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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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隠し事は暴きたくなる

 発信器付きの指輪を回収したら、まずはいったん寮の部屋に戻る。

 そしてまた指輪を部屋に置いて装備を整えたら行動開始だ。今夜もゆっくりしてる暇がない。

 よし、切り替えだ。ここからは隠密行動を心掛ける。あんまり得意な分野じゃないけど、便利な道具もあるし頑張ってみよう。


 教員用の寮を出て最初に向かった先は学生寮だ。

 外から探ってみれば、どうやら妹ちゃんの部屋にみんな集まってるらしい。その部屋の窓に小石をぶつける。

 即座に警戒する気配。そして窓が開かれ、ヴィオランテが顔を出した。


「……ユカリさんでしたか」


 物陰から姿を現してやれば、風の魔法を使った小声で話しかけられた。


「驚かせて悪いわね。ちょっくらそっちに邪魔するわよ」

「はい。みんな、ユカリさんが部屋に入るから静かにして」

「お姉さま!」

「こら、ヴァレリア! 静かにって」

「ロベルタもうるさいよ」


 楽しそうで何よりだ。護衛対象の妹ちゃんも、これなら退屈しなくて済んでるだろう。

 大きく開かれた窓から軽いジャンプで入り込んだ。


「どうしたのですか、お姉さま。正面から入っても大丈夫だと思いますけど」

「人目を避けるってことは厄介事ですか?」


 悲しいことに厄介事が常について回る人生だ。


「まあね。妹ちゃん、そっちは問題なさそうね」

「今のところ妙な気配はありませんね。皆さんの護衛が抑止力になっているのかもしれません。特にハリエットさんはいつも一緒にいてくれますから」

「わたしのほうが傍にいないと落ち着かないだけですよ。倶楽部まで同じにしてしまって申し訳ないです」

「そんなことはありませんわ。心強いです」


 警備局幹部補佐のハリエットは、警護要員としてゼノビア局長から推薦される逸材だ。彼女が張り付いてるだけで私たちは安心できる。学院内で警戒しすぎても悪目立ちするから、ハリエットが妹ちゃんと仲良しな感じで一緒にいてくれるのはちょうどいい。


「わたしもお姉さまの魔道人形倶楽部に入り直したいです」

「ダメだよ、ヴァレリア。簡単に辞めたり入ったりはできないって最初に言われたし」

「まさかユカリさんが顧問になるとは思っていなかったです。分かっていれば、わたしたちもそちらに入ったのですが……」


 ヴァレリアとロベルタとヴィオランテは、三人でいるところを勧誘されて演劇部に入ったらしい。みんな可愛いし良く鍛えてるから目に留まったんだろう。留学生っていう注目度の高さも関係したのかな。なんにしても、こうした経験はエクセンブラにいる時じゃできないから貴重だ。


「積極的に学生活動するように言ったのは私だからね、倶楽部活動は好きにやって構わないわ。その活動で学院外に頻繁に出るわけでもないんだし。私の顧問の話も急に決まったことだからしょうがないわよ。せっかくなんだから、演劇部のほうも楽しみなさい。さて、もうちょっと話したいけどやることがあってね」

「なんですか、殴り込みですか」

「似たようなもんだけど、生徒会棟に忍び込むわ」

「あそこですか。レイラからかなり厳重な警戒網が敷かれていると聞きました。強引に仕掛けるおつもりですか?」


 ずっと学院にいた彼女たちにとっては、どうして急にって感じだろう。まずは説明だ。さっき起こった繁華街での出来事を話してやった。


「尾行から襲撃、そして青コートの関与。さらには殴り込みに怪盗ギルドですか……忙しく動いていますわね」

「他人事じゃないわよ、妹ちゃん。今は裏だけでの動きでも、あんたの敵も黙ったままのはずはないわ。アナスタシア・ユニオンが愚連隊と関わってる可能性だってあるしね。なにがどう繋がってるか、分かったもんじゃないわ」

「そうした可能性はあまり考えたくないのですが……」

「だからこその揺さぶりですね。一つ一つを積み重ねて暴くしかないです」

「そういうことよ、ヴィオランテ。さすがに生徒相手に尋問するわけにはいかないしね。なんにしても生徒会棟はかなり怪しいわ。もし侵入がバレたところであいつら秘密を抱えてるっぽいし、下手に騒ぎ立てないんじゃないかとも期待できるわ」

