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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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進化する魔道具技術、変化する規制

 通行証として渡されたブレスレットは魔法封じの腕輪と同じ効力を持つようだ。

 銀の細いブレスレットは普通のアクセサリーっぽく見えるのに、これがまさか魔法封じの力を持つとは恐れ入る。この国は魔道具の本場ってこともあるし、想像以上に技術は進歩してるらしい。


 こういった魔道具は本来なら犯罪者に対してや、特別な警備が敷かれた場所で使う物だ。国の管理下に置かれて使用する危険な物。少なくともこんな盛り場で気軽に使うようなもんじゃない。もしかしたら魔道具の規制が緩んだことが影響してるのかもしれない。というか、まさにそうなんだろう。

 さすがにアングラな道具をそこらの店で通行証として、しかも口の軽そうな若者たちに気軽に渡すとは思えない。今となっては合法なんだろうね。もちろんそれなりに値の張る代物だろうけど。


 いや、待てよ。


「魔法封じの腕輪を私につけさせて、逆襲を狙う魂胆?」


 普通のアクセサリーっぽく見えるこれを魔道具と見抜くのは、常識的にはなかなか困難だと思える。あらかじめ知ってるか、瞬時に魔道具としての機能を見抜く技術がなければ、まんまと自ら身に着けてしまうことになる。

 私は魔法封じの腕輪は以前にかなり研究したから、形状が変わってようが多少の進化があろうがすぐに気づけるけど、そうじゃなければ疑いもせずにただの通行証だと思ってしまうのが普通だろう。


「あれ、なんか中途半端な代物ね」


 手を輪っかに通して身に着けるタイプのこれには、手首を締め付ける機能などはない。手を細めるだけで付け外しが自由だ。

 これまでに見てきた物は、一度つけてしまえば外すには鍵が必要だった。破壊が難しく特殊な鍵を使わない限りは外せないからこそ、危険な魔道具だったんだ。

 なるほどね、普通に外せるなら通行証としていい感じに使えそうだと思う。サンプルとしてこれはもらっとこう。


 ブレスレットをポケットに仕舞いつつ、この場で使う通行証はインチキ魔法を使って代わりの物を用意した。見た目だけならまったく同じだ。

 偽のブレスレットを手首につけ、さっさと二階に向かう。二人もぶっ倒してしまったのは、そう時間を置かずにバレるはず。騒ぎになる前に用事を済ませて撤収したい。


 ホールの入り口付近に戻って、左手のほうにあった通路に目を向ける。外から入ってきた時には、どうしても派手な盛り場のほうに目を向けがちだから、横に伸びる通路には気づかなかった。その短い通路を進んで角を曲がれば、上に続く階段とそこを守るように立つ男がいた。

 さり気なく行こう。通行証を付けた左腕を見せながら、立ち止まることなく階段に足をかけそのまま上がる。よし、問題ないみたいね。


 階段の上の光景はと言えば、まさに想像通りだ。内装だけなら高級クラブといった感じ。ただ、そこにいるのは分別をわきまえた年代の大人じゃなく、派手に遊ぶ若者が大半を占める。

 男と女、酒とドラッグ、カードなどを使った賭け事とバカ騒ぎ。絵に描いたように退廃的な空間だ。まだ親のすねをかじるガキの分際で、よくもああまで羽目を外せるもんだと思う。


 ざっと目を配り、ここでも不審に思われないよう、とりあえずはバーカウンターの前に陣取って酒を飲む。ちょっとだけ警戒したけど、混入物はなかった。

 どれどれ、学院の生徒はいるかな。


「……ふーん。ま、そうなるか」


 あっさりと見つけてしまった。そいつは最も人の集まってる辺りのソファー、その中心にいるように見えた。

 イーディス・リボンストラット、巻き毛の侯爵令嬢だ。タンクトップにショートパンツといった露出多めのファッションに派手なメイク、下品なアクセサリーの数々。とても侯爵令嬢とは思えないクラブ風ファッションだけど、髪型はあんまり変わってないから案外分かりやすい。

 しかしあの不良め、やっぱりいやがった。おごりの主ってのは、あいつだろうね。


 パーティーの主催者なのか、金を出すパトロンなのかは分からない。なんにしても、話題の愚連隊とは近しい関係なんだろう。そんな巻き毛には、ご機嫌取りか取り入ろうとでもしてるのか、多くの軽薄そうな奴らが話しかけてる。

