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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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不明なことを恐れない強さ

 自分たちの状況が振り出し近くに戻ったとして、変化した状況は当然ながら存在する。そして変化は続いてもいる。

 ざっくりと単純に考えれば、今回の騒動はベルリーザとその敵の争いだ。内実は色々あって単純に二極化はできないけど、特に裏切り者や足を引っ張る奴らは非常に迷惑で、勝利のためには足元を固めることは必須になる。


 図らずも私たちキキョウ会は絶賛、争いに巻き込まれてる。

 しかも利権争いの影響でベルリーザ内部の勢力に狙われ、国外の勢力にだって普通に敵として狙われてるっぽい。まったく、人気者の宿命とはいえ面倒なことだ。


 誰がどの勢力で何を考えてるかなんて知ったこっちゃないけど、少なくともウチと直接やり合って負けた奴らは大変なことになってるに違いない。もっとも大変なのは腐敗貴族だろう。同情の余地のない自業自得だけどね。

 そんな奴らには悪者退治で有名な悪姫あっきの追い込みがかかり、ベルリーザ国内は粛清と浄化が進む見込みだ。最後の追い込みをかけるまでもなく、勝手に自滅する奴らだっているだろう。どんどん追い込まれればいい。


 ところが随時確認する状況を見るに、悪姫ちゃんに託された腐敗貴族退治はまだ証拠固めや裏取引があるのか実行されてないらしい。それでも何かしら進んではいるはず。

 そうした状況でグラデーナが滞在してるホテルに手紙が届けられた。退治される運命の腐敗貴族の一人から。


「具体的にはなんて書いてあんの?」

「これだ」


 放課後ちょうど外にいたことから、あえて詳細は聞かずに学院近くのホテルを訪れた。

 グラデーナの態度から内容を予想しつつ、渡された手紙に目を通す。そして呆れ果てた。


「……今さら詫びって言われてもね」

「おう、まさに今さらなんだって話だな。ふざけた奴らだ、悪姫が手を下す前にあたしらで潰しちまうか?」


 バドゥー・ロットを支援したと目される貴族の一人だ。裏仕事に特化したあの組織が潰されれば、当然ながら支援した奴らは多大なプレッシャーを感じたことだろう。


 ベルリーザ情報部はバドゥー・ロットを捕らえたことを広めてはいないっぽいけど、よっぽどのボンクラじゃなければ己の周囲の状況くらいは常に気にするはずだ。特に後ろ暗いところのある奴なら、必ず危険な組織のことは常に気にかける。

 そして私たちキキョウ会がバドゥー・ロットと戦い、普通に生き残ってることを知れば、なんとなくの予想も立つというもの。闘争の中でいくつかの貴族が潰されたことくらい知ってもいるだろうし。


 何がどうなったか、詳細を知るすべがなくたって想像はできる。

 まさか自分に累が及ばないなんて考える能天気な奴はいない。それぞれがそれぞれの方法で、必死に保身を図ってるはずだ。


 手紙の主は情報部や悪姫の手が伸びてるとまでは知らなくても、我がキキョウ会がいつ攻めてくるかには恐れを抱いてるってことだろう。それゆえの詫び。

 メデク・レギサーモ帝国との一件があってからというもの、ウチの悪名だってそこそこ知られるようになってるんだ。


「そういやクレアドス伯爵だっけか? 奴がこのホテルで襲われた時、ユカリが助けてやったことがあっただろ」

「あったわね。それが?」

「どうやらその伯爵がウチの噂を広めてるらしいぜ。傭兵ギルドで聞いたんだが、あたしらキキョウ会の実績やらユカリの戦いぶりやらをよ。裏までは取っちゃいねえが、クレアドス家に雇われた傭兵どもが噂を撒いてるんだってよ。手紙を送ってきやがったボンクラは、それを耳に入れたのかもな」

「へえ、そっちからの線もあったか」


 クレアドス伯爵はこのホテルで襲撃されてる。

 真実はどうだか知らないけど、バドゥー・ロットの呪いと思しき事故も起こったことから、あの伯爵は敵対勢力に色々と仕掛けてるようだ。その中の一つがウチの噂を広めて敵の動きを見ることにあるんだろう。


「なんにしても今さら詫びとか言われてもね。許すわけないってのに」

「悪党同士、話が通じると思われてんじゃねえか?」


 地獄の沙汰も金次第って?