「異常な警戒レベルですからね」


 みんなの認識が改まったところで、そろそろ動こう。


「通信のイヤリングはみんなオンにしといて。学院の中の動きと学院外から誰か入ってこないか、全周警戒で。任せるから頼むわよ」

「はい! なにかあればお姉さまに報せます」

「ロベルタは私に幻影魔法使って。姿を完全に隠したいわ」

「わたしも一緒に行きますか?」

「一人のほうが動きやすいからいい。それにレイラが引っ掛かる警戒網よ、かわし切れる自信ある?」

「あー、やめときます」


 レイラが探ってくれた情報を今回に活かす。最悪バレても、私がやったとまでは分からないようにするつもりだ。

 可能なら秘密を探ったあとで、わざとらしく警戒網に引っ掛かってからとんずらするのもいい。精神的な負担をかけてやる。


「じゃ、始めるわよ。ロベルタ」

「いきます!」


 ロベルタの幻影魔法が私の体に作用し、透明人間のようになる。

 よーく目を凝らしても、じっとしてれば分からないくらい風景に溶け込んでる。気配を絶ち魔力も極限まで抑えれば、特殊な能力の持ち主かよっぽど勘の鋭い奴でもないと気付けないだろう。


「うん、いいわね。状況に変化があったら、すぐに連絡しなさい。そんじゃ行ってくる」

「いってらっしゃい、お姉さま」


 妹分のエールを背に窓から飛び出し、生徒会棟に向かってまっしぐらだ。

 生徒会棟以外に意識を割かないでいいのが助かる。持つべきものは仲間よね。



 ――秘密を探る。

 本当に隠しときたい何かがあるなら、その秘密が存在するとは思わせないことがベストだ。

 何にも怪しいところがなければ、そもそも興味さえ持たれない。

 逆に綺麗すぎて何かあるだろと疑う奴はいるかもしれないけど、探るべき対象としての取っ掛かりがなければ、ピンポイントで探し当てることは相当難しい。


 まったく秘密なんかありませんとオープンにしとくか、もしくはこれ見よがしに秘密を置くのもいい。それを苦労して暴いたところで、なんら意味がないようなハズレを置いとくとかね。

 あるいは適度な秘密をおとりにして、本当に知られたくないことを隠すのも一つの手だ。


 我がキキョウ会の場合には内部にスパイが潜り込んでることもあって、そうした仕込みは多重に張り巡らされてる。手が込みすぎてて、会長の私でも何が嘘で何が真実かよく分かんないことまであるくらいだ。

 どんな秘密を入手したところで真偽不明な事柄だったら、結局は妄想やゴシップ誌の与太記事レベルと大差ない。


 清廉潔白を売りにしてる奴ならともかく、ウチのような悪党には悪評が付き物でもある。与太記事なんぞが出回ったところで、世間だって話半分にも信じやしない。そんな状況を用意できれば、もう何を言われたところでダメージにならない。

 例え本当に痛い所を指摘されたとしてもだ。知らぬ存ぜぬ、いつもの与太話だろうと開き直れる。

 まあ悪党が悪を成すのは普通のことだからね、意外に思わない事なら驚きだってないんだ。そうなれば大した関心も寄せられない。


 ひるがえって、聖エメラルダ女学院の生徒会はどうだろうね。

 名門中の名門、貴族を中心に大商会の娘などが集う乙女の園。そんな学院で権勢を振るう生徒会だ。悪評など、あってはならない組織のはず。

 真実がどうであれ、多くの生徒たちにどう思われてるにしても、少なくとも世間体は大事にするはずだ。


 高貴な血筋の女子が通う、大陸随一の名門女学校。そこでスキャンダルがあったらもう大事件だ。普通なら権力者が出張ってきて、握り潰されるような事態に違いない。

 でも私は記者じゃない。むしろ権力者側のオーダーによって悪ガキどもを懲らしめる役割で、秘密を知ったからってどうこうするつもりだって特にない。仮に私が生徒の悪事を世間に公表しようなんてしても、結局は大きな権力に握り潰されるだけなんだから意味がない。指導のために利用できればそれだけでいい。


「いくら権力者の娘だからって、調子に乗るのも大概にしろってね。釘を刺して、少しくらい痛い目に遭わせるのが私に期待されてる事なんだろうね」


 ぬるい環境で成功体験を積み重ねても、そんなものは本物の悪意が渦巻く権力闘争の場じゃ、なんの役にも立ちはしない。

 失敗も勉強だ。そういったことも学ばせてやりたいってことなのかな。たしかに、あんなセキュリティを突破して悪ガキを叱ろうなんて、普通の教師には無理難題ってもんだ。いや、私たちだってかなり厳しいからね。まったく、とんでもない悪ガキどもだ。



