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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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地元組織の強みと新参者の弱み

 やれるもんなら、やってみろ!

 呪いだって? 上等だ。未知の魔法は脅威ではあるけど、いちいち怖がってたら悪党稼業なんか続けてられない。

 恨まれて当然、憎まれて当然、呪われて当然の所業を繰り返してきたことくらい自覚してる。今さら怖がる道理がどこにある。


 そうだ、上等じゃないか。呪えるもんなら、呪ってみろ!

 決意も新たに、気合を入れ直す。


「よし、まずは教会にっと……」


 出たばかりの教会に取って返し、ありったけのタリスマンを買い占めた。もうあるだけ全部だ。

 うん。別に怖くないけどね、備えあればうれいなしの精神だ。念のため妹ちゃんには持っといてもらったほうがいいし。掛かった費用はいずれ敵から回収するとしよう。


 その日の内にメンバーみんなと妹ちゃんには情報共有し、当面はムーアからの連絡を待つ。

 残念ながら情報局のメンバーたちでも、呪いなんて魔法の情報は持ってないらしい。バドゥー・ロットの居所に関してもベルリーザ情報部に完全に任せてしまわず、独自に調べさせる。


 何しろ呪いだなんて、まったく意味不明の魔法だ。

 発動条件があるのか、対象にどんな効果を及ぼすのか、有効な距離や威力も不明。ムーアからの情報じゃ、不運を呼び寄せるみたいな魔法らしいけど……。


 タリスマンが砕けたあの時、魔法の気配は感じなかった。よっぽどの遠距離から魔法を使われたにしても、私自身に届くならその直前には感知できないはずがない、と思うんだけどね。そこもまた未知の要素が絡むなら絶対とは言い切れない。

 それにこのタイミングでバドゥー・ロットの呪いとは無関係の出来事って可能性は排除していいだろう。


 あれから追撃がなさそうなことも不思議だ。連続使用できない能力なら、タリスマンさえあれば少しは余裕を持って対処できるってことなんだろうか。この辺は呪いの魔法を使う奴を捕まえて訊いてみるしかなさそうだ。


 バドゥー・ロットか。なかなかに厄介な連中だ。これは妹ちゃんの護衛に関わる問題だし、私が狙われた以上は当事者として潰しに掛かるしかない。

 とりあえず、教会のシスターとは仲良くしとこう。



 コソコソ動き回る役目を他人に振ってしまえば、真っ当な学院講師としての時間に集中できる。

 きな臭い話からは離れて、今日も元気に学院の中を練り歩いた。

 金縁ティアドロップのサングラスに紫色のジャージ、おまけに鉄の棒を肩に担いだ姿はもう生徒たちも見慣れたものだ。不審者を見る目を向けられることはほぼなくなった。気安く話しかけてくる生徒もいないけど。


 最近は風紀委員の積極的な活動もあって、目立つことをする不良はいないから、私があえて鬼講師をやる意味もなくなってきた。

 スタイルチェンジして元の清楚モードに戻ってもいいんだけど、今さら感が強すぎる。あからさまに猫を被るのは女子受けしないだろうし、もうこのスタイルを貫き通すしかない。


「楽になったのはいいんだけど、暇ね……」


 人間とは何て我がままな生き物なんだろうか。忙しかったら文句を垂れ、暇になっても文句を垂れる。ちょうどいい塩梅だったとしても、慣れてしまえば退屈だと文句を垂れるだろう。


 しかしサボりを決め込む不良がいない以上、授業の時間を丸ごと見回りに費やすのはあまりに不毛だ。

 そうだ、せっかく名門学校にいるんだから、その恩恵は最大限に活用すべき。ずっと気になってた図書館に入り浸るとしよう。


 聖エメラルダ女学院の図書館は、図書室なんて規模じゃなくその名の通りに図書館だ。大きな建物が丸ごと図書館として機能してる。

 図書館は研究や学習のための施設として厳格に管理され、貴重な資料がたくさんある関係上、入館に際して記録が取られる。授業の時間に不良がサボるために入るなんてことはできない環境だ。だから私が綱紀粛正のために訪れる必要はなかった。


