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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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想定以上の防御陣地

 高速で飛来する六発の魔法攻撃は、私たちがいるポイント目掛けて正確に着弾する軌道だ。

 だからこそ分かりやすいし、ヴァレリアの警告のお陰で完全な不意打ちにはなってない。


 しかし常識的に考えればとんでもなく驚異的な攻撃だ。威力抜群の攻撃が六発も同時に、しかも複数方向から高速でやってくる。

 普通なら意外性なく、あっと驚く間に死ぬだろう。それほどの容赦ない苛烈果断な仕掛け。これだけで敵の脅威が分かろうってものだ。


 もちろん私たちキキョウ会を倒そうと思うなら、これくらいやらないと無理だ。

 ああ、奴らは分かってる。決してナメてはいけない相手だと判断したからこそ、ここまでの攻撃を仕掛けてきた。この期に及んでやっと我がキキョウ会を脅威と評価した。その評価は悪くはないけど、まだそれだけじゃ足りないとも教えてやる。

 ウチを常識で測れると思うなよ。誰に喧嘩売ったか、改めて認識するがいい。


 瞬間的な判断と行動。

 防御の呼びかけに合わせて、魔法を紡ぎ放つ。これをやれるのは私だけじゃない。

 ほかのみんなだって、言われる前に行動済みだ。


 防御障壁を多重展開、あるいは迎撃用の魔法を放ってる。

 大規模魔法を相手にして、とっさに放つ魔法をぶつけたところで大した効果は望めない。それでも私たちが持つ膨大な魔力を伴う魔法は出力が異常に高い。どんな魔法が相手であれ、ぶつければ多少なりとも威力を弱めることが可能だ。なんでも細かなことの積み重ねが大事になる。


 この場面で鍛えられたウチのメンバーは、各々が役割を理解し迷うことなく実行できる。

 みんなが魔法を放つ事とは別に、特別な魔道具を持ったロベルタは誰に言われるでもなくそれを起動した。

 ほぼ同時に着弾した敵の大規模魔法は、迎撃と多重障壁に阻まれながらもそれらを易々と突破、私たちを飲み込む。


 ひと固まりになった私たちを激しい振動が連続して襲い、それでもまったくの無傷で乗り切ってしまう。

 これこそロベルタが起動した魔道具、結界魔法の防御性能だ。多少なりとも威力を弱めた大規模魔法の数発程度なら、問題なく持ちこたえられる。


「反撃っ!」


 やられたらやり返す。速攻だ。

 防御から攻撃へ切り替える意識がみんな素早い。


 このまま遠くで様子見したところで、また大規模魔法を使われたらこっちの結界魔法が持たない。これっきりならいいけど、どんどこ使ってくる可能性があると思えば詰める必要がある。

 複数の拠点があるとは想定外だけど、どこか一つに取り付けば敵も同士討ちを避けるために下手な攻撃はできないと期待できる。


 犠牲にしにくい本命だろうと見込んだ倉庫を目指して全員が飛び出し、ヴァレリアが先頭を突っ走った。

 当然ながら敵だってこっちが近づくのを黙って見てるはずもない。むしろ必殺の複数大規模魔法を防ぎ切り反撃に走る私たちを、特段の脅威と思い必死になって排除に動く。

 さすがに大規模魔法の連発はできないのか、威力のかなり落ちる魔法攻撃がしかし怒涛の如く繰り出され迫りくる。この数も敵の想定人数を思えばおかしいけど、今は捨て置く。密度の高い魔法攻撃は、これはこれで脅威だ。