 幻影魔法によって透明化したまま、生徒会棟を前にした。

 先日、レイラが侵入を試みてから警戒度は上がったままだ。

 具体的には警備用魔道具が一つ追加され、夜間でも門番が二人立つようになった。魔道具の追加はともかく、学院内での夜警なんか生徒がやるこっちゃない。

 こんなことしても無意味だって教えてやる意味でも、敗北を味合わせてやる意味でも、今回は頑張ってみよう。


 生徒会棟に配備された魔道具の場所と効果は、すでにある程度まで把握し全体像の予測と共に立ってる。

 レイラの所感とその後の調査、そして私の魔力感知を頼りにして、まあいいとこ八割くらいは看破できてるように思う。完璧に全部を把握することは無理だから、これで十分。あとはでたとこ勝負だ。


 透明化の効果を確かめるべく遠目から門番の前に姿を晒しても大丈夫だったことから、堂々と歩いて目視で観察しながら改めて魔力感知を実施する。

 内部のどこが怪しいか、すでに当たりは付いてる。建物がビルみたいに大きいから、忍び込んで全部の場所を探るのはちょっと手間が掛かりすぎる。分かり易く警備が厳重な場所に絞りそこを目指す。


 生徒会長室ってのが噂によると最上階にあるみたいだし、実際に警備用魔道具も厳重に感じる。ただ、いくらなんでもそこは分かり易すぎる。秘密を隠すにしても安直すぎて、罠しかないんじゃないかと思ってしまうう。人によっちゃ、手元にないと安心できないタイプもいるから一概には言えないのが難しいところだ。今回は勘に従って、もう一つの警備厳重な部屋を目指す。


 ざっと調べてみた限り、生身じゃどこから侵入するのも難しい。

 正面入り口は当然厳しいし、裏口のような別の出入り口は存在しない。窓にも壁にもなにかしらのセンサーが作用してる感じだ。単純に破壊してしまえば、異常を検知して警報を鳴らすようにもなってる。

 多重に組まれ連動した非常に厳しい警戒態勢。これは私の魔法能力じゃ、秘密裏に突破するのはちょっと無理目に思える。

 ところが無人ならともかく、人がいるなら隙が生じる。必ずね。


 建物周辺から魔力感知と目視で可能な限りの情報を集め、内部の状況を想定する事しばらく。やっぱり動いた。

 見張りに立つ二人組のうち、一人が持ち場から生徒会棟の中に向かって歩き出した。


 チャンス到来。魔力と気配を断ち、背後霊のように門番の後ろに張り付く。こんな間近にいるのに、二人して全然気づかないなんてちょっと笑えてしまうけどね。しょうがないことだ。


 門番が魔力認証キーを通すと、入り口のドアが横にスライドして開いた。

 便乗してまんまと通過だ。中に入ってしまえばこっちのもの。外側の警戒よりはだいぶ弛む。特に一階通路は門番がお手洗いやなんかで使ってるみたいだから、行動に制限が掛からない。


 門番が用を済ませて出て行くまでは大人しく待機し、出て行ったら行動再開だ。

 よし、こっからは地下に向かう。何かを隠すなら地下ってのは相場だ。現に警備用魔道具の数を感知してしまえば、何かがあるってのがよく分かる。そこからが本番だ。


 地下への入り口を探してみれば、もうこれが当たりで間違いないと確信できるような秘密の扉を発見した。

 不自然に偽装された魔法は返って私の注意を引く。単なる壁に偽装された扉こそが地下への入り口だったんだ。しかも、まるで金庫室のように厳重な扉となれば怪しさ満点。


「厳重な扉に鍵か……いちいち面倒ね」


 これは魔力認証キーにプラスして、物理キーを使って開ける扉だ。厳重な扉を強引に開けようとすれば、中の警報や罠の魔道具が連動して作動しそうな気がする。少しばかりの時間をかけて仕組みを探ってみる。


「ふーむ、解錠に同期して内部の警報が止まるシステムか。なら強引に突破するのは下策ね」


 どれだけ頑丈な扉だろうが、私なら力技でどうとでもできる。後のことなど考えなければ、全部をぶっ壊して先に進める。でも丁寧に解錠してやれば、秘密裏に特ダネを獲得できる。そっちのほうが面白そうだ。力技よりも技術で突破してやったほうが、鼻を明かせるとも思う。

