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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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不浄の遊び場

 見張り役のナビに従って、ジープが夜の町を駆ける。副町長の動きは筒抜けだ。

 奴は徒歩から途中でバンのような車両に乗り込み、同行者は腹心か護衛と思わしき三人らしい。

 向かってる方向からして港じゃなさそうだ。船で逃げ出す算段じゃないのか、ちょっとした寄り道か。逃げ出す前に金目の物の回収や悪事の揉み消しでもするつもりかな。


「――標的まとが二台の車両と合流しました。それぞれに四人ずつ乗ってます。手下でしょうね」


 副町長が引き連れる戦力はこれで十二人にもなったようだ。それでも自警団相手に守りを固めるには少なすぎる。


「会長、奴は何するつもりでしょう。手下まで連れて大勢で逃亡ですか?」


 追い込みをかけようと裏で動いてるタイミングだ。これに感づいたなら奴も動くしかない。

 自警団長が勢力を伸ばし、ウチがバックについてる状況を考えれば、戦っても勝ち目がないことくらいは分かってるはずだ。そうなると逃げ出す以外に選択肢はないように思う。

 となれば、奴の動きはやっぱり逃げる前の寄り道だと考えるべきだろう。


 抵抗しても勝てず、待ってれば捕まるだけだ。具体的な処罰がどう下るのか知らないけど、決して軽いものにはならない。奴が助かるためには、もう逃げるしかない。


「……さてね。少数で逃げても盗賊に襲われれば終わりよ。戦力抱えて逃げ出そうとするのは、理に適ってると思うわ」


 もしかしたら何かしらの作業を終えたら、手下は放り出すのかもしれない。

 でもリガハイムを一歩出ればそこはもう危険地帯だ。ここは崩壊国家なんだからね。盗賊や魔獣の脅威はいつだってある。護衛戦力は必要だ。

 もし船で直接、別の港町に入って誰かの庇護下にでも入るなら話は変わるけど、小悪党が自前の戦力を手放すのは不安でしょうがないだろうとも思う。


 ナビに従って移動を続けてると、行き先は見えてくる。どうやら墓地に向かってるらしい。

 途中でナビも中継役から直接に切り替わった。


「――標的まとが墓地に入りました。そのまま火葬場に向かうようです。あ、先客がいるみたいです」

「先客?」

「ちょっと待ってください……すみません、見覚えのない顔ですね。どこの誰かは不明ですが、車両が二台の七人で待ってるみたいです。待ち伏せするような感じはないんで、普通に副町長と待ち合わせじゃないかと思います。また手下ですかね」


 深夜の火葬場で全然関係ない奴と、偶然に鉢合わせる可能性なんて考えなくていい。待ち合わせだ。

 副町長本人含めて一緒に移動してるのは計十二人、それと七人が合流して全部で十九人。結構な大所帯だ。


「とにかく了解。ほかに誰か近づかないか、続けて監視よろしく」


 見張りを頼むと墓地からは離れた場所で車両を停めた。

 堂々と近づいて逃げられても面倒だからね、ここは慎重に行く。


 私と同行する三人の戦闘団メンバーは、墨色の外套と漆黒のベレー帽を装着してる。夜陰に紛れるにはうってつけだ。



 真夜中の墓地と火葬場。少なくとも気持ちのいい場所じゃない。

 しかもアンデッドなんてものが存在する世界だ。教会の発表じゃ、すでに滅びてるから簡単には発生しないと分かってるけど、私たちはアンデッドが実際には滅びてないことも知ってる。


