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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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乙女の園の鬼講師

 この学院内でバカをやる不良どもは、粋がったところで所詮はお嬢様だ。家に権力と財力があるだけの甘ったれにすぎない。

 ようは世間を舐めてるんだ。なんの後ろ盾もなく、気合一本でやってる町の不良のほうが、まだ可愛げも根性もあっていい。

 普通に学生生活を送る生徒のほうが多数派にしろ、あんな奴らが蔓延はびこってたんじゃ、多少なりとも悪影響を及ぼしもするだろう。可愛い娘を預ける名門校の実態がこんなんじゃ、たまったもんじゃない。


「ようやく分かってきたわ。こりゃあ、私みたいなイレギュラーな存在に頼みでもしないと、どうにもならないわね」


 まだまだ世間知らずのガキくせに、下手に金と権力が使えてしまうから余計に性質が悪い。まともな指導者ほど、さじを投げたくなるほどひどい状況なんだろう。

 というか、実際にまともな奴らに頼んでも失敗が続き、私みたいなジョーカーに頼らざるを得なくなったってのが正解だろうね。

 まあ権力闘争や悪事は貴族社会にいるなら逃れらない要素だ。そういった事を学院で学ぶのはいいとして、悪事のレベルが低いし単なる不良の真似事程度じゃ何の意味もない。

 理想とは違う状況の軌道修正が難しいのは、なんとなく理解できる気はするけどね。簡単に言う事を聞かないからこその不良だ。


「ここまでどうしょうもないなら、私もエレガントとか言ってる場合じゃないか」


 スパルタ方式じゃないと無理な気がしてきた。美人で優しく優雅な新人講師なんかじゃ、舐められて当然だ。

 もうこの学院を名門校だとか、伝統校だとか思うのはやめだ。まともな生徒は私が相手にする必要なんかないんだし、しょうもない奴らだけをターゲットに設定しよう。ここは底辺校なんだと割り切ればいい。


 そうだ。物事は単純に考えるべき。

 底辺校にはそれに相応しい、見た目からして怖い存在が必要になる。

 私がそれになってやろうじゃないか。しょうがないわね!


 方針を決めたら、まずは学長に伝えとこう。おっと、その前に。

 山林で決闘じみた喧嘩をやってる奴らに向かっては、警告の鉄球を投げてやった。どこぞからやってきた突然の横やりには驚いた様子で、周囲を見回したと思ったら逃げて行った。学院内で武器の所持は普通に許されてないからね、もし捕まりでもしたら不味いと思ったんだろう。あの手の奴らには、あとで直接注意しとかないと。馬鹿は同じことを必ず繰り返す。


 逃げ出す馬鹿どもの顔を覚えてから、さっそく今後の指導方針を伝えるべく学長室に向かった。


「イーブルバンシー先生、なにか?」

「学長。朝から学院内の様子を見て回っていましたが、率直に言ってひどすぎます。どこまで把握されていますか?」

「どこまで、とは?」


 とぼけてるわけじゃないだろうに。私を試してるつもりか。


「暴行、恐喝、窃盗、飲酒、それに薬物の持ち込みまで見かけました。問題どころか、いつか死人が出ますよ。むしろこれまでよく平気でしたね」


 いくら金持ち学校で優れた治癒師を雇ってるにしても、危険は相応にあるだろうに。いや、とんでもない不祥事があったとしても、お偉方の意向さえあれば揉み消しが可能か。この学院はスキャンダルの宝庫だ。揉み消しの体制は万全なんだろう。


「もうそこまで調べているのですか……さすがは総帥の見込んだ方です。それで、どのように指導するつもりですか?」

「ありとあらゆる手段を使ってになりますが、私のやり方でいいですね? 任せてもらえるなら、結果は出します。ただし、口出しは無用に願います」

「分かりました。では任せます」


 やけに簡単に受け入れるわね。背に腹は代えられないってことに加えて、こうなる展開は織り込み済みってことかな。どうせ総帥からは、あることないこと私の評判は聞いてるだろうし。

