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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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格の違い

今回はバイオレンスな展開があります。

苦手な方はご注意を。


それから同じ世界観で、気分転換に書いた短編を投稿しています。

登場人物は違いますが、よろしければそちらもチェックして下さると嬉しいです。

 グラデーナたちが少女愚連隊に話を付けに行った夜。

 私は一人、本部の屋上から稲妻通りを見下ろした。

 人通りが全然ない界隈と、星明りも届かない曇り空。暗く静まり返ったいい夜だ。

 深夜の冷たい風を感じながら、今夜のことを振り返った――。



「ユカリ、連れてきたぜ」


 グラデーナたちはスラムで名を上げる少女愚連隊を上手いこと引っ張ってこれたみたいだ。

 続々と食堂に入ってきた少女たちは、嬉しそうな顔、不安そうな顔、興味深そうな顔、疑いの顔、挑戦的な顔、それにすがるような顔をしてるのまでいる。まさに悲喜交々《ひきこもごも》だ。どっちかと言えば、喜んでるのが多そうに思える。私たちとしては恐れられてるくらいがちょうどいいんだけど。


 それにしても多い。二十人くらいはいそうだ。見た感じ年の頃はヴァレリアくらいのを中心に、私くらいのが数人と、サラちゃんくらいの子供までいる。ウチは託児所じゃないってのに。かと言って引き離すわけにもいかないし、どうしたもんか。まあサラちゃんがいるウチにとってみれば、いまさらって話か。


「ご苦労様。上手くいったみたいね」

「いや、それがな。こいつらのリーダーがユカリと話してから返事をしたいってよ」


 いきなり傘下に入れって言われて、即座にはいそうですかとは言えないか。リーダーからしてみれば、待遇や条件なんかも気になるだろうし。


「構わないわ。別に無理矢理ウチに入れようってわけじゃないんだから、話くらい当然ね」

「話せる会長さんみたいで助かりますよ。あたしはグレイリース。こいつらの頭張ってます」


 前に出て話し始めたのは、私よりも少し下くらいの見た目年齢の女の子だ。話し方の感じだと、気の強いしっかり者系といったところか。仲間の少女たちは騒ぐ様子もなく、リーダーの話を見守ってる。良く統率されてるんだろう。


 丁寧なようでいて砕けた口調で話すグレイリースは、その余裕のありそうな態度とは裏腹にかなり緊張してる様子だ。

 たぶん私が何気なく発動した身体強化魔法のレベルを見て格の違いを感じ取ったんだろう。


 グレイリースは最初から油断なく身体強化魔法を発動中で、なかなか悪くないレベルだと思う。キキョウ会正規メンバーの戦闘班で、最弱のメアリーにも及ばないレベルだけどね。でも、それに迫るくらいのものはある。新入りとして迎えられるなら上等だ。


「私は紫乃上。キキョウ会の会長よ。ウチのことは知ってるわよね?」

「もちろん知ってます。あたしらが立ち上がるきっかけになったのが、キキョウ会だったので」


 へえ、噂は本当だったらしい。

 知らないところで影響を及ぼすってのは、誇らしいと同時に少し怖くもある。


「さっそくだけど、ウチに入る気はない?」


 端的にこっちの要求を告げて様子を見る。


「……えっと」


 何やら思いつめた顔で迷う素振りを見せるグレイリース。

 急にどうしたんだろうね。そういや何か話があるとか言ってたっけ。


「なに? なんか言いたいことがあるなら遠慮はいらないわ。はっきり言いなさい」


 うだうだする奴は嫌いだ。ビシッと言えば、一転して強い目で私を見返した。そして突然ガバッとひざまずく。

 なんだってのよ。


「会長さん、折り入ってお願いがありますっ!」


 ふむ、そういうことか。

 黙って先をうながした。厄介事みたいね。


「敵対しているグループの奴らに、仲間が何人か捕まってるんです。あたしらじゃ居場所も掴めない。何人か締め上げてはみたんですが、空振りばかりでたどり着けないんです。あいつらを助けてくれるなら、あたしはどうしてもらっても構わないし、無条件で従います。だから、どうか力を貸してやってください!」


