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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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怠らない地味な仕事

 新聞ギルドで用を済ませたあとでは、ノリだけで動かずに拠点の倉庫に戻った。

 まずは標的まとの利害関係者や、ウチを嵌めようとした動機なんかを情報局に改めて調査させる。

 元から標的は排除対象に指定してたゲス野郎だけど、現在の状況を踏まえてもう一度身辺の情報を洗い直す必要がある。


 新聞ギルドに私たちが殴り込んだことは、標的もすぐに知ることになるだろう。これを受けてどう出てくるか。紙面を使って売る喧嘩は、嫌がらせとしては上等だ。やられる側としては本当に鬱陶しく面倒でしかない。

 ただ、どこか標的の焦りのようなものも感じる。


 我がキキョウ会と自警団が列を組み、しかも多くの勢力をまとめさせた一件は大きい。

 ウチを除いても自警団長の勢力はすでにリガハイム随一と言っていいほどになってる。それでも背後にいるキキョウ会が肝なんだと標的は理解してる。


 普通ならウチを攻撃するんじゃなくて、逆に手を組もうとするのがまともな判断だ。にもかかわらず敵対したのは、自分がやってる数々の汚い事の自覚があるからだろう。こっちが手を握らないだろうって事が判るくらいの理解力は持ち合わせてるらしい。


 そうして当初からの状況の変化を踏まえ、これまで広く情報収集してたメンバーには、改めて標的に絞って調べさせた。

 自警団長の情報網が使えるようになったから、より早く様々な情報を取得できたのは良かった。やっぱり地元の伝手は大事だ。


「例の標的――副町長について、新たに判明したことがあります。やはり再調査は必要でした」

「はい。最初から整理しますと、副町長は裏で汚い商売にどっぷり浸かってます。表向きには町長を立てて、自身は目立たないよう影に徹する感じですね。ところがそろそろ用済みと考えたのか、町長を引きずり下ろそうとする動きがありました。どうやら町長は身の危険を感じて姿を隠したみたいです」


 私たちは海側と町側の間に立つ存在として、町長を取り込みたい思惑がある。

 その町長は教会関係の仕事だと言って、ずっと雲隠れしたままだった。どうにもおかしいと思ってたんだけど、暗殺を危惧してるなら簡単に姿は現さないだろう。


「副町長は数々の汚職に手を染めてますが、キキョウ会として受け入れ難いのは始末屋としての側面、というかそこでの悪事ですね」


 エクセンブラと同じくこっちの地方でも死者の弔いは火葬が主流らしく、ある程度以上の規模の町なら火葬場がある。

 リガハイムの墓地に併設された火葬場。非公表みたいだけど副町長がそこを管理してるらしい。


 ここまではいいとして、副町長にはさらなる裏の顔がある。

 火葬場を使った副業、つまりは始末屋だ。病死や事故死などとは違った、誰かの殺しの後始末。これが副町長のサイドビジネスになってる。底の浅いゲス野郎如きが、ウチの情報局から隠しきれるもんじゃない。


 まあ始末屋の仕事自体については、どうこう言うつもりはない。

 ただ、副町長の場合は仕事よりも自分の都合で使ってる頻度が多いってのが問題だ。

 あのゲス野郎は自分のサディスティックな欲望のはけ口として、主に他所から流れてきた女を使ってるんだ。

 行き過ぎた行為は女を死に至らしめ、その始末に火葬場を使ってる。私たちが手を組もうとは絶対に思えない野郎だ。


「――ところが奴はほかに大きなシノギを持ってました。ここからが新情報なんですが、副町長と網元が繋がってました。こいつら、列組んでますよ」


 意外ね。どういった繋がりなんだろうか。

 網元は漁業の仕切り役としてかなりでかい顔してるとは聞いてるけど、どうやら後ろ暗いところがあるらしい。


「海上でのことと魚介類の輸送は細かいところまで調べるのが難しかったんですが、網元の奴、南部から麻薬の調達してるみたいです」

「副町長がそれを受け取って、これまでは町の外に流してたみたいです。でも協力者だった陸上輸送の大手を自警団長が配下に収めましたからね、その辺の都合でリガハイムのなかで捌くことにしたんじゃないかと」

