルさんとコレットさんは、見習いたちに墨色のローブを見せびらかしながら、年甲斐もなくはしゃいでる。
うん、ほっといて私はもう行こう。
外に出て六番通りをぶらぶらと歩く。相変わらず活気のあるいいシマだ。
ここから姿は見えないけど、キキョウ会の今日の担当メンバーが近くを見回りしてるはず。
探してみようかと思いつつも、ついこの前トーリエッタさんとした話を思い出した。
「いやー、ウチで結構長いことやっててくれた弟子の一人がさ、独立したんですよ」
「へえ、いいことじゃない。でも戦力減るから、トーリエッタさんの店は大変になるか」
「まあ彼がいなくなると痛いけど、新しい弟子もたくさん入ったからね。応援してますよ」
腕のいい職人が興す新規の工房だ。景気の良い話よね。
六番通り、ひいてはエクセンブラで一番の服飾店はブリオンヴェストだと思う。でも忙しすぎて仕事をあまり引き受けてくれなくなったとは、ここらで活動する商人の弁だ。その忙しさの一番の原因は私たちだろうけどね。外套以外にもキキョウ会メンバーはあの店を贔屓にしてる。
そこでだ。ブリオンヴェストから独立した職人がはじめた服飾店ってのは、早くも大人気になってるらしい。
六番通りの端っこでやってる小さな店でも、キキョウ会のシマでの新たな店舗だ。時間あるし、様子でも見に行ってみよう。
訪ねた店は六番通りの端も端、さらに路地をちょっと入ったところにあった。
今日は休みなのか準備中の札が出てるけど、入り口が開いたままだから勝手に入ってしまう。開いてるし、挨拶くらいいいだろう。
「や、どうも」
「あっ! ユカリノーウェ様、いらしてくれたんですか!」
ちょうど店の掃除をしてたらしい。綺麗好きなのは結構なことだ。
「噂を聞いてね。評判良いらしいじゃない」
「いえ、師匠に比べたらまだまだですよ」
謙遜する評判の職人は、トーリエッタさんと同じ種族なのか、ウサ耳を生やしたおっさんだ。
うーん、ウサ耳おっさんか。この人のことはブリオンヴェストで見かけたことがあったけど、特に話したことはなかった。今までは気にしてなかったけど、面と向かうとなかなか微妙な気持ちになってしまう。まあ、これは偏見だし表には出すまい。
「近々、みかじめ取りにくるから覚悟しときなさいよ」
冗談めかして本当のことを言うと、殊勝にも了解してくれた。なんか良い奴かもしれない。
ちょっとばかり雑談を続けて話を聞いてみれば、なんと彼には早くも弟子がいるらしい。今は軌道に乗りかけた店を、その弟子と一緒に盛り立ててるんだとか。まさに今が頑張り時だ。
「今日は休み?」
「はい、今日は製作に集中するするはずだったんですが、材料の入荷が遅れているみたいで」
「ふーん、それが到着するまでは暇を持て余してるってわけか」
「そうなんです。中途半端に店を開けるわけにも行きませんし。あ、そうだ。もし良かったら、僕の店にも金属糸を提供してもらえませんか?」
そうきたか。あくまでもついでに聞いてみたって感じだけど、どうしようかな。
「墨色と月白の金属糸はダメね」
「やっぱりそうですよね……」
あからさまにがっかりした顔をされると、あれを作り出す製作者としての自尊心を刺激される。なるほど、それほどまでに私が作った金属糸が欲しいのか、なんてね。
よし、開店祝いの意味もある。成功してくれれば六番通りがより発展するんだ。チャンスをやろう。
「その二つは駄目だけど、ほかのなら相談に乗れるかもね」
「えっ、本当ですか? 言ってみるもんだなあ」
「あんまり細かい要望には応えられないと思うけどね。それで良ければ。で、この店は何をメインに売ってんの?」
「ユカリノーウェ様が持ってくる金属糸だったら、何だってありがたいです。買い取り価格も勉強させてもらいますよ」
この店はトーリエッタさんの弟子らしく、やっぱり旅人や冒険者用の服がメインらしい。ただし、男物が中心になるそうだ。
その他にはカバン制作も得意で、そっちの注文が今は多いらしい。何人かの商人から出資の話も出てるみたいで、工房や設備の拡張や弟子の増員も計画されてるんだとか。独立したばかりで凄いものだ。
私がこの店で買い物をすることはないだろうけど、頑張って欲しいわね。
「じゃ、私は行くわ。金属糸は今度、ウチのに持たせるから代金はその時に」
「ありがとうございます。お待ちしています!」
大変そうではあったけど、それよりも楽しそうだ。
特に急いで戻ることもないし、もう少しぶらぶらして行こうかな。たまには一人でこうするのも悪くない。
今は大抵、誰かと一緒に行動してるからね。一人の時間は貴重だ。
普段の見回りだと軽く見るだけで通りすぎる六番通りの端っこ、その路地のほうを今日は行く。
