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お手紙出します

・キキョウ会、募集要項、女子求む

【種族】不問

【出身】不問

【身分】不問

【年齢】不問

【経歴】不問

【条件】女子に限る

【報酬】成果次第

【待遇】十分な食事と住居の提供、傷病治療

【職種】各分野を募集、応相談

【危険】命の保証なし、常なる危険

【期間】命ある限り


【集合場所】稲妻通り、キキョウ会前。

【集合日時】明日の午前及び、三日後の午後のどちらか。指定日の午前、午後の範囲内で任意の時間。


※研修期間あり。研修期間中に既定の基準を満たさない場合、不合格とす。研修期間中の待遇保障。

※意欲ある者、能力を活かしたい者、何かを求める者、キキョウ会まで来られたし。



「こんな感じでどう?」


 朝から事務所に集まるキキョウ会一同。

 夜なべして作り上げた募集要項を見せてみれば、どうにもかんばしくない反応だ。割と自信あったんだけど、おかしいわね。


「……こんな感じ?」

「ユカリ、本気か?」

「命の保証なし、常なる危険。そのとおりではあるが」

「これでノコノコやってくるような奴はバカだろ。あたしはバカな奴が好きだけどよ」

「まあ、ぬるい奴にこられてもしょうがね-ってのはあるな。しっかし、これで集まるのか?」

「正直すぎると思いますけれど……いえ、これで募集に応じるのであれば、たしかに期待のできる新人ですね」


 ほかの面々からも微妙な評価が聞こえる。正直でいいと思うんだけどね。

 これからはヤバい場面には事欠かない予定の我がキキョウ会だ。生半可な覚悟の奴は求めてない。


「誰も応募してこなかったら、変えればいいのよ。いいからこれで行くわよ」


 何枚か作ったんで、外回り組にはどこかに貼ってきてもらう。問題はどこに貼るかだ。


「稲妻通りと六番通りに貼るので構わないか? 掲示板もあるしそこなら貼っても文句は言われまい」


 いつも活動してる通りに貼ったほうが効果は高いはずだ。

 なんでも行政が管理してる掲示板は、誰でも掲示物を貼ることができるらしい。特別な許可を得たもの以外は、深夜には剝がされてしまうので注意が必要だけど。転じて、その日一日だけに限れば、許可はいらずに勝手に貼ってもいいわけだ。


「あとはギラついた目の根性ありそうな連中が集まるところか」

「それならスラムとか難民区画だろうな。どうする?」


 うーん、そこは正直迷うわね。野心や向上心のある奴がいそうではあるけど、本当にダメな奴も混ざってそうだし、そういうのに時間を取られたくない。


「ユカリ、心配ねえよ。舐めた態度のふざけた奴がいれば、丁重にお帰り願っとけばいいだろ? いつもと変わんねえ」

「それもそうね。じゃあ、そこら辺にも貼り出しといて。頼んだわよ」


 見回り組と学習組を見送って、応接用のソファーにふんぞり返る。

 募集に応じて集まるかどうか、まずは明日だ。少しは期待してみよう。


 本部待機当番のグラデーナと見習いのロベルタ、ヴィオランテに留守を任せて、私は手紙を出しにちょっと外出だ。

 留守番と言ってもボーっと待機するわけじゃなく、見習いは地下訓練場でグラデーナにしごいてもらってる。おいしい昼食でも買って帰るから、頑張って欲しい。



 ギルドには商業ギルド以外、行ったことがないから結構楽しみだ。どんな雰囲気なんだろう。

 まずは一番近くの冒険者ギルドに立ち寄ってみれば、最初に目を引くのは商業ギルドと同じような受付カウンターに、綺麗どころの受付嬢だ。依頼が張り出されてると思しき大きなボードもある。それから食堂らしき奥に続く部屋だ。


 ギルド内のあちこで武装した冒険者が話し込んだりなんだりやってる。特にこっちに目を向けてくるのもいないし、絡まれたりする展開はなさそうだ。混み合う時間帯とは違うのか、それほど人数は多くない。


 空いてるカウンターに向かうと、グラマラスで都会的な美貌の受付嬢がにっこりと笑顔で迎えてくれた。

 うん、さすがだ。これなら荒くれ冒険者なんかイチコロだろう。

 もちろん私にお色気など通用しないし、相手にもそんなつもりはないだろう。あくまでもいつもどおり、自然体での応対に違いない。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めて見る顔ね。ご用件は?」