「これが最近、麻薬が大量に出回った理由ですね。でもって原因をウチに押し付けたと、そういう筋書きです」

「……そういうこと。よく調べてくれたわね」


 まさか網元がそんなことに手を出してたとは。

 海賊が漁船に手を出さないのをいいことに、麻薬の密輸をやってたわけだ。悠々と海からブツを運んでこれるんだから楽勝だろう。


「ユカリ殿。網元は取り込む候補の一人だったが、こうなっては外すしかないな」

「うん。絵を描いたのが副町長の側だったとしても、ウチを敵に回した一味よ。少なくとも網元自身には退場してもらうわ」


 副町長と網元が協力することによって、でかいシノギを作り出してた。

 商売が上手くいってない海運事業の商会長じゃ、まったく対抗できない力の差が生まれてるはずだ。このままじゃ海運事業の商会長を仕切り役に据えたところで、私たちが思ったようには上手くいかない。


 漁業による大きな影響力と麻薬ビジネスで築いた財力。これを持つ網元はウチにとって邪魔でしかない。

 真っ当な漁業だけに専念してるならともかく、裏の商売に手を出してるなら潰される覚悟もあるはずだ。キキョウの看板を敵に回すなら、なおのことね。


「なんにしても事前にそれと知れたのは良かったわ。厄ネタがハッキリしたんなら潰すまでよ」

「海側での仕切り役をどうするか少し不安はあるが、海運事業商会のほうでなんとかさせよう。腹を決めてしまえば、あとはやるだけだ」


 副町長と網元の排除は決まった。あとは後始末の段取りだ。


「とりあえず、町長の秘書にはウチの腹積もりと方針を伝えとこうか。本人が不在でも伝わりはするわよね?」

「はい、秘書は明確には答えませんが定期的に町長とやりとりはしてるみたいです。副町長さえ片付ければ、姿を現すと思います」

「網元はどうします? さっそく身柄がら押さえますか?」


 ふーむ、ウチとしては特に戦果は必要なく、結果が出ればそれでいい。そうすると……。


「消すのは容易いけど、そうね……ここは自警団と新聞ギルドに花持たせよう。あいつらが納得できる証拠は確保できてる?」

「抜かりなく」

「そんじゃ、正攻法で失脚してもらうわ。奴らの悪事を大々的に紙面で飾り立て、証拠に基づいて自警団が仕事する。女の拉致と殺しに火葬場使った証拠隠滅、おまけにドラッグの密輸と大量流通が表沙汰になれば、もうこれ以上ないインパクトになるわよ」


 民主主義の社会じゃなくたって、偉い奴が悪いことしてれば住民の反発は起こる。

 しかも町の戦力である自警団は副町長一党の敵に回ってるんだ。子飼いの戦力程度じゃ、どうあがいても抵抗は無理だ。

 崩壊国家じゃ暴力や飛び抜けた権威の後ろ盾がない限り、誰だって身分の保証なんかないに等しい。人々に認められる仕事してるならともかく、力のない悪党が権力の座に居座り続けることは不可能だ。


 副町長は確実に失脚し、協力者である網元だってただじゃ済まない。

 リガハイムは腐っても町長が存在し、一応は表向きだけでも法と自警団が機能する町だ。これまでなら揉み消せたかもしれないけど、いまはキキョウの看板掲げた圧倒的な暴力組織が自らの利益のため、関係各所に圧力を与え決して揉み消しを許さない。


 自警団と新聞ギルドの共同作戦で巨悪を潰したってことにすれば、あいつらは町のヒーローにもなれる。私たちの敵以外には、みんなに利益がある展開だ。


「では根回しに動きますが、残党はどうします? 副町長のほうは自警団がブタ箱にぶち込むか取り込むかすると思いますが、網元のほうはどうしましょう」

「密輸っていっても、網元に近い数人だけしか悪事は知らないようです。網元の後継者は同じく失脚するとして、取り残された奴らを放置するわけにもいかないですよね」


 たしかに。結局のところ上が消えても、漁師の一大勢力はそのままだ。次のまとめ役が誰になるかでひと悶着はありそうだし、誰が代表の座に収まるにしろ海側のまとめ役として適した存在にはたぶんならない。