「散開! ここからは二人組で行動、臨機応変に!」

「おうっ」


 まとまって行動するには厳しい状況に置かれてしまった。それが敵の狙いだとすればやっぱり手強い。

 でもウチは一人ひとりが一騎当千であり、過保護に心配する必要はまったくない。敵を逃がさないって意味じゃあ、分散して全滅を目指すほうが効率的だと開き直れる。


 もはや周囲の倉庫に被害がどうのと考える余裕はないし、そんなもんは知ったこっちゃない。敵がなりふり構わず仕掛けるなら、被害など無視して早く倒すしかないんだ。

 しかし、この期に及んでも敵アジトに人の姿は見えない。隠れて攻撃とはつまんない奴らだ。


 避けながら進むだけじゃ芸がない。一発くれてやる。

 続々と撃ち込まれる魔法をアクティブ装甲で自動的に払いのけ、バットを左手に持ち替え右手には鉄球を握りしめた。

 砕けんばかりに強く握った鉄球を、軽いステップを踏みながらまずは投擲。砲弾もかくやという勢いで鉄球がすっ飛んでいく。

 敵アジトの外壁に穴くらいは開けられるだろうと思いきや、着弾と同時に淡い光が輝き鉄球をはね返した。


 まさかと嫌な予感を覚え、素早く鉄球を複数の敵アジトに向かって連続で放る。


「ちっ、どれも結界魔法か。準備が良すぎるわね」


 レーダーなど立派な設備を持つ敵アジトだ。結界魔法があっても不思議じゃないけど、複数に分かれた倉庫が全部個別に結界魔法で守られていたとは恐れ入る。

 さっきの光はウチのメンバーみんなが見たはずだから、結界魔法の守りがあることは認識しただろう。それでもみんなの取る行動は一つだ。

 バンバン殴って魔力を削り、エネルギー切れを狙う。勝つにはそれしかないんだから。


 複数もの敵アジトから繰り出される攻撃によって、次々と瓦礫の山と化していく倉庫街を移動する。

 結界魔法が厄介なのは防御力だけじゃなく、内側からの攻撃を通す点にある。無敵に近い防御を得ながら、好き放題に攻撃できるんだから反則だ。


 そして問題は結界魔法のエネルギーがどれくらい持つかだ。あれだけの要塞じみた防御陣地を作ったなら、エネルギー源とする高純度魔石だって十分な数を確保してるに違いない。ひょっとしたら破格の攻撃力を誇る私たちですら、丸一日殴ろうが突破できない可能性まである。


 下手に時間をかけて消耗するより、ここは一気に突破を図ったほうが賢明な場面だと考え直した。

 観戦者に切り札はなるべく見せたくないんだけどね、そんなこと言ってる場合じゃないらしい。

 打ち破るべきはこれ以上ない防御魔法、結界魔法だ。それも複数の倉庫を別の結界魔法が守る鉄壁の布陣。こっちもそれなりの攻撃に出なければ突破できない。


「……消耗が気になるけどやるしかないわね」


 ふと思い出した方法もあることから、たぶん上手く行く。

 出し惜しみはいらない。呪われた身でさえ、これくらいはできるって証明してやる。


「こちら紫乃上、でかいの行くわよ。ただ、避ける必要はないわ」

「――了解っ」


 心構えのために警告だけ通信で伝えた。みんなに被害を及ぼすつもりはなく、結界魔法にだけダメージを与える。

 目標となる起点は近くにある三階建て程度の高さになる倉庫、その数十メートル上空と決めた。

 イメージする形は消費への負担を軽く、また速度重視で魔法を使うため適当な塊でいい。ただ大きさだけが異常な鉄の塊。結界魔法に尋常ならざる負荷を与えるため、そして必ず打ち破るためにも、ここは全力で行く。


 膨大というにも生易しい馬鹿げた魔力を注ぎ込み、倉庫街一帯に影を落とすあまりに巨大な鉄の塊を生成。魔法を行使しながら、呪われる以前には感じなかった激しい倦怠感を覚える。無視だ。


 一瞬で形作ることはできない。徐々に、しかし高速で山となり密度と大きさを増していく。誰もが見ろ、そしてその圧倒的な質量に恐怖しろ。

 すでに付近一帯は瓦礫がれきの山だから、余計な気を使う必要だってない。楽勝だ。

 イメージを補強するため、普段はやらない魔法詠唱を口に出す。


【鉄の意志と鉄の身体をもって顕現けんげんし降臨せよ。その身、その魂に触れる全てに、鋼の鉄槌を振り下ろせ】


 高まったイメージ力に引きずられ、魔力がごっそりと無くなる。

 襲い掛かる割れるような頭痛を無視して、最後に強く意志を込め言葉を放つ。


巨岩降臨グレート・フォール


 想像もできないほどの超重量を誇る鉄の塊が完成し、自由落下を始めた。

 昼間なら暗い影を落としたはずの物体でも夜の闇に紛れ上を見なければ、その存在にはなかなか気づけないかもしれない。

 ただ、膨大な魔力をもって放たれる魔法の気配に気づかない間抜けはいない。いつの間にか敵の魔法攻撃は私たちじゃなく上空に向けて放たれ続け、しかしあまりの質量に何の意味も果たさず散っていく。


