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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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海の町での仕事納め

 ジェネラルの執務室を出て向かった先では、カーネルとその腹心らしき奴らが猿ぐつわを噛まされひざまずく状況だった。

 メアリーがそいつらを見下ろし、ジェネラル陣営の数人が一緒に取り囲んでる。

 こことは別に基地内では現在進行形で降伏した側の武装解除も進められ、わずかな抵抗も間もなく落ち着くだろう。


 カーネルはジェネラルにとって憎き仇だ。女とその腹にいた子供を殺された怒りは想像を絶する。それでもジェネラルは指揮官らしく感情を殺し、衝動に任せた行動には走らない。大した奴だ。


 ただ、そうした事情を私たちはジェネラル本人からまだ聞いてない。だから知らないフリを続ける。

 実は知ってたと後でバレても、知らないフリは状況によってはマナーにもなる。この場はそれを続けるのがいいだろう。


「閣下、裏切り者の処遇はそちらにお任せします」

「……恩に着ます。副官、尋問を進めておけ」

「はっ」


 こうしたやり取りを見るとこいつらも軍人らしい印象だ。とても海賊とは思えない。

 あるいは私たちの手前、そう振る舞うべきと考えた結果かもしれないけど。


 引っ立てられて行くカーネルは血走った目で周囲を睨む。最後の意地なのか、睨み殺そうとでもするかのような恨みに満ちた視線だ。死にゆく男の最後の抵抗は、それなりの迫力だ。でも、そんなものを気にするほど繊細な奴が悪党なんかやってられない。私たちも、ジェネラルたちもね。

 外道の悲惨な末路なんて、ありきたりな話だ。いちいち気にしたってしょうがない。たぶん、あんな奴のことなんか数十日もすれば、すっぱり忘れてしまうだろう。


 気になるのは、カーネルの部下がどうなるかだ。可能な限り戦力は保持して欲しいと思うけど、禍根かこんを残すくらいなら排除するのがいいとも思える。そこはジェネラル次第かな。


 そして。

 突然現れた謎の女集団が反乱をいとも簡単に鎮圧してのけた事実に、ジェネラル陣営の緊張感は凄まじいことになってる。

 海の上じゃなくても、こいつらだって元は職業軍人だ。集団戦闘におけるプロを自認してもいるだろう。

 しかもジェネラル側としては、一気呵成に攻めるカーネル一党に追い詰められる状況にあった。それをわずかな人数で覆したあげく、メアリーたちは誰も殺さずに制圧したんだ。


 あまりにも地力の違う精鋭中の精鋭を送り込む公爵の存在や私たちに、考えれば考えるほど危険を感じもするだろう。カーネル一党を余裕で倒した私たちがその気になれば、ジェネラル一党だって同じ運命をたどる。


 これについても狙いどおりだ。私たちは単なる勧誘役じゃない。

 軍人から堕ちた海賊どもに、逆らうことや裏切ることが如何に悲惨な末路へ導くか、それを分かりやすく教える役でもある。

 今の時点で友好的な態度は、一つ間違えば真逆になる。カーネルと同じ命運をたどると嫌でも自覚するはずだ。


 つまるところ、私たちの勧誘は強制だ。あくまでも友好的にジェネラル陣営を手助けしながらも、私たちの異常な戦闘力の高さを見せつけるデモンストレーションをやったにすぎない。聡い奴ならそれに気づく。少なくともジェネラルと副官は理解したと思う。


「なんじゃ、また騒がしくなっとるのう」


 いいタイミングでローザベルさんが戻ってくれた。わざとらしい軽い調子のしゃべり声は、硬い空気を弛緩させるためのものだ。婆さんほどの年の功があれば、この程度は朝飯前。


「こちらは大方の問題が片付いた。ローザベルさんも、この後の話し合いに参加して欲しい」

「そうじゃな。しかしこやつらも後始末で忙しかろう。手短に済ませて帰るぞ」


 あとは今後の段取りをどうするかの話だ。そこさえ決めてしまえば、ロスメルタの部下が細かい話を具体的に詰める。私たちのミッションは最初の段取りを付けるまでで終わり。両者を繋げてしまえば、あとは勝手にやればいい。


