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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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仕切り直しの倶楽部活動

「よし、挨拶はここまでよ。ハーマイラ部長、今後の予定はどうなってんの?」


 この倶楽部の仕切りは部長に任せている。特に備品の調達や他校との練習試合など、学院の外に出る用事や計画は任せっきりだ。

 当然ながら逐一の報告や相談は受けるけど、ちょうど休み明けでまだコミュニケーションが取れていないこともあり、まだ聞いていないことはあるだろう。

 ついでにほかの部員たちへの説明だって必要だ。それに知っているつもりの部員でも間違った認識をしているかもしれないし、情報共有の時間はあってしかるべき。

 ハーマイラは返事をすると、壁際に置いたカバンに走り寄って手帳を取り出した。そうしてから私の横に並んで口を開く。


「明日には詳しい予定表を配りますが、まずは今後に向けての流れを簡単に説明します――」


 予定表を配る準備までしていたとはさすがだ。淡々と告げられる予定をざっと聞き流す。

 最も大きな目標である、秋の半ばに行われる魔道人形大会。すべてはそこに向けて進んでいく。


 晩夏のいまから、大会までには二百日程度の期間がある。単純に日数だけを考えれば長いようにも思えるけど、きっと時間が進めば進むほど、足りないと思うようになるだろう。上達することに際限はなく、上を目指すってのはそういうことだ。


「――以上のように、本番に向けて予定を組んでいます。ほかにも突発的に差し込まれる練習試合などはあり得ますが、まずは十日後に行われる魔道人形連盟主催の説明会が最も大事な予定です。そこにはわたしとミルドリー副部長が出席します。ここで改めてルールの確認と、配布される魔道具の説明がなされます。おそらく作戦の見直しも必要になるでしょうから、それまでは基礎練習を入念に実施していきましょう。続けて、直近での細かな予定ですが……」


 魔道人形戦は屋内の舞台上から、屋外の広い場所での戦いに変わった。

 狭い舞台の上から、軍の演習場に変わったことにより、大きな距離や死角が生まれ、これまでのように目視できる範囲に限った魔道人形の操作ができない。そうした不都合を解消するため、魔道具の配布が以前より予定されていた。ようやく実際に使うブツが手に入るわけだ。


 ただ問題に思うのは、道具が『配布』される物ということ。


 勝手にルールを大幅変更したうえに、高価な魔道具を強制的に購入させることが無理だからこそ、配布する判断になったんだろう。

 試合に出られる魔道人形の数が倍になっただけでも、普通に考えて負担は重い。そうした点での購入補助まで、今回のルール変更ではセットになっている。

 各学校の予算の関係で、購入を強制させることが無理な以上、配布や補助は当然の措置とも言える。


 問題はそこだ。補助はともかく、無料配布というのが気に入らない。

 絶対にコストの安い道具になるに決まっている。しょぼい道具を使わされることが目に見えて、考えるだけでうんざりする。

 たぶん金持ち学校との差をつけないため、配布の道具は使用を強制されるだろうし。まあこれは諦めるしかない。


 あとは各チームで一点のみ持ち込み可能な魔道具についても、そろそろ決めたほうがいい。この持ち込み可能な魔道具は勝敗を分ける可能性を秘めた、各チームの切り札として機能するだろう非常に重要なアイテムだ。

