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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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倶楽部顧問の自覚なき逸脱した活動

 ルネサンス様式っぽい立派な建物の正面に回り、これまた立派な扉を押し開け侵入する。

 鍵はかかってないし、門番がいるわけでもない。治安の良い街の治安の良い界隈ならこんなもんだろう。誰でもウェルカムってわけだ。


 中に入ってみれば、高い天井の広々としたエントランスが出迎える。端っこのほうにソファーが並んでる以外には特に何もなく、右手にある警備室の小窓から、こっちの様子をうかがう男が一人いるだけだ。

 眼帯の見えない横顔と清楚モードの服装からか、不審者とは思われなかったらしく男はすぐに私から視線を外した。

 深く考えたわけじゃないだろうけど正しい判断だ。もし行く手を遮ろうとしたって、私の歩みを止めることはできない。双方に無駄がないのはいいことだ。


 案内板は置いてないけど目的地はリサーチ済み。

 がらんとしたエントランスを横切り、階段を上がって魔道人形連盟本部に向かう。


 コツコツと足音を鳴らし、二階に上がったら今度は廊下を進む。

 まっすぐ歩いた先の部屋が目的地だけど、どうやら誰もいないらしい。魔力感知によれば、隣の部屋には人がいるようだけどそっちは関係ない。


「留守か、せっかくきたってのに」


 誰もいなかったことに少し落胆したものの、構わず扉まで接近する。無駄足になるのはしゃくだから、ちょいと寄って行こう。


「……罠はなし」


 専用の建物じゃないからか、鍵はかかってても攻撃的な罠までは設置されてない。無理やりこじ開けようとすれば警報が鳴るけど問題はそれくらいだ。

 ここは立派な建物でも用途は基本的に集会所や事務作業場所といった感じらしい。魔道人形連盟のような事務作業を行う組織や、金持ちが独自に立ち上げた趣味の団体がこの建物には多く集まってる。


 たぶん金目の物や極秘情報を保管するような場所じゃないから、コソ泥の類は想定せず警備が緩いんだろう。セキュリティとしては入口の警備員と各部屋の扉の鍵、それに加えて鍵付きの棚や金庫があれば十分。非営利団体の書類を盗もうなんて考える奴は少ないだろうし、もしやろうと思っても通常の警備があれば諦めるのが普通だ。


「魔力認証キーは…………見たことないやつね。へえ、もしかして最新式?」


 分かりやすい金目の物がなく、そんじょそこらの泥棒程度じゃ開けられないドアがあるなら、そりゃ警備も緩くなる。


 この扉には微量の魔力が循環し、登録した波形の魔力が流れ込むと扉が開く仕組みっぽい。循環する綺麗な魔力の流れから察するに、登録魔力波形はシビアに判定するんだと思われる。

 とはいえ、答えとなる魔力の波形が分かってしまえば、私ほどの魔力操作の腕があれば突破は簡単だ。


「登録された魔力はどれかなっと……」


 答えの一覧を盗み見れば、どうということはない。魔力感知でそれらしい痕跡を探る。

 時間がない状況ならともかく、今は周囲に誰もいないし余裕だ。隣の部屋の人物が廊下に出てくるなら、その気配はすぐに分かる。


「…………なにこれ、変換されてる?」


 二分程度も時間をかけてそれっぽいものは見つけたけど、どうにも人間の魔力パターンからは考えにくい波形になってる。これをそのまま真似しても解錠できるか微妙なところだし、変換パターンが謎のまま私の魔力を強引に登録しても意味はない。何の予備知識もなしに、正規の登録方法を探すのも厳しそうだ。

 さすがは最新式と思うべきか、ちょっと予想外に高度な鍵じゃないか。


 普通は正解が分からない場合には、強力な魔力を一気に流し込んで仕掛けを破壊するか、強引な魔力操作で解錠してしまう荒業もある。あるいは超微量の魔力を流し込み、少しずつ正解の波形を探る方法なら、面倒だけど時間をかければ突破可能かもしれない。

 この最新式の認証キーにそれが通用するかといえば、今のところ判然としない。まずは魔力の波形を変換するパターンを探らないと、警報を鳴らさずに突破することは無理かもね。