 でもこれで私はより自由になった。こっちのやり方でやってやる。

 美人でエレガントな新人講師ごっこは、早々に終わりだ。まだ初日の午後だからあまりにも早すぎるけどね。結局は落ち着くところに落ち着くってことだろう。


「ご了承ありがとうございます。指導のために一度、寮に行って着替えてきます」

「着替え……どういうことですか?」

「見た目から入ります。新しい生活指導がどういった存在なのか、見ただけで分かるようにするつもりです。少しは迫力のあるスタイルにしますから、その点をあらかじめ承知してください。ああ、ほかの先生方にも知らせていただけると助かります。不審者扱いされても困りますから」

「そ、そうですか。伝えておきましょう。参考までに、どのような姿になるのか教えてください」

「えーと、そうですね。手持ちの服だと――」


 どんな馬鹿にも理解できるよう、言葉じゃなく見た目で教えてやる。私が逆らったらマズい存在だってね。



 駐車場の車両に戻り、どでかいキャリーケースを取り出すと寮まで運んだ。

 本校舎や学生寮から少し離れた場所にある教職員用の寮は、利用者が少ないことから空き部屋ばかりらしい。

 寮母さんから軽くシステムなどの説明を聞き、あてがわれた自室に入り込む。

 貴族の教員向けらしく、部屋は無駄に広い。ざっと2LDKのような間取りになってて水回りまで完備されてる。寮ってよりは普通にマンションの一室みたいだ。探索や荷解きは夜にやればいいとして、まずは着替えよう。


 カーテンを閉め切って脱ぎ散らかし、華麗にチェンジ!


 上品な紺色のフレアシャツワンピースは、上下紫色でテカった生地のスウェット、いわゆるジャージに変え、インナーは赤色のTシャツ、足元は裸足に突っかけサンダル!

 優しい印象を与えるタマゴ型の伊達メガネは、金縁ティアドロップのサングラスに!

 爽やかな色気を醸し出すハーフアップの髪型は、シンプル極まる一本縛りに!

 そして手には鉄パイプならぬ鉄の棒を握った。


 美しき新人講師ルックから、不良更生に邁進する鬼講師ルックにチェンジだ。もはや誰だよって変わり具合だろう。

 部屋から出て鉢合わせた寮母さんは、完全にフリーズしてしまった。


「私です。先ほど入ったばかりのユカリード・イーブルバンシーですよ、寮母さん。これからはこのスタイルで行きますんで、どうぞよろしく。ああ、そういや私の分の夕飯は基本的に不要なんで、朝だけ頼みます」

「は、はぁ……」


 せっかくベルリーザまできたってのに、ずっと学院の中に引きこもるつもりはない。最低でも夕食がてらの街歩きくらいはするつもりだ。

 妹ちゃんの身辺警護のためにも学院周辺の見回りや、ちょっとした情報を得るためにも近場の店の連中とは顔見知りくらいにはなっといたほうがいい。

 それに寮生の不良どもが、おとなしくずっと部屋にいるとは思えない。寮生じゃない生徒だって、外で派手に遊んでても驚かない。指導のためには、外まで出張る必要があるだろう。


 一応、寮生には外出の許可を取っても門限があって、その門限は寮に加えて学院の敷地内に入る門限も設定されてる。特に敷地の門限は警備担当のアナスタシア・ユニオンが管轄するところだ。教職員だって時間外の出入りは基本的にできない。

 だけど私ほどの猛者ともなれば、学院内外への出入り程度の隠密行動は余裕だ。狭い屋内の行動じゃなし、格下の目くらい簡単に誤魔化せる。


 業務上、必要な通行許可は取れるかもしれないけど、アナスタシア・ユニオンの連中に私たち護衛の動きは悟らせたくない事情もある。あ、派手な私があえて目を引き付けるのもありっちゃ、ありかな。

 なんのかんのと考えつつ、学院内の見回りに戻った。



 鉄の棒を肩に担いで向かう先は、サボってる生徒が多数いる倶楽部棟だ。まずはここを攻める。

 地道に不良どもをシメてやろうか、なんてことを考えてたら、授業が終わったタイミグらしく鐘が鳴った。すると今日の授業が全部終わったみたいで、ぞろぞろと校舎から生徒があふれ出した。


「放課後ってことは、俱楽部活動の時間ね」


 由緒正しき伝統ある学院では倶楽部活動が奨励されてるらしい。これは生徒同士の深い関係づくりをうながすと同時に、集団の一員として俱楽部活動を通じ、自主性や公共の精神を育てることを養うという目的であり建前だ。