 魔道具を絡めた戦術などの決めごとは多いし、練習内容も考える必要がある。


 それと、ほかにも懸念はある。


 問題はやはり大会の運営である魔道人形連盟だ。奴らは人気のある魔道人形関連の事業をいいように使い、利権によって私腹を肥やしている。

 私腹を肥やすことはどうでもいいけど、私は個人的に連盟職員の恨みを買った覚えがあるうえに、なにより新たに計画された利権を奪ったことが大きい。


 魔道人形連盟は軍事分野に進出を企み、それによって生まれる莫大な利益にありつこうとした。

 騎士団の一部と魔道具ギルドを巻き込んだ利権は、しかし私とベルリーザ情報部が新たな利権を提案し、承認されたことによって完全に立ち消えた。


 すべては裏で実行したことであり、表沙汰になったわけじゃない。それでも奴らにだって情報源となる人脈はそれなりにあるだろう。

 ベルリーザ情報部はともかくとして、利権に関係する魔道具ギルドや騎士団の人員は多い。私のことは必ずどこからか漏れると予測できる。

 細かいことまでは分からなくても、この私が何かしらの邪魔だてに関与したことくらいは突き止めるられるはずだ。


 これまでのことで魔道人形連盟の体質は分かってる。

 あの陰険な奴らは、ガキどもが主役のはずの魔道人形大会であっても、何かしらの嫌がらせや悪だくみを仕掛けてくるに違いない。それも含めて弾き返し、聖エメラルダ女学院は捲土重来を果たさなければならない。


 うん、改めて冷静に考えるとだ。顧問である私がガキどもの足を引っ張っている面がある……ような気がしなくもない。

 まああれだ。もしくだらない邪魔が入るようなら、それはガキどもに知られないよう排除する。うん、そうすれば問題ない。すべては闇のなかだ。


「――今後の予定については以上となっています。明日配る予定表で、細かいところは確認してください」


 考え事をしているうちに、部長の説明が済んだようだ。それから、とハーマイラが続ける。


「先ほどイーブルバンシー先生から、意識を改めて練習に取り組むよう注意がありましたが、部長のわたしからも言っておきます」


 なんだなんだ。真面目だけど普段は優しい雰囲気のハーマイラが、厳しい顔つきと口調に変えて語り始めた。


「最初に自覚しなければならないことは、現在のわたしたちは『弱い』ということです。夏休み期間に皆さんが一定の自主練をしてくれていたことは分かっていますが、それでは足りません。なぜなら、他校の生徒も同様に頑張っているからです。それに加えて他校の倶楽部は、毎日集まって練習していたこともあります。個人の練習でもチームとしての練習でも、わたしたちを上回っていたと考えるべきでしょう。強豪校は特にそうです。さらにルールが変わってからの実戦的な練習については、大きく差を付けられてしまったと考えられます」


 その通りだ。夏休み以前の練習試合で、かなりいい結果を残していたことなど忘れるべき。

 あの時とは試合のルールが完全に別物だし、この休み中にウチの俱楽部がやったのは自主練だけ。差を付けられていると自覚し、練習に取り組まなければならない。


「皆さんも何となく分かっていると思いますが、改めてはっきりと口に出しておきます。なぜ厳しい練習をするのか、その目的についてです」


 ハーマイラは一度言葉を切り、大きく息を吸ってから続ける。


「イーブルバンシー先生がいらしてからこの俱楽部は変わりました。そしてわたしは秋の大会で『ある程度よい結果が残せればそれでいい』とは考えていません。皆さんも同じだと信じています。つまり、最高の結果を望んでいます。先生のご指導とこのメンバーであれば、それを望んでも構わないのではないか、そう思っています」

「……部長、それって」

「秋の大会で、聖エメラルダ女学院魔道人形倶楽部は最高の結果、優勝を果たします。誰か、異論はありますか? その場合には正直に言ってください。気持ちが違っている状態では、大きな目標を達成することはできません」


 しんと静まった部室に、熱が渦巻くような錯覚を覚える。多くの部員どもが、えらい高望みをしたものだ。

 新しく入った部員は別にして、休み前までは非常に上手く行っていたのがこの倶楽部だ。欲を出して当然とも言える、それだけの勢いがあった。

 元は強豪だった聖エメラルダ女学院魔道人形俱楽部のOGが、こいつらの親族には多いらしい。そうした連中からの期待だってあるに違いない。


 捲土重来を目標にする私としては、最高の結果は当然ながら望むところだ。けど、部員たちが具体的にそこまで望んでいるかは定かじゃなかった。人気の競技でトップに立つことなど、簡単に達成できない。言うほど簡単じゃないんだ。