 時間さえかければいけるかもと思いつつ、しかしスマートに開ける場合にはいずれにしても繊細な魔力操作が要求される。

 呪いのせいで乱れた魔力を制御しながらの作業、しかも初めて見る最新式に対してぶっつけ本番はいくらなんでも厳しいチャレンジだ。


「ちっ……かといって壊すのもね」


 破壊する場合には警報も合わせて無力化しなといけないし、侵入の痕跡を残すことになる。

 私の目的は情報だ。物理的に何かを盗むわけじゃないから、ベストは侵入したことを悟られないこと。


 この魔力認証キーの突破は、訓練にはもってこいの難易度だと思える。チャレンジしてみたいけど、警報を鳴らして騒ぎになるのは困る。家探しには十分な時間を確保したい。


「しょうがない。邪道だけど、バレないことが大事だからね」


 最新式の魔力認証キーに守られた扉を突破することは難しい。でも部屋に侵入すること自体は造作もない。

 警報装置が扉と窓にしかないとなれば、それ以外から侵入すればいいだけだ。


 扉横の石壁に魔力を浸透させ完全掌握。壁に穴を開けて無事に侵入を果たした。

 開けるだけじゃなく、塞ぐことも完璧にできる。我ながら身も蓋もない侵入方法で、やられるほうからすればたまったものじゃないだろう。

 あとは下手に物を動かさなければバレやしない。


「さてと、どこから手を付けたもんか」


 部屋はそれなりに広い。窓際を除く壁には大きな書類棚がいくつも並び、それらをびっしりと埋めるほどファイルが収まってる。とてもじゃないけど全部を見るのは無理だ。

 ざっとガラス戸の閉まった棚を見るに、大会関係の書類や連盟に加盟する学校の情報、取引関係の書類や決算書など、過去から続く多種多様で膨大な書類があるようだ。いかにも事務所といった印象を受ける。


 とりあえず欲しい情報は、演習場を借りるために騎士団の窓口が知りたい。

 騎士団と言ったって、親切に総合的な窓口なんてものはない。見当はずれの部署に問い合わせたって無視されて終わりだからね。正しい問い合わせ先さえ分かれば、もし無視されても伝手を使って動かすことは可能かもしれない。

 それと魔道人形戦で騎士団所有の演習場を使うことになった経緯も分かるとなお良い。


 ざっと棚を見ただけじゃ、それっぽい場所は分からなかった。

 やっぱり部外者がパッと見ただけじゃ、どこに何があるかなんて分かりっこない。これは苦戦しそうだ。だから普通に正面から訪ねたってのに。まあ夏の長期休みで留守じゃしょうがない。

 ただ、ボケっと関係者が戻るのを待つ時間は無駄だし、戻っても教えてくれる保証はない。やっぱり自分で探すしかないわね。



「――うーむ、こいつは厳しい」


 二十分ほども時間をかけて棚を探したのに、どうにも無さそうに思える。

 過去の資料はどうでもいいとして、直近で作ったはずの資料なら簡単に見つかると思ったのに。

 書類棚は諦めて、ほかを探してみよう。


 棚以外に気になるのは十以上もある机の引き出し、それと金庫だ。奥まった場所の机の裏には古い型の大きな金庫がある。

 見られちゃまずい資料があるとすれば、鍵のかかった机の引き出しか金庫の中だろう。

 ついでに後ろ暗いところがあるなら、そいつも暴いてやろうと思ってたことから、今度は怪しいポイントに目星をつけて漁ることにした。


 本命の金庫の前に、まずは机だ。配置を見れば立場が上の奴の机の場所は大体分かる。

 簡単な物理キーを普通に手先の解錠技術でもって開けてしまう。出入り口の扉は高度な魔力認証キーだったけど、中に入ってしまえばこんなもんだ。


「どれどれ……んーむ、大したもんないわね」


 事務用品を中心に、書籍や私物と思わしき小物くらいしか入ってない。

 気になったのはメモ帳くらいだけど、パラパラと見ただけじゃ重要な情報がありそうには思えなかった。凄腕の捜査官だったり、ウチの情報局メンバーだったりしたら、さりげないメモ書きから特ダネを掴むのかもしれないけどね。私には無理だ。


 いくつか当たりをつけた机が外れだったことから、残された金庫に期待するしかない。

 古い型だけあって、金庫の魔力認証キーは余裕で解除可能なものだった。若干気を良くしながら金庫の戸を開く。

 大きな金庫の中身は、まるで書類棚のように紙の資料でびっしりだ。全部見るのは面倒だけど、ここは面倒がらずにじっくり見るとしよう。

 資料の配置を乱さないよう、端から丁寧に抜き出した。


「決算書? あっちの棚にもあったわね」


 完全に同じ書類が二つあって、片方を金庫に入れるとは考えにくい。これはあれだ、裏帳簿に違いない。

 この程度は予測済みだから全然驚くことじゃないし、悪事を暴いて弱みを握るにしても裏帳簿単体だけじゃ証拠にするには弱い。今回はあくまでも隠密に情報を探りにきただけだから、資料を持ち出すつもりも今のところはない。


