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切り札っぽく使える魔道具? 登録と審査

 微妙な練習試合があった数日後、今日は魔道具の登録を行うことになった。

 新ルールに変わった魔道人形戦には、一点のみ魔道具を試合に持ち込める。この魔道具は事前の審査を通す必要があり、審査は任意のタイミングで連盟に依頼できる。

 ただし、一度登録した魔道具は半年の間変更できないルールがあり、登録するにも本当にそれでよいか慎重さと決断力が求められる。


 倶楽部を代表して部長と副部長がいつものグレーの制服姿で外出し、私もその付き添いとして最寄りの魔道人形連盟支部にやってきた。


 聖エメラルダ女学院は目をつけられているから、どんな難癖をつけられるかわからない。

 普通なら生徒ができる事務手続きにいちいち付き添ったりしないけど、魔道具の登録は倶楽部にとっての重要事項だ。顧問として、もし言いがかりでもつけられようもんなら、それにはきっちり反撃しなければ。


 どんなに嫌われていようが、ここは納得のいく説明がない限り引くつもりはない。そのためにルールブックは熟読している。

 内心で戦うモードに入りながら、周囲を見回し建物のなかを進む。


「連盟支部って初めてきたけど、あんま人いないのね」


 大きさや雰囲気的に役所の出張所のような建屋だ。高級感は全然なく、むしろ全体的に安っぽい印象を受けた。

 連盟本部には忍び込んだことがあったけど、支部は初めて。ハーマイラたちは説明会やらで、ここには何度か訪れたことがあるらしい。


「普段から人の集まるような場所ではありませんから」

「他校の生徒もいないですね。審査を申し込むには時期が早いですし、こんなものではないですか?」


 審査のタイミング。これはそこそこ重要な要素と考えられる。

 練習試合で魔道具を使う分には審査など不要だから、たぶんどの学校もギリギリのタイミングで登録するのだろう。

 これは駆け引きの一環だ。


 どの学校が、どんな魔道具を本番の試合で使うか。これはどこの学校も気にする要素だ。一般的に重要な情報と考えられる。

 魔道具について秘密にしようと思っても、連盟に登録すれば確実にその情報は漏洩するだろう。それを見越して、聖エメラルダ女学院は最初はテキトーな魔道具を登録するつもりで今日はきた。

 ルール上、試合に持ち込み可能な魔道具はひとつきりだけど、登録自体は三つまで可能になっている。その三つのなかから、好きな物を選んで持ち込めるわけだ。


 今回、我が校が登録する魔道具は二つ。先に二つだけ登録し、ひと枠だけ残す。

 これが何を意味するか。不正に情報を入手するような連中は、必ず深読みするだろうね。


 そして聖エメラルダ女学院が使う本命の魔道具を三つ目と考えるだろう。これは練習試合でウチがどんな魔道具を使うか、情報収集に力を入れてもわからないようにしていることもある。


 登録にない魔道具を本命とみるか、この行為自体をブラフとみるか。こっちとしては、三つ目の魔道具候補をいくつも見せびらかして、覗き見する連中を惑わしてやるのもいい。その結果、一度も使わなかった魔道具を最後に登録して混乱させるのも手だ。


 どれを本命にするかなんて、実は考えるだけ無駄だと私は思う。

 最初に登録した物だろうが、ギリギリで登録した物だろうが、正式に登録される以上はどれも本命として考えなければならず、何が使われたところで対処するしかない。

 スパイ行為によって事前に情報を掴んだつもりが、それが欺瞞情報だったらどうする? 騙されたせいで不利に陥ってしまうことだってある。


 むしろ、一点のみ持ち込み可能な魔道具はそこまで大きな力を発揮しないと私は評価する。切り札のように考えられがちだけど、所詮はサポート程度の道具にすぎない。

 考えすぎるだけ無駄であり、その無駄な労力はやりたい敵にさせるだけでいい。

 二つだけ先に審査の申し込みに訪れ、時間差をつける意図はそこにある。不正に情報を取得する連中には、その無駄を強いてやる。単なる嫌がらせだ。



 人けのあまりない建物内を歩き、到着したのは簡素な部屋だ。

 客らしき人は私たち以外に誰もおらず、受付も二人しかいない。


「魔道具の審査をお願いいたします」

「では書類と魔道具をこちらに」


 事前に用意した書類と魔道具を手渡し、スムーズに進行する。さすがはハーマイラ部長だ、無駄がない。

 受付の一人が書類を確認し始め、もう一人が魔道具を持って席を外した。たぶん、別室で何らかの設備を使って審査するのだろう。その間、私たちは椅子に座って待つだけだ。


 おしゃべりする雰囲気でもないため、そのまま黙って終わるのを待つ。

 女子二人は大人しく本を開いて読み始め、私は目をつぶって少し休むことにした。


 ……ふーむ。魔道人形連盟はろくでなしばかりの印象だけど、魔道具の審査基準はよく考えられている。常識的に魔道具の審査なんて非常に難しいことのはず。


 一言で魔道具といっても千差万別であり、それこそどんな効果の物でも存在し得るだろう。

 しかし、魔道人形戦のルールでは「攻撃的魔道具の持ち込みは禁止」となっていて審査は通らない。

 では何をもって「攻撃的」と判断するか、常識的にこれは難しい判断を要求するはずだ。


 例えば火炎系の魔法を人形に直接ぶち当てるのはダメとわかりやすいけど、じゃあ火を使って道を塞ぐのはどうか?