 交渉の席にはまた私が形式上の護衛役として後ろに立ち、様子を見守った。

 難航する要素はない。ジェネラル一党としては軍に返り咲けるチャンスであり、今後の働きによって公爵の覚えがめでたければ、さらなる出世さえも望みうる状況に変わる。

 海賊として覇者を気取ってた時ならいざ知らず、仲間割れを起こして殺し合いにまで発展してしまった状況も重なる。

 まさに潮時。そこに降って湧いたチャンスだ。鞍替えするなら、今この時しかない。


 かつての両国は争った間柄とはいえ、海軍はまったく関係ないから、わだかまりもない様子だ。ロスメルタもだからこそ、引き込む算段をしたんだろう。


 結局、ジェネラルは条件次第で受け入れるとしながらも、側近の副官をブレナーク王国王都に向かわせることで、ひとまずの合意を示した。

 しかも一定の条件さえクリアするなら、旧レトナークの港町を攻める際に、オーヴェルスタ公爵配下として参戦する土産話まで持参させるらしい。


 これはジェネラルにとって、戦功を立てる絶好の機会にもなる。手柄を立てれば、新生海軍ここにありとアピールできるし、取り立てたオーヴェルスタ公爵にも少しは借りが返せる。

 ロスメルタにすれば、まさに狙いどおりの展開だ。オーヴェルスタ家と公爵夫人の威光はさらに輝くことになるだろう。


 切り替えが早すぎるようにも思うけど、旧レトナークの混沌とした時代が終われば、海賊なんかやってる場合じゃない。自分だけじゃなく部下の身の振り方まで考える上役として、ジェネラルはなかなかできる男のようだ。


 もちろんスムーズな話し合いは、事前の仕込みあってのこと。

 そしてトドメに伝説の治癒師ローザベルと、高潔で清廉な雰囲気を纏うジークルーネ。交渉役を任せて正解の二人だ。


 最後にジェネラル直筆の書状を受け取って、これをロスメルタに渡せばいい。厄介だったミッションも、これでほぼ終わったも同然だ。


「それでは、我々は失礼します」

「わしらと会うことはもうないじゃろうがな、恩は忘れるでないぞ」


 さすが婆さん。使者らしく丁寧な態度を続けるジークルーネとは違って、大物らしくざっくばらんだ。でもそんなところも魅力になってしまう。

 友好と圧力をバランスよく感じさせながらも、破格の実力は強く印象付けたはずだ。きっと今後の交渉も上手く運ぶだろう。

 広間で待機してたヴァレリアや第二戦闘団と合流し、見送りは不要と宣言してボートに乗り込んだ。


「こちらジークルーネ、作戦は成功だ。総員、撤収しろ」


 島内に密かに残るみんなにも報せてやって、母船に戻った。



 行きは良い良い帰りは恐いなんてことはなく、リガハイムに帰り着けば、いよいよミッションも終わりが近い。

 拠点とした倉庫で今度の話を詰めてしまう。


「引き続き情報局と第二戦闘団の一部メンバーは、リガハイムに残ってくれ。ほかはエクセンブラに帰還する」

「海運事業商会との話は、事務局に任せていいんですよね、副長」

「そうだ、ハイディ。フレデリカとエイプリルの秘書官が進める手筈だ。シノギが回るよう問題なく進めるだろうが、慣れない土地だ。皆も手助けしてやってくれ」


 正業を始めるには関係各所と諸々の手続きが必要になる。海運事業商会だったり、行政だったり、ギルドだったり。ほかにも関連する商会など、交渉先は色々あるだろう。それらとの調整や実際にシノギを始めるには多くの準備がいる。事務局メンバーにとっても、こうした仕事はいい経験になる。私たちがやったのは下準備で、状況を整えただけだ。


 長い事こっちで働いてくれてる情報局メンバーは、いい加減に帰りたいだろうけどね。交代要員を送り込むまで、もう少しだけ我慢してもらう。


「第二戦闘団はカフェ・デイジーの用心棒や、この拠点の守りが主だった仕事ですね。事務局の手伝いでも駆り出されそうな気はしますが」

「そうなるだろうな。誰を残すかはメアリーたちで決めてくれ。ひとまず十人もいれば足りるだろう」


 リガハイムでのキキョウ会の立場を盤石とするため、一旦はほとんどが引き上げるにしろ、事務局メンバーと一緒に多くのメンバーを送り込む予定だ。

 常駐させる人数は今後の経過次第として、海の町に行ってみたいメンバーは多いと思うから、人員の確保には困らないだろう。車両をぶっ飛ばせば、エクセンブラとの行き来にもそれほどはかからないし、永遠にこっちにいろと言うわけじゃない。重い決断にはならないから、気軽にやれるはずだ。