 それに本能で感じるオカルトを恐れるような気持ちはどうしても拭えない。

 実際の苦い経験としても、冥界の森で遭遇したレイスの厄介さは忘れられない思い出だ。


 幸いと言うべきか当然と言うべきか、何事も起こらずに墓地を進む。

 気配を消しながら墓地を抜けた先には、大きな火葬場が姿を見せた。焼き場だけじゃなく斎場を兼ねるみたいで、かなり大きな施設だ。


 建物の周囲には車両が停まってるだけで、すでに人影はない。

 見張りも立てずに全員で火葬場の中に入ったみたいだけど、何をやってることやらね。


「ここで待っててもしょうがない。忍び込んで何やってるか覗いてやるわよ」

「ですね、行きましょう」

「もしバレたらすいません。隠密行動はあんまり得意じゃないんですよね」

「ま、そん時はそん時よ」

「なんか不気味ですね……」


 周辺の見張りは別のメンバーがしてくれてるから、三人の戦闘団メンバーと共にさっそく中に入る。鍵は普通にぶっ壊した。

 魔力感知に従って、大勢の奴らがいる場所に向かって進む。

 明かりの点いてないロビーを抜け、入口からほど近い焼き場を横目に通りすぎる。少し鳥肌が立つような感覚を覚えるけど、無視して先を急いだ。


 闇の中を罠や警報がないか気にしながら奥に進んでると、前を歩いてたメンバーの足が止まった。


「あれ、行き止まりですね。どっかに分かれ道なんてあったかな?」


 建物内の通路や部屋を把握してるわけじゃないから、こういうこともあるだろう。破壊して真っすぐ進みたくなる衝動をなんとか抑える。

 仕方なく一旦引き返そうかと思ってると、外の見張りから通信が入った。


「小型のトラックが墓地に近づいてます。別の場所の見張りから聞いたんですが、荷台の中身はなんだと思います?」

「なんだってのよ?」

「いやー、それが死体袋らしいです。しかも複数。歓楽街の遊び場で積んでたそうですよ」


 ちっ、場所のせいもあってかどうにも薄ら寒い。

 ここは墓場の奥の火葬場だ。死体が運び込まれるのは当然の場所でもある。でもこんな夜中の移送が真っ当な動きじゃないのは明らかだ。

 しかも歓楽街から運ばれてくる複数の死体。まさか病気や事故で死んだわけでもないだろう。きっとろくでもない目に遭って死んだに違いない。


 でもね、逃げ出す前に律儀に死体の処理なんかする?

 大事な用事は済ませるにしても、可能な限り早くとんずらするのが利口な局面だ。もしかして自分たちのピンチを認識してないとか?