 なるほど。ウチが張った募集の件は、その捜索やら抗争やらで応募してる暇がなかったということか。もしかしたら気が付いてすらいなかったのかもね。


「少なくとも、面白い話じゃなかったわね」

「だ、駄目ですかっ? あたし程度じゃ力不足かもしれないですが、命張って役に立ちますよ!」


 早合点はやがてんするなっての。


「ジョセフィン、なんとかなる?」

「そうですね。スラムの少年グループ程度の情報なら、それほど苦労しないと思いますよ。今夜中にはなんとか」

「さすがね。悪いけど、急ぎみたいだからすぐ頼める?」

「ええ、あんな話を聞いちゃったら、のんびりもしてられませんよ。それじゃ、また後で」


 さっそく護衛も連れずに、たった一人で夜のスラムに出かけるジョセフィンだ。未だに底が知れないミステリアスな女で面白い。


「あ、あの、それじゃあ」


 グレイリースは戸惑いながらも嬉しそうな顔をした。当然、言ったことは守ってもらうけどね。


「聞いてのとおりよ。後は私たちに任せときなさい。その代わりにグレイリース、あんたには今後、ウチで働いてもらうわ」

「それはもちろんです。あ、でも仲間たちは」

「好きにしなさい。キキョウ会は絶賛人手不足だから、入りたいなら歓迎するわ。でも嫌がるのを無理に引き込むつもりもないわ。あんた以外はね」


 グレイリースを見やってニヤリと笑ってやる。


「いつもの条件でいいですよね、ユカリ。彼女以外の娘たちには、きちんと話をした上で決めてもらいましょう」

「うん、その辺の説明はフレデリカに任せるわ。食事でもしながら話してやって。おばちゃん! この娘たちにもなんか適当に持ってきてやって!」


 グレイリース以外の娘たちには、例の募集要項の内容で本当にウチに入るか良く考えてから決めさせる。今日は本部の空き部屋に泊まらせるから、そこで話し合いでもしつつ、みんなで決めたらいい。


「ほら、グレイリースはこっちに。さっきの話、もう少し詳しく話しなさい」

「はい!」



 ――食堂での会話を振り返って、少しだけ憂鬱な気分になる。不良少年グループに捕まった少女たちには、どう考えても楽観的な状況は望めないだろう。

 ぼーっと物思いにふけってると夜の屋上から見下ろす稲妻通りに、ジョセフィンが走って戻るのが見えた。


「早かったわね。さすが頼りになる」


 タイミングを合わせて私も屋上から下りる。戦闘班メンバーは事務所に待機中だ。

 事務所に戻れば、ジョセフィンがほどなく玄関から姿を現した。ここからは私たちの出番だ。


「お疲れ、どうだった?」

「スラムの外れの倉庫に監禁されてましたよ。グレイリースが締め上げたっていう連中が知らなかっただけでしょうね。どうやら少年グループの幹部しか使えない場所みたいです」

「実際に倉庫の中は確認できた?」

「ええ、グレイリースに聞いた人数よりも多かったですけどね。とりあえず急いだほうがいいです。案内するんで早く行きましょう」


 多いってことは、関係ない女の子もいるってことか。まあいい。


「みんな、急いで行くわよ。ジークルーネ、アンジェリーナ、シェルビー、留守は頼むわね」


 案内役のジョセフィンを先頭に、キキョウ会本部を飛び出した。


 スラムのガキどもなんて私たちの相手にならない。戦闘よりも女の子の保護や、ここまで運ぶ役目として多めの人数で現地に向かう。グレイリースには仲間を確認してもらう必要があるから一緒に連れて行く。

 グレイリース以外の少女愚連隊の連中も一緒に行きたがったけどそれは断った。単純に足手まといはいらないし、仲間同士なら互いに知らないほうが良かったり、見られたくなかったりする状況だってある。


 それからロベルタたち見習いも留守番だ。見習いはまだ自分のことだけ考えてればいい。リリィは早寝だから何も知らずに眠ってるし。


 身体強化魔法を使って走ればそれほど時間はかからないし、車両は使うまでもない距離だ。静かな夜にあの走行音は目立つってこともある。

 グレイリースが必死に汗をかきながら付いてくるのを尻目に、私たちは息一つ乱さない。ぜいぜい言いながらも気合いで食らいつく彼女は、それだけでも褒めてやれる。うん、やっぱり見所がある奴だ。


 大した時間をかけずに目的の倉庫に到着。でも窓は板で塞がれて中の様子が全然分からない。


「ジョセフィン、中の様子を確認したいわ。どこから見える?」


 正面から踏み込むにしても、女の子たちは最優先で確保したい。人質にでも取られたら面倒だし、とち狂ったのが傷つけないとも限らない。どこに誰がいるかは、あらかじめ把握したい。


「こっちです。窓じゃなくて、窓の上が少し破れてますから、そこから中が見えます」

「なるほどね。どれ、ちょっと見てみるか」


 覗きなんて趣味じゃないんだけどね、今回ばかりはしょうがない。


「……ちっ」


 見て思わず舌打ちしてしまった。あー、胸くそ悪いわね。

 そこにあったのは予想どおりすぎる光景で、意外性も何もあったもんじゃない。ガキどもが一丁前にお楽しみ中だ。

 パーティーよろしく馬鹿ヅラ下げたガキどもがウヨウヨいやがる。幹部だけが使えるんじゃなかったっけ。どうでもいいけど。


 肝心の女の子たちは命までは取られてない。取られてはないにしても、見るも無残な姿だ。

 予想どおりの結果に驚きはなくても腹は立つ。まだ大人になりきれないガキの仕出かしたことでも、許せる範囲は普通に飛び越した。そして私の無言にほかのメンバーもなんとなく察したようだ。