「今度は私がサボる番でいいわね」


 いやいや、やっぱりサボりとは違う。私は普通に勉強するつもりだし、あくまでも時間の有効活用にすぎない。

 学院の講師なら図書館の利用を咎められることはないんだ。堂々と正面から入り、普通に入館を済ませて適当に中を練り歩く。

 本校舎と同時期に造られたと思しきロマネスク建築っぽい古い図書館には、授業中だからか利用者は全然いない。卒業生が利用することも結構あるらしいとは聞いたけど、この分だと頻繁にはないっぽい。


「ふーん、さすが歴史ある伝統校。よりどりみどりじゃないの」


 とにかく圧倒的な物量だ。どれだけの冊数があるのか想像もできないけど、読書家の端くれとしてはこれを見るだけでも楽しい気分になる。

 目当ての本は魔導鉱物に関した知見を得られるものと、やっぱり呪いっぽい魔法のヒントを得られそうなもの。

 まずは司書の助けを借りずに自分で探す。初めての図書館だけに、歩き回って探すのも非常に楽しい。図書は分類によってきっちり棚が分かれてるから、目的の知識を漁るにも苦労は少なそうに思えた。


 ざっと内部を探検し終わったら、目的の本がありそうな棚を漁る。

 鉱物魔法は魔導鉱物の知識が多ければ多いほど幅が広がる。私の戦闘力に直結する重要な知識だ。常に求め続けたが故に、新しい情報に触れる機会は最近だと全然なかった。ベルリーザが誇る名門校の蔵書なら、少しは期待できるかもしれない。


 目を皿のようにして探してみれば、気になる本はそれなりにあった。

 気になる本を見かける度に手に取って、パラパラと中に目を通しては元に戻し、あるいはキープする。そうして数冊をため込んでから机に移動して読み込んでみれば、いくつかの面白いネタが見つかった。さすがは名門校の蔵書だ。この調子でドンドン行こう。



 お昼を挟み、倶楽部活動が始まる時間までどっぷりと本の時間に明け暮れてみれば、重要な資料も数点は見つかった。

 この大陸からは産出しない珍しい魔導鉱物についての資料を見つけられたし、古代文明で使われたアーティファクトによく見られる失われた魔導鉱物についての知識も少しだけ得られた。これは非常に有用だ。この知見と私の魔法があれば、どこかで失われた物を見つけ出せるかもしれない。


 ちょっとばかし時間と研究は必要になるけど、これで私の魔法はまた幅を広げられる余地ができた。いつか必ずやパワーアップできるだろう。


 よし、今日のところはこれくらいにしとくか。

 あ、呪いっぽい魔法のことは後回しにしたまま忘れてた。気にはなるけど倶楽部の時間だし、一日や二日程度で重要な手掛かりが得られるとも思ってない。むしろ、どれだけ探したところで成果ゼロの可能性まである。


「レイラたちが何か掴んでないか期待しつつ、また明日探してみるか……」


 未知の魔法について調べるなんて、本来なら楽しいはずなんだけどね。攻撃されてる現状を思えば、嫌な気持ちになってしまう。


 帰りがてらにカウンターの前を通りかかれば、そこには見知った生徒たちがいた。


「妹ちゃん、ハリエットも。こんなトコで何やってんのよ?」

「倶楽部の前に本を返しに……あなたこそ珍しい場所で会いますね」

「私はこれでも勉強家よ?」

「そうですか? 少し待っていてください」


 返却の手続きを終えた妹ちゃん、そしてその付き添いだったらしいハリエットと一緒に外に出る。


「こうして校内を一緒に歩くなんて、思えばこれまで無かったわね。倶楽部はどう? 周りに合わせるのは退屈じゃない?」

「いえ、わたしは面白いですよ。部員の皆さんも良い方ばかりですし。ハリエットさんには少し退屈ですか?」

「そんなことはありません。会長の技術を学べますから、とても充実しています。それに教える側としてハーマイラ部長にも学ぶことが多いですね」


 ハリエットは我がキキョウ会の幹部補佐だけあって、生徒たちとは比較にならない実力者だ。魔道人形の操作においても初心者ながらすでに圧倒してるから、妹ちゃんと二人して倶楽部では人気がある。