 特に長期休みを経れば意識は良くも悪くも変わり得る。他の学校が毎日のように集まって練習していたことを思えば、焦りが生じても不思議じゃない。

 言葉に出して意識を統一することにより、部長含めて一部の人間だけが焦るような歪な状況をさっさと変える。これはいいことだ。


 それでも優勝など軽々しく口にしていい目標じゃない。ただ本気でやるなら、そうする決意があるなら、それを口にする資格が生まれる。


 たぶん、この場の空気に流されたり、ハッキリと異論を唱えられなかったりする部員はいるだろう。本音じゃそこまで思ってないって。

 それでも後になって振り返った時に、結果はどうあれチャレンジして良かったと思えるようにはなるはずだ。私がそうする。そうした空気を作り上げ、染めてやる。


 はっきり言って部長がどれだけ優秀でも、集団を長期に渡ってまとめ続けるのは難しい。

 個々人のやる気の差は、練習の厳しさも相まってどこかで問題を生じさせるだろう。全員がポジティブに、ずっと努力し続ける環境をガキどもだけで作るのは厳しい。高い志に付いていけなくなる奴が必ず出る。これは人の集団であれば、もうそうなるのが当然と考えていい。


 だからこそ顧問の、大人の力が必要になる。やらねばないといった雰囲気を作り、強引にでも同じ方向を向かせる。

 表に立って嫌われる役目は、この私が進んで引き受けてやる。当然ながら嫌われるだけじゃ、生徒は誰もついてこない。だからこそ実力と尊敬が求められる。

 どんなに辛くても、付いて行けば結果を出せる。そう信じられるだけの実力、そこから生まれる尊敬を勝ち取ることが顧問として重要な要素だ。


 部長をはじめとしたこれまで一緒にやったきた部員たちから、私は十分に認められていると自負できる。


「…………誰ひとり、異論ないようですね。倶楽部としての目標が定まりました」


 大きな目標を口に出したハーマイラは、横に立つ私に顔を向ける。


「先生、いまよりも厳しい練習をご指示いただきたいです。どのような練習でもついていきます」


 その提案を拒否する選択肢などあるはずもない。


「上等。厳しい、それこそ想像を絶する練習になると覚悟しなさい。なんせ目的は優勝だってんだからね。たぶん、泣くほど辛い思いだって何度もする。辞めたいと思うことだってあるだろうね。それだけやっても、まだ足りないくらいよ。なぜなら、ほかの学校だってそれくらい熱心に練習を繰り返してきたはずよ。そいつらに勝とうとするなら、それをぶっちぎる練習をしなけりゃ勝てっこない。時間だけは平等だからね。ウチが練習してる間だって、ほかは休んじゃくれない。上を行こうってのは、簡単なことじゃないわよ?」


 すぐに返事をしようとするハーマイラを手振りで遮り、倶楽部の全員が噛んで含める時間を与える。


 厳しさを想像しろ。覚悟を固めろ。こんなはずじゃなかった、なんて後から言わせない。

 誰にでも平等な時間のなかで、少しでもほかを上回る練習量を要求する。密度と効率で差を付けなければ、優勝なんて願いは叶えられない。


 ただし、長期間集中して取り組んだ果てには、きっと苦しさよりも楽しさを見出せるようになるだろう。それが慣れるということでもある。

 人間は慣れる生き物だし、所詮は我がキキョウ会の訓練よりはずっと優しい練習でしかない。できないなんて言わせない。

 やれることは分かり切っている。誰だろうがね。気合の問題だけでしかないんだ。

 だったら、なんの問題もない。


 ハーマイラと一緒に部内全員の顔を見回し、一人残らず意識を新たにしただろうことを確認した。


「倶楽部を代表して、お願いいたします。イーブルバンシー先生、聖エメラルダ女学院魔道人形俱楽部を、勝てる倶楽部にしてください」


 勝負は時の運。どれだけ有利な条件をそろえようと、絶対に勝てる保証など得られない。少しでも勝利の確率を高められるように取り組む。やれるのはそれだけだ。

 ただ、威勢のいいことを言うのは構わない。


「任せろ。覚悟を問う時間は終わったわ。同じことは二度言わないし、聞きもしない。お前たちの気持ちとやる気には必ず応える。よし、さっそく練習よ。とりあえず初心者以外は、また型の練習をやりなさい。私からの注意としては、漠然ばくぜんやるな、漫然まんぜんとするな、ボケっとすんなってことよ。自身の魔力の出力と残量、人形に込める密度を意識し、それだけじゃなく周囲の環境や他の人形の状態まで含めて、常に魔力の感知を怠るな」


