表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/464

増えすぎたかも

 救出活動後にキキョウ会本部へ帰還すると、留守番の少女愚連隊一同が待ちきれないといった感じで出迎えた。

 助け出した少女たちは大部屋に運んで寝かせ、心配そうな仲間たちも同じ部屋で休ませる。もし不意に目覚めても、彼女たちでどうにかするだろう。むしろメンタルケアを私たちに頼られても困る。

 時間も遅いからさっさと寝ろと部屋に押し込め、私たちもシャワーを浴びて眠る。朝になれば通常営業の見回りをしないといけない。


 翌朝になって起きたら、まずは説明会だ。

 昨夜はすでに眠ってた見習いたちもいるから、少女愚連隊のことを知らないのもいる。教えといてあげないと訳の分からない奴らがいる状況になってしまう。

 見習いは今日も訓練漬けだから関わることはないと思うけど、知らない顔が本部の中にあれば不安に思うかもしれない。一応の配慮だ。


 そして少女愚連隊には今日中に、今後のことを決めさせる。だらだらと長居させるつもりはない。グレイリースと一緒にウチに入るか、元のスラムに戻るか。好きにすればいい。

 あとは偶然、一緒に助け出した娘たちをどうするかだ。あいつらはまだ眠ってるみたいだから、起きたら事情を訊いてみないといけない。今日はソフィには外での研修は休ませて、本部で彼女たちの面倒を見てもらうことにした。


 私は昼までは執務机で薬魔法の実験を繰り返すつもりだ。待機中は暇だし、机上の実験でも魔法訓練として得るものは多い。

 地下訓練場ではポーラが見習いの訓練を監督し、上の階ではソフィが身元不明の女の子たちの様子を見てる。グレイリースと少女愚連隊は、朝食も食べずに話し合いを続けてるらしい。


 みんなにあれこれを任せて、魔法実験に集中した。


「――ふう、そろそろ昼か」


 没頭からふと顔を上げれば、もういい時間だ。

 ポーラたちは食堂に移動する頃だろうかなんて考えてると、上から誰か下りてきた。

 ソフィと懐かしの収容所の制服を着た三人だ。どうやら昨日助けた女の子には、収容所時代の余りを着せてやったらしい。そういや使ってない服や下着がたくさんあった。とっとけば意外と役に立つもんだ。


「ユカリさん、お待たせしました」

「大丈夫よ。それで事情のほうは聞けた?」


 三人は少女愚連隊に属する娘じゃない。家が分かれば送って行くくらいはしてやるつもりだ。


「ええ、簡単にですが。三人とも最近エクセンブラにやってきて、そのままスラムに居着いたところだったそうです。身寄りも帰る場所もないのだとか」


 先の戦争の影響ね。そういう身の上の奴は山ほどいるだろう。


「なるほど。ウチで面倒見てもいいけど、特別待遇はできないわよ。なんにしても、ウチに入るなら鍛えないと危ないしね。ソフィからその辺りの説明してくれる? 聞いた上で拒否するならそれも自由よ」


 私はボランティア活動に興味ない。助けてやるのは昨日までで十分以上なはずだ。冷たいようだけど、ウチに属さない居候いそうろうを置いといてやる気はない。


「ほかの見習いの皆さんと同じ条件ですね」

「うん。訓練期間後にどの担当になるかは本人の意向をなるべく尊重するけどね。とりあえずお腹も空いただろうし、食堂に行くかどっかで食べながら話してきたら?」

「ではそうしますね。さ、行きましょう」


 ソフィは女の子たちをうながして外に出かけていった。

 暗い顔の三人から一応の礼らしきものを言われたけど、まだ半分呆けたような感じでショックからは抜け出すには時間がかかりそうに思えた。もしウチに入るつもりなら、気合を入れさないといけない。ボケっとしてたんじゃ訓練にならない。


 出かけたソフィたちを見送ってから、机の上を片付けたり顔を洗ったりしてると昼もだいぶ過ぎてしまった。


「……まだ誰も戻らないか。ポーラたちはいつの間にか食べに出ちゃったかな。だったら私も食堂に行ってみるか」


 立ち上がって外套を羽織ったタイミングで、今度は少女愚連隊が下りてきた。魔法実験に夢中になってて忘れてたけど、そういやまだいたんだった。


「グレイリース、話し合いは終わった? それとも休憩?」

「あ、終わったところです。お待たせしてすいません。あの、お昼ですか? 一緒に行ってもいいですかね」

「いいわよ。あんたたち朝も食べてないしね。話は食べながら聞かせて」


 様子を見る限り、色よい返事が返ってきそうな気がした。


 食堂に移動すると勢いよく食べまくる少女愚連隊だ。健啖家けんたんかの私も驚く勢いに、おばちゃんはてんてこ舞いでも嬉しそうに給仕してる。

 昨日、助けた女の子たちも表面上は普通に振舞って、みんなと一緒に食べまくってる。空元気でも元気は元気だ。ひとまず安心しても良さそうに思えた。


「ユカリさん、まずはお礼を」

「それはもういいわ。昨日も聞いたし。それで、どうすんの?」

「はい、あたしと一緒にキキョウ会に入るってことになりました」


 まあ、そうなるだろうね。リーダーのグレイリースがウチに入るわけだし、スラムに戻ったってろくな未来なんか望めない。そこから抜け出すチャンスだって、そうそう転がってるわけじゃないんだ。


「それは良かった。あんたたちはキキョウ会の見習いってことになるけど、ほかにも見習いはたくさんいるわ。今夜まとめて紹介するから、その時に顔合わせするわよ。ああ、そうだ。歓迎会するなら食堂は貸し切りにしよう。おばちゃん!」

