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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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奇襲、襲撃、強襲!

 海賊船襲撃訓練、初日。

 第二戦闘団の全八班は、すべての班で完全勝利を収めた。

 各班が担当した一隻の船を奇襲制圧し、秘密裏に帰還して初めて成功となる高難度の作戦だ。よくやったとしか言いようがない。


 母船に戻った私たちは海賊のたくさんいる界隈からは遠く離れて、無人島の陰で停泊した。

 訓練結果は上々でも、それぞれ思うところはあったらしい。これから寝る前の反省会だ。


「奇襲は今回の方法で問題ない。夜間にボートで移動、その後に海中から接近して攻撃の流れは、軍艦相手でも通用するだろう。メアリーの所感はどうだ?」


 ジークルーネが最初だけ話を振って、あとは私と一緒に経過を見守る。


「そうですね、軍艦のほうが高さがあるので、登るのにより時間を要するのが少し心配でしょうか。ただ、奇襲方法についてはこれでほぼ問題ないと思います。極限に近い魔力封鎖状態では、見張り員以外に探知系魔道具があっても発見は困難でしょう。万全を期すなら、ボートでの接近はもっと距離を離し、海中移動時も分散して行動すればより発見されにくいかと。ヴィオランテは?」

「同感です。敵に想定以上の感知能力があった場合に備えて、水棲魔獣の反応と区別がつかない行動が必要と思います」


 完全勝利に終わっても、改善できるところがあればやったほうがいい。私たちの本番はもっと練度が高い相手だ。


「船内の海賊が多い場合には、陽動作戦もいいかもしれないですね。囮役があえて甲板で暴れるとか、船室のどこかで火災を起こしてみるのもいいかもしれないです」

「ここら辺の海賊船は大きくないですからね、大型船で多くの乗組員がいることを想定すると、そういう作戦も使えそうです」

「狭い船内で想定外の魔道具を使われるよりは、広い甲板のほうが対処しやすくもあるよなあ」


 第二戦闘団にはメアリー団長とヴィオランテ伍長のほかにも、もう一人の伍長と三人の幹部補佐もいる。ほかにもベテランメンバーはいるし、若手も血気盛んだ。色々な感想や意見が飛び交った。


 訓練の結果だけを見て良しとせず、余裕すぎた勝利に不満を持つのは、メアリー団長の精神性がみんなに影響を与えてるからだろう。あえて困難を求め、それを乗り越えようとする姿勢が凄い。


「あとは明日ですね。奴らの反応が気になります。今日の奇襲を踏まえて、どのような警戒態勢を取るか見どころですよ」


 海賊船に付けさせたマーキングは四、五日は効果が続く。

 私たちは明日も同じ海賊船に襲撃をかけるつもりだから、奴らが敷いた最大級の警戒を抜けられるかってのがポイントになる。


 考えてる訓練項目はまだまだ色々とある。

 今日やった完全な奇襲、明日やる予定の奇襲がくるかもと最大限に警戒してる相手への奇襲、あえてこっちの姿を発見させてからの強襲、母船で近づいての正面戦闘や、海賊から襲わせての白兵戦など、思いつく限り色々と経験しておこうと考えてる。


 まだまだ訓練は初日だ。反省や議論はほどほどにして、休むことにした。



 朝は遅い時間まで睡眠時間を確保し、その後は無人島を探索しがてら身体を動かす。思いのほかいい隠れ場所だ。

 そうして再びの深夜。今日も雨は降ってないけど、波がちょっと高い。

 みんなでドライスーツなどの装備一式を身に纏い、海賊船目指してボートで出撃だ。

 揺れるボートにはヴァレリアが青い顔をしてるけど、長時間このままってわけじゃない。大丈夫だろう。


 広域魔力感知を実施したところ、逃げた海賊船はないらしい。

 海賊からしてみれば意味不明な襲撃だったのは間違いない。襲うだけ襲って奪ったものは特になし。殺しもしてなければ重傷者だって出さないようにしたから、何のための襲撃だったのかと理解に苦しむはずだ。こっちは大きなゴーグルを装着してるから、顔も分からない謎の襲撃者だしね。