「ウチとその貴族だけの問題だったら、条件次第で手打ちもあり得るけどね……今回の場合は仮にウチが許したところで意味ないわ」

「ベルリーザの反逆者だからな。この国にとっちゃ、あたしら以上の悪党だ。少なくとも当主の死は免れねえ」

「当主どころか連座で親類縁者までタダじゃ済まないわよ。それを理解できてないはずがない……ってことは」


 どう足掻いても助かる道はなさそうな状況で、わざわざ悪の組織に詫びを入れるとはどういうことか。

 それをやる理由を考えてみると一つだけ思い当たるというか、それしかないというか。グラデーナも同じことを考えたようだ。


「おいおい、まさかウチに助けて欲しいって言ってんのか?」

「そんな義理はないし、あったところで無理に決まってるわ。いくら情報部に顔が利いて貸しがあるからって、国を裏切った貴族に助かる道なんかあるわけない。それこそ王族の誰かが取りなしたって、認められるとは思えないわ」


 よっぽどの功績があっても難しいだろう。秩序を守るためには、信賞必罰は厳に行われなければならない。

 ベルリーザは乱れた状況を引き締めるためにも、ぬるい態度で事に当たるはずがないんだ。門外漢の勝手な予想にすぎないけど、これが的外れとは思えない。


「頼んで助からねえなら逃げるしかねえが……ああ、その線はどうだ?」

「逃亡の手助け……たしかに、それなら一縷の望みにはなるか。簡単に逃げられるとは思ってないだろうけどね」

「陸路は厳しいだろうが、この街は海の街でもあるぜ。もし密航できんなら、リガハイム行きも選択肢の一つじゃねえか? それにエクセンブラなら身を隠すのにもってこいだ」


 リガハイムは我がキキョウ会が押さえた港町だ。ウチを味方につけ、そこまで辿り着けたなら助かる確率は高くなる。

 人口が多くカオスなエクセンブラまでエスコートしてしまえば、ほぼ成功したも同然だ。寝床の用意どころか、私たちは行政区に顔が利くから適当な身分と名前まで用意してやれるし、顔や姿は魔道具を使えば変えられる。

 ベルリーザで賞金首として手配されても、エクセンブラまで離れてしまえばただの変装でもたぶんバレない。別人として何食わぬ顔で再起することだってできるだろう。


 まさに地獄の沙汰も金次第。人生をやり直せる。


「そうだとしたら、ふざけてるわね。いや、さすがに考えすぎか」


 あくまで手紙に書いてあるのは詫びを入れたいってことだけだ。取りなしてくれとも逃がしてくれとも書いてない。

 まあ詫びを入れたいってのが、状況にそぐわなくて意味不明だから気持ち悪いんだけど……。


 もしもの話、その貴族は巻き込まれただけとか、薄い関与にとどまってるとか、そうした主張があるのかもしれない。

 でもウチからしてみれば、そいつの事情なんか知ったこっちゃない。ましてや助けてしまえばベルリーザって国に喧嘩売ってるも同然の行為だ。そうまでして助けてやるほどの理由なんか、どれほど頭をひねっても考え付かない。