 随分とフレンドリーな感じね。まあ嫌いじゃない。


「手紙を届けて欲しいんだけど。これも依頼になる?」

「そうね、依頼という形で受注することになるわ。どこの街まで?」

「あー、それが分かんないのよ。冒険者のオフィリア宛なんだけど」

「オフィリア……この街にはいないと思うわ。ほかのギルド支部経由だと同名がいないとは限らないし、名前だけじゃね。パーティー名は分かる?」


 しまった、そこまで聞いてなかったわね。いきなりつまづいてしまったようだ。


「何か手掛かりはない? 例えばほかの仲間の名前とか」


 どうしたもんかと困ってると、グラマーさんは助け舟を出してくれた。


「あ、それなら。アルベルトってエルフがいるわね。あとはヴェローネにリリアーヌにミーア、だったかな」


 オフィリアの仲間の名前を挙げると、グラマーさんは綺麗な字でメモを取っていく。


「それだけ分かれば十分ね。でもギルド間通信で所在を探す事になるから、料金は高くなるわよ?」

「しょうがないわ。ちなみにいくら?」

「通信料が結構高いのよ。一回で済めばそれほどでもないんだけど、手掛かりも無いんじゃ各ギルド支部へ虱潰しらみつぶしに連絡することになるから」

「やってみなきゃ、分からないってことね」

「そういうこと。最悪、見つからなくても通信料は払ってもらうことになるけど、どうする?」

「頼むわ。手付はどのくらい払ったらいい?」

-

 予定外の出費だけどしょうがない。また明日、結果を聞きにきて、追加の料金が必要ならその時に払うことになった。

 ついでに王都の様子を訊いてみると、多くの人が復興のために尽力してる真っ最中らしい。そういうことならゼノビアとカロリーヌは王都にまだいるかもしれないってことで、追加で王都の傭兵ギルドまで手紙の配達を頼んでおいた。


 正式に依頼するとなれば、書類に必要事項を書かないといけない。グラマーさんが見てる前で名前を書くと「へぇー、あなたがあの」なんて、意味ありげに言われてしまった。どんな風に伝わってるのか興味はあったけど、まあいいや。


「そんじゃ、また明日」

「ええ、また明日ね」


 魅力的な笑顔で見送るグラマーさんに、改めて感心する。

 美人で愛嬌があって、おまけにグラマー。ついでに肝まで据わってそうだ。あれならベテラン冒険者だろうがイケイケの新人だろうが、男なら手玉に取るどころか骨抜きにしてみせるだろう。



 冒険者ギルドを出たら、続けて治癒師ギルドに直行だ。

 中に入ってみれば、今度も同じような受付カウンターが出迎える。ただし、ここの受付にいたのは綺麗どころじゃなく、神経質そうな眼鏡をかけたおっさんや暇そうなおばさんだった。

 ほかのギルドとは違って、客商売ってよりは仕方なくやってるお役所みたいな雰囲気だ。第一印象はあんまし良くない。


 治癒師はその需要の高い魔法能力のため、社会的な地位も相応に高い。特にギルド勤めともなれば、エリートに分類される人たちなのかもしれない。

 受付の態度はサービス業といった感じとはほど遠く、単なる受付と言えどもプライドの高さが滲み出るかのようだ。


 まあいい。相手の態度がどうだろうが、用事を済ませるだけだ。こっちだって仲良くしたいなんて思ってない。

 微妙に歓迎されてない空気をものともせず、たまたま目の合ったおっさんのところに行った。


「要件は手短に」


 受付カウンターの前に立ってみれば、いきなりこれだ。まともな挨拶さえない、なんとも素っ気ない反応。

 話が早いとでも考えればいいか。さっさと用事を済ませて帰ろう。


「えーっと、荷物を届けて欲しいんだけど」

「ふん、荷物? 治癒師ギルドは配達屋ではない。冒険者ギルドに行ったらどうだ」


 言い方としては手紙を届けてくれと言ったほうが良かったのかもしれない。でも回復薬を同封した手紙だから、単に手紙を送るってよりは荷物の配達になってしまうだろう。好意的に解釈してやれば、誤解が招いたふざけた反応と言えなくもない。