 落下する巨大な鉄の塊の下にいれば、魔法を行使した私自身でさえ恐怖を禁じ得ない。観戦者たちは生きた心地がせず、死を覚悟するか思考を放棄するだろう。

 わずか数十メートル上空からの自由落下の結果に、大した時間はかからない。三秒程度の滞空時間しかなく、結果はすぐに現れる。


 巨大すぎる鉄の塊が複数の結界魔法の上に激突し、それこそ破格のダメージを与えた。

 さすがの結界魔法と言えども何秒も耐えられず、あっさりと砕け散る。

 おそらく急にかかった激烈な負荷によって、単にエネルギー切れを起こしたんじゃなく魔道具に深刻なダメージを与えたんじゃないかと考えられる。


 役目を終えた鉄の塊は、夢か幻のように消え去ってしまう。あれを完全掌握した私にだけ可能な荒業だ。

 自画自賛して良い結果だろう。敵の結界魔法にだけダメージを与え、その他には被害なしだ。

 うん、完璧。ずっと前にも似たようなことはやってるから、激しい消耗を別にすれば特に難しいことでもなかった。


「はあっ、はあっ……」


 問題は呪いによる大魔法行使の代償だ。ある程度は予測できたけど、激しい頭痛と動機に息切れ、吐き気をこらえ回復には少しばかり時間がいる。

 それでも超複合回復薬をグイっと飲めば、失った魔力はある程度までは即座にチャージ完了。我ながら反則技と思ってしまう薬魔法の効能だ。呪いの不調は回復できなくても、我慢していれば徐々に良くなる。


 異常な魔法で結界を失った敵は攻撃の手を止めた。そこに散開したウチのメンバーが、まるで火が付いたように攻めかかる。

 戦いの最中に呆然とするなんて、精鋭らしくない凡ミスを犯すじゃないか。それは致命的だ。


 みんなは魔法を放ちながら高速で走り寄り、別々の倉庫に対して壁を破らんばかりの勢いで攻撃を加える。ただし、元より頑健な倉庫の壁だ。そこに要塞化するべく手を加えただろう壁は簡単に崩せない。

 壁の破壊は面倒と見るや早々に切り替え、メンバーみんなは素直に正面扉や裏口の破壊に動いたようだ。


「お姉さま、わたしたちはあっちに!」


 体調はまだ戻らないけど我慢できる。私の所に戻り合流したヴァレリアと一緒に、これまで本命と考えていた倉庫に向かって走り出した。

 分散行動はできれば避けたかったけど、敵を取り逃がすわけにはいかない。みんなを信じて別行動し、すべての敵を倒す。そのために速攻で片づけ、ほかの応援に向かおう。


 散発的に再開された魔法攻撃をほぼ無視して倉庫入口に取り付いた。

 丁寧な解錠なんてもちろんやらない。強引にぶっ壊して侵入するつもりだ。その時、耳元から魔力を感じ取った。


「――こちらグラデーナ、グラデーナだ。ユカリ、緊急だ」

「なによ、今からがいいところだってのに」


 水を差された気分だけどしょうがない。

 扉の破壊をヴァレリアに任せ、グラデーナの話を聞く。


「今ちょうど敵と向き合っててな、そっちのアジトの奴から伝言があるんだってよ」

「伝言?」


 別行動中のグラデーナたちは、分散した残る敵の一つの班を始末するべく追跡中だったはずだ。なぜかそいつらと会話中らしい。


「ああ、伝言だ。アジトの中に人質ひとじちがいるんだってよ。ついでにこっちも人質を取られちまった」

「人質って、誰よ」

「なんか知らねえが、お偉いさんや金持ちの関係者だってよ。あたしの前にも女の人質がいるぜ」


 へえ、なんだ。ウチの関係者ってわけじゃないらしい。

 いつ用意したのか知らないけど、人質をこのアジトにも連れ込んだようだ。情報部からそんな話は聞いてない。

 ということは、少なくとも情報部としては無視していいってことだろう。まさか知らなかったってことはないはずだ。具体的に人質に取られたことを知らなかったとしても、人質として有効そうな人物が行方不明になれば、当然ながら敵対勢力が関係したんじゃないかと考える。もし人質とやらが重要な存在なら、必ずそうした可能性の話くらいは伝えてくるはず。それがない時点で、少なくとも優先順位は低いってことだ。