 人数が多いことから俱楽部の種類も様々で、文科系から運動系は数多く網羅され、変わり種も多い。


 倶楽部活動に向かう生徒が多く校舎から出てくる中、鬼講師ルックの私は大変に目立ってる。そして当然ながら注目を集めてしまう。しかもちょっとした騒ぎになりそうだ。

 うん、まあ生徒が見慣れない最初のうちはしょうがない。完全に住む世界が違うやからの格好だからね。

 金縁サングラスに紫色のジャージ、おまけに鉄の棒を担いだ私を遠巻きに見る子羊たちの可愛いこと。そんな中、私に走り寄る生徒が一人。


「会長、ですよね。どうしたのですか、その格好」

「ちょっと気合入れなおしただけよ。それよりレイラ、会長じゃなく先生と呼びなさい」

「そうでした。放課後はどうされる予定ですか?」

「私は俱楽部活動の指導をしないといけなくなったわ。そういや妹ちゃんも俱楽部をどうしようとか、言ってたわね。どれに決めたとか言ってなかった?」

「聞けていないですね。授業以外の時間はずっと敷地内の調査に出てまして、護衛はヴァレリアさんたちに任せっきりです。会話は全然、できていないです」


 情報局幹部補佐のレイラには、護衛の仕事よりも調査のほうに重点を置いてもらってる。初日から頑張ってくれて感心だ。


「敷地内の調査に人物調査、予想よりも怪しい点が満載の学院だったからね。私とレイラだけじゃ、時間かかりそうね。昼間の学院内なら護衛はヴァレリアとハリエットがいれば十分だし、ロベルタとヴィオランテは当面は調査に回そうか?」


 護衛はそもそも全員で同時にやるんじゃなく、ローテーションでやるつもりだった。各種調査はレイラに大部分を任せるつもりだったけど。


「気になるところは今日中に調べてしまうので、とりあえずは大丈夫です。わたしも単独で動き回ってばかりでは悪目立ちしそうですからね。明日からはほかの生徒とも交流を持つつもりです」

「それがいいわね。あんたたちも何かしらの俱楽部には所属するといいわ。せっかくの機会でもあるし、少しは留学生らしくしないと」

「はい、考えておきます。夕食後にでも、これからの方針をもう一度確認しましょう」

「私は夜は外に出るつもりだから、もし戻らなかったら私抜きで進めといて」


 夜遊びしてる学院生がいたなら指導で遅くなるかもしれない。何もないパターンのほうが私にとっては確率が低いだろう。


「了解です。それでは」


 去っていくレイラは、いつもの足音や気配を感じさせない歩き方とは違って普通だ。彼女なりに一般学生っぽく振る舞ってるらしい。

 私とレイラが普通に会話を交わす様子から、ほかの生徒たちも私が学院の関係者だってことはなんとなくでも理解したらしい。不審そうな視線を向けながらも、大騒ぎに発展するようなことは無さそうだ。


 さてと。生活指導はここで一旦中断だ。託された次のミッションに取りかかろう。


 ミッションその二、捲土重来けんどちょうらい


 これはある俱楽部活動を指導し、かつての栄光を取り戻せってオーダーだ。

 すさんだ学院は勉学だけじゃなく、俱楽部活動の実績も下がり続けてる。中でもこれから向かう倶楽部ってのは、大陸北部でかなりメジャーな学生競技をやるところらしい。花形って奴ね。伝統的に強豪校だったのに、今やかつての栄光は見る影もないわけだ。


 生活指導にプラスして、俱楽部活動の指導でも結果を出さないといけない。なかなかに欲張りなことだ。しかも私はその活動の経験なんかない。よくも頼む気になるもんだとしか思わないけど、まあ期待には応えてやるとも。



 集まる視線の一切を無視してゆっくりと歩き、到着したそこは倶楽部棟だ。本校舎と同じロマネスク建築風の造りをした立派な建物。資料によれば、ここはかつての旧校舎で、随分と前に改装して倶楽部棟になったらしい。