この辺りはお店が並ぶ雰囲気じゃなく、工房や作業場所といった感じだ。
実はブリオンヴェストのような店舗兼工房のような造りのほうが珍しい。大抵は六番通り沿いにあるのは単なる店舗で、工房は別にあるのがスタンダード。この辺りはその工房が多い場所になる。
何かの機械音や作業の音が響く中を歩いてると、小さなガレージに気を取られた。
ボロい看板をなんとなく見やってみれば、ドミニク・クルーエル製作所とある。
開けっ放しのガレージを、これまたなんとなく覗き込むと、
「あっ、これって!」
見つけた。探し物を見つけてしまった。
バイクだ。ローザベルさんとコレットさんが乗ってきたような、野暮ったいデザインのバイクが手前に停めてあったんだ。
ざっと見る限り、修理中か作ってる途中って感じのバイクだ。いずれにせよ、ここらでは初めて見る物だ。しかも奥のほうにはまだ何台もあるじゃないか。
売って欲しいというか、新たに作って欲しい。小さい頃、バイク乗りのおじさんに乗せてもらった記憶を思い出す。
あれはアメリカンとか、クルーザーとかいうスタイルのバイクだったか。あれがいい。そこにある野暮ったいのとは違って、凄く格好よかった。私はあれが欲しい。
よし、特注だ。そうしよう。
誰も見当たらないから、適当に呼んでみる。
「どうもー」
無反応だ。誰もいないのかな。
「おーい、誰かいないのー」
ちょっとだけ待って誰も出てこないようなら出直すか、と思ったところで、ドタドタ走る騒がしい音が聞こえた。
「いま行くぞーい! なんだ、お前さん誰だ?」
ガレージ奥の通路から、ガラッと引き戸を開けて登場したのは、つるっぱげ、いや、周りは生えてるわね。
とにかく、頭頂部以外の部分に白髪を生やしたご老体だった。樽のような体形は種族の特性ゆえか、単に太ってるだけか。それから色付きのゴーグルを掛けてるのが特徴的だ。魔道具っぽいわね。
まあ爺さんの見た目なんかどうでもいい。目的の物を指差しながら話してみる。
「そこの乗り物なんだけど」
「お前、あれに興味があるのか? 楽しい魔道具なんだが乗り手が少なくてな。歓迎するぞ」
ご老体は私がバイクに興味あると分かれば、ニコニコ笑顔で歓迎されてしまった。珍しい客なんだろう。
たしかにエクセンブラじゃ、バイクは全然見かけない。そもそも車だって商人が仕事用として使うのがメイン層だし、個人で所有してる庶民はきっと少数派だ。
娯楽としての乗り物という考え方自体が相当珍しいに違いない
「ここは二輪の魔道具を作ってるところでいいの?」
「そうだ。まあ商売ってよりは、道楽でやっとるようなもんだがな。どうだ、ちょっと乗ってみるか?」
「いいの?」
「裏が近隣の廃材置き場になっててな。そこなら広いし、ちょっと走るには十分だ」
まさか試乗できるとは思わなかった。せっかくだし、乗らせてもらおう。注文なんかの話はその後だ。
それにしても廃材置き場でバイクの試乗か。なんか得も言われぬワクワク感がある。
ご老体も乗るみたいで、私と一台ずつ手で押しながら裏手に向かった。
「……驚いたわね。まさかこんなに広い空間があったなんて」
案内された廃材置き場は、一目でゴミと分かる物から仮置きしてある資材のような物まで、山と積まれた場所だった。
広さは体育館くらいになるのかな。周囲を工房に囲まれて、それぞれの裏口と思しきドアが間隔をあけて並んでるらしい。
廃材置き場の外周は広くスペースが取られて、バイクを乗り回すのに支障はないし、ほかに人もいない。これなら試し乗りには十分だ。
「乗った事はあるか?」
「うーん、四輪ならあるけど二輪はないわね」
「じゃあ簡単だから真似してやってみろ」
バイクとはいえ、魔道具の一種だ。魔石から供給される魔力をエネルギーとして動く、極めてクリーンでエコロジーな乗り物だ。
操作方法も単純明快。ジープに乗り慣れた私には、特に難しいことはなかった。
ゆっくりと走り出すご老体に続いて、箱型のバイクを走らせる。
廃材置き場じゃ景色も何もあったもんじゃないけど、全身に風の流れを感じながら乗るのは思った以上に気持ちが良いし楽しい。街の外をスピード上げて走ったら、もっと気持ちいいだろう。
あ、でも車と同じようにバイクも大してスピード出ないのかも。それならちょっと残念。
廃材置き場を二周して、始動と同じようにゆっくりと停止した。
「どうだ、楽しいだろ?」
ニカッと笑いながら同意を求めるご老体からは、どこか少年のような印象を受けてしまう。
「うん、これはいいわね。ところでご老体、ちょっと相談があるんだけど」
この試乗で購入する決意を新たに固めた。
よっしゃ、特注だ!