 例えば道に穴を掘って進行速度を遅らせることが目的の魔道具だったとして、じゃあ穴に落ちて人形が破損したらどうか?

 攻撃と非攻撃の境目をどこに設ける?


 つまりは魔道具の使い方次第でどうとでもなるし、そのつもりがなくても結果的に攻撃になってしまう可能性がある。

 試合中にその是非を審判員が下すことだって難しい。観客を入れての本番では、やる前から必ず揉めることが想定できてしまう。連盟としてもそんな面倒は絶対に避けたい。

 だからこその事前審査だ。


 ところが無数の種類に分類可能な魔法を、精緻に見極め使用許可を与えることは、連盟の職員では荷が重い。というか魔法に詳しい専門家だって、人によって判断が変わると考えられる。

 そんなものをビシッとルールで定めることはできないし、誰かが判断することだってできない。


 そこでわかりやすいルールが定められている。


 まず直接攻撃の意図を強く思わせる魔道具は禁止されている。

 この判断も難しいと言えば難しいけど、例えば火球を放つ魔道具は不可となる。直接攻撃には使わないと強弁したからといって、それに納得するバカはいないわけだ。だから審査は通らない。


 次に破壊を意図する魔道具は禁止されている。

 そもそもの試合会場が、騎士団から借りた演習場を使う。演習場自体に被害を及ぼす魔道具は、それは当たり前に禁止されるわけだ。つまり枯れ木や下草を燃やすような魔道具や、穴を掘るような魔道具は審査を通らない。

 審査の時には想定できない使い方で、何かを燃やしたり穴を掘るような真似も許されない。これは魔道具に関係なく、やった行為に対して処分が下される。普通にルール違反だ。


 そして最もわかりやすいのが、魔道具に搭載可能なエネルギー源となる魔石の性能、それに上限が課せられている。

 エネルギー源が制限される以上、想定を上回る強い魔法の効果は決して出すことができない。


 非常に分かりやすい、魔道具による直接攻撃を禁止し、破壊行為も禁止される。そして出力にも制限がかかるから、あとの応用には割と自由が利くルールになっているわけだ。

 つまりは魔道具を使った間接的な攻撃はルール上問題ないけど、攻撃に使うとしてもそのこと自体が難しくなっている。

 そうするとどんな魔道具を使うか、自ずと選択の幅が狭くなる。


 考えられる人気の魔道具は、隠ぺい、索敵、移動阻害、これらの効果を発揮する物になるだろう。


「お待たせしました。聖エメラルダ女学院、二点の魔道具の審査が終わりました」

「はい、ありがとうございます」


 椅子からすっと立ち上がったハーマイラとミルドリーが、受付に行って書類を受け取った。

 ミルドリーが可愛らしく作った笑顔を私に向けることから、どうやら審査は無事に通過したらしい。

 下らないイチャモンはつけられずに済んだか。無駄なことに時間を取られなくてよかった。


「行くわよ」


 審査が済めば、こんな所に用はない。さっさと部屋から出ると、二人は慌てて付いてきた。



「まだひと枠残っていますがまずは二点、無事に審査が終わってよかったです」

「何か言われるかと、少し緊張したよね」

「別に変な仕込みをしたわけじゃなし、通って当然よ。むしろ普通の魔道具すぎて、審査の側からしたらつまんなかったんじゃない?」


 私の感想にハーマイラとミルドリーは微妙な表情をした。


「……二つ目の魔道具はつまらないかもしれませんが、一つ目のあれを普通と言ってしまっていいのかどうか」

「ね、一つ目はちょっと普通じゃないです。つまらないどころか、面白いと思いますけど。本当にアレ、使うんですか?」

「私は有効だと思ったから提案しただけよ? 採用したのはあんたたちだし、本番でどれを使うかも基本的にあんたたちが決めなさい。最初から言ってるけど、制限の多い魔道具なんか頼りにしてもしょうがないわ。はっきり言って、どうでもいいわよ」

「たしかに、わたしたちの強みはそこです。最近になって、ようやくわかってきました」

「えー、どうせ持ち込むなら、使える魔道具がいいと思うけど」


 聖エメラルダ女学院魔道人形俱楽部は、基礎錬に重きを置いている。それは他校からしてみれば、頭がおかしいと思うくらいに。

 毎日毎日、長い練習時間の半分は基礎錬に当てているくらいだ。

 そんな私たちが得意とするのは、魔力感知と魔力操作。それが優れるということは、つまり索敵と隠ぺいを魔道具に頼る必要がない。個々の部員の魔法技能で、それが可能な状況になっている。


 魔道人形戦のルールにおいて有効と思われる魔道具を、操者の魔法技能でカバーできてしまうわけだ。

 すると移動阻害系の魔道具か、その他の尖った性能の魔道具を私たちは選択することになる。


 とりあえずは今回登録した魔道具の情報が、どのくらいの速さで漏れ広まるか静観するとしよう。

 残る一点の魔道具については、それを見極めてからでいい。まだ本番までは時間があるから、これから面白い物を思いつく可能性もある。

 いよいよ下地が固まってきた我が倶楽部は強いぞ。日に日に本番が楽しみになっていく。



 車両に乗って学院に戻り、今日もまたいつものように練習だ。

 さて、近々予定されている次の練習試合では、積極的に魔道具を使ってみるのもいいだろう。情報を集める敵を惑わせやれ。


 ところがだ。

 何日も前から調整済みだった練習試合が、急なキャンセルによってなくなってしまった。

 しかもそのような連絡が数日の間に相次げばこれは普通じゃない。

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