多すぎる隠しもの
「ちっ、冷凍室に眠る死体の山とはな……ほっといたらまだ増えそうじゃねえか?」
「引き出しには空きがあるしね。そのつもりなんじゃない? とにかく行くわよ、死体に用はないわ」
「野郎の尋問が楽しみになってきたぜ」
誰だろうが遠慮なんかする気はなかったけど、ここまでの異常者で重大事件に絡んでそうだと、むしろ慎重にやらないといけない。
苛烈な尋問になってもバドゥー・ロットについては吐かせるつもりだったのに、ついうっかり殺すなんてことがあったら猟奇殺人事件の犯人が消えてしまう。
情報部はきっと冷凍された死体の利用目的や手法などを知りたがるはずだ。
世の中には色んな奴がいるもんだけど、綺麗な死体作りと氷漬けが趣味……なんてのは考えたくもない。
冷凍室を出て階段のある場所に戻ったら、よしと気合を入れて仕切り直しだ。
一階から上に行き、二階の事務や応接スペースと思しき場所を経ると、生活感のある三階に至る。三階の廊下は暖色の弱い灯りが点きっ放しで行動しやすい。侵入者には非常に親切だ。
ただ面積の広い建屋には部屋数も多く、普通に家捜しするには大変。私たちはすでにお宝をゲットできてることから、余計な家捜しはせずに人がいる部屋に向かう。
貴族の男がいるのは一番奥まった広い部屋で、そこにはもう一人の魔力反応がある。二人の寝室ってわけだ。
もう一つの広い部屋には複数人の魔力反応があるけど……どういう部屋の割り当てなんだろうか。使用人にしたって無駄に多い部屋数を考えれば、わざわざ一部屋に押し込む必要性を感じにくいけどね。
関係者にはどうせ尋問はするんだし、本命の前に複数人いる部屋の様子を先に見に行くことにした。グラデーナと示し合わせて一緒に進む。
後ろ暗いところが満載の建物ならば、魔力を用いない警報や罠はまだ残ってるかもしれない。警戒しながら歩みを進める。
そうして使用人と思しき奴らの魔力を頼りに進んだそこにあったのは、これまた妙な状況だ。
「行き止まりかよ? そんなわけねえよな」
「うん、壁に偽装してるみたいね」
どこからか、壁を伝って微量の魔力が流れてる。これを断ってやれば簡単に偽装が解けた。見た目を誤魔化すだけの単純な仕掛けだったらしい。
しかしそこに金庫室のように厳重な扉があれば、これだけで普通の部屋と違うのは分かる。
施錠された冷凍室の隠し部屋に続き、今度は壁に偽装した隠し部屋。怪しいなんてもんじゃない。
「クソ野郎が、この部屋に閉じ込めてやがんのか」
状況的にそうとしか思えない。部屋の外にかけられた鍵を破壊し、強引に突破すれば中の奴らとご対面だ。
窓のない部屋は暗く、廊下側からの暖色の光でわずかに様子が見て取れる。パッと見で分かるのは、ずらっと並べられたベッド。
内装は極めてシンプルで、私物らしきものは何もない。入院病棟の大部屋みたいな感じだろうか。これはどう見ても使用人が暮らす部屋じゃない。
慎重に部屋に入ってみれば、そこには揃いの簡素な服を着た五人の男女が、毛布を掛けるでもなくベッドに横たわってる。
部屋に入って物音を立てても起きる様子はなく、それどころか目を覚ますのかどうか。
「生きてるよな?」
「少なくとも心臓は動いてるわ」
生きてはいる。でも偽装された厳重な扉にこの状況だ。もしかしたら目を覚まさないってことかもしれない。
この状態でどうやって生命維持してるのかも分からないし、そんな気があるのかも分からない。もうすぐさっきの冷凍室に運ばれる予定なんだろうか。
なんのためにこんなことを? クソ野郎の単なる趣味?