「はいよ!」


 追加のスープを持ってきたおばちゃんを近くに呼んで、今夜は貸し切りにできるか確認してみた。


「もちろんいいさ。一番のお得意さんだからね! 新入りのお嬢ちゃんたちかい? ユカリちゃんたちも、かなり大人数になったもんだねえ」


 ホントにそう思う。グレイリースたちを合わせると見習いだけで四十人くらいも抱えたことになるんだ。


「まだ頭数が増えただけよ、成長してもらわないとね。今夜は全員で一緒にくるわ。人数も多いし、先に料金は払っとくわね」

「毎度あり!」


 キキョウ会本部に戻ってみれば、どこに行ってたのかソフィたちはすでに戻ってて、さっそくほかのメンバーからの質問タイムに突入してるらしい。そうなるんじゃないかと思ってたけど、三人娘もウチの見習いになるようだ。

 この娘たちについてはちょっと部屋割りに悩んだけど、三人のほうから少女愚連隊と同じ大部屋にして欲しいと申し出あった。今は賑やかなほうが気が紛れていいと思ったんだとか。

 まあ同期の見習い同士仲良くやってくれたらいい。それに余計なことを考える暇もないほど、訓練でとことんしごいてやる。



 夜になって、見回り組と学習組が戻れば全員で食堂に移動だ。

 見習い同士は初対面も多いから、最初にざっとまとめて紹介してしまって、あとは個人個人で勝手に歓談してもらう。

 最初はどこか遠慮がちで大人しい様子の見習いたちだけど、一応は会長の私やグラデーナたち強面こわもてが同席してる状況だ。いきなりはっちゃけることは、なかなかできないだろう。


 でも、だんだんと酔っ払ってくると気が大きくなるのか、時間が経てば騒いだ挙句に喧嘩をおっぱじめるのが出始めた。

 私としてはコミュニケーションの一環として、やりすぎない限り別に止めはしないけど、食堂に迷惑はかけたくないし鬱陶しいから外には摘み出す。外でなら思う存分暴れるがいい。


「ふう、元気がありすぎるのも困ったもんね」

「なに言ってんだ。収容所の頃はユカリだって良くやってたじゃねえか」

「あの頃からお姉さまは素敵でした」


 言われてみれば。喧嘩なんてまさに日常茶飯事、良くやってたもんよね。なんだか懐かしい。


「それにしても大所帯になったな」

「ひよっこばかりで、使い物にはならないけどな」

「とりあえずの人数はこれで揃ったし、訓練は本格的に始めるか」

「基礎訓練はできるだけ早く完了させてしまいたいですね。その後には戦闘訓練だってありますし」


 まだまだ予断は許さないけど、頭数は揃って人数的には当面は足りる。あとはキキョウ会の一員として育ってもらわなければ。でも焦っちゃダメだ。ゆっくりと育てていこう。


「そうね。明日は私が訓練に立ち会うわ。グレイリースたちも加わるし、いい機会だから気合い入れなおしてやるわ」

「おー、鬼教官の登場だぜ」


 鬼教官でも鬼軍曹でも結構。命かかってるからね、手は抜けない。


「はっきり言って、まだウチを舐めてるのもいるだろうからね。最初が肝心だから、ビシッと締めるわよ。ちょっと考えがあるから、明日の訓練はソフィも付き合って」

「わたしですか?」


 戦闘班じゃないソフィは不思議そうに自分を指差した。


「キキョウ会がどんなところなのか思い知らせるには、ソフィが適任なんじゃないかと思ってね」

「たしかにな。あたしらが軽くひねってやるより、よっぽど効果があるかもしれねえ」


 キキョウ会はソフィたち戦闘班じゃないメンバーも、日々の訓練を怠ることはない。

 戦闘班以外の訓練は護身術に特化してるから、近距離での対人戦は一般的なレベルから見てかなり強い。身体強化魔法のレベルだって見習いたちとは比べるべくもない。


「それにしても見習いが使い物になるまでは、かなり時間がかかるだろ? メアリーみたいに急激に強くなるとは思えねえし、人手不足は当分続きそうだな」

「訓練で妥協はできないから、どうしても時間はかかるわね。だけど、人手はちょっとだけ補充できるかもしれないわ」


 まだ見込みとも言えない、希望的観測でしかないけど。


「当てがあるんですか?」

「手紙の返事がもう少ししたら届くと思うのよね。私とジークルーネが出したやつ」


 ジークルーネがうなずき、みんなも期待を寄せる。


「向こうの都合もあるだろうし、ウチに加わってくれるとは限らないけどね。もし加わってくれるなら即戦力よ」


 傭兵のゼノビアは戦力的に大きなプラスになってくれること間違いなしだ。オフィリアたち冒険者や、ジークルーネの知り合いの元青騎士も即戦力になる。

 王都で娼婦の元締めをやってたカロリーヌは、エクセンブラの色街に手を出すプランに持ってこいの人物でもある。


 みんなキキョウ会に入ってくれるなら助かるし、ありがたい。うーん、やっぱり期待してしまうわね。


「まあ、少数でもいい返事を寄こしてくれたら御の字だわな」

「ゼノビアたちか。久しぶりだな」

「元青騎士の方も楽しみですね。やっぱりジークルーネさんのような感じなんでしょうか」

「強い奴はいつでも歓迎だぜ」


 私としては強さはもちろんだけど、それ以外に一芸に秀でたのが色々集まれば面白いと思ってる。

 花魔法なんてユニークな魔法が使えるリリィなんてその典型だ。見習いは人数も多いし、全員を詳細に把握してるわけじゃないから、何か面白い能力を持ってるのがすでにいるかもしれない。その辺も楽しみにしとこう。


 今日は大所帯になったキキョウ会が一堂に介して、飲んで食べて大いに楽しんだ。

 また明日から頑張ろう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