「どうするユカリ。こんな手紙は無視しちまうのが一番かもしれねえが、あたしはちょっとばかし気になってきたぜ」


 無視するのが妥当かもしれないけど、追い込まれた奴は何を仕出かすか分からない。

 正面から話を聞いてやって、つまんないことを言うならその場でぶちのめして情報部に引き渡したほうがまだいいかも。


「気になるっちゃ気になるわね。ところで返事はどういう方法で返せって?」

「使いの野郎が今夜、迎えにくるとか言ってたな。晩飯時を指定してやがったから、誘いを断らなきゃ飯でも食いながらって感じだろうな」

「こんな時に悠長に夕飯の誘い? なんか余裕ありそうね。いいわ、私は行かないけど会うだけ会ってみて」

「ユカリは行かねえのか? 場合によっちゃ、面白い展開になりそうだってのによ」


 それは分かる。どうにも罠っぽい気もするしね。敵が周到に用意した罠を食い破るのは、とっても楽しいもんだ。


「私は夜も倶楽部の指導があるから行けないわ。それに変に疑われても癪だから、情報部にこの件は伝えとく。義理もないし状況が状況だからね、チクリがどうのなんて気にしてる場合じゃないわ」


 少なくとも今のところは大事じゃないから、通信で軽く伝えて終わるつもりだ。もし対面での会話を求められたら、そっちに足を運ばないといけなくなるかもしれない。


「たしかに義理はねえな。よっしゃ、しかしどんな詫びを入れてくんのか楽しみになってきたぜ」


 いつものノリ。敵の懐に飛び込み、何が起ころうともそれを食い破って勝利する。いつもだったらそれで良くても、見えない左目が用心をうながした気がした。


「グラデーナ、行く時は完全装備にしなさい。道具一式は極致戦闘仕様で、想定外が起こった時には逃げること優先で構わないわ。ハイディたちは忙しいから、こんな雑事に駆り出せないし」

「情報局に下調べさせるほどじゃねえからそれはいいが、戦闘仕様で道具を揃えんのか?」

「私がこのザマだからね。もしあんたの戦力まで低下することがあったら、それこそ最悪よ。備えといて損はないわ」

「分かった。上等だ、そうなったらそうなったで面白いじゃねえか。こうなってくると、本当に詫びだけだったら拍子抜けだな」


 詫びを入れたいだけの相手に対し、完全装備で警戒したなんて笑い話になってしまうかもね。でも準備不足で後悔するよりよっぽどいい。


 あとを任せ、宣言通りに情報部に通信で事の次第を伝えつつ学院に戻ることにした。



 幸いにも面倒な呼び出しなどはかからず、まだ倶楽部活動の活気がある学院に戻ってみれば、魔道人形倶楽部の熱量の高いこと。

 顧問がいなくても頑張ってるなんて、それだけで本気が伝わるってもんだ。指導者として非常に満足感がある。

 タイミングを見てハーマイラ部長が休憩を告げ、私のほうに近づいてきた。


「先生、お帰りなさい。いかがでした?」

「あんたの予想は合ってそうよ。強豪校の連中はルール変更の件を知ってやがったわね。練度の高さが最近になって練習始めた感じじゃなかったわ」


 グラデーナのところに寄る前に、ほかの学校に偵察に行ってきた。


「先生のお見立てでしたら間違いないですね。しかしそれが判明したからといって……」

「そう、どうしょうもないわ。ルールを作る側ってのは、それだけ強いのよ。覚えときなさい」

「納得はできませんが理解はします。それにどのように状況が変化しても負けるつもりはありません」

「分かってるじゃない、それでいいのよ。弱気になる要素なんか、どこにもないわ」


 この程度で意気消沈するようならガッカリだ。逆境を楽しめるくらいのメンタリティがないと、王者になんかなれはしない。部をまとめる部長がこれなら大丈夫だ。


「でも先生。演習場での試合や人数増はまだ良いのですが、やはり四チームが同時に戦う形式はどうにも気に入りません」

「なにが?」

「事前に申し合せれば、強豪を三チームで叩くことも可能ではありませんか?」


 誰だって最初に考えることだろうね。協力してはならないとルールブックには書いてなかったし、仮に書いてあったとしても事前に申し合せたかどうかなんて分からない。偶然は起こり得るし、他のチームの動きを利用するのは当然の戦術でもある。

 申し合わせなんかなくたって、挟み撃ちにされることくらい普通にあるだろう。それをいちいち卑怯だどうのと言ったんじゃ試合にならない。だからこそルールブックに書いてないんだろうし、共同作戦だって成立させるにはひと苦労あるはずだ。決してイージーな選択肢とは違う。