「ユカリなら治癒できるか?」
「たぶんね、やってみる。話ができればいいんだけど」
体の異常だけなら、ほとんどの場合で治癒可能だ。
さっそく手近な女に触れて様子を探る。ざっと感知してみれば、全体的に身体機能が著しく低下してるように思えた。何らかの薬物のせいでこうなったんだろうけど、ほっといたら死ぬのは間違いない。
「……うん、これで問題ないわ。もし精神にまで異常があった場合はどうにもならないけどね」
「廃人か。そんときゃしょうがねえ……おい、起きろ。起きねえかっ」
すぐには目を覚ましそうにない女だ。話が聞けなかった場合に備えて、ほかの奴らも治癒してしまう。私の超複合回復薬は高級品だってのに、まったく。料金は宝石で回収したからまあいいか。
「ダメだ、軽く頬を張ったくらいじゃ起きやしねえ。ぶん殴ってみるか?」
「それより野郎に話を聞いたほうが早いわ。ここは後にするわよ」
「それもそうだな」
バドゥー・ロットに無関係な、野郎の猟奇的趣味の話はそもそもどうだっていい。目的はあくまでもバドゥー・ロットなんだ。そのためにやってきた。死体だらけの冷凍室や、この女たちのことが気にはなっても、それはついでの話でしかない。
秘密の部屋を出て、今度こそ標的に掛けた野郎が眠る部屋に向かった。
分厚い壁の防音の効いた建屋なら、少しくらい騒いでも問題ない。ここからは脅しの意味も込めて派手にやる。
「ここか。さすがに野郎まで目覚めない、なんてことはねえよな」
「さすがにね。よし、ちょっとばかし気合入れて行こうか」
スカルマスクのグラデーナと目を合わせ、鍵の掛かってない扉を思いっきり蹴り開けた。
強い物音に瞬間的に危機意識が押し寄せたのか、慌てて身を起こすベッドの二人。暖色の弱い灯りが照らす室内で、こっちの姿はどう映ってるだろうか。
こちとら黒衣に黒をベースに白で描かれたドクロ模様のマスクを被った侵入者だ。こんなのが目を覚ましたら部屋にいるんだ。寝起きだとしても、恐怖で意識はすぐに覚醒するだろう。
「お二人さんよ、こいつは悪夢じゃねえぜ。残念ながら現実ってやつだ」
「い、いやっ 助け、助けて、違うわ、違うの――」
初老のおっさんと妙齢の女。女は殺されるとでも思ったのか、激しく混乱してるようだ。訳の分からない言い訳を繰り返してる。
その混乱ぶりを見て逆に冷静になったのか、貴族のおっさんは早くも落ち着き始めてる。薄暗くても恐怖に引きつる顔が、表面だけなら平静に変わった。
話ができるなら上等だ。まともに会話のできそうにない女は無視でいい。
「覚悟はできてんな? こっちの用件は」
「わ、わたしは違うの、関係ない! いやよ、いやーっ」
グラデーナの話を遮る女。無視しようと思ったけど、うるさいし邪魔だ。私が黙らせると目でグラデーナに言い、ベッドに近づけば女が余計に騒ぎ出す始末だ。まったくもって鬱陶しい。
しかも女を守ろうとして、おっさんがこれまた余計な根性を見せるから最悪だ。鬱陶しさに任せてまずはおっさんを殴りつけ、暴れる女の首を強引に掴みそのまま締め落とした。
一連の流れを見守ったグラデーナが仕切り直す。
「おう、用件は分かるな?」
問われたおっさんは恐怖よりも怒りが勝るらしい。強気に無言で睨み返すおっさんをまた殴る。
本当に無駄なやり取りでしかない。意地を張ったところで意味なんかないってのに。
まったく、状況を考えろってんだ。
ところが血走った目で私を睨み付けるおっさんは、更なる怒りに駆られたらしい。視線だけで射殺さんばかりの目付きだ。
それは男としてのプライドか貴族の矜持か。その態度には感心するものの、こいつはとんでもない猟奇趣味の持ち主であり、貴族でありながら国を裏切った外道だ。
これが真っ当な貴族なら大した奴だと思ったのかもしれないけど、所詮はクソ野郎の開き直りでしかない。
