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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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華麗にデビュー

 抜けるような青空が目にも眩しい昼下がり。

 颯爽と墨色と月白の外套をひらめかせ、肩で風を切った女の一団が威風堂々と歩みを進める。お揃いの胸に付けた紫水晶のキキョウ紋も、キラリと光って道行く者の目を引き付ける。

 もうすっかりお馴染みとなった稲妻通りでは、住民たちの謎の歓声が上がる珍事に見舞われた。それだけ私たちがイカしてるってことだろうけど、ちょっとばかり気恥ずかしい。


 稲妻通りを通り抜け、しばらくすると六番通りが見えてくる。

 ここまでの注目度は抜群だ。誰もが私たちに目を奪われ足を止める。そして我知らず道を開ける。

 立派な外套の威力だけじゃないと思いたい。大人数で武器まで持って街を歩くのは初めてだし、溢れ出る私たちの威容に我知らず恐れを成したと、そう思うことにしておく。


 荒事前提だから、今日は戦闘班のみの出撃でそれ以外は留守番にした。それから本拠地の戦力を空にするわけにもいかないから、念のためにアンジェリーナとシェルビーは残してある。

 居残り組からは大ブーイングが起こったものの、こればっかりはしょうがない。


 今後はローテーションで本拠地待機、稲妻通り見回り、六番通り見回り、それから近い将来には酒場や賭場にも人を配置しないとならない。どう考えても人手不足だ。分かってはいるんだけど、現状のままじゃそこまで手が回らない。

 ほかにもやりたいことはたくさんあるし、追々なんとかして行くしかない。


 ちなみにメアリーさん改め、メアリーは戦闘班として同道してる。

 日々の訓練に懸ける情熱と努力によって、キキョウ会戦闘班として最低限の水準に達したと判断したからだ。それを告げた時の嬉しそうな表情は忘れない。でも、あくまでまだ最低限。これからも努力が必要なことを自分で十分理解してることも、ゴーサインを出した一因だ。キキョウ会の基準は非常に厳しく設定してある。


 私、妹分ヴァレリア、元騎士ジークルーネ、元村人メアリー、元収容所から一緒のボニー、ポーラ、グラデーナ、ブリタニー、総勢八人での出撃だ。

 キキョウ会だけじゃなく、メアリーにとってもデビューの日となる。良い一日にしたいもんだ。



 六番通りに到着してみれば、私たちを歓迎でもしてくれてるんだろうか?

