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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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あくどい恩の売り方

 漁村に流れ着いた不審な男について報告を聞いた翌日、さっそく私たちは動き出した。

 海賊の厄介事だろうがなんだろうが、もうなんでもこいだ。すんなり行くなんて、どうせみんなも思ってなかった。私たちの進む先々、これからもきっとこんな感じに違いない。


 本来の予定だと、ブレナーク王国軍が侵攻する直前くらいのタイミングで、海賊にはナシをつけるつもりだった。侵略が具体的にいつ開始になるのか、日付までは私たちにも知らされてないし、状況によって変わりもするだろう。

 だからこっちで勝手に判断し、勝手に動く。


 随時に集まる情報やメンバーがあちこち偵察した感触としては、旧レトナーク内に点在する武装勢力は、海側への警戒感が薄いらしい。これは海賊の支配が強くて別の勢力が海から侵攻する可能性があまりないことと、武装勢力同士の牽制やブレナーク王国への備えで忙しいからだろう。少ないリソースを海側に振り分ける余裕がないのだとも言える。


 今の情勢を総合的に考えて、私たちが海賊をどうしようが旧レトナーク内の武装勢力を刺激する可能性は薄い。故にブレナーク王国の侵攻には何ら影響しないと判断した。

 ちょっと予定より早くても、もう動いて問題ない。むしろ動かないといけない事情が、私たちのほうに生まれてしまった。


 南のほうから帰ったばかりだってのに、また出港だ。今回は戦闘支援団だけ残し、情報局も一緒に行く。

 目的地はかつてレトナーク王国軍が管理した秘密基地。軍事要塞化された秘密の島の名はブレストフロー島と言うらしい。そう言えば島の名前だけは前に聞いてた気がする。随分と沖のほうにあるみたいだから、大型魔獣の心配もある嫌なポイントだ。


 若干のうんざりした気持ちを抱えて船に揺られながら、ジークルーネと寝る前の雑談に興じた。酒は控え、薫り高いお茶で荒ぶる戦意を抑え込む。


「まさか海賊同士で仲間割れとはな。よくある話だが、今回ばかりは意外に思える」

「そうね。元軍人で上下関係や規律がしっかりしてる海賊だからこそ、天下取るまでやれたんだろうに。それがまさか報酬の分け前で揉めたあげく、相手の女を殺して分裂とはね。しょうもないけど崩れる時はそんなもんなのかな」

「おそらく表面化していなかっただけで、ほかにも不満がくすぶっていたのだろう。しかし交渉の前で良かったのか悪かったのか、難しいところだ」

「割れる前に引き込んだとしても、どっかで揉めたわよ。結果的に良かったと思っとけばいいわ」


 むしろ海賊なんぞに身をやつした奴らの中でも、さらに腐り切った外道を事前に排除できて良かったと考えればいい。


「ああ、それもそうだ。女殺しはともかくとして、それが妊婦殺しではわたしも引き込む交渉は御免被ごめんこうむる」

「相当な恨みがあったにしても、ちょっとないわね」


 発見した海賊から訊き出せた情報だと、そこまでする細かい事情までは分からなかった。

 悪辣な計算の上でやったことだとしたら私はなんとも言えないけど、単なる嫌がらせなら腐った性根の持ち主だろう。

 まあ奴らの事情なんかどうでもいいとして、とにかくこうなってしまった以上、割れた海賊が元に戻るのは不可能だ。片方を引き入れる形で進めるしかない。


「ガセではなさそうだが、連れてきたほうが良かったのではないか?」


 村で見つけた海賊はウチで引き取って、アジトに監禁中だ。今回の作戦が成功したら、怪我を完治させてやる約束になってる。


「しょうがないわ。船長から船の中に不安な要素を持ち込むな、と言われちゃね。それに見張り役を置いとかないといけなくなるから、結局は邪魔になったわよ」

「それもそうか。しかし賊どもの潰し合いはいいとして、軍艦が失われることは避けなければな」

「まったくよ」


 話によれば秘密基地内で反乱を起こし、争い始めたらしい。状況が変わってなければ、海賊どもは船に乗ってるわけじゃなく、軍事要塞の中で争ってるはずだ。

 船でのこのこ近づけば、双方から迎撃される恐れがあることから、ボートで秘密裏に接近して上陸、状況を見極めてまずは反乱された側に交渉を持ち込むつもりだ。詳細を聞いてからになるけど、私たちの心情として妊婦を殺された側に味方しようと思ってる。


「ジェネラルとカーネルか。これ以上の厄介事は無しにしてもらいたいものだ」


 反乱されたほうが『ジェネラル』と呼ばれる海賊団の大ボスで、『カーネル』が反逆者にして妊婦殺しだ。名称は軍人時代の役職で、ほかに大した意味はない。


「状況は変わっちゃったけど、交渉はジークルーネとローザベルさんに任せるわ。私とヴァレリアは通信圏内で待機しつつ、成り行きによって即座にカーネルを取っ捕まえるから」