 正体も目的も不明な相手からの一方的な襲撃。これは海賊なんてアウトローな連中にとっても、とんでもない恐怖に違いない。

 そして今夜もまた恐怖を味わうことになる。ターゲットは昨日と同じ海賊船だ。


 反省会の内容を活かし、ボートでの移動は海賊船からかなり遠く離れた位置までとした。昨日は一キロくらいまで接近したのと比べて、今日は三キロはまだ距離がある場所でボートを停める。

 昼間でも小さな点にしか見えない距離に加えて、夜の闇と波が姿を覆い隠す。視力をどれだけ強化したって発見は困難だ。


 ボート上で装備を整えるとメアリーの合図で飛び込み、海中での移動は散開して進む。

 暗闇の海で一人きりってのは不安になるもんだと思うけど、微かな魔力反応までキャッチできる能力があれば、同じ方向に進む仲間たちを頼もしく感じもする。

 装備した魔獣除けも十分に機能し、昨夜に続いて不用意な対魔獣戦闘が起こる気配もない。


 私とヴァレリアは海賊船の船首付近でメアリーと合流し、海中から細かくターゲットの様子を探る。

 魔力での感知や探知が基本になってるがゆえに、音波を使ったソナーのような道具は少なくとも主流じゃない。音波で探られたらこうまで楽には接近できなかっただろう。


(ふーん、やっぱし人が多いわね)


 昨日の襲撃の効果か、見張りが明らかに多い。船の数も三隻から四隻に増えてる。それでも私たちの接近はまったく気付かれてない。ここまでは良いとして、どう見張りの目をかいくぐって船に乗り込むかだ。普通なら発見されずに甲板に上がるのは無理と諦めるところかもしれない。


 それでも死角はある。

 死角をなくしたつもりでも、ずっと全員が緊張感をもって見張ってるとは思わない。どこかに必ず隙がある。もしくはどこかで生じる。


 これは訓練だからね。強引な力押しに頼らず、今日はこの状況での奇襲を成功させるのが目的だ。

 やろうと思えば海から見張り員を密かに倒すことも可能だけど、あくまでも訓練なんだ。その手はタイムリミットを設けた時間がやってくるまで選択しない。


 まずは海中から観察を続けて見張りの位置を把握する。魔法技能を駆使して死角になる場所まで探り、時間をかけて把握していく。決して焦らない。

 密に観察を続ければ、見えなくても魔力反応の動きから甲板上の構造まで一定程度で把握までできる。

 同じ船を狙うメンバーたちが時折メアリーのところまでやってきて、調査結果や方針の確認を進める。


 そうしてたっぷりと時間をかけ、およそ三時間後。船首付近の見張り員にこれまでとは違う動きがあった。

 交代の時間か用を足すのか、なんであれ見張りの目が離れた隙を逃すメアリーじゃない。ほかの船からの注視もなさそうだ。夜も深い時間になりつつあるからね、集中力は落ちる頃合いだ。

 メアリーは鉤爪付きワイヤーを投げて引っ掛けると一気に船に上がってしまう。瞬きする間の早業だ。私とヴァレリアも続き、昨日と同様に侵入後にはイヤリングを装着した。


 入ってしまえばこっちのものだ。

 メアリーは物陰から物陰を渡るように移動し、背後から甲板上の見張り員を倒してしまう。ブリッジやほかの船からの目も気にしながらの行動だ。難易度は高い。

 それでも見張りを倒せば海中にいるメンバーが上がれるチャンスに繋がる。ほかの船の視線が届かない位置から即座に上って、こっちの戦力がアップ。これを繰り返せば、間もなく甲板に敵はいなくなった。海賊どもには今のところ気づかれてない。