 分からないわね。


「会長、どうします?」

「とりあえず隠れて様子を見ようか。何をするつもりか確かめたいわ」

「普通に死体の処理なら焼き場ですよね。近くの部屋に潜伏してましょうか」


 静かな火葬場にクラクションの音が鈍く響いた。死体を運んだトラックが鳴らしたんだろう。これを受けて副町長たちが動き出したのも分かった。


「隠れるわよ」


 焼き場付近の適当な部屋に入ると、衝立ついたてがあったんで適当に広げつつ身を潜めることにした。

 奴らの動きを監視してれば奥の部屋へのルートも判明する。勝手の分からない建物の中を探し回らずに済むし好都合だ。


 隠れてから間もなく、入口のほうから二人の気配が近づいてくる。ゴロゴロと鳴る音からして大きな台車を押してるようだ。

 逆方向、私たちが引き返してきたほうからも何人かが近づいてくる。妙だ。さっき行き止まりだと思ってた場所を通ってきたように思える。

 もしかして、隠し通路とか仕掛け扉とか? 古典的ね。でも私にとっては魔法を使ってない仕掛け扉だと見破るのが難しい。


「随分と遅かったじゃねえか、早くしろよ」

「しょうがねえだろ。こっちだって人目を気にしてやってんだ」

「いいから急げ。どやされるぞ」


 合流した男たちが軽口を叩き合ってから通路の奥に進んでいく。台車ごと移動して焼き場をスルーしたってことは、死体を焼却するわけじゃないっぽい。

 遠ざかる音と魔力に意識を向ける。

 手下どもは奥の通路で少し立ち止まったと思ったら、そのまま真っすぐ進んだことから、やっぱり隠し通路になってるみたいだ。


「死体なんか運び込んでどうするもりよ?」

「さあ、まさか怪しげな儀式とかじゃないですよね?」

「趣味の悪い奴はどこにでもいますからね……」

「うへえ、ちょっと嫌ですけど見に行ってみますか」


 何してんのか気になるし、ここまできたんだから行ってみよう。

 再び通路の行き止まりに着くと暗闇の中で壁を探る。


「触っただけじゃ、やっぱり分かんないですね。光魔法使いますか?」

「通路のこっち側ならバレないか。一応、光の量は少なくね」

「はい……極力抑えめでっと」


 せっかく目が闇に慣れてるってのに、光を見たらリセットされてしまう。しょうがないけど。

 薄明りの中で改めて壁を見やっても、仕掛けらしきものは見当たらない。


 行き止まりの壁はどこを向いても基本的にのっぺりした石壁だ。腰の高さと胸の高さのあたりに横木がくっついてて、その間も木で何らかの意匠っぽい模様が描かれてる。

 無駄に見栄えのする壁だけど、死者を扱う施設と思えば、粗末な造りにはできないのだと想像する。

 とにかく何か仕掛けがあるのは間違いないにしろ、短い時間じゃ分かりそうにない。


「うーん、誰か分かる?」

「正面、横、上、下……怪しそうなところもありますが、これだってのは特にないような。いやー、見ても触っても分かんないですね」

「引くのか押すのか、横にスライドするのか、それすら分かりませんよ」

「取っ手になるほどの出っ張りもないですしね」


 三人寄れば文殊の知恵とは言うけど、脳筋が四人集まってもどうしょうもないらしい。


「ぶっ壊しますか?」

「派手に壊せば、さすがにバレるわね。ちょっと試してみるわ。扉なんだから必ずどっかの方向には動くはずよ」


 殴ったり武器を使えば簡単に破壊はできるし、魔力を浸透させて完全掌握すれば、石の部分は消し去ることが私ならできる。でも木の部分が邪魔になる。

 木が落下すれば音が響くから、ここは地味にやってみよう。


 三人が見守るなか、木の模様を避けて石壁に手を置く。そのまま五指に力を籠める。

 常軌を逸した握力はのっぺりした壁に指を食い込ませ、がっちりと壁を掴んだ。パラパラと破損した壁の破片が落ちる。


 掴んだ状態で前後左右に力を入れてみると、奥側に動く感じがあった。多少強引でも、これが壁じゃなくて扉なら動かせると思った。

 重々しい石壁を強引に押し込むと、僅か一センチほどで動かくなる。ここで左右に動かしてみると、右方向に動く感じがあった。どうやら押し込んでからのスライド式らしい。

 力任せに重い石壁を動かす。重さを除けば意外なほど滑らかに壁が動いた。


「ふぅ、なんとか開いたわね」


 三人から向けられる微妙な視線を無視して歩き出そうしたら、またしても通信が入った。やっと自警団が到着するらしい。


「――あと十五分くらいで墓地に到着すると思います。でもちょっと人数が少ないです」

「副町長は二十人くらいの大所帯よ? 少ないってどのくらい?」

「追加がなければ二十人足らずです。港のほうにも人をやってますし、歓楽街でも騒動が起こってるみたいなんで、こっちに回せる人数はそのくらいが限界なんじゃないかと」


 もしかしたら歓楽街の騒動ってのは、副町長の仕込みかもね。なかなかやる。

 争う場面になったとして、同数程度ならアジトで待ち構える副町長が有利だ。むしろ、自警団が到着する前にとんずらしそうな気もする。十五分後に墓地に到着じゃ、いくらなんでも遅い。