「その状況を作り出すのが最初の難関だな」

「まあね、でも味方してやれば心象良いだろうし、この展開は悪くないと思うわ」


 交渉は難航するとずっと考えてた。だから力を見せる展開になるのは想定内だけど、まさか割れた半分を倒す展開になるとは思ってなかった。それに雑なプランがそのまま通用するともあんまり期待してない。結局は臨機応変にやるしかないだろう。



 一晩明けて、目的地まで残り十キロの辺りまで接近した。ここで私たちの母船には待機してもらう。

 秘密基地まではまだ遠すぎて、私の広域魔力感知でも探るのは厳しい。奴らがまだいることを願いつつ、あとはボートで接近しながらって感じだ。

 まだ朝の時間帯。今日は晴れ渡る清々しい天気で、襲撃には適さないかな。でものんきに時間を浪費するわけにはいかない。状況が分からない以上は、とにかく急がないと。


 母船の護衛に一班だけ残し、残りは全力出撃だ。

 今日は島に上陸して戦う予定だから、水中装備じゃなく普段の装備だ。これだとやっぱり安心感が違う。


「どれ、わしも久々に暴れてやるかのう!」


 大海原を進むボートが楽しいのか、婆さんがご機嫌な様子で調子に乗る。


「勘弁してよ、あんたが倒れたらどうすんのよ」

「婆さま、面倒をかけない」


 ツッコミ待ちっぽい発言には、私とヴァレリアがしょうがなく応えてやった。でも何が楽しいのか、ローザベルさんは満足そうだ。


「はははっ、何があってもわたしが守るさ」

「頼りにしてるわ、ジークルーネ。さてと、そろそろ私の魔力感知が届くかな」


 おふざけモードから切り替えて、進行方向に意識を集中した。進行方向にはちょっとした島々がいくつもあって、水平線の向こうまでは目視じゃ見えない。


「なるほどね――こちら紫乃上、目的の軍事要塞らしき島を発見、魔力反応は多数。奴ら、いるわよ」


 みんなの戦意が高まるのを感じる。


「大回りで西側から接近するのが良さそうね、私のボートに付いてきなさい」


 発信をカットして、操縦担当のメンバーに大きく舵を切るように指示を出す。

 最短ルートからは外れ、大回りで人が全然いない島の西側に向かってボートを進めた。


 やがて見えてきたのは、切り立った高い崖だ。天然の要害って感じで、これなら島の西側の警戒が薄いのも納得できる。島の大部分に張り巡らされた、魔道具による警戒の目のようなものもあまり感じない。

 普通なら崖も含めて島の全体に警戒網が敷かれるはずと思うけどね。今は海賊同士で争ってるし、海賊だけじゃ基地機能のすべてを使いこなせてない事情もありそうだ。


 崖の前にボートが集結して揃うと、みんなはクライミングするのかと断崖を見上げてる。

 ちまちま登るにしても、ウチの鍛えられたメンバーなら問題ない。でもここはちょっと楽をする。


「私が先行して陣地の確保とワイヤーを何本か下ろすわ。みんなはそれから上がってきなさい。ヴァレリアとローザベルさんは私に掴まって」


 妹分は何も言わずにひしっと抱き着き、不審そうな顔の婆さんは問答無用で肩に担ぐ。

 何をするのかと見守るみんなの前で『足場』を次々に蹴り、悠々と崖の上に出た。崖上はちょっとした岩場の空間があって、その先には森が広がってる。


「び、びっくりしたわい。先に言わんか」

「ローザベルさんじゃ、自力で登るのきついでしょ? ヴァレリア、念のため周辺確認に行って。森のほうには魔道具っぽい反応がいくつかあるわ」

「はい、見てきます」


 崖の上に鉄のトゲを生やし、そこに長いワイヤーを繋げて下に落とした。これをいくつもやる。こうしてやれば、するするとみんながロープを登って続々と崖の上に集まった。


「お姉さま、森で魔道具をいくつか潰してきました。ほかにも罠があったので注意が必要です」

「魔道具じゃない罠? さすがは軍事施設ね」


 人を配置しないこの崖の辺りは、もしかしたら罠だらけなのかもしれない。集まってるみんなにも、注意を促した。


「問題はここからだな。魔力反応だけでは、誰が誰だか不明だ。まずは様子を探るぞ」

「では情報局で斥候やります。随時、通信入れますんで、後から応援を送ってくださいな」

「うん、頼むわね。一応、奴らは元軍人で、ここは軍事要塞化された秘密基地よ。分かってると思うけど、ただの賊と侮らず気を付けなさい」


 神妙にうなずくと気配を消しながら走り去る斥候役たち。島の大きさはたぶん、一周で数キロはあるだろう大きな島だ。探るポイントは魔力反応で絞れるから、闇雲に探す必要はない。ある程度は当たりを付けて動ける。