 シノギが問題なく回せると判断できたら、ちゃんとした支部を立ち上げるつもりでもいる。

 そうしたらここでも見習い募集をかけるなど、シノギだけじゃなく組織強化にも繋げていける。やっぱり最初の立ち上げには色々な苦労が伴うから大変だ。


「明日の朝には出発する。各自、荷物はまとめておけ。ユカリ殿、わたしは王都に直接向かおうか?」


 ジークルーネと情報局メンバーの一人には、ロスメルタかその腹心に直接会って事の顛末てんまつを報告してもらうつもりだ。

 細かなニュアンスや事の重要性を考えて、手紙よりも対面で話すのがいい。


「うん、報告はできるだけ早いほうがいいわ。ホントは私が行ったがほうがいいのかもしれないけどね、ロスメルタの奴は私が相手だと気楽に面倒事を押し付けるから。このタイミングで会うのは避けたいわ」

「ははっ、たしかに。笑い事ではないな。苦戦しそうな戦地でもあれば、制圧を頼まれそうだ」

「正面戦力としては使うつもりないだろうけどね、今回みたいな裏工作や破壊工作にはまた使いたいと思ってるかもしれないわ」

「もし新たな仕事を頼まれた場合にはどうする? 我々も戦争のごたごたで何かと忙しくなりそうだ。すでに夏の闘技会にも影響は出ているだろう」


 戦争の影響で、他国からの招待選手や客がやってきてくれるか微妙になってる。

 ただでさえ戦争準備で国内は忙しいから、国内の客足がどうなるかも未知数といった事情もある。闘技場のシノギは私たちにとっても、上納金を受け取る偉いさんにとっても、莫大な金が動く関心事だから気楽にはいられないんだ。


 この戦争はどう転んだって、ブレナーク王国の勝利は揺るぎない。でも事は小競り合いに留まらない本格的な戦争だ。

 旧レトナーク全域を飲み込む戦いには多くの諸問題が生じ、エクセンブラも無縁じゃいられない。ずっと前から難民問題は継続して起こり続けてるしね。

 荒れた無政府状態の土地を吸収統治するだけでも、かつての一国を丸呑みするんだから、これは大変な変革になる。


「……報酬次第じゃ引き受けるのもいいけどね、安請け合いはやめとこう。ウチも色々忙しいわ」

「了解した。ロスメルタ様から何か頼まれても、余程の事以外はわたしのほうで断っておく」

「頼むわ。そんじゃ土産でも買いに行こうか」


 明日は朝から出発予定だから、心残りは今やっとかないと。もう夕方近くて時間ないけど。


「お姉さま、ロベルタたちに干物の買い付けを頼まれています」

「そうじゃった。わしもコレットから頼まれとった」

「あ、わたしも行きます」

「皆で市場に行きますか。大量に買えば値切りやすいですし」

「あたしは地元の酒とお菓子を頼まれてました。これもたくさんあったほうがいいですよね?」


 みんなもうお土産買って帰るモードだ。なんか急に旅っぽい雰囲気出てきた。


「食べ物や酒の土産はどれだけあっても足りんだろう。この際だ、買い占めるつもりで行くぞ!」

「そうしましょう、そうしましょう!」


 旅の最後の戦場は市場に決まった。

 せっかく大仕事を終えたんだ。今夜くらい、みんなではしゃいだっていい。

 お土産買って、新鮮な海産物を食べまくって、作戦の成功を祝うとしよう!

長かった海の町編もこれにて終わりです。

第291話「イチから始める町攻略」の辺りから始まり、今話が第321話です。

港町の攻略から南方の海賊退治、そして軍事基地での潜入工作を経る展開となっていましたが、いかがだったでしょうか。

さて、次回からはインターバルのような小エピソードが始まります。それを経て、またどこかに遠征する展開になる予定です。現在、面白くなるように超悩みながら書いています!

次話「日常への回帰はトラブルの始まり」に続きます。次回もよろしくです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >こいつらも軍人らしい印象だ。とても海賊とは思えない 正規軍人→海賊→正規軍人とコロコロ立場を変えますが 機を見るに敏というか、このぐらい要領がよくないと この時代のこの世界じゃ生きてい…
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