 これまでに何回か訪れてた割には見かけなかった、強面こわもて連中がうろついてるじゃないか。しかも、ちょうど通りかかりの商人に因縁まで付け始めた。

 見たことのない連中だから、ブルーノ組の人間じゃないことはたしかだ。ということは敵と考えて問題ない。なんというタイミング。


 ブルーノ組には今日から六番通りでの活動は遠慮してもらってる。これまでも嫌がらせ目的で、ああいった連中は枚挙にいとまがないと聞いてたけど、あんな感じなのね。

 六番通りの入り口では、目立ちまくる私たちに早くも視線が集まり始めてるけど、強面連中は因縁付けるのに夢中になって、こっちにはまだ気が付いてない。


 私だけじゃなく、みんながニヤリとして気がはやるの感じた。


「誰だか知らないけど、手ごろな奴らね」

「ああ、なんて運のない連中なんだろうな」

「あたしたちにとっちゃ、ありがてえ。こうして出張ったってのに、出番なしじゃカッコ付かないところだったぜ」

「最初はあたしに行かせてくれよ?」

「何を言っている、わたしだ」


 血気盛んな仲間たちは頼もしくて面白い。


「遊びにきたんじゃないんだから、全員で行くわよ」


 よし、と気合を入れ直して馬鹿どもに向かっていく。

 あえて無視してるのか本当に気づいてないのか、連中はこっちを振り向かない。もう真後ろまできてるってのに。


「ねえ、ちょっと。あんたたち、迷惑なんだけど」


 背後から優しく声をかけた。哀れな商人はがっちり体系の男に締め上げられて、助けを求めることもできないらしい。


「……あ?」


 胸元を掴み上げた商人を放り捨てながら、ようやく私に向き直るがっちり体系の青年。いきなりの喧嘩腰だ。

 続けてこっちを値踏みしながら、完全に舐めきった態度で詰め寄ってきた。


「なんだあ? お前ら」

「おいこら、女ぁ。誰に向かって口利いてんだ。今すぐその口を塞いでやろうか?」

「こりゃまた、ずいぶんといい服着てるな。こんなアバズレにゃもったいねえ。剥いちまおうぜ」

「だな。おい、その服は置いてけ。ま、嫌だっつっても剥いちまうけどな」

「公開ストリップショーだぜえ! おい、あの髪の長いのは俺がもらうぜ」

「あ、ふざけんな! おめえはそっちのブスがお似合いだろうが」

「なんだとてめえ、ぶっ殺すぞ!」


 残念ながら相手の身体強化魔法のレベルも計れない雑魚どものようだ。

 ぞろぞろと雁首揃えて馬鹿そうな連中だ。こんなのに舐められたんじゃ、今後の活動に支障が出る。キッチリと型にはめてやろう。


「聞こえなかったの? 迷惑って言ったんだけど。さっさと出て行きなさい」


 素直に言うことを聞くはずがなくても、段取りってものがある。挑発の意味も込めて、呆れたように応じてやる。


「おい女、こっちは天下のマルツィオファミリーだ。二度と見れねえツラにしてやろうか?」


 マルツィオ? どっかで聞いたことがあった気がするけどね、なんだっけ。別にいいか。どうせ大したことじゃない。


「ヴァレリア、みんなも。殺さない程度にしときなさい。後の処理が面倒だわ」

「おう!」


 あっという間の出来事だ。結果が出るのに何秒もかかってない。

 馬鹿どもが死屍累々。いや、死んではないけど。

 みんな以前にブルーノ組とやりあった時より遥かに強くなってる。


 キキョウ会は鍛え方が違うんだ。武器を使うまでもない。

 レベルの違う身体強化魔法を使えば、ちょっとお仕置き程度の感覚で片付けられる。まあ相手も丸腰だから武器を使っちゃ、カッコ悪い。素手で軽く揉んでやってくらいのことだ。


「――クソがっ! お、お前ら、一体なにモンだ?」


 起き上がって文句を垂れたのは、がっちり体系の青年だ。まだ元気みたいね。

 でもちょうどいい、こいつに気絶してるのを持って帰らせよう。


「ふんっ、このキキョウ紋をよく覚えておきなさい。私たちはキキョウ会。今日から六番通りはウチのシマよ。喧嘩ならいつでも買うけどね」

「キキョウ会だと? まさか噂の……ブルーノ組はどうした!?」

「これ以上、お前みたいな下っ端と話す気はないわ。さっさとそこに転がってる奴ら連れて帰りなさい」

「なんだとっ、女風情が調子に乗りやがって! このっ」


 ボコボコにされた顔で言うセリフじゃないわね。最後まで聞いてやる義理もない。


「ジークルーネ」

「おい、貴様。誰に向かって口を利いているんだ? 立場をわきまえろ」


 私の合図にジークルーネが前に出て威圧した。すると、やっと格の違いを感じ取ったらしい。態度に脅えが混じったのが分かる。


「ち、畜生が、覚えてやがれ!」


 最後の意地なのか、悔しげに悪態をつきながら仲間を起こしてどこぞへと去って行った。


「そこの商人、怪我はない?」

「は、は、はい、ありがとうございます。助かりました!」

「いいのよ。それじゃ」


 商人はまだ物問いたげにこっちを見てるけど、いちいち説明してやるつもりはない。


「よし、こんな感じで見回りを続けようか」



 通りの店を順繰りに眺めながら練り歩く。キキョウ会の威容を見せつけながら。

 私たち八人が纏う外套と武器、それとあまりに堂々とした振る舞いは、一種現実離れした光景にも見えるだろう。

 女の立場が低い世界で我が物顔に街を闊歩する姿は、もし気に入らないと思っても気軽にはちょっかいかけられないと思う。


 どんな店があるのか、きちんと観察しながらゆっくりと巡回する。

 店の中にまでは入らない。屋台で適当に軽食を買い食いしつつ、墨色と月白、キキョウ紋を存分に見せつける。

 ここにキキョウ会ありと、これ以上ないインパクトを与え続ける。


 しばらく時間が経つと、また嫌がらせ目的のどこぞの馬鹿どもが湧いてきて、かませ犬よろしく私たちに排除される。まるでやられ役のエキストラだ。

 ほかには難民かホームレスっぽい奴がスリや盗みをするのを見つけては叩き伏せておいた。大した件数じゃなかったし、割と暇だったように思う。いつもこうだと楽で良いんだけど、ずっとこうだと、それはそれでつまらないとも思ってしまう。