 今は朝だからか戦闘の気配は感じられず、人の動きも少ない。

 ただし、夜闇に乗じられない明るい時間帯の活動で、しかも敵地だから難度だって高い。それでも情報局のメンバーなら、どうにか秘密裏に状況を掴んでくれるだろう。私たちの存在はまだ知られないほうが、きっと有利に事を進められる。


「ジェネラルとカーネルの居場所、それと戦況が把握できれば、あとは動くだけよ。でもこれ、思ったより人数が多いわね。陣容が二つに分離してるのは判りやすいけど」

「両陣営を合わせれば、数百どころではないな。これだけ大きな基地であれば、戦闘員ばかりではないのだろうが」


 人数が多いのはいいことだ。海賊同士が潰し合って、互いに全滅寸前の場合が最悪だった。どのくらいの人数を引き込めるかは不明にしても、多いほうが土産としては上等なんだからね。

 ま、せいぜい上手くやってみよう。



 時折入る斥候からの報告を聞きながら、私たちは下手に動かず待機を続ける。

 そうしてしばらくすると海賊同士の戦闘が始まったらしく、島が随分と騒がしくなった。島内の中央は演習場みたいな開けた場所で、主にそこを舞台に戦いが繰り広げられてるみたいだ。


「――こちらハイディ、大雑把に両陣営の概要が掴めました。どうやら島の北側がカーネル陣営で、南側がジェネラル陣営のようですね」


 さすがは情報局。順調に情報を集めてくれてる。引き続き詳しい状況が知りたいから、もう少し待機だ。副長とうなずき合う。


「こちらジークルーネだ。ハイディ、その調子で続けてくれ。戦闘団の配置は進めておくか?」

「いえ、待ってください。いい具合に戦闘が激しくなってますんで、混乱に乗じて双方の陣営から一人ずつ捕まえようと考えてます。サクッと尋問してから、またお報せしますね」

「そうか、了解した」


 様子を探ってれば戦況は見極められるにしても、訊かないと分からないことや訊いたほうが早いことだって多い。実行できるなら有効な手段だ。任せよう。



 また時間が経って尋問の結果や、あちこちを探ってくれた結果を総合すると色々なことが分かってきた。


「当初の方針どおり、我々はジェネラルにくみするのが良いだろうな」

「カーネルのほうが戦闘巧者みたいだけど、簡単に裏切る奴を仲間には引き込めないわね」


 奴らが割れた理由は、本当に大した理由じゃなかった。事前に聞いてたように、普通に分け前の取り分で揉めたのがきっかけだ。

 元海軍の海賊はジェネラルが部隊を率いて始めて、後からカーネルの部隊が加わった経緯があるらしい。

 初めは上手くやってたものの、徐々に亀裂が入り始めたようだ。なんでもカーネルの奴は自分の部隊が一番活躍してるのに、ジェネラルの部隊と同等の報酬だってのが気に食わなかったらしい。

 天下取るほど荒稼ぎしてる海賊だからね、欲を出したってところだろう。うん、本当に大した理由じゃない。


「戦況は圧倒的にジェネラル側が優勢のようです。カーネル側は怪我人多数で士気の低下も著しい様子でした。当初は反乱側が優勢だったようですが、おそらく抱えた治癒師の差と基地機能を有効に使える立場の差が出たのだと考えられます。このままだと数日とかからず、ジェネラルが勝利しますね」

「ハイディたちの見立てなら間違いないな。ユカリ殿、我々の目論見ではジェネラルに協力して勝利に導くことだったが、現状では意味がなさそうだ」

「当てが外れたわね」


 ベストなのは窮地にあるジェネラルを助けてやって、どでかい恩を売りつけることだった。そうすれば引き込み交渉だって楽に進められただろう。

 あれ? 待てよ。


「お姉さま?」

「よし、一旦はカーネルに味方するわよ!」


 急な方針転換には、みんなも驚いたようだ。でも聡いメンバーはすぐに私の意図を汲み取ってくれた。というか、私が言わなければ提案してくれただろう。


「待ってました、押し売り作戦ですね?」

「皆、我々の存在は双方の海賊に知られてはならない。一層の注意を払ってくれ」

「そういうことですか。あくどいですね、会長」

「面白いことになったのう」

「え、どういうこと?」

「つまりな、ジェネラルって野郎がピンチのほうが、ウチにとってありがたいんだよ。だから、こっそりピンチに追いやって、そこを助けて恩を高く売りつけようって寸法さ。面白くなってきやがった」


 そういうことだ。気に入らない状況があるなら、そんなもんは変えてしまえばいい。手段なんか何を選んだって良いんだ。

 なんてったって、私たちは悪党なんだからね。

スパイの工作活動のような展開になってきました。

次回「ろくでなしが通すスジ」に続きます。

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