 真っ当な奴が上に収まるなんて、期待するだけ無駄だ。どうせ味方にはしたくない、ろくでもない奴が上になるに決まってる。うん、偏見だけど。

 残党というか、残された奴らをどうするかってのも面倒な問題ね。どうしたもんかと思ってると、ジークルーネが思案しながら口を開いた。


「この際、漁師の一党は海運事業商会の傘下に吸収させられないか? 網元が多くの漁船の持ち主であるなら、丸ごと取り上げてしまって、新たな取りまとめを海運事業商会にやらせるのは無理だろうか?」

「……ちょっと待ってください。あれこれ理由付ければ網元には莫大な罰金を吹っかけられるでしょうし、取り上げるのは行けるかもしれないです」

「町に財産没収させて、でも漁船が動かないと多くの人が困るわけですからね。船の持ち主として一旦は町が預かる形で、仕切りを海運事業商会に持っていければ都合はいいです。落ちぶれても商会長は有力者の一人ですし、密輸の疑いは網元だけじゃなくて漁師一党にかかってる状況ですからね。新たな網元候補をその漁師一党から誕生させるよりは、その他の住民感情の面からしても自然に思います」


 実際に密輸に関わった少数の漁師以外は職を失わずに済み、事業が上手くいってなかった海運事業商会には、網元の取り分だったアガリが舞い込む。

 漁師の反発は激しいものがあるだろうけど、ここは権力と暴力を上手く使う場面だ。多少の問題は『力』でなんとかなる。


 かなり強引な筋書きには違いない。でも町長と自警団長、それと海運事業商会で話を詰めれば、どうにか辻褄くらいは合わせられるかな。この筋書きで行かせるよう、情報局にも頑張ってもらおう。



「ウチの思惑は決まったとして、あとは海運事業商会ね。肝心の商会長と跡継ぎには、いまだ連絡つかないのよね?」

「まだリガハイムに戻らないです。本腰入れて行方を探さないと埒が明かないかもしれませんね。ほかが片付きそうですし、ここからは優先度上げていきます」


 最悪のケースは考えてるけど、そうはなってないことを祈りたい。大筋でプランは変わらないにしろ、作戦変更は情報収集から根回しから色々と面倒なんだ。


「そうね、そしたら町のほうの交渉はジークルーネとメアリーたちに預けていい? 情報局にはリガハイムの外に出てでも、行方を掴んで欲しいわ」

「方針が決まっているなら、わたしとメアリーで問題あるまい」

「了解です。お二人なら問題ないですね。人探しのほうは当たりもついてますんで、すぐに出発します。結果はちょっと分かりませんが」


 商会長とその跡取りに連絡がつかない状況からして、何かしらの面倒事に巻き込まれてることは容易に想像できる。探し出すついでに助けてやれば、その後の交渉も首尾よく進むだろう。