 特に隣に密着するように座る大柄な男は、巻き毛の肩を抱いて親しげだ。普通に男女の関係っぽいけど、巻き毛は腐っても侯爵令嬢。大柄で下品そうな男は、とてもじゃないけど身分が高そうには思えない。まあ見た目がそうってだけで、実際のところは不明だけど。


「身分違いの恋に燃える二人……って感じでもないわね」


 私が見る限り、巻き毛は誰に話しかけられても気のない返事をするだけでアンニュイな雰囲気だ。なんかもう、目が死んでる。派手な空間の中心にいても、決して楽しそうには見えない。

 ましてや馴れ馴れしく肩を抱く男に恋心を抱いてるようには全然見えないし、むしろ自暴自棄になってるようにさえ思えてしまう。

 これはあれか。典型的な反抗期ってやつ? 親や家のほうでなんか問題を抱えて非行に走ってるとか。


 しかし不思議な奴だ。巻き毛はあれでも学院トップの成績優秀者だ。所詮は学生レベルだけど、学業でも魔法の実技でも文句のつけどころがない成績を残してる。おまけに金持ち貴族の侯爵令嬢で、淀んだ雰囲気と濁った目付きを除けば素材も悪くない。磨けば美少女と称しても良いくらいにはなるだろう。そんな少女が素行不良でこんな場所にいる。どんな事情があったら、ああもアンバランスでいられるんだろうね。


 じっと観察してたら、一瞬だけ目が合った気がした。それでも巻き毛はノーリアクションだ。さすがに私がユカリード・イーブルバンシーだと気づいたら、少しくらいは驚くだろう。気のせいだろうね。むしろ気づいてくれたら、余裕ぶったお嬢が慌てる姿を拝めたのかもしれない。


 それにしても、どうしたもんかな。あいつを連れ帰ろうにも、正面から行けばひと悶着ありそうだし、素直に言う事聞くとも思えない。


「ちっ、潮時か」


 下の動きが騒がしい。遊んでる連中とは明らかに別の動きを取る連中がいる。倒れたバーテンも含めて倉庫の奥のほうに隠しといたけど、バレたんだろう。

 今日のところはここまででいいかな。もうちょっと観察するか誰かに話でも聞きたかったけど、今夜はいくつかの収穫があったんだ。巻き毛の身に危険が迫ってる感じでもないし、これで帰るとしよう。


 堂々としてる奴は不審に思われにくい。まだ犯人捜しが本格的じゃなかったせいもあってか、普通に外に出られた。


「なんだ、もう帰るのか? 夜はこれからだってのによ」


 入り口の前に立ってる門番の男だ。まだいたのか。


「ゆっくりできるなら、そうするつもりだったけどね。なんか、トラブルがあったみたいよ。巻き込まれるのは面倒だからね、今日のところは帰るわ」

「トラブル? なにがあった」

「さあ? またくるわ」


 しらばっくれて退散だ。次の時には変装が必要かもしれない。

 賑やかさを増した通りを歩き、学院に戻ることにした。



 戻ってみれば、今度は客だ。今夜はまだゆっくりできそうにないらしい。

 私の寮の部屋をこっそり訪れたのは、情報収集を頼んでたレイラ。彼女とは二日後に話をするはずだった。こんな時間にわざわざ訪ねるってことは緊急だろう。無駄なやり取りを省いて報告させる。


「生徒会棟のセキュリティは想像以上に高度なものでした。侵入が察知されたかもしれません」

「あんたの魔法がバレたってこと?」

「警報などは鳴っていないのですが、魔力センサーに引っ掛かった気がします。気のせいなら良いのですが……」


 レイラの魔法は影の分身体を生み出すものだ。分身体には攻撃能力がなく、知覚のみを本体のレイラと共有する。生身で侵入することなく、大抵の場所に魔法の分身体を送り込めるため、調査には非常に重宝する能力だ。有効距離が短いのが欠点だけど、生徒会棟くらいの規模の建物なら、ある程度の距離を置いても余裕で網羅できる。