「異なるチーム同士でも連携は可能だけど、試合中に味方と思ってた奴らが裏切ることだってあるわよ。きっとね。ありとあらゆる事態を想定し、対応策と仕掛ける策も考えなさい。後で相談には乗るけどまずはお前たちで考えるのよ。そうね、悪だくみなら巻き毛の奴が得意だから、あいつを中心に一日は対策会議に使ってもいいわ。どうせなら他校の生徒が想像できないくらいに、あくどい作戦を考えなさい」


 部員たちが自分で頭を使って考えた作戦なら、理解度も高く後世にだって引継ぎやすいだろう。顧問としてはぬるい部分を指摘し、何度でも考えさせるくらいがちょうどいいと思ってる。

 そもそも私はどっちかと言えば脳筋だから、細かい作戦とか考えるのは苦手だからね。こいつらに考えさせたほうが、上等なものができるだろう。


「考えてみますが、どうしても最悪を想像してしまいます。三チームに結託されてしまえば、最悪は百五十対二十五の数的不利になってしまうかもしれません……」


 まだウチの部員は増えておらず、二十五人のままだ。少し増える見込みはあるらしいけど、最大の五十人まで増やすのは厳しそうだ。

 最悪の展開は事前に回避できるよう策を練るもんだけど、陥ってしまった場合の対応策は考えとかないといけない。


 正面から圧倒的多数を薙ぎ倒せる力がないなら、地形を利用した立ち回りを考え、一点のみ持ち込める魔道具をどうにか活用するしかない。数を逆手に取るような作戦だってきっとある。


「ハーマイラ、甘いわよ。ホントの最悪ってのは、想像もしなかったもっと悪い状況に陥ることよ。数以外にも悪くなる要素ってのは、ほかにまだあるんじゃない? でもってそういうのを考えつけば、敵にそれを仕掛けることも可能になるわ。ふふ、如何に悪辣な作戦を考え、それを実践できるかが勝負を決めるとも言えるわね。面白いわ」


 いや、これは考えれば考えるほど面白い。

 普通に屋内の舞台上でやる魔道人形戦も悪くはなかったけど、変更後のほうは思いもしない展開にだって発展しそうだ。

 各校での結託や裏切りなんかでもドラマが生まれそうじゃないか。


 誰がどんな思惑でここまで大胆なルール変更を提案したのか知らないけど、それを知りたい気にもなってきた。

 ひょっとしたら聖エメラルダ女学院の復活をきっかけに、こうした事態になったのかもしれないし、機を見て探りを入れてみたい。


「……最悪以上の最悪、ですか」

「みんなで考えてみなさい。さて、作戦も大事だけど個々の実力だって重要よ。そろそろ練習の続きに戻りなさい」

「はい。皆さん、休憩はここまで! 次は――」


 若さと熱意のためか、こいつらは凄い勢いで実力を伸ばしてる。もう個々の実力は強豪校に入っても主力を張れるくらいにはあるんじゃないだろうか。

 あとはやっぱり作戦だ。作戦こそが勝敗を分ける重要な鍵になる。


 考えろ考えろ、攻めるだけでも守るだけでもダメだ。消極的なのはもっとダメだ。

 積極果敢かつ攻防一体の作戦が、状況に合わせて数通りも用意できるのが理想的だ。さすがに理想が高すぎるかな。

グラデーナが追い込まれつつある腐敗貴族に呼び出され、魔道人形倶楽部は変更後のルールに対応中となっている今話でした。

今後の展開を考えるに、倶楽部活動編の続きはしばらく時間を置くことになりそうです。取っ散らかっても分かりにくいので、倶楽部活動編に戻れたら数話続けて集中するかもしれません。(かも、であり全然確定ではないですが。)

次話「違うと言いたい取引現場」に続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況整理はありがたい!サブクエストが長引き複数の状況が同時進行すると 現状が取っ散らかって追うのも大変ですものね! ―――◇◇◇―――◇◇◇――― >腐敗貴族退治はまだ証拠固めや裏取引…
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