 通信を終えると、三人もこの先の展開が読めてしまったらしい。


「ということは、足止めにプラスして少しは削ってやったほうが良さそうですね」

「手ぇ貸してやりますか」

「こっちのほうが、あたしら向きですよ」


 襲うのはいいとして、その前にだ。


「まずは奴らの悪事を暴くわよ」


 死体まで運び込んで、何をやってるのか確かめたい。

 まあ、見るんじゃなかったと後悔するかもしれないけど……。


 薄明りを消してまた闇の中をゆっくりと進む。

 途中、一つだけ魔道具らしき反応を拾った。警報装置と思わしきそれを破壊し、あっさりと無力化する。

 奴らの魔力反応からして直線距離だと目的地は近いけど、迂回するような通路になってて歩く距離は少しあるらしい。

 そうして通路を曲がれば壁沿いに明かりの漏れる部屋があった。扉が開けっぱなしのようだ。慎重に近づき、中を覗き見た。


 扉の向こうは大きなガレージのようだった。

 中型車が三台に、中型のトラックも二台ある。部屋の中では野郎どもが、せっせと荷物を車両に積み込んでるらしい。


 引っ越し作業は逃げるためだとして、不思議なのは車両が外に出るためのシャッターなど、扉が見当たらないことだ。車両が通れるほどの裏口があるなんて、これまでの情報にはなかったことでもある。

 どうやって外に出ようというのか。また仕掛け扉なんだろうけどね。


「あれ? あいつ、ひょっとして網元じゃないですか?」

「あ、ホントだ」


 嘘、網元が火葬場に?

 呟きに誘われて探してみれば、たしかに写真で見た顔があった。

 子分どもがせっせと働いてるのをよそに、副町長と並んで偉そうな態度を取ってることから、まず間違いなく本人だ。


 港側で網元に対する見張りはやってたはずだけど、見事にかわされたらしい。地元民と余所者の差が出たってことだろうね。副町長の奴も辺鄙な所から姿を現したって言ってたし。

 これ見よがしに船を動かそうとしてたのは、ただの見せかけだったのかもしれない。もしくは網元の手下は実際に船で逃げ出す形で、別行動なのかもね。


「あっちも見てください。死体袋から何か取り出してますよ」

「なーんだ、死体が入ってたわけじゃなかったのか」

「変な儀式とかじゃなくて良かったよ……」


 木箱に移し替えられてるのは、手ごろな大きさの紙包みだ。まさか小麦粉なんかであるはずがない。麻薬だ。

 歓楽街の隠し場所から、こっちに移動させたわけか。死体に偽装して。

 もし自警団に見とがめられても、死体袋の中まで検めようとはしないと。そういうことのようだ。


 いざという時のための逃走手段や物資がここに置いてあったってことだろうね。攪乱方法まで含めて、用意周到な奴らだ。


「さっさと運び込め! 自警団のボンクラどもだって、そろそろ感づくぞ!」

「落ち着け、網元。こっちの動きが読まれていれば、あの女どもが黙ってないはずだ。ここの荷物さえ運び込めばリガハイムに用はない。逃げ切れるだろうさ」

「畜生っ! あのクソアマどもが、なんで俺が逃げなきゃならねえ!」


 苛立つ網元と宥める副町長って関係性のようね。

 出口のないガレージからの脱出方法が気になるところだけど、もういい時間だ。自警団がもうちょっとで墓地に到着するらしい。

 さて、サービスだ。少しだけ時間稼ぎと数減らしはしといやる。


「目と耳を塞いでなさい」


 私が何をするのか察した三人は、背中を向けて言うとおりにする。

 手始めに小さな鉄球を二つ生成すると、扉の隙間から天井に向かって連続で放り投げた。

 狙い違わず、照明器具を破壊して暗闇に落とす。


 突然の暗闇と破壊音に、混乱と動揺が広がって罵声が飛び交う。そんな様子を三十秒ほど傍観してから、魔法を放つ。

 ヴェローネ直伝ならぬ、彼女の魔法を私なりの魔法適正で応用した、強化版スタングレネード魔法の炸裂だ。

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[良い点] >壁に指を食い込ませ、がっちりと壁を掴んだ ブハッ ( `3´・∴; 最早ゴリラ以上www ハルクか?シーハルクなのか? 全身緑の大女に巨大化するん?www >三人から向けられる微妙な…
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