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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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地下へ続く長い螺旋

 長い長いスロープを下る。道幅は広く天井も高いため閉塞感はあまりない。

 ただ、どこまで続くのか。地層を描く硬質な壁が延々と続く景色を見ていると、物凄い深さを下っている実感が伴って不安を掻き立てられる。何かがあったとして、すぐには脱出できない深さだ。


 隠れる場所はないし、数十秒毎に進むか退くかの選択を迫られるような気持ちにだってさせられる。侵入者へ常に緊張を強いる構造だ。

 階段じゃなく広い道幅のスロープだから、徒歩じゃなく車両を使った移動のほうが良かったんじゃないかと今さら思う。

 それでも罠への対応を考えれば、慎重に進んだほうがいい。

 敵に時間を与えないよう急ぐべき場面でも、焦って罠にかかればより多くの時間を無駄にする。

 魔力感知への妨害が働く環境で、何一つとっても雑な行動は禁物だ。慎重に、可能な範囲で先を急ぐ。


「かなり深いわね。地下何十メートルあんのよ」

「港の倉庫でこの深さはおかしいです。ずっと前から準備していたアジトみたいですね」


 まったくだ。単なる保管庫や隠れ家程度に使うアジトじゃない。アンデッドのことも含め、この先何が出るか分かったもんじゃない。

 他の倉庫に入ったロベルタたちのことも気になる。無事にいてくれればいいし、できればこっちに合流してほしいところだけど。


「お姉さま、また天井に魔道具です」

「ん、あれか」


 一定の距離毎に設置された不審な魔道具がある。照明や空調、消火設備系の魔道具とは明らかに違う感じだから、最初は攻撃的な魔道具かと思ったけど、たぶん監視装置の類だろう。そいつを見かけるたびに鉄球を投げてぶっ壊し続ける。あんまり意味ないかもしれないけど、やらないよりはいいだろうし、ストレスの発散にはなる。

 徐々に魔道具への警戒が薄れそうになる意識をヴァレリアとの会話で都度持ち直す。もう大丈夫だろうと思った頃合いに発動するのが罠ってもんだ。


 神経を尖らせ、耳を澄まし目を凝らす。

 ここは敵が手ぐすね引いて待ち受ける場所。決して油断は許されない。すると静まり返った通路に微かな異変を感じ取った。


「下のほうから音が聞こえるわね」

「……もしかして、向かってきていますか?」

「たぶんね」


 まだほんの小さな音で、それが何であるか判然としない。

 足を止めずに進みながら、迫りつつある音に意識を向け周辺警戒も忘れない。


「ヴァレリア、車両の走行音っぽいわよ」

「この通路で戦いを挑んでくる気ですか?」

「あるいは突破、離脱しようとしてんのかもね」

「どっちにしても叩くしかないですね」

「そういうことよ」


 スロープの移動に飽き飽きしていたところだ。歓迎してやる。

 徐々に近づく音から判断して、車両は一台だけっぽい。多人数や荷物を運ぶためか、たぶん一台でも大きな車両だろう。重量感のある音だ。

 そいつの突破を防ぐため、硬質な地層の床に意識を向け魔法行使。多重に石のトゲを生やし敷き詰め進路を妨害する。

 爆走する大型トラックだろうが、全部のトゲをなぎ倒すことは無理だ。螺旋のスロープ、しかも角度のある上りで速度はあまり出せないはずだから、これで確実に止められる。


「奴らの攻撃かもしれないからこっちに」

「はい」


 最悪のケースは爆弾を満載した車両突撃だ。もし車爆弾をこんな逃げ場のない地下道で使われたら、並みの魔法じゃ防げない。

 後のことを考えないなら、強敵の排除には非常に効率的で有効な攻撃方法でもあり、テロリストなら周辺への被害など関係なく使う常套手段でもある。その場合には、ここは地下と地上をつなぐ通路だから、ほかに脱出口があること前提の攻撃になると思う。さて、何を仕掛けてくるのやら。


 地下道にバカでかい走行音を響かせる車両が近くまでやってきた。間もなくだ。

 配置した多重のトゲをはさんで様子を見守る。

 姿を見せたのは四メートル近くはある天井ギリギリにまで届く大型トラックだ。スロープから姿を見せた時には、もうトゲにぶち当たる。


 石のトゲを勢い良く圧し折ったのも最初だけで、すぐに動きを止めた。幸いにも車爆弾じゃなかったらしい。ただ防御への意識はまだ解かない。

 運転席には……誰もいない? 自動運転じゃあるまいし、そんなバカな。

 いや、改めて考えれば車両だって魔道具の一つだ。複雑な運転ならともかく、単純なスロープを上る程度の動きが不可能とは思えない。ひょっとしたら遠隔操作の可能性だってある。だとしたら、ますます車爆弾っぽいような気がするけどね。