 情報局幹部補佐のレイラに油断があったはずはない。やっぱりベルリーザは魔道具の本場だけあって、想定以上の魔道具が設置されてたってことだろう。


「察知された気がする、か。レイラが違和感を覚えたんなら、ただの気のせいって考えるのは危険ね」

「はい。やはり警報が鳴らないのは、気になるポイントです」

「侵入者に気付いた、ということを気付かせずに泳がせる。そういったセキュリティなのかもね」

「その可能性があります。それとなのですが、学院内の聖域とも言える生徒会棟への侵入者となれば、新参者が疑われるのは間違いないかと……」


 普段起こらない事件が起これば、新入りが疑われるのは当然だ。でもどんなに高度な警備用魔道具だって、影の分身体を使った本人までは特定できないはず。レイラの能力を学院関係者が知るはずもないし、証拠など残らない。

 つまり、どんなに疑われようが、しらばっくれればいい。


「高度な警報装置はまだいいとして、侵入者に悟らせない用途は不気味としか言いようがないわ。怪しいわね」

「生徒が使う建物にしては行き過ぎた警備体制と思います」


 まったくだ。相手に気づいたことを悟らせない警報なんて、罠にはめるためのものに違いない。どんな意図でそれをやろうとしてるのか謎で不気味だ。レイラは魔法の分身体を使ったから影響なかったけど、きっと侵入者をはめる罠がいくつもあるんだと想像できる。


「よっぽど後ろ暗いところがあるってわけよ。こいつは俄然、暴いてやりたくなるわね。ま、当面は様子見でいいかな」

「向こうから何か仕掛けてくるかもしれませんね。それにしても、やはり未知の魔道具には注意が必要です」

「うん。ヴァレリアたちにも生徒会には注意するよう言っといて。私も今から感知で探り入れてみるわ。なんか動きがあるかも」

「生徒会棟でしたら簡単な見取り図は描けます。中断してしまったので、完全ではありませんが」

「ざっくりでも、あるだけ助かるわ」


 レイラが去った直後から、魔力感知を広げて生徒会棟を意識した。

 キキョウ会の幹部レベルなら、日常的に使う魔力感知で普通のセキュリティレベルなら丸裸にできる。魔道具の設置場所さえ分かるなら、その用途にもなんとなくの当たりがつく。感知したものが単なる生活用の魔道具なのか、警備用の魔道具なのかは、判別はなかなか難しいけどね。

 それでもレイラなら私に近いレベルの魔力感知が可能だろうし、魔道具の用途を見抜く能力は上のはず。それを欺いた警備体制とは、どれほどのものか調べてみないといけない。


 見取り図に沿って、注意深く魔力を探る。あらかじめ想像以上にややこしいと分かってれば、そのつもりで観察できる。

 レイラの所感を思い返しながら、普段ならやっても意味ないほど密に探る。その結果、色々と見えてきた。なるほどって感じだ。


 あちこちに配された警備用と思わしき魔道具は、過剰なほど数が多い。しかも同じ空間に多重に魔道具が設置され、おそらくダミーまで含めた構成だ。高性能な警備用魔道具は存在を察知し難いこともあるし、いつもの感覚で調べようとしても気付けないほど反応が薄い。でもその反応の薄さこそが、間違いないく普通の魔道具じゃない事を示してる。

 魔道具自体の破格の性能、配置の巧さ、そこらの軍事施設やギルド支部以上のセキュリティレベルなのは確実。私でもレイラがあざむかれるレベルだと分かってなかったら気づけない。


 問題は今日の侵入を受けて、セキュリティレベルがさらに上昇しそうな点にある。あそこまでして守りたい秘密があるなら、警戒レベルを上げるのは当然だろう。

 今のところ人の動きはなさそうだから、ひょっとしたら心配のしすぎって可能性もなくはない。ただ、私たちが学院を去るのはまだずっと先だ。あまり無茶ができない諸々の事情から、やっぱり数日は様子を見たほうがいい。


「生徒会……上級貴族の単なる遊び場かと思えば、こいつはかなりの魔窟っぽいわね」


 面白いじゃないか。ガキだと思って侮ったら、痛い目に遭わされるのはこっちかもしれない。

 ただの不良とは一味違うと心得よう。危険度をほんの少しだけ上方修正しといてやる。

中間のエピソードといった感じの第340話となりましたが、巻き毛のお嬢の夜の顔が見え、生徒会の怪しさが少しは出せていたでしょうか。

次回は怪しい生徒会から、生徒会長が登場する予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 通行証に魔法封じの機能って非常に良いアイデアですね! 高位の者に拝謁する際などにも悟らせずに穏やかにリスクを下げられるし 普通に外せて機能が隠されていれば、何かやらかそうとしても いざ魔法…
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