そしてただの強がりでもある。傭兵の守りや高度な魔力認証キー、数々の警報を突破しないとここにはたどり着けないんだ。私たちがそれらすべてをクリアしてる時点で只者じゃないってことくらい、こいつだって理解してるだろう。
追い詰められた側に残された選択肢は、強がって死ぬか、賊の要求を聞き入れ命乞いするしかない。
「……どこのコソ泥か知らぬが、ここは貴族の別邸だ。今すぐに立ち去れ!」
「単なる物取りだとでも思ってんのか? そうじゃねえ、てめえに用があるって言ってんだ。なに、用事が済んだら帰ってやる。大人しく言うこと聞けばな」
「警備はどうした、今に駆け付けるぞ」
もう来ないと分かってても、微かな希望に縋るしかないんだろう。そんな足掻きをグラデーナは呆れた目で見やりつつ、私にどうするかと顔を向けた。
手間をかける気はない。今は怒りで態度がでかくなってるみたいだけど、覚悟決まってる雰囲気じゃないし、まさか兵士のような訓練を受けてるはずもない。死なない程度に痛めつけて、手っ取り早く吐かせる。それだけだ。
質問はグラデーナに変わって私がやるとしよう。
威圧を込めて見下ろし、レッツ質疑応答の開始だ。まずは最初の目的を果たす。
「バドゥー・ロットについて、知ってることを全部吐け」
「ふざけるなっ!」
なんと、逆上したか。寝起きを叩き起こされた影響で、まだ自分のピンチが理解できないのかな。
怒鳴ったって意味ないことくらいは分かるだろうに。まるで子供の癇癪だ。もしかしたら怒りで恐怖を誤魔化そうと、意識的にやってるのかもしれない。
どんな感情を抱こうが、何を考えようが関係ない。面倒な過程があるだけで結果は同じだってことを分からせてやる。
賊を怒らせたっていいことなんか何もないんだ。私を怒らせるな。
「次に訊かれたこと以外の言葉を口に出したら、まずは目玉をえぐり出す。もう一度訊くわよ? バドゥー・ロットについて、知ってることを全部吐け」
「このっ、この俺に手を出せばどうなるか――」
分からん奴だ。面倒な事をやらせるなって言ったのに。私は有言実行の女だからね、しょうがない。
何かないかとさっと周囲に目を走らせ、ちょうど良さげな物を見つけた。ベッドサイドに置かれた洒落たガラスペンを取ると、顔を掴んで固定した。
「言ったはずよ」
そして血走った目に問答無用でガラスペンを突き刺しほじくり出す。
絶叫を上げながらの激しい抵抗だって、なんの妨害にもならない。まさに無駄な抵抗だ。
思い知れ、そしてこれ以上の手間をかけさせるな。
怒らせるな、苛立たせるな。
「バドゥー・ロットについて、知ってることを全部吐け!」
「――ぐふうっ、うううっ、ああああああ、や、やめろ、やめてくれ」
痛い思いをしてやっと理解できたらしい。でも、それは聞きたい言葉とは違う。
「いいか? 私は泣き言を聞きたいんじゃない。関係ないことをほざけば、えぐり出すと言ったのよ。もう一個の目玉も差し出したいって?」
どこまで根性が続くか試したいなら付き合ってやる。生かさず殺さず、心から屈服するまで追い込むまで。
残った片目を強引に開き、今度はゆっくりとガラスペンを近づける。
「どんな大怪我でも魔法があれば回復できるけどね、そいつは命あっての物種よ。お前、まさか自分が殺されないなんて、思ってないわよね?」
「ふうーっ、ふうーっ、か、かか、神、神よ、神よおおおおおおおおおっ、あああああああああああああああっ!」
激しく暴れたおっさんの手には、いつの間にか枕元にあったと思しき短剣が握られてる。
そいつを私に向かって突き出した。しかも魔剣の類なのか、強い魔力を発してるじゃないか。さっきまでは何の反応も感じなかったのに。
「ちっ、こいつ」
見上げた根性だ。いや、根性ってよりは狂気のようですらある。尋常な雰囲気じゃない。
「ユカリ!」