 でもね。あー、喧嘩売りにきたつもりはないってのにムカつく野郎だ。


 ローザベルさんとは治癒師ギルドから手紙を出すって話してあるから、こっちはそれをやりたいだけだってのにね。私には舐めた態度を取られる理由なんてない。

 いったいどういうつもりなんだろうか。ちょっと言わずにはいられない。


「あのさ、あんたね。知り合いの治癒師からは、治癒師ギルドから送れって言われたから、こっちはわざわざ足を運んでんのよ。そのふざけた態度はどういうつもりよ?」

「ふん、どこの治癒師が言ったか知らんが、さっさと帰るのだな。ここは配達屋ではない、何度も言わせるな」


 あったまきた。もういい。

 これ以上、なんか言われたら我慢できない。キレて暴れる前に退散しよう。治癒師ギルドめ。

 話の通じないアホにこれ以上は付き合ってられない。


「ちょっと! 待ちなさい。一応、誰から言われたのか聞かせなさい」


 無言できびすを返すと、今度はおばさんから声がかかった。


「おい、余計な事をするな。せっかく追い払ったというのに」

「まあ待ちなさい。治癒師宛の手紙や荷物を預かるのは、本来の業務の内よ」


 はあ? ふざけた奴らね。


「あのさ、やる気ないなら、こんなところに用なんかないわけ。あんまりふざけたこと言ってると容赦しないわよ」

「おい、女。お前如きに何ができるんだ? こっちこそ容赦せんぞ」

「こら待ちなさい! あなたも、いいから誰に頼まれたのか教えなさい。早く!」


 こっちは問題を起こさないよう、穏便にしてやってるってのに。

 いい加減、ブチギレそうだ。


「……ローザベルよ。そんじゃ、もう二度とこないわ」

「ちょ、ちょっと待て! ローザベル、様だと!?」

「まさか! いや、ちょっと待って。あなたの名前は!?」

「うるさいわね。なんなのよ」

「いいから、名前は!」


 なぜか焦り出した、おっさんとおばさん。ほかの冷たい目で見守ってた治癒師たちも、驚いたように右往左往し始めた。


「一回しか言わないから、よく聞きなさい。私は紫乃上、これ以上のふざけた真似は許さないわ」

「で、デタラメだ! 嘘吐き女め!」


 おっさんが急に怒って、なぜか私を罵倒した。意味不明だ。

 深いため息の一つも吐きたくなる。私は静かな怒りを拳に込めつつ、受付に向かって戻ることにした。

 前に立った私におっさんが何事かを言おうとした瞬間。頑丈そうなカウンター机の上に身を乗り出し、肩から大きく振り上げた拳を真っすぐに振り下ろした。


 結果はこれ以上なく分かりやすい。

 たった一発の拳によってめちゃくちゃに破壊されたカウンターは、小さな拳を穿たれたとは思えないほど派手に粉砕された。

 信じられないものを見たかのように、静まり返る治癒師ギルド。


「――許さないと言ったはず。次はあんたらをぶちのめすわよ。ここなら治癒魔法使いがたくさんいるからね、死なない程度にしてやるか安心なさい。回復魔法が使えて良かったわね?」