「ところで……あの男についてですが、やはりどうにも違和感がぬぐえませんね」


 話題を変えた妹ちゃんが言ってるのは、例の御曹司のことだろう。アナスタシア・ユニオンのドラ息子は、妹ちゃんが知る人物像とはちょっと違うと前から聞いてはいる。


「呪いを使った回りくどいやり方をするタイプじゃないって話よね? でもバドゥー・ロットとつるんでるのは間違いなさそうよ」

「最後に顔を合わせてから随分と時間が経っていますから、断言はできませんが……」


 納得できないって顔だ。私も分からなくはない。


「総帥の座に収まるために、自分の親に喧嘩売って勢い余って殺すくらいの馬鹿だからね。生粋の戦闘狂って印象と、呪いを使った手法はたしかに一致しないわね。それにこれまで妹ちゃんに手を出してこないのが不思議なのよね」


 妹ちゃん以外からも聞き及ぶ人物像とは、これまでの経過からどうにも食い違う。

 これまでは極力遠ざけることを意識してたけど、逆に会ってみたほうがいいのかもしれない。でも相手はストーカー野郎だ。妹ちゃんの側から会いたいなんてメッセージを送るのは、とんでもない勘違いをさせそうで危険すぎる。


「会長、やはりアナスタシア・ユニオン内部の何者かに、いいように操られている可能性を疑ったほうがいいかもしれません」

「かもね。ま、その辺のことはあっちが喧嘩売ってきてる以上、嫌でも見えてくるわよ。当面は妹ちゃんには近寄らせず、バドゥー・ロットは叩き潰す。この方針でいればいいわ」

「もし必要でしたら、会うだけ会ってみても良いとは考えています。あなたたちの護衛があれば危険はないはずですから」

「しかし予測できない事態はあり得ます。必要に迫られない限りはやめておきましょう」


 ハリエットは警護として反対みたいだし、私もストーカー野郎と対面させるなんて反対だ。ただ、ぬぐえない違和感をほっとくわけにもいかない。御曹司については、ハイディたちが追ってるからその内に新たな情報は出てくるだろう。


 三人で倶楽部に行き、顧問の私は練習の様子を見守る。

 もう基本的に生徒たち任せで、質問があれば受け付ける形式でいいから楽だ。ボケっと練習風景を眺めながら、さっきの会話を思い返した。


 やっぱり御曹司からの積極的なアクションがないのはどうにもおかしい。

 ストーカー野郎の考えや気持ちなんか分かりたくもないけど、聞くところによれば直情径行タイプの男だ。普通に考えれば、回りくどい嫌がらせをするんじゃなくストレートに迫ってくるタイプだろう。

 それが一切の接触もなしに、いきなり護衛に呪いをかけようとするだろうか。


 顧問の気がそぞろでも、指導は部長と出来る部員がやってくれる。近い将来に去ることが決まってる私の出番がないのはいいことだ。



 夜になり、メンバー一同で改めて情報共有の場を設けた。

 妹ちゃんの部屋に集合して、まずは現状の確認からだ。


「レイラ、始めなさい」

「ではわたしから。先行組がベルトリーアに入ってから色々ありましたが、シグルドノートに誰かが接触しようとする動きはなかったはずです。御曹司からの接触はなく、生徒が起こした問題を片付ける過程で、愚連隊とのいさかいはありましたがそれだけです。バドゥー・ロットとの唯一の接点は、愚連隊ジエンコ・ニギの後ろに奴らがいたということになりますね」


 ジエンコ・ニギのドラッグを横取りした生徒会の一件がなければ、私たちがバドゥー・ロットに関わることはなかったように思う。

 愚連隊との接触に妹ちゃんは関係ない。奴らのドラッグを奪った生徒会と、その報復に誘拐を目論んだ愚連隊。愚連隊の後ろにはバドゥー・ロットがいたわけだけど、青コートからの情報によれば生徒の誘拐を奴らが指示したという話はないらしい。ジエンコ・ニギが勝手にやらかした、しょうもない事件だ。