妙な気配や危険を感じたのか、グラデーナが電撃をまとった拳を叩き込んでおっさんを殴り倒した。
目と口から血を流し、電撃で顔に火傷を負いぐったりしてる。完全に意識を失ったようだ。
「薬キメてるわけじゃないだろうに……脅しすぎた? まあいい、それにしてもこの短剣」
「魔道具か?」
「瞬間的に出た魔力がデカすぎる。ただの魔道具じゃないわ、アーティファクトね」
固く握りしめられたままの短剣を強引に奪い検めてみる。
謎の能力が発動しないよう、まずは慎重に外観と魔力の経路をたしかめる。刀身にも柄にも複雑な意匠が施され、如何にも値打ち物っぽい。とりあえず、いきなり爆発しそうにはないかな。
うーん? なんか見たことある感じの意匠ね……。
「アーティファクトなら高値で売れるな。もらっとこうぜ」
「うん。それはいいとして、こいつ頭おかしいわね。尋問がまともに進みそうにないわ」
「目玉えぐっても逆上しやがったからな。一旦落ち着いた今なら、少しは話ができるかもしれねえぜ?」
「そう願いたいわね。出血だけ止めるわ」
「何を仕出かすか分かんねえから、ネックレスや指輪も取り上げちまうな……ちっ、なんだこれ外れねえ」
指輪が一つ外せないらしい。指に食い込むみたいにガッチリハマってる。
「どれ……攻撃用の魔道具ね。使われたところでどうってことないわ。あんたが特別に欲しいってわけじゃないなら捨て置きなさい」
「指落として取り上げるほどじゃねえか。あたしの趣味じゃねえし、見逃してやる」
聞きたいことが色々ある。
最優先はバドゥー・ロットのことで、ついでに死体のある冷凍室や眠ったままの使用人みたいな奴らのこと。それに魔法の短剣についても。
尋問の前になにか材料になるような物がないか、少し探してみるか。気絶した二人を放って、グラデーナと部屋を漁ることにした。
「とりあえず、そっちのデカい絵の裏が怪しくねえか?」
壁に掛けられた絵画の裏ってのはさすがに古典的な隠し場所じゃないかと思ったけど、どうやら普通に当たりらしい。
「隠し金庫か。魔力反応は……小さい魔道具は入ってそうね。私は机を見るから、金庫の中は見といて」
「おう、開かなかったらぶっ壊しちまうな。中身に影響ないようにすっからよ」
「なにが入ってるか分かんないから慎重にね」
うーん、机の引き出しを開けてみればごちゃごちゃで分かりにくい。値打ち物っぽいアクセサリー類も適当に突っ込まれてるしゴミもある。悪事の証拠になりそうな物も特には見当たらない。
いくつか金目の物をポケットに突っ込みながら、ささっと見切りを付けて次だ。今度は棚を適当に荒らす。
「ユカリ、こっちきてくれ」
「なんかあった?」
グラデーナが金庫を開けた状態で待ってる。気になるものが入ってるらしい。
「これだ、この箱が開かねえ」
金庫の中にあった鍵付きの箱。片手で持ち運び可能なサイズだけど、ざっと調べてみた限りじゃ金庫より堅牢な構造をしてる。地味な見た目の割にかなり高性能だ。
単なる金属の箱ってわけじゃなく、魔道具としての堅牢性を誇った上に、魔力認証キーはこの屋敷で見たどの扉よりも高度なセキュリティレベルになってるらしい。
「なによこれ。そこらの泥棒が盗めたとして、よっぽどの道具や魔法があっても開けられないわよ」
だからこそ俄然興味が湧く。そして私の魔法適性と魔法技能は、よっぽどのレベルを超える。開けてやろうじゃないかとチャレンジャー精神に火が付いた。
壊すには相当な出力の魔力が必要になるから、それをやれば強力な魔力を使ったことが周辺の誰かにバレるだろう。だから技能で開けてやる。
――そして。
いつもなら秒で開けるか破壊するかしてしまう小箱に対し、今回ばかりは十分以上もの時間をかけてやっと開けられた。