「ご老体はやめい。ドミニク・クルーエルという立派な名前があるぞ」
「……そんじゃ、ドクね」
「あのな、妙な略し方をするな」
メカニックと言えば愛称は『ドク』で決まりだ。ちょうど略したらそうなるし。これは譲れない。
いまいち納得しないドクを適当に流して話を進める。
「ドクがこのバイクを作ってんのよね?」
「バイク? 魔導二輪のことか?」
「そう。私には理想の形のバイクがあるんだけど、その形のやつを作ってもらえない?」
「ほう? 理想の形か。面白いことを言う奴だ。ここにあるのは、魔力効率を最適化したのばかりなんだが、全然違う形か?」
「その辺の理屈は知らないわ。そうね、スケッチしてみるから、作れるかどうか見てよ」
ドクは設計用の紙束とペンを持ってきてくれて、私が描くところを興味深そうに見てる。
紙を前に過去の記憶を掘り返す。かつてバイクに乗せてくれたおじさんは、何度も自慢のバイクを見せてくれた。
たしか、名前もあったわね。えっと、戦乙女かなにかの名前だったような。なんだっけな、まあいいか。
形はここにあるシンプルな箱型とは全然違って、もっとメカメカしいデザインで、ワイルドな如何にもアメリカンって感じだった。カラーリングは黒を基調にして銀のパーツで構成されてたはずだ。
細部までは思い出せないし、こういうのは雰囲気重視だ。
どうせ魔道具のバイクなら仕組みからして違うんだから、細かいところはどうでもいい。
魔力効率ってのが、形でどう変わるのか全然想像つかないけど、まずはかつて見たあのカッコいいやつで検討してもらおう。
遠慮なく紙束を使って何度も描き直す。その度に上手くなるスケッチを見てドクが感心する。ちょっと鬱陶しい。
「上手く描くもんだな。終わったら、こっちで手直ししてやる」
時間をかけて満足できたスケッチをドクに渡すと、それを基に今度は実際の機構に合わせる形で、ささっと修正案を描いてくれた。
「これでどうだ? 装飾過剰なお前のデザインからはそういじっていないが、魔力効率は向上しているぞ」
少しだけシンプルにされてしまった。私はもっとメカメカしいのが好きなんだけど、専門家の意見は拝聴すべきだろう。
「まあいいか。魔力効率ってのは実際、どのくらい違うもんなの?」
「そうだな。この手直ししたデザインの違いだけでも、稼働時間が一割は向上すると思うぞ」
「結構変わるわね。じゃあそっちのとは?」
最適化されたとかいう、箱形のバイクを指差す。
「あれと比べれば三割以上は落ちるな。お前のスケッチは独創的で格好はいいかもしれんが、魔力効率が悪すぎる」
稼働時間の面は、三割ならまだ許容範囲かな。三割は大きいけど、魔石は交換用の物をあらかじめ用意しとけば解決できるし、私の魔力を直で注ぎ込んで補充してもいい。大きな問題にはならない。
走行中に魔力補給できる仕組みにしてもらえれば、むしろ魔石交換の手間も省けるし好都合かもしれない。
楽観的な考えをしてる間にもドクの話は続いた。
「だがな、効率重視で作るのにも飽きていたところだ。正直なところ、今以上の魔力効率を実現できなくて行き詰っていた。気分転換も兼ねて作ってやる。ただし、金はあるんだろうな? 安くはないぞ」
どうせ払えないだろうといった目で見るドクだったけど、こっちは金持ちだ。心配無用。
「いくら掛かってもいいわ。とにかく、最高の物を仕上げて」
「……お前、その上等な服からして、もしかして金持ちか?」
ここでドクが初めて私の姿を意識したようなことを言う。
「決まってるでしょ? それより細かい仕様を詰めるわよ。見た目だけじゃなくて、ほかにも要望があるわ」
「よしきた、しばらく退屈とはおさらばだな。とことんやってやるぞ!」
「ふふっ、その意気よ!」
結局、様々な機能やら仕様やらはその日だけじゃ決定できず、かなりの日数を費やして完成形を詰めていった。
私のデザインは既存のパーツが全然使えないから、その辺の作製やらなにやらで、とにかく完成まで時間を要する。
細かいわがままも無理を言って聞いてもらったし、相応の苦労をかけることになりそうだ。
たぶん、完成は季節が変わるくらい先になる見込みだ。
前金を渡して金に心配ないことが分かると、まずは試作品から作ってみるなんてドクも張り切ってる。
あー、とにかく完成が楽しみだ。