 存在しない運転手のことはどうでもいいとして、この車両が何なのかだ。まさか私たちをき殺すためじゃないだろう。

 魔力感知ができない環境だと、魔法のカラクリが読めないからスリリングだ。

 まさか不発弾ってことはないだろうけど、雑に投擲や魔法でトラックを攻撃して墓穴を掘りたくはない。どうしたもんか。


「……見てきます」


 数秒ほど様子を見て動きがないことから、ヴァレリアが動き出そうとした。


「待ちなさい、荷台が開くわよ」


 溜めの時間は何だったのか、大型トラックの後ろの荷台、その両横側が上部から下に倒れるように開き、荷台からのスロープを作った。

 そして荷台が開かれた直後から感じる、極めて強いアンデッドの魔力。その禍々しく強烈な力には、私たちのような強者じゃなければ怯えてすくみあがってしまうだろう威圧感とおぞましさがあった。


「ちっ、そういうことか」


 現れたのは灰色の巨人だった。ヤギのような大きな角に、悪魔のように恐ろしい形相。

 間違いない。あれは以前、ゴミ処理場で見たアンデッドだ。奴らはゆっくりとした足取りで荷台から続々と出てくる。どうやら四体もいるようだ。


「鎧を着たスケルトンが出た時点で、まだアンデッドはいると思ってたけど……まさかあれが出るとは」

「お姉さま、あれは前に話してくれたアンデッドですか?」

「たしか、ドロマリウスって種類の奴よ。普通の装備や魔法は通用しないからね、対アンデッド用の武器があって良かったわ」

「倒すと爆発するアンデッドでしたか」

「そう。それに奴の血に触れると、呪いの火に焼かれるわ。ここは私が片付けるから、ヴァレリアは下がってなさい」


 接近戦を主体にするヴァレリアとあのアンデッドは相性が悪い。ここは私が引き受けた。


 消耗云々を言ってる場合じゃなく、様子見をする場面でもない。仕掛ける。

 前回の経験も踏まえて先手必勝、床から鉄のトゲを回転させながら何十本も生やし、奴らの硬い皮膚と骨を突き破るべく先制攻撃を仕掛けた。

 鉄のトゲが灰色の巨人の体を食い破る。すると黒い血を噴き出しジュウジュウと音を立てながら、大量の煙が立ち昇り奴らの姿を見えにくくする。

 再生の煙だ。あれはどんな傷を負わせようが、謎の煙を立て再生してしまう。滅びを与える特殊な道具でなければ倒せない。


 あんなもんで片付かないことは分かってる。とりあえず動きを封じただけだ。

 そして単に動きを封じるだけじゃなく、このまま圧倒してぶっ倒す。アンデッドの側に攻撃を許すつもりはない。


 動きを封じた直後にはアーティファクトの短剣を投擲し、早々に一体の心臓に撃ち込んだ。流れるように素早く、腕にはめた魔道具から魔法の糸で短剣を回収。

 即座に二体目に対して短剣を投じ、同時にドロマリウスたちの動きを入念に封じるべく、追加でトゲの魔法を発動。次々と串刺しに処し、あれらの動きを完全に封じる。


 短剣を撃ち込まれたアンデッドが体を大きく脈動させ爆発、汚らしい血肉を撒き散らした。

 ほんの僅かな血しぶきすら浴びるわけにはいかない。攻撃の邪魔になるから盾の魔法は使わず、魔法の風を吹かせ寄せ付けない。

 あの血に触れれば、私たち生者は呪いの火に焼かれてしまう。聖水でなければ決して消すのことできない呪いの火は、もし頭部にでも浴びてしまえば切り落とすこともできずに致命的となる。あまりに危険だ。


「お姉さま、風はわたしが吹かせます」

「ん、任せるわ」


 アーティファクトの短剣を順次投擲する。続々と起きる滅びの爆発。

 圧倒して滅ぼせるのは、この私の魔法技能とアーティファクトがあるからだ。


 四体もいるあれらに対して、魔法のトゲで動きを封じなければ必ず攻撃を許すことになったはず。

 ゴミ処理場で倒した時には一匹だったし、周囲にいた研究員は捕らえる必要があったから、様子見をほとんどせずに圧倒した。その結果、ドロマリウスには何もやらせずに滅ぼしたから、あれの攻撃をこの目で確認したわけじゃない。