非常に精緻で難解な魔力認証方式は勉強になり、得難い体験にもなった。普通の魔法技術とは違う気がする。古代文明の遺産、この箱もアーティファクトだろうか。
「なんとか開いたわね。ま、集中すればこんなもんよ」
「お、開いたのか?」
別の場所を家捜ししてたグラデーナが寄ってきた。そして開いた箱の中を一緒に見る。
「こいつは薬か? 回復薬じゃねえのは分かるが」
箱の中には二十本くらいの薬ビンが入ってる。
回復薬にはいくつも種類があるけど基本的に無色透明だ。私くらいに魔法の応用が効くようになれば色くらい好きに付けられるけど、世間的にはビンの色や模様、ラベルなどで種類や効果を見分けるのが普通だ。
目の前にある透明の小さなビンに入った液体は濁った青。見ただけで回復薬じゃないことくらいは分かる。むしろ逆に毒っぽい。後生大事に仕舞ってるんだから、きっと貴重なものなんだろう。
「…………んー? 既知の魔法薬ならすぐに分かるし、似たような効果のものなら何となく分かるんだけどね。これはちょっと心当たりがないわ、なんだろうね」
勉強家の私は資料でたくさんの魔法薬を調べてるし、自分でも実験で色々作りまくってる。そのどれとも似通ってない魔法薬ってのは非常に興味深い。
「ユカリでも分かんねえのか」
「少なくとも体には悪そうね。なんか複雑な効果があるっぽいから、たぶん調べてもすぐには分かんないわ」
「だったらよ、使ってみりゃいいじゃねえか」
グラデーナが指差すのは気絶したおっさんだ。なるほど、実際に使ってみれば効果は目に見えて分かるかもしれない。どうせ素直に話してくれそうにないし、それは名案だ。
さっそく気絶状態から叩き起こした。
「お前が隠し持ってやがった青い薬、こいつはなんだ?」
「ま、まさか開けたのか、どうやって……」
「答えねえなら、お前に飲ませるぞ? なに、後ろ暗いところのねえ薬なら、使われたって別に構わねえだろ?」
「やめろっ! それだけはっ」
「学習しねえ奴だ、無駄な問答する気はねえって言ったろ? さあ飲めっ」
激しく狼狽える様子から、ろくな薬じゃないのは間違いない。素直に答えないなら、使ってみるまでだ。
グラデーナがベッドに押さえつけ、私が無理矢理口を開かせて薬ビンを突っ込んだ。一気に流れ込む濁った青の液体。
残った片目と空洞になった片目を限界まで見開き、パニックを起こしたように暴れようとするクズ野郎。それでも全部飲み込むまで押さえつけ放さない。
この慌てぶりからしてやっぱり毒の類だろうけど、即死させる用途の毒ならこんな複雑な魔法薬にする必要はない。いったいどんな効果が?
きっちり飲ませたら解放だ。喉を押さえてブルブル震える様子は尋常じゃない。死なれても困るから、解毒の準備はやっとく。
「気分はどうだ? 素直に話せば」
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
私たちでもついビックリしてしまう大声を急に上げやがった。喉が張り裂けんばかりの大声だ。
思わず一歩引くと、おっさんは右手に嵌めた指輪に魔力を注ぎ込んだ。
そして感じる魔法の発動。
「無駄なことをっ、グラデーナは私の後ろに!」
「おうっ」
私の前には無力だけど、そこそこ強い魔法を放つ魔道具だ。殺して止めるわけにもいかず、変に暴発されても厄介になる。攻撃に備えて素直に下がり、対魔法障壁を展開した。
ところがだ。魔法はこっちに届かない。
「や、野郎、なにやってやがる!」
炎の魔法が発動。しかし燃え上がったのは貴族のおっさんの体だった。体の内側まで燃えてるのか、口から火を噴きながら倒れた。
そのまま激しい魔法の炎が一気に痩身を焼き尽くす。即死だ。
「……自害した? なんでよ」
混乱の末に誤って自爆したのとは違う。あれは自身の意思で命を絶つ行動だ。
訳も分からず、グラデーナと呆然と魔法の炎を見守った。