 なんにしても無駄なことを。現時点では他国からやってきた傭兵にすぎない私たちに、しかも悪党に対して人質作戦なんてまったく意味がない。

 それにそんなものが有効だなんて思われたら、今後の活動にだって支障をきたす。無視以外の選択肢はあり得ない。


「まさか交渉が通じるとでも? 知ったこっちゃないわね」

「だよなあ? アホなこと抜かしやがるから、びっくりしちまったぜ。まさかあたしらに人質で交渉なんてよ」

「なにが精鋭よ、情けない奴らね。さっさと終わらせるわよ」

「そんじゃまた後でな」


 通信が切れた。この間に魔法仕掛けの強固な扉を破壊したヴァレリアが、露払いのつもりか一人で先に踏み込んだ。

 どうやらここらの倉庫の中には人質がいるみたいだけど、グラデーナに言ったようにそんなことは関係ない。私たちにとっての最優先は敵の撃滅であり、そのほかは二の次でしかない。

 ウチのメンバーは誰もがそれを分かってるし、人質を取られるケースなんか別に珍しくもなんともない。わざわざ指示しなくたって、臨機応変にいい感じにやってくれるだろう。


「さて、行くか」


 人質を取るような情けない敵でも、奴らを侮ることはしない。

 魔力感知の通らない敵アジトの中に、戦闘員がどれだけいるか定かじゃないのも不気味だ。

 船でやってきた敵の精鋭は三十名程度であり、その半分ほどがこのアジトに入ったはず。しかし、さっきの魔法攻撃は十数名程度の攻撃とは思えない数だった。

 私たちが捕捉する前から、アジトにはより多くの人員が潜伏していたんだと考えなければ。しかも敵にとって圧倒的に有利な場所に乗り込んでの戦闘だ。


「やっと面白くなってきたわね」


 脅威を楽しめないようじゃ、こんな稼業は続けられない。上等だ。

 先に入ったヴァレリアの魔力も感知できず、それによって自然と警戒心が高まる。たぶんアジトの中では通信の魔道具も上手くは機能しないだろう。

 まだ戦闘が起こってないのか、アジトの中は静かだ。


 敵精鋭の頭と目される男は、グラデーナが脅威とまで評価した難敵だ。その部下に対しては奇襲での暗殺を完璧に成功させたけど、今度はこっちが敵地に乗り込んでの戦いになる。簡単にはいかないと心得るべき。


 なんだろうね、久しぶりだ。この体の内側から広がるような緊張感。

 ガチガチに固められた敵アジトに乗り込み、脅威とまで評価できる敵と戦う。

 これが面白くないはずがない。手に握った白銀の超硬バットを思う存分叩きつけられる相手は貴重だ。呪いの不調さえなければ、もっと楽しめただろうに。まったくもって苛立たしい。


 開かれた扉からアジトに踏み込み、天井にあった監視装置らしき魔道具をとりあえず鉄球で破壊。どんなに荒らそうがぶっ壊そうが、後から文句を言われれないってのは最高だ。ストレス発散にもちょうどいい。


「ふふふ……おらぁっ! どんどこ行くわよ」


 自然と零れる笑みを自覚しながら鉄球を適当に放り投げ、入口近くに積まれた物資にはバットを叩きつけて破壊した。

 相手にとって不足はない。思う存分、暴れてやる。

※補足

魔力を乱す呪いの影響で、紫乃上は複雑で難易度の高い魔法が使えません。(例として闘身転化魔法や霧の魔法)

今話で使用した『巨岩降臨』は、ユカリにとって慣れ親しんだ鉄の生成であり、また膨大な魔力を注ぐだけでよく彼女にとっては難易度の低い魔法です。ただし、呪いの影響下では膨大な魔力の行使そのものが負担であり、軽々に何度も使えるものではありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >想定以上の防御陣地 いやぁ、タイトルに偽りなし!結構な要塞ですよね! 街の反社とは異なる他国の侵略の手先の面目躍如! 出し惜しみ無し、周辺被害もお構いなしの初手・大規模魔法6連ブッパ!…
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