 めちゃくちゃ目立ってるから、ずっと注目され続けてる。だけど不思議なことに、話しかけてくる人は全然いない。

 ここの人たちは慎み深いのね、きっと。



 だいぶ歩き回って疲れてきた頃、気になってた甘味処に入ることにした。みんなの視線もそこに向かってたし、休憩にちょうどいい。


「ちょっと喉が乾いたわ。あそこに寄ってみようか」

「賛成です」

「歩き回って疲れたしな、あたしも喉乾いた」


 みんなで入店すると、緊張の面持ちで私たちを出迎える若い女店員。

 そんなに硬くなられると、やりにくいんだけど。


「席に案内してもらえる? それとも、勝手に座って構わない?」

「は、はい! すぐにご案内します!」


 割と混み合った店内の視線を集めながらも、堂々たる態度を崩さない。結構な人気店で繁盛してるように見える。味に期待できそうだ。

 表側のテラス席案内されると、通りからも視線が集まってしまう。ちょっとうざったい。

 だけど視線なんか気にするまい。目立ってなんぼの商売と割り切っていく。


「ご注文はいかがされますか?」

「私はこのお薦めって書いてある、フルーツケーキと本日のハーブティーで」

「あたしはこっちのロールケーキとブレンドコーヒーにしとこうかな」

「わたしは……」


 思い思いに注文して少し雑談をする間に、いい香りのするお茶やケーキ類が運ばれてきた。

 疲労した身体に甘味とお茶が染み渡る。ん~、素晴らしいひと時だ。

 ところがどっこい、無粋や輩はどこにでも現れる。



 真向いの商店から出てきた奴らが気になった。

 冒険者風の格好をした若い女の子と、金持ちそうな太った男にその護衛らしき数人の男たち。

 なんか揉め事が始まったみたいね。


「待って、約束が違う!」

「なんだ小娘、人聞きの悪い事を」

「おい! いい加減にしろ、旦那様に近づくな」


 必死に言い募る女の子と、煩わしそうにあしらう男たちのやり取りは、どっちが悪いのか一目見ただけで分かりそうなもんだ。

 どれどれ、ちょっと様子を見てみようかね。


「お姉さま」

「ヴァレリア、少しだけ様子を見守ろう。万が一ってこともあるし。みんなも少し抑えてなさい」


 事情も知らずに見た目だけで決めつけるもんじゃない。一応ね。

 女の子はかなり必死だ。尋常な感じじゃない。


「お金はちゃんとさっきの店に払いました!」

「嘘を吐くな、あの商人はそんなものは知らんと言っていたではないか」

「それこそ嘘です! あなたが言ったとおりにしたんですよっ! 剣だってあの店に預けていたはずなのに、無くなってる! どうなってるんですか!」

「旦那様から離れろ、言いがかりは止めないか!」

「知らんと言っておるのだ。言いがかりを付ける前に、嘘と言い張るなら証拠を出せばいい」


 ふーむ。会話の流れから察するに、冒険者の命である剣を担保にあの店で金を借りたと。でもって、その場ですぐ支払ったってことかな。店に金を払えば、おっさんから何かを得られる。そういう話だったようだ。

 きちんと書面でやり取りしなかったせいで、金と剣が奪われた状態になってしまった。で、証拠もないと。なんて迂闊なんだ。


「あのお金がないと治療できないの! 毒なんですよ!? 時間がないの!!」


 あちゃー、毒か。そりゃ焦るわけだ。

 毒を受けてからどのくらい経ったのか、それに何の毒か分からないけど、あの焦りようから見て一刻を争うようだ。


「だからほかの担保を差し出せば、金は貸してやると言っているだろう」

「その担保にした私の剣はどこにやったんですかっ! それであの店から金を借りて払っておけば、回復薬をくれるって約束だったでしょ!?」


 上手いこと状況説明をしてくれるもんだから、話が分かりやすい。周りの人たちも気の毒そうにチラ見してる。私たちはガン見してるけど。


「何の話かまったく分からん」


 悪党には生き易いこの世界だ、証拠がないんじゃ苦しいわね。

 しっかし、仲間のために大事な剣を捨てて駆けずり回るか。こんな子には報われて欲しいんだけどね。


「旦那様、周りの目もあります。排除しても?」

「ああ、頼んだぞ。次の予定もあるからな」

「はい。お前ら、やるぞ」


 護衛のリーダーが号令をかけると一斉に武器を構えた。

 いやー、それはないわ。丸腰の女の子を相手に、寄ってたかって武器を向けて恫喝する。

 ないわー。これが噂に聞くシャバぞうってやつか。シャバいにもほどがある。


 だけどね。あの女の子、意外とやりそうなんだよね。

 身体強化魔法の使い方が分かってるというか、伊達に冒険者やってるだけのことはありそうだ。


「卑怯者! 絶対に返してもらうから!」

「黙れっ」


 男たちが容赦なく剣で切りかかるものの、女の子は微動だにしない。あっさりと八つ裂きに、なるはずもなく剣は女の子をすり抜けた。

 普通に殺す気満々なんだけど、街の中でよくやるわね。一体どんなコネ持ってるんだか。


「幻影だとっ!? 気を付けろっ」


 魔力を感知してさえいれば上級魔法ならばともかく、中級程度の幻影魔法なら見破れる。我がキキョウ会にその程度もできない奴はいない。

 あの護衛の男たちにはできないようだし、意外と剣がなくても女の子はなんとかしちゃうのかもしれない。

 とは言ったものの、やっぱり武器がない状態だと女の子も攻めあぐねるようで、攻撃は全然できてない。避ける一辺倒になってしまってるわね。


「くそっ、魔力を感知しろ! 囲むんだ!」


 女の子もこれ以上粘っても手がないと悟ったのか距離を取り始めた。それを察知した一人の護衛が愚かにも火の攻撃魔法を放った。

 しかも焦ったのか微妙にコースを外して。ノーコン野郎め!

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