 最悪のケースですでに死亡してる場合には、それが分かっただけでよしとする。実のところ、すでに半分くらいは諦めてるんだけど、判明するまではベストを尽くすだけだ。



 交渉と人探しを任せてしまえば、私やその他のメンバーは少しだけ暇になる、かと思いきやそうでもない。

 やることはあって、重要なのは副町長や網元の監視だ。まだ捕まえたわけじゃないから、裏で色々と動いてる間も表向きには日常が続いてる。


 現段階で何か妙なことを仕出かさないか、裏での動きを察知されて逃げ出したりしないかを見張っとかないといけない。

 自警団や新聞ギルドを巻き込んでの作戦のため、完全に情報を秘匿するのは無理があると思ってる。そんなわけで、もしかしたら何か起こるかもしれない。


 昼も夜もなく、交代で見張りを続けること早数日。裏方も大変だ。

 リガハイムの奴ら主導で行う大捕り物を展開する段の前になって、やはり動きがあった。

 敵に何も動きがなければ私たちの出番はなかったはずなんだけど、トラブルメーカーの女神は楽をさせてくれないらしい。


「――副町長の奴が動きました」


 見張りのメンバーから通信が入った。港の倉庫からは距離があるんで、聞こえるのは中継してるメンバーの声だけど。


「こちら紫乃上。自警団は気づいてないの?」

「屋敷を張ってても気づけないですね。秘密の通路かなんかを使ったみたいで、辺鄙なところから姿を現したらしいです」


 こんな夜中に秘密のお出かけか。普段なら火葬場で悪さをするにしても、秘密の通路を使っての外出なんかしてないはずだ。明らかに怪しい。


「こちらヴィオランテ、港にも動きがあります。夜逃げの準備でしょうか」


 おっと、港の見張りからも連絡が入った。

 リガハイムの漁師は朝から昼間にかけて漁に出る。夜間に船を動かすのは、秘密の用事がある時だけだ。密輸の取引に出かけるか、逃げ出そうとしてるかのどっちかだろう。

 副町長の怪しい動きと合わせれば、網元と協力してとんずらしようとしてると考えるのが妥当なところか。


 副町長と網元、どっちの側にも自警団の奴らを動かすよう、見張りのメンバーたちを急がせた。

 このままじゃ、結局はウチが始末をつけることになってしまう。


「小型船では大型魔獣の影響で沖にまで出られないが、近場の離島あたりに逃げ込まれると厄介だな」

「いざって時の潜伏場所とか、遠方に逃げ出すための中型船くらいは隠し持ってるかもね」


 漁師が使ってる漁船はどれも沿岸漁業向けの小型だ。せいぜい数トンクラスの船で、複数人が何日も寝泊まりできるような船じゃない。手下どもを連れて逃げるなら、漁船だと複数の船を使った上でもそう遠くない場所になるはずだ。


「やっぱり副町長と合流して逃げ出す腹ですかね」

「船が出るまでに自警団が間に合うといいんですけど」


 周囲にいる戦闘団のメンバーも話に加わってくる。

 密輸云々じゃなく、逃げ出す腹だと考えて動いたほうがよさそうだ。


「ここは我々で妨害に動くしかないか」

「そうね、しょうがない。足止めくらいはこっちで引き受けようか。ヴィオランテ、聞こえてるわね。私は副町長のほうに行くから、そっちは網元の妨害頼むわよ」


 休ませてるメンバーは多いし、色んな所を見張らせてるから気軽に動かせるメンバーがいまは少ない。そんなわけで私が動く。


「ヴィオランテ、了解です。でも副町長との合流を待たずに出発するようなら、最悪は船を沈めることになるかもしれませんが……」

「一隻や二隻くらいなら構わないわ。逃がすよりマシよ。でも自警団に生きて捕えさせたいから、なるべく殺さないようにね」


 漁師なら夜の海に放り出されても、少しの距離くらいなら泳いで生還できるだろう。もし溺れそうになっても、ヴィオランテたちがフォローすれば何とかなるかな。

 いや、そこまで面倒見るのも妙な話だ。まあその場その場の判断で、みんなベストな選択をするだろう。


「ジークルーネはここに残って、情報の取りまとめと必要に応じて指揮を頼むわ。戦闘団は何人か付いてきなさい」


 メアリーやヴァレリアたちは、私やジークルーネと交代で今は眠ってる。起こす必要まではない。

 みんなの返事を聞きながら準備を済ませ、ジープに乗り込んだ。

 それにしても副町長の奴、何を仕出かすつもりかな。港に逃げ込もうとしてるなら、一網打尽にできそうなんだけど。

キキョウ会はいずれ行う港湾荷役の仕事を上手く行かせるため、リガハイム内での確かな地盤を築こうとしています。

色々と回りくどくてややこしい展開がもう少し続く予定となっていますが、どこかで一度ババンとやってしまいたいですね。主人公のストレスゲージも徐々に高まってきている気がします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自警団もはやキキョウ会の傘下組織じゃないって感じで利用されてますね まぁ今の街きてから自警団はキキョウ会抜きでちゃんと成果出せてないもんなぁ 地盤固めに使えるから利用してるだけで、組織として…
[良い点] >町長は身の危険を感じて姿を隠した おぉ!単なるお飾りの昼行燈かと思ったら最低限の 危機感知能力はあったか! [気になる点] 正に悪徳の街って感じで、副町長だけじゃなく網元まで腐ってたと…
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