 ただ研究員を尋問した情報部から、ドロマリウスの詳細について報告は受けた。それを踏まえて、あれの攻撃は許すべきじゃないと分かってる。

 ドロマリウスは呪いの火を攻撃にも使う。返り血の効果だけじゃなく、通常の攻撃手段としても火の魔法に呪いを帯びるらしい。

 血と同じく、ほんの少しの火の粉がかかっただけで、どうなるか分かったもんじゃない。


 攻撃の隙など与えない。過剰なほど苛烈に攻撃を重ね、常に圧倒し続ける。

 真っ黒い血を流す化け物に鉄のトゲを執拗に食わらせ、トドメにアーティファクトの短剣をくれてやる。

 まとめて一気に倒せないことだけが難点だ。


 そして魔法で動きを封じられるなら、どんなに強力だろうが四体程度の化け物を片づけることにそう時間はかからない。

 すべてのドロマリウスを滅し、その他の仕掛けがないか感知に時間を使う。

 悪辣な敵ならあれすらおとりにして、次の攻撃を仕掛けてきたっておかしくないんだ。二段構え、三段構えの作戦なんてよくあること。


「……お姉さま、次はなさそうです」

「あれで終わり? ナメられたもんね」


 常識的に考えれば、あのアンデッド四体との戦闘は楽に終えられるもんじゃない。私たちキキョウ会が相手じゃなく、通常の戦力だったら数だけ揃えても全滅は必至だろう。それほどドロマリウスというアンデッドは強力な個体と評価できる。

 もしかしたら敵はキキョウ会が攻めにきたとは理解できていないのかもね。だったら、あれで片付いたと思ってもしょうがないのかな。


「先を急ぎますか?」

「そうね。あんなでかいトラックが走ってきたんなら、罠があるとは考えなくていいわ。さっさと行って、さっさとぶちのめすわよ」

「では先行します」


 ドロマリウス戦でほとんど出番のなかったヴァレリアが、元気いっぱいに走り出した。

 敵に時間を与えていいことなど一つもない。早く追いつこう。


 ヴァレリアが背中を向けて去ったところで、力を抜いて大きく溜息を吐いた。

 正直なところ、立て続けの魔法行使によってかなり体調が悪い。可能なら今すぐ横になりたいくらいだ。でも敵地に乗り込んでおきながら、弱った姿など見せられるはずもない。終わるまではひたすら我慢だ。


 うん、まだ戦える。辛いだけなら問題なく、気合と根性で苦痛は無視できる。

 少しだけ休んでから走り出し、妹分の後を追った。



 地下に向かって移動を再開し、どれほど下っただろうか。

 ぐるぐると螺旋を描くスロープを突っ走ってると、そう時間が経たないうちに先行したヴァレリアが戻ってきた。

 足を止めて偵察の結果を聞いた。


「……ふーむ。広い空間はいいとして、どこかに続く大通路?」

「空間の手前に見張りがいて細かくは探れていませんが、そう見えました」

「とすると、その大通路を使ってどこかに移動された可能性が大きいわね。まさか地の底に、横に伸びる地下道まであるなんて想定外よ」

「ベルリーザ側は把握できていないみたいですね」

「こんなもん見逃すなんて、情報部として痛恨のミスね。その地下道を使って、敵は自由自在にベルリーザ内を移動できるとすれば、いつどこで何が起こっても全然不思議じゃないわよ」


 非常事態と言えるほど不味いんじゃ?

 実はエクセンブラで私たちは同じようなことをしてるけど、力を持った悪党の考えることは似たような感じになるんだろうね。


「通信が繋がれば情報部に教えてやれますが……」

「これだけ地下深くだと、通信妨害がなくてもたぶん無理ね。とにかく、残った奴らをぶちのめして後を追うわよ」

「はい、見たところ敵は最低でも二人いました。それから縄で繋がれた人も何人か見えました」

「繋がれた? ああ、そういやグラデーナが人質がどうとか言ってたわね」


 ここにきて人質か。地下に残った敵と人質は、万が一にもここに侵入を果たした者に対する切り札に違いない。

 敵が二人だけしかいない保証はないけど、ヴァレリアが探った感じだと大人数がいる感じじゃない。ほかは地下道を使ってどこかに逃げたんだろうし、早く追いかけたいところだ。

 スロープでけしかけられたアンデッドは、侵入者を殲滅することが当然の目的として、最悪でも足止めの時間稼ぎが目的だったんだろう。面倒な奴らめ。


「あの程度のザコなら奇襲で倒せます。問題ないです」


 偵察に行ったヴァレリアに全然気づけなかった奴らなら、奇襲が成功する見込みは十分にある。

 見ず知らずの人質なんかどうでもいいけど、権力者や金持ちに恩を売って損はない。労せずに助けられるなら、助けてやろうじゃないか。

 しかし、悪党に貸しを作るなんて運が悪い。この貸しはとんでもない利子を乗せて必ず取り立てるからね。

やっと地の底に到着しましたが、まだ終わりではありません。

次話「ベルトリーア・アンダーグラウンド」に続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >攻撃の隙など与えない。過剰なほど苛烈に攻撃を重ね、常に圧倒し続ける。 うぉぉぉ!ヤベエー!事前にドロマリウスの情報を得て 戦闘経験が有ったからノーダメージで圧倒できたけど 何も知らずに…
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