 気持ちの入れ方を一歩踏み込んだ形に変え、周囲のことまで意識する。

 この競技はチーム戦なんだ。特に指揮官役には広い視野が求められる。


「人形の操作は、頭のなかで具体的に理想を描きなさい。その理想の動きを想像しながら、少しでもそこに近づけるよう丁寧に。細かいところまで意識して、ほんの少しだって手を抜くな。さっき見てたけど、あの程度で満足してるようじゃ話にならないわ。さっきのようにミルドリー副部長が号令、シグルドノートが前に出て見本になりなさい。初心者は私のところに集合」


 意識を高く持たない練習は効率が悪い。いままで以上を目指すからには、より細かく指摘していく。


「はい!」

「ミルドリーは号令のテンポをさっきより遅くして、慣れてきたと思ったら少しずつ上げるように。シグルドノートは全体を見ながら、気になったところは随時注意を飛ばしなさい。遠慮は無用だから、嫌われても構わないくらいのつもりで。上を目指すなら、嫌うどころか感謝するはずよ」

「分かりました」


 妹ちゃんに見本をやらせておけば、まず間違いない。

 ハリエットじゃ見本にするにはレベルが高すぎるし、妹ちゃんは部員たちの人気も高く実力については、いつかああなりたいと思わせるレベルにちょうどいい。学生のしょぼいレベルを通り越したあれは、いい感じの見本になる。


「そうだ。あと毎日の体力トレーニング、これの量も増やすわよ。鍛えれば魔力の回復速度が上がるから、長期戦や連戦になった時に有利に立てるわ。部員が増えたことだし、明日は全員の体力測定をやるから、そのつもりで」

「はい!」


 反復練習を重ねる様子を観察し、部員自身では気づけない点をバンバン指摘して改善させる。常にいまよりも高度なレベルを要求し続ければ、全体のレベルが上がることは確実だ。

 長時間の反復練習は苦手を洗い出すには効果的だし、何より根性を養える。遠回りに見えて、結局は基礎を固めることが最善となる。当面はこれをひたすら繰り返し、嫌になるほど続けさせる。体力の向上も基礎の内だし、同じことだ。


 たぶん三日も経たずに飽きるだろうけど、基礎練習の意味を心から理解できた時にこそ意識が変わる。

 基礎が大事だなんて、いつだって誰かが口にしてきた言葉だ。そんなことくらい、初心者だってボンクラだって知っている。でも本当にその重要性が分かっている奴が、果たしてどれだけいるだろう。


 基礎を極めれば、あらゆる応用に手を伸ばせるというのに、極めたと豪語できるくらい真剣に、長期間に渡って基礎錬に打ち込める奴はなかなか少ない。まあ飽きるからね。

 でも本気でレベルアップしたいと思うなら、真剣に取り組まざるを得なくなるんだ。飽きるなんて感想は抱けなくなる。


 一人残らずの意識改革と基礎レベルアップ。顧問として、まずそれを期待しよう。



「先生、あたしたちはどうすれば」

「お前たち五人はこっちよ」


 初心者を引き連れて、部室の端っこのほうに誘導する。

 こいつらの実力の底上げが必要だ。あまた数だけそろえば上等と思っていたけど、さっきの話を経て考えを改めた。私が認める水準に至らない部員を試合に出すつもりはない。しょぼいレベルの部員など、聖エメラルダ女学院魔道人形倶楽部の恥さらしだ。


 横一列に整列した初心者を前に、笑顔を浮かべて優しく接する。

 経験者の部員たちに比べて、若干引き気味なのがこの初心者たちだ。こいつらに、いきなりハーマイラたちと同じ意識を持てと言っても無理がある。どこかで切り替える必要はあっても、今日はまだ初日だ。