 いちいち通信でのやり取りなどせず、各々が船内に侵入し、あとは昨日と変わらない流れで制圧が始まった。


 最大の難関は海から船に上がる場面で、ここさえ抜ければ船内は死角だらけだ。侵入さえバレてなければ、魔力感知と魔力遮断に優れた私たちにとって、奇襲はあまりにも楽に成功できてしまう。


「ふう。海の中に長いこといた分、ちょっと疲れたわね。私は見てただけだけど」

「訓練として考えますと、三時間程度では短かったかもしれませんが……それにしても緊張感のある訓練は疲労の度合いが違いますね」


 事前の訓練だともっと長時間に渡って水の中にいたことはある。でもメアリーの言うとおりに、敵の目がある状況だとやっぱり疲労具合は違った。


「わたしは船の上にいるよりはマシです」


 もうだいぶ慣れたはずなのに、ヴァレリアはやっぱり船を好まないらしい。可愛い顔を渋くした妹分の濡れ髪を思わず撫でてしまう。そんな光景にメアリーは頬を緩めても、最後まで気は緩めない。


「……全員、甲板に戻ったようです」


 ブリッジの窓から様子を見てたメアリーが確認し、単なる見学者の私とヴァレリアがうなずく。これをもって今日の訓練は終わりだ。


「こちらメアリー、第一班は撤収! 第一班は撤収!」


 引き上げる時にも、ほかの船の連中に気づかれないよう海中を泳いでボートまで戻り、その後はみんなで雑談しながら母船に帰った。


 昨日に引き続いての反省会で話を聞いてみれば、やっぱり船に乗り込むタイミングがほかの班でも難しかったようだ。

 見張りがちゃんとしてる船相手には、時間内に隙を見つけることができず、力押しに頼った班もあったらしい。それも想定パターンの一つだから、訓練的には問題ない。



 海賊どもにとっては意味不明の襲撃、私たちにとってはただの訓練にすぎない奇襲を再度実行した翌日。また夜が訪れる。

 静かな制圧を目的とした奇襲訓練は昨日までだ。今夜は強襲訓練の第一段階を実施する。


「今回はちょっと難易度高そうですね」


 海賊船に向かうボートは、メンバーの雑談と共に穏やかな波を切り裂くよう進む。

 水しぶきを浴びながらも、初夏の海は海流の影響もあって夜でも暑い。海に入ってしまえばともかく、ドライスーツを着てる状態だとかなり暑くて嫌になる。

 ただ、これが冬だったとしたら、比べ物にならないくらい辛かっただろう。今の季節で良かったと心から思う。


「水面移動時にあえて発見させてからの乗船ですからね、船上からの攻撃をかいくぐりながらの接近と乗船は苦戦するかもしれません」

「やっぱ、水の中だと機動力がどうしてもね」


 私たちはまたもや同じ船を狙う。しつこくやるのが訓練に最適だ。

 しかも話し合いの結果、難度を上げた。海の中からの遠距離攻撃で船上の海賊に対する攻撃は完全に禁止だ。それというのも、本番の海賊に対して殺しは厳禁だから、訓練でも同じようにしないと訓練にならない。遠距離攻撃でも加減はできるけど、接近戦での手加減ほど完璧にはならない。万が一を避けるためにも遠距離攻撃はやらないほうがいい。


 三度目の襲撃前に様子を探ってみれば、どうやら海賊どもはさらに応援を呼んで襲撃に備えてるみたいで、より難度が上がってる。


 むしろ奴らがなんで逃げないのかと思わなくもないけど、じゃあどこに逃げるんだと考えてみればそれも難しい。海賊にだって縄張りはあるからね。よっぽどの『力』がないと、他所よその海に行って海賊稼業を軌道に乗せることはなかなかできない。