 とにかく中の様子は把握した。個室にばらけられたりするよりも簡単だ。踏み込んで一気にしばき倒す。


「あのガキども、人数だけはそこそこ多いわね。私とヴァレリア、ポーラ、ブリタニーは女の子の確保を優先するわよ。守りを固めて私の治癒を邪魔させないで。グレイリースは私を手伝いなさい。ジョセフィンは外に残って周辺の警戒。グラデーナ、ボニー、メアリーはガキどもを蹴散らしなさい。一応言っとくわ。殺さない程度にしときなさいよ」


 女の子たちを最優先にすることはうなずきながらも、殺しについては全員が承服しかねるようだ。気合と目が語ってる。


「ユカリ、そいつは保証できねえな」

「……ええ、ユカリさん。今回はわたしも手加減できる自信がありません」


 特にメアリーは早くも尋常じゃない殺気を放ってる。私もこれ以上は特に何も言わない。

 大きな鉄の扉の前に移動して突入だ。


「行くわよ」


 私の重いブーツが前蹴りで扉に突き立つと、鉄の扉とは思えない勢いで吹っ飛んだ。

 運のない奴が吹っ飛んだ扉に巻き込まれて倒れたのは、心底どうでもいいことだ。


 衝撃音と突然の出来事にガキどもは雁首揃えて呆気に取られてる。そこを救出班の私たちが一気に駆け抜ける。

 進路に立ち尽くす間抜けは容赦なく殴りつけて吹っ飛ばし、一直線にそれぞれの女の子たちの元へ駆け付けた。


 私は絶賛行為中の阿呆の肩を掴むと、それを握り潰しながら仲間のガキに向かって思いっきり投擲する。そう言えば人間をこうやって投げるのは初めてだ。

 近くにいるのも同じように捕まえては握り潰しながら適当にぶん投げ、女の子の周辺から容赦なく邪魔者を排除した。


 声一つ上げない女の子を見れば、ぐったりとした様子で意識がない。息は辛うじてあるみたいだけど危険な状態だ。

 素早く浄化魔法で汚れを落とし、魔力を練り上げて回復薬を身体に染み込ませる。傷回復薬だけの効果じゃなくて、状態異常や病気、体力、魔力の回復も含めた、とっておきの超複合回復薬だ。これでとりあえずは大丈夫。

 せっかく私が助けたんだし、グレイリースの仲間なら愚連隊を気取るくらいの根性はあるんだ。だから持ち直してみせろってもんだ。


 ほかの状況を見れば、ウチのメンバーはやっぱり凄い。

 わめいたり怒鳴ったりするガキどもを、淡々と排除するメアリーたちの姿は恐ろしいものがある。理性的に魔法攻撃も武器も使わず、拳で殴ってるだけなのにね。それがなんだか妙に怖い。


 治癒を終えたこの場はグレイリースに任せて、私はほかの女の子も順に治癒してしまう。

 ガキどもは逃げ出そうとする腰抜けばかりで、こっちに近くづく奴はいなかったから治癒はスムーズに進んだ。不幸中の幸いで命は助けられたし、身体の傷は完治させた。


 女の子たちの浄化と治癒がひと段落する頃には、大方の決着がつく状況だった。

 こんなことを仕出かしたガキどもをメアリーたちが逃がすはずもなく、漏れなく全員がしばき倒されて昏倒するか痛みにうずくまった。聞こえてくるのはガキどもの弱々しい泣き言だけだ。


 メアリーたちも少しは手加減したのか、皆殺しとまではいかなかったようだ。

 無論、こんな奴らがどうなろうが知ったこっちゃない。重傷を負ってようが放置だ。


「グレイリース、あんたの仲間はこれで全員?」

「……はい。こいつらで全部です。助けてくれて、ありがとうございました」


 うつむいたグレイリースの表情は見えなかったけど、責任感の強そうだなこいつならちゃんとフォローしてやるんだろう。私たちにできることは少ないけど、当面の食事と寝床くらいは世話してやってもいい。


「ならこれで片付いたわね。さっさと引き上げるわよ」

「ユカリ、ガキどもはどうする?」

「ほっときなさい。そんなことより、早くちゃんとした寝床に連れて行ってやりたいわ」


 全員が黙ってうなずき、眉を寄せたまま眠る女の子たちを担いで脱出だ。こんな薄汚れた倉庫からは、とっととおさらばするに限る。

 今夜はウチで保護して、家のある娘は明日帰らせよう。グレイリースの仲間はほかの連中と同じように扱う。


 それにしてもだ。同じ悪党をしばくにしても、もっと強かったり戦利品があったりしないとちっとも楽しくない。

 あんな根性の欠片もないガキども相手じゃ返ってストレスが溜まるだけだ。

 はあ、なんかスカッとするような楽しいことはないもんかな。

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