 いったいどうやって、なぜ知っている、誰か裏切り者が、なんて思わせる状況に持っていけるかもしれない。鼻持ちならない貴族のお嬢様には、力技を見せてやるより教育としても効果が高そうだ。


「しょうがない。コストはかかるけどここは道具を使うか」


 方針を決め、ポーチから取り出したのは大きな針状の魔道具だ。狭い鍵穴に差し込んで魔力を流してやれば、針状の金属が鍵穴に合わせて変化していく。どんなに複雑な形状だろうが、高価な魔道具は注文通りの結果を出してくれる。これは一度使ったら、ほかの扉には使えないから実質使い捨てみたいなもんだ。使い捨ての割にはかなり高価だから、そこらのコソ泥程度じゃ絶対に手が届かない物でもある。


 この魔道具の利点として、使用者は何も考えずに魔力を流すだけでいいから、私は魔力認証キーの突破と警備用魔道具への連動のほうに意識を割ける。単独での隠密行動が必要な際には非常に重宝する道具だ。


 鍵の仕組みとしてこのタイプの扉は、たぶん物理キーと同時に魔力認証キーも突破しないといけない。

 魔力認証タイプはさっき入り口にあったものと同じだ。この辺がまだ甘い。全然違う仕組みの鍵ならまだしも、同じものを使ってたんじゃね。私はすでに見たぞ。

 魔力の流れと認証方式、そして解錠の動きが分かってれば、認証をすっ飛ばして魔力操作だけでも解錠に持っていける。繊細な魔力感知と操作が組み合わさり、やり方さえ分かってればなんてことはない。


 少々の時間が掛かって物理キーが完成し、魔力操作もスタンバイ完了、そしていざ解錠。

 鍵を回すとガチンッと思いのほか大きな音が鳴る……大丈夫、門番には気付かれてない。


「よし、突破した」


 そっと扉を開けたら、あとはイージーモードだ。

 厳重な扉の解錠に連動して警備用魔道具は自動でオフになった。それでも一応の警戒は怠らずに地下に入り込む。

 ざっと調べてみた限りじゃ、隠し扉の向こうの警備用魔道具は尋常じゃない。作動したなら、これは相手を殺しかねない威力の攻撃的魔道具だ。とてもじゃないけど学院内の設備として行き過ぎてる。怪しいなんてもんじゃない。


 地下二階程度の深さはある螺旋階段を下り終えれば、その先に通路などはない。降り立ったそこが唯一の部屋だ。


「部屋っていうか、金庫室そのものね」


 壁際の棚には大量の書類のほか、宝石や宝飾品がずらりと並び、雑に床に積まれた金塊や金貨はそれだけで一財産だ。美術品やアーティファクト級の魔道具まで転がってる。

 さすがは大陸随一の長き歴史を誇る名門校、その生徒会が所有する財産だけのことはある。我がキキョウ会の金庫室よりずっとバラエティ豊かじゃないか。


 どういった経緯で手に入れた物か想像もつかない物品までたくさんある。生徒会の予算は莫大だろうだから、それを物に変え続けた結果がこれなんだろうか。

 まあ破格の金持ちが集まる学院と思えば、そう不思議じゃない。


「ふふ、まだまだ甘いわね」


 泥棒の目を誤魔化すには、ちょっと工夫が足りない。棚の一部が良く動かされてるようで、床に傷の目立つ箇所があった。

 棚をずらしてみれば案の定だ。隠された物入があった。


「やっぱり。こんなもんを隠してやがったか」


 手に取ってみたのはブロック状に包装された物体だ。これが棚の奥の空洞にいくつも押し込められてる。

 包装を破ってみるまでもなく分かる。中身は粉、それも直近で私が関わったことのあるもの。エクスタシー系のドラッグだ。


「いや、それだけじゃないわね」


 ブロック状に包装された物体は、いくつかの種類があった。エクスタシーだけじゃない。多種多様の麻薬じゃないか。

 待てよ。愚連隊ジエンコ・ニギが、ドラッグを誰かに奪われたなんて事件もあったはずだ。普通に誰からか買ったって線もあるけど、まさかもあり得る。

 一体全体、なにをやってんのよ。ここの生徒会は。

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[良い点] >指輪 うーむ受け取った直後は首輪をはめられたかとも感じましたが 上手い事アリバイ工作に使ってますねぇwww ―――◇◇◇―――◇◇◇――― >他の破壊工作員……もとい護衛部隊の面々…
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