 かといって、一旦逃げ隠れて後からおめおめと戻ってくれば、ほかの海賊団から馬鹿にされ舐められる。

 複数の海賊船が謎の襲撃を受けた事件は隠しきれるもんじゃない。一方的にやられた奴らが、のうのうと生きていけるほど、どんな業界だって甘くないんだ。


 潮風と水しぶきに当たり、雑談を聞き流しながら、闇を見据えて考えに耽る。


 私たちにボコられた海賊は面目丸つぶれだ。アウトローを気取る人間のプライドを考えてみても、やられっぱなしで逃げるのは気が収まらない。死人を出してないこともあるから、恐れよりは復讐心が勝ってると考えられる。それにこっちの目的をなんとしても訊き出したいって気持ちもあると思う。


 訓練を目的とした私たちにとっては、奴らは色々と都合のいい相手なんだ。

 適当にボコっても誰にも文句を言われず、簡単に逃げずに突っかかってくれる。個人の戦闘力の差が激しすぎて分かりにくいけど、船上での動きには少しは参考にできるところだってある。正面から戦ってみれば、もっと得られるものがあるに違いない。


 手頃。まさに手頃な相手だ。

 向こうにとっちゃ不運極まりなくても、甘んじて痛い目をみてもらう。


「――話はそこまで」


 メアリーの指示でボートが停止し、アンカーが下ろされた。


「ボートが破壊されることは避けたいので、昨日と同じ距離から海に入ります。目標の五百メートルほど手前から、わざと気づかせるつもりです。もし気づかないようであれば、一度だけ魔法攻撃を放つつもりです。それでも構いませんか?」

「私はただの見学者よ。班長に任せるわ」


 異議を唱えるつもりはない。みんなでうなずき、昨日までと同じ装備一式を身に着けていく。

 メアリーが最初に海に飛び込めば、みんなもそれに続いた。


 ゆっくりと水に慣らすようにしながら泳ぐメアリー。そこから徐々に速度が上がっていくのに合わせる。

 極めて高い身体能力を持った私たちの泳力は高い。本気で泳げば数キロに及ぶ遠泳だって、大した時間をかけずに泳ぎ切る。


 予定通りに目標から五百メートルほど離れた場所からは、水面で派手にバタ足をして水しぶきと音を上げながらも速度は落とす。今夜は波も風も強くない。さすがに海賊も気づくだろう。


 あえて気づかせようと努めて、三十秒くらいは経っただろうか。ようやく海賊船から照明弾が打ち上がるも、この間にさらに距離は詰まってる。


 敵のリアクションは遅い。でも奴らも警戒してただけあって、個人での対応より先に船団が動き始めた。おそらく私たちを囲むように位置取りするんだろう。気づかれても射程の問題か引き寄せようというのか、まだ攻撃はやってこない。

 この辺までの展開は予測にあったいくつかのパターンに当てはまる。ここからが本番だ。


 散開しながら目標の船まで残り五十メートルほどに接近すると、ついに攻撃がやってきた。魔法攻撃と剛力をもって放たれる弓矢やもりの雨だ。


 いつもの外套がない状態だと、圧倒的な防御力に身を任せた雑な突進はできない。身動きの取りづらい水の中ということもあって脅威に感じる。複数の船からくる多数の攻撃は想像以上の圧力だ。田舎海賊のくせに、なかなかやる。


 水中に潜ってやりすごそうにも、ここは奴らの得意な戦場だ。攻撃を見るにちょっと深く潜った程度じゃ、あの威力ならダメージは確実に受ける。特に弓矢と銛は放たれる強い勢いのほか、通常よりもかなりの重さがあるようだ。ドライスーツの防御力だと心もとない。


 こいつは思ったよりも、ずっとハード!

 いやはや、これはまったく。


「やっとこさ、楽しくなってきたじゃないの!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >あえて困難を求め、それを乗り越えようとする姿勢が凄い いやーマジでストイックですなぁ。 どう見ても反社というより特殊部隊ですがなwww >魔法攻撃と剛力をもって放たれる弓矢や銛もりの…
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