 倶楽部棟は普通の教室がいくつもある感じじゃなくて、多くの室内競技ができるようになってたり、いくつもの講堂があったりと、倶楽部活動に適した内装になってるようだ。


 放課後とあって俱楽部棟への生徒の出入りは激しい。グレーの制服から運動着に着替えた生徒も多く、いかにも倶楽部活動の時間らしい雰囲気を感じられる。


 初めて見る怪しくも危険そうな人物が倶楽部棟に入ろうとするのをどう思うのか。生徒たちは不安でならないはずだ。それでもアナスタシア・ユニオンの警備を強引に突破した侵入者とは考えにくいはずでもある。しかも普通に歩いてるのは状況としておかしい。どんなに怪しくても許可を得た人物だと考えるのが妥当だろう。私は悠々と歩くのみ。


「お、お待ちなさい! ここで何をしているのです」


 声のほうをサングラス越しにちらりと見やれば、同じタイミングで俱楽部棟に入ろうとしたらしき、真面目そうな雰囲気の女子だ。ほかの生徒たちが遠巻きに見守るなか、私に声を掛ける勇気は褒めてやる。


 しかし、今の私は鬼講師。優しさなどありはしない。

 不躾な質問に答える必要性を感じず、無視して俱楽部棟に入ろうと歩みを進める。


「貴様、待てと言っている。怪しい奴め!」


 また別のお嬢の登場だ。今度は王子様のようにキラキラしたボーイッシュなタイプだった。どうやら真面目系と王子系の二人は知り合いらしい。

 はあ。こんな所で揉めてもしょうがない。でも口だけは達者な、どうせ私が何を言っても信じないだろう奴らに、まともな自己紹介が通用するとも思わない。

 ここは鬼講師らしく、最初のインパクトを重視しよう。せいぜい、私がどういう存在か思い知るがいい。


「口を慎みなさい」


 歩みを止め、サングラス越しに睨みながら威圧する。

 そして肩に担いだ鉄の棒を石畳の地面に叩きつけた。たったこれだけで、石畳が割れるどころか爆砕する。魔法がある世の中でもインパクトは絶大だ。

 真面目系女子はビクッと身をすくませ、王子系の女子も可愛い悲鳴を上げた。


 集まる視線の中で、さらにデモンストレーションを続ける。より多くの生徒に、私という新たな存在を刻み込んでやろうじゃないか。


 破壊の威力に耐えられず折れ曲がった鉄の棒を、両手で握ってぐにゃりと四つ折りにしてしまう。これをぽいっと投げ捨てれば、石畳の地面に落下して重々しい音を響かせる。

 直径約五センチ、長さ約九十センチの鉄の棒は重さにして十四キログラムほどになる。身体強化魔法を使えば重くもなんともない重量に過ぎないにしても、それなりの硬さを持った金属だ。小枝を扱うようには、なかなかできるもんじゃない。異常な力を想像できるってもんだろう。


 静まり返ったところで、自己紹介してやる。何度もやるのは面倒だからね、なるべく多くの生徒が見守る中でやるのがいい。あとは勝手に広まるだろうし。


「一度しか言わないから、よく覚えときなさい。私はユカリード・イーブルバンシー。新任の生活指導にして、魔道人形倶楽部の顧問よ」

聖エメラルダ女学院にようこそ!

エ・メ・ラ・ル・ダ、です。前回までにちょっとした誤字がありましたのでサイレント修正しておきました。すみません。

今回で倶楽部活動までやることになりましたが、厄介事はまだまだ積み重なりまくります。

出し惜しみなく、とことん大きく風呂敷を広げてゆくつもりです!


学院編、極小まとめ。

・最優先事項、アナスタシア・ユニオンのボンボンから妹ちゃんの護衛。

・ミッションその一、綱紀粛正。

・ミッションその二、捲土重来。

・今のところの要注意人物 イーディス・リボンストラット侯爵令嬢。巻き毛の不良。

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― 新着の感想 ―
[一言] 猫被りも4話保たなかったかー
[一言] 見た目から威圧与えるのが速いですよねー。こういうところグダグダしないの好き。 いやあ、一罰百戒か、わからないやつがいなくなるまで続けるか。大変に楽しみですね。 次回の更新が実に待ち遠しい
[良い点] >決闘じみた喧嘩をやってる奴らに向かっては、警告の鉄球を投げてやった 流石に死人が出かねないのは止めましたかwww ―――てか、今までに出た死人は事故扱いで 闇に葬られたんではなかろーか…
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