「心配することないわ。最初は誰でも初心者よ。どんなに上手い奴だって、例外なくそこから始まる。気にすることなんて、何ひとつないわ」


 可能な限り優しい声音で、微笑みかけながら言ってやる。

 ついでに初心者どもが安心できるよう、一人ひとりの肩に優しく触れてみた。


「そ、そうですよね」

「いきなり優勝って言われて、ちょっとびっくりしました」

「試合には五十人も出られるんですよね? 人数が足りていないので、初心者でも出られるとは聞いていたのですが……」

「いまのままでは、どう考えても足手まといになりそうです」

「だ、大丈夫ですかね。わたしたち」


 よっぽど不安だったんだろう。さっきまでとは雰囲気をガラッと変えて、ニコリと優しく声をかけてやれば、あっさり本音をぶちまけた。

 そりゃまあ不安にも思うだろうね。初心者からしてみれば、優勝やら厳しい練習やら言われても、そこまで考えてなかっただろうし。

 でもさっきのあの場で物を言わなかった責任はこいつら自身にある。いまさら初心者だからどうこうなんて言い訳は通用しない。

 片足を突っ込んだ以上、このまま頭のてっぺんまで浸かってもらう。


「ふふ、大丈夫に決まってるわ。みんなが付いてるし、私だって面倒見るからね。さっきも言ったけど、最初は誰でも初心者よ。それに、初心者だっていつまでも初心者なわけじゃない。努力によって人はめきめきと上達するし、努力の方法だってこの部がきちんと示す。もしかしたら初心者のお前たちだって、あっという間にあいつらに追いついて、場合によっちゃ追い越すかもしれないわ」

「え、そこまでは」

「無理だと思う? 私は不可能じゃないと思ってる。というか、そのくらいのつもりで取り組んでもらわないと話にならないわよ。なんせ、お前たちは優勝を狙うメンバーの一員なんだからね」


 軽い物言いの奥に潜んだ、私の本気が通じたんだろう。ごくりと息をのむ初心者ども。

 一度は覚悟を問うたんだ。もう一度問うつもりはないともすでに言った。


「それに初心者ってさ、いつまでが初心者だと思う? はい、そこのお前」

「あ、あたしですか?」

「そう。いつまで初心者?」

「いつまでって言われましても……」

「初心者なんて肩書が許されるのは、長く考えても数十日がいいところね。やる気のない倶楽部だってそんなもんよ。だったら、やる気のあるウチの倶楽部はどうなる? 普通に考えて、もっと短い時間に限られるわね。そう思わない?」


 数十日と言えば、私の古い感覚として多く見積もっても三か月程度の時間がある。それはもう学校の倶楽部において、初心者だから何もできませんとは言えない時間経過だ。並の倶楽部活動ならそんなもんでも、最高を目指す聖エメラルダ女学院魔道人形は普通じゃいけない。

 そして秋の大会までは二百日くらいの期間がある。初心者を脱するには、あまりに十分な時間だ。一日だって無駄にしなければ『それなり』に成長するだろう。


 当然、こいつらは本番で戦力になってもらう。できる限り早く、戦力として成長することを誰もが望んでいる。

 秋の本番までは二百日もあるなんて、思っているなら話にならない。時間はないんだ。初心者こそ、早々に意識を切り替えたほうがいいに決まってる。


「いいか、私はお前たちのやる気と可能性を信じる。だから、初心者なんて意識を持つのはいま、この時からやめろ。すぐに引き上げてやるわ。なに、魔法技能の向上は今後の人生でも大いに役立つからね。一分一秒を惜しんで取り組みなさい。いいわね?」

「えと、その」

「返事!」

「は、はいっ」


 そうして私たち聖エメラルダ女学院魔道人形倶楽部は、新学期の初日から密度の高い練習を開始した。

 秋の本番での、最高の結果を目標にして。

部活ものが始まっています。

しかし、ご安心ください。本作はストーリーのどこかで、裏仕事や暴力パートが必ず入る仕様です。

次話「ありがたき遠征試合のお誘い」に続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >初心者ってさ、いつまでが初心者だと思う? うーん甘えを許さない良いセリフですねぇ 気を付けないとついつい「初心者だから」「慣れてないから」と 上達しない言い訳にしてしまいがちですからね…
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