 私たちとバドゥー・ロットが愚連隊を挟んで関係したのは、あくまで偶然だと思うけどね……こっちに見えてない事柄があったとしたら、それも断定はできないのかな。


「わたしと会長がジエンコ・ニギの背後に控えるバドゥー・ロットの存在を知り、様子を見に行った時、すでにアジトは壊滅していました。遠距離から見た限りでは、大勢が殺されていたように見えたのですが……」

「ベルリーザ情報部によれば、そのバドゥー・ロットのやり口としか思えない『呪い』を使った事件がいくつか起こってるってわけよ。でもって、私も狙われたっぽいわ。実感がいまいち湧かないけど、教会で買ったタリスマンが壊れたからね」

「バドゥー・ロットのアジト壊滅は偽装であり、どういう訳か会長が標的まとに掛けられているのが現状になります」


 私が賞金稼ぎや殺し屋に狙われるなんてのは、別にいつものこと。でもバドゥー・ロットはアナスタシア・ユニオンの御曹司と関係が深いとされてるから問題になる。

 妹ちゃんの護衛を狙うってことは、いよいよ妹ちゃんに魔の手が伸びようとしてると考えるしかない。私以外のメンバーだって護衛なんだから、呪いの標的にされる可能性は大だ。未知の魔法への対抗手段として、タリスマンが得られたのは非常に良かった。


 でもね、御曹司との接触が何もない状況で、いきなり問答無用に殺しに掛かるのは異常だ。そこまで御曹司ってのはイカれてるんだろうか。しかも殴り込んでくるならともかく、超武闘派組織のトップになろうって男が呪いに頼るなんて、いくらなんでもしょぼすぎる。


「お姉さまを狙うなんて……ハイディ、奴らの手掛かりはまだ?」

「残念ながらこちらは余所者ですし、潜伏にかけては奴らが一枚も二枚も上手のようです。しかし呪いなんて謎の魔法が実際に使われた以上、悠長に構えているわけにもいきませんね。早さを求めるには、手段を問わずにやるしかないですが……」


 私たちは常識からちょっとばかし外れた存在だ。だから不運を呼び寄せるなんて回りくどい『呪い』程度で、簡単にやられるとは思ってない。

 個人的には車両が突っ込んでこようが、頭上に鉄骨が落っこちようが緊急回避くらいできるし、もろに食らったとしても頑丈だから死にはしない。そして死にさえしなけりゃ、普通に回復できるんだ。だから過度に恐れる必要は全然ないと思ってる。


 やられるつもりはない。ただ、未知の魔法はやっぱり恐れなくちゃいけないとも思ってる。呼び寄せる不幸の程度が、想像を上回る可能性は大いにあると一応は考えとかないと。

 やっぱり、ここは地元のプロを頼るべきと思う。


「バドゥー・ロットの捜索はベルリーザ情報部が動いてるから、派手にやるのは不味いわ。邪魔になるからね。それに簡単に収拾できない問題が起こった時に、私たちのせいにされかねないわよ」

「あー、そういえばそうでした。あっちが早く見つけて情報回してくれることに期待したほうがいいですかね」

「そのほうがいいわ。あいつらだってサボるどころか、寝る間も惜しんで動いてるわよ。バドゥー・ロットは大陸外の勢力ともつるんでるっぽいから、そっちの関連で情報部も必死よ」

「でしたら、下手に引っ掻き回すのは良くないですね。大人しく御曹司の監視を続けましょうか」


 手をこまねくのはストレスになるけどしょうがない。その代わり、見つけた時には容赦なくぶちのめす。

 護衛は護衛らしく妹ちゃんの周囲を固め、居所の分かってる敵の大将を監視するだけで十分だ。

 手持ちのタリスマンがまた壊れた時、そのペースを計りながら危機感を募らせる感じかな。

 今のところ、まだ切羽詰まるほどの状況とは思わない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況が混沌となる前に整理していただけたのは嬉しいですね。 そもそもここに来た理由である御曹司ですが 今の所は妹ちゃんに接触してきてないんですよねぇ 総帥の話とは少し食い違い出してる? [気…
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