 私の気合に呑まれたんだろう。黙ったままのこいつらに構う気はしない。帰ろう。


「ま、待って! ちょっと待ってください。あなたはユカリノーウェ、いえ、ユカリノーウェ様で間違いないのですね?」


 おばさんが立ち直ってまた話が始まった。こっちには、もう用はない。


「しつこいわね」

「申し訳ありませんっ。ユカリノーウェ様からローザベル様への預かりもので間違いないでしょうか」

「さっきからそう言ってるわ。いい加減にしなさい」


 また怒りを表す私に、青い顔になる治癒師ども。そっちから売った喧嘩のくせに情けない奴らだ。

 とりあえず、あの無礼なおっさんを殴ってから帰ろうかと思ってると、新たなおっさんのご登場だ。


「なんの騒ぎだ」


 また偉そうなのが出たわね。


「ギルド長!」

「その、ローザベル様から通達のあった、例の件です」


 ほう、ギルド長のお出ましか。偉そうなおっさんは、カウンターの惨状を見てなんとなく事情を察したようだ。

 それにしても職員の教育が全然なってない。これは偉い奴らの責任だろう。


「申し訳ない、不手際があったようだ。別室で話を伺おう」


 意外にも詫びてきた。

 それに面倒でも、ギルド長の立場にある奴をないがしろにするわけにはいかないか。ギルド長やってるだけあって、話は通じそうだし。


「ふう。人の話をきちんと聞く。治癒師ギルドってのはたったそれだけのことに、大きな回り道が必要みたいね。まったく、大したもんだわ」

「貴様っ!」


 懲りない受付のおっさんが瞬発力よく私の皮肉に反応した。でも、その直後にギルド長が鋭い一瞥を投げかけ黙らせてしまう。


「重ね重ね申し訳ない。おい、お前は一緒にきなさい」


 呼びつけたおばさんを伴って、私を別室とやらに先導するギルド長だ。

 やっと本題に入れるみたいね。



 これ以上の邪魔が入ることを嫌ったのか、応接室じゃなくてギルド長の執務室に招かれた。

 ギルド長の趣味なのか部屋にはなんと、メイドさんがいてお茶の準備を始めてくれたじゃないか。これにはちょっと驚いた。


「改めて名乗ろう。エクセンブラ治癒師ギルドのテルミオーデだ。此度の不手際にはご寛恕かんじょ願いたい」

「もういいわ。ギルド長自らの謝罪を無下にはできないしね。それにカウンター壊しちゃったし、チャラにしてくれるならそれでいいわよ」

「なんともざっくばらんな女だな。こちらの不手際の手前、そうなるのもやむを得んか。ローザベル様の客人でなかったら、許さんところだが」


 若干、不愉快そうなギルド長だ。こっちも普通なら丁重に応対するところだけど、あんなことがあっちゃね。丁寧に応じてやる気なんて完全に失せた。

 メイドさんが注ぐ紅茶の香りに、私のささくれ立った心もちょっとは落ち着きを取り戻した。


「それで? ローザベルさんから、なんか聞いてるみたいだけど」


 入れてもらった香りのよい紅茶に満足しながら話を促してやる。


「そうだ。少し前、各地の治癒師ギルドに通達があってな。ユカリノーウェと名乗る人物から、自分宛ての手紙と荷物を預かったら最優先で届けろとな」

「ああ、ローザベルさんは治癒師ギルドの重鎮だったわね。気を利かせといてくれたのか」

「ローザベル様からは、くれぐれも失礼の無いようにと伺っていたのだが、まさかこんな事になろうとは。そなたの実力や気性も伝わっていたが、まさに伝え聞くとおりだな」


 胡乱な目で私を見るギルド長。ローザベルさん、どんな風に私のことを伝えたのやら。


「話が通ってるなら、なんであんなことになるのか疑問ね。まあいいわ。手紙と荷物を持ってきたから、それを届けてちょうだい。用件はそれだけよ」

「中身については詮索無用となっているのだが、聞いてはならんのか?」

「ダメよ。ギルド長、はっきり言って、ここの職員は質が低いわ。念を押しとくけど、この荷物を詮索するような真似をすれば、ローザベルさんの威光は関係なく、このキキョウ紋に喧嘩を売ったと見做すわ。いくらギルドがかばい立てようと、そいつには必ず報いを受けさせる。覚えときなさい」


 質が低いの辺りでおばさんが気色ばんだけど、私の威圧に押し黙った。これは脅しじゃない。それくらいは理解してくれたらしい。

 それにギルド長を務めるほどの人物なら、この墨色の外套が普通じゃないってことくらいは理解できるはず。私の実力も分かってるなら、これ以上の下手は打たないと思っていいかな。


「……キキョウ会か。噂程度には聞いているが、それ以上のようだな。分かった、荷物は儂が自ら預かろう」

「へえ、ギルド長が自分で届けに行ってくれるってわけ?」

「職員の質の低さは言い訳できん。そなたの言っている事が本気であろう事も理解している。自分でやるしかあるまい」

「ギルド長、いくらなんでもご自分でなんて!」


 うん、まさかギルド長を使いっ走りにしちゃ、私が悪者みたいじゃないか。そこまでは望んでないんだけどね。ようはきちんと仕事しろってだけの話なんだ。


「ローザベル様が滞在されている街には用事があったところだ。なに、そのついでにすぎんよ」

「そう? そこまで言うなら、こっちに文句ないわ。ギルド長になら任せられる。ローザベルさんによろしくね」

うけたまわった。出発は少し先になるが構わないな?」

「あまりにも遅くなるなら別だけど、そうじゃないなら構わないわ」


 数日程度らしいから、それくらいは問題ない。あとは任せて退散だ。


 帰り際、壊れたカウンターを見ないふりしてさっさと帰った。あの場にいたおっさんたちがせっせと掃除してたし、こっちに向ける視線が気にはなったけど、目を合わせるとロクなことになりそうもない。せっかく話が付いたんだしね、余計なことはやめておくに限る。


 ギルドの近くでおいしそうなジャンクフードをたんまり買って、本部に帰ろう。

 ただ手紙出すだけだってのに、なんだかやたら疲れたわね。

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