 それに悪党ってのは、しらばっくれるのが得意中の得意だ。証拠に基づいて追い込むなら、隙のない証拠固めが必要になる。そんな面倒な真似、とてもやる気にはならない。

 脅す側にとって、もっと楽で価値のある資料があればいいんだけどね。さすがにそこまでは期待できないか。


「――ちっ、カネのことしかないじゃない」


 不当に儲けたカネがどれくらいになるのかは、裏帳簿と表の帳簿を比べれば分かるだろう。でも儲けたカネの流れが分かんないんじゃ、脅しには使えない。

 待てよ。これらの資料を作った奴らが保身のため、いつどこの誰にどうやって、いくら渡したのか、そうした記録も合わせて保管してるかもしれない。順番に資料を見ていけば出てくるかもね。


 あれ……いやいや、そんな事を暴きにきたんじゃない。

 本来の目的に立ち返ろう。私の目的は演習場を借りるため、その交渉先が知りたいだけだ。変に恨みを買っても面倒だから、金銭がらみの資料はスルーでいい。

 ただ、もし騎士団にカネが流れたとするなら、魔道人形戦のルール変更は騎士団がらみの可能性が浮上する。そこだけは気にして調べるのもありかな。


 色々気になることはあっても、余計なことばかりに気を取られてはしょうがない。

 探す過程で、ついでに魔道人形戦の大幅なルール変更の経緯くらいは、どこかに記録があれば知りたいけどね。



 そうして資料確認に没頭することしばらく。

 長年続く裏金作りの帳簿はたくさんあっても、目的の情報がみつからない。

 騎士団やら演習場やら、ルール変更に関する議事録みたいなものも全然ない!


「まさか最初から作ってない、なんてことはないはず……」


 裏帳簿まできっちり残す連中だ。その他の怪しいやり取りだって、資料にまとめて保管してるんじゃないかと想像できる。

 当然ながら、演習場の手配先くらいは簡単に分かると思ったのに。


 抜き取った最後の資料を金庫に戻しながら、どこか別の場所だろうかと考え直す。

 机にはなさそうと思えば、やっぱり書類棚のどこかに紛れてるんだろうか。あるいは家に保管してたり、どっか別の場所に保管してるとか。もしそうなら誰かに聞かないと、これ以上探しても無駄になる。


 しかし、ここまできて成果なしで帰るのはやっぱりしゃくだ。

 金庫を閉め、どうしたもんかと思ってると、人けのない廊下を進む二人の気配を感じ取った。


「この部屋に用事じゃないわよね」


 近づく人物が途中の部屋に立ち寄ってくれればいいんだけどね、この部屋が目的ならちょっと困ったことになる。

 廊下に出れば鉢合わせるし、警報装置を切らないと窓からは逃げ出せない。隣の部屋には人がいるし、壁を崩して外に逃げても誰かに見られたらアウトだ。床には絨毯が敷かれてる。残すは上の階に逃げるくらいだけど、上の部屋にも絨毯は敷かれてるだろう。


 怪しい痕跡を残さず去りたいと思ってるのに、不審な姿を見られたり、絨毯を破いたりするわけにはいかない。

 考えてるうちに何者かはどんどんこの部屋に近づいてる。

 隣の部屋に行ってくれ、と思う願いなど聞き届けられるはずもなく。謎の二人は魔道人形連盟本部の扉の前に立ち止まった。


「殴り倒すのもリスキーね。しょうがない、隠れる場所は……」


 不意打ちで倒す自信はあっても、二人も倒せば絶対に後から騒ぎになる。ガスで眠らせても同様だろう。

 一人なら誤魔化しは利いたかもしれないってのに。それにもし顔を見られたら不味いことになる。今日はスカルマスク持ってきてないし……。

 聖エメラルダ女学院の講師が、魔道人形連盟本部に無断で侵入なんてことがバレたら大会への出場が危うくなる。かといって、口封じに始末するのはさすがに度が過ぎる。


 どうにかして切り抜けるしかない。

 しかし部屋の中をパッと見て隠れられる場所などない。


「ちっ、参ったわね」


 扉の魔力認証キーが解除される直前に、手首の魔道具を起動する。透明の糸を上に向けて射出し、それを頼みに天井に張り付いた。

 無駄に高級感ある高い天井だ。入ってきた奴らの頭上をキープすれば、ちょっと不安だけどたぶんバレない。

 もしバレたら……その時はその時だ。

特に悪事を働くつもりはなかったはずですが、一切の躊躇なくナチュラルに泥棒みたいな行動に走っている主人公です。そして見つかったらどうしよう、などどいった緊張感は皆無です。

何が悪いと開き直れる精神性と、切り抜けられる実力があるため非常に傲慢ですね。

いつか痛い目に遭うのが相場ですが、彼女はすでに強力な呪いにかかっていますので、実は痛い目には現在進行形で遭っています!

しかし、まったく懲りません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん!最新式の魔力認証キー V.S. ユカリ!良いですね! ミッション:インポッシブルのテーマが聞こえましたw こういった魔力錠や警報装置をかいくぐるのは ユカリのオハコのはずですが珍し…
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