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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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空を照らす光

 エクセンブラの街を出ると、降り積もった雪が全てを覆い隠す光景に出くわす。

 雪解けが進んでてもう積雪は一メートルもないけど、雪に閉ざされるとはよく言ったもんだ。

 こんな状況で遠征するなんて普通の人ならまずしない。エクセンブラと王都間の往来は冬でもあるから、その街道だけは除雪されてるけど、その他の街道はどこも雪で埋もれてるはずだ。

 エクセンブラから外に出るのは王都に行く連中か、私たちのように外で訓練する連中くらいだ。特にウチは訓練でメンバーがしょっちゅう外に出るから、門番にも不思議には思われない。


 ちなみに街の中の主要な通路や広場は、魔道具のお陰で除雪は普通にできてる状態だ。これも発展の度合いに合わせてどんどん範囲が広くなり、便利になってるのが住民には良く分かる。

 それと門の外側が完全に雪で埋まると出入りに支障が出るから、外側はちょっとした広場ができるくらいには除雪されてる。もっと国や街が豊かになれば、主要な街道はほぼそうできるようになるのかもね。


 ぞろぞろと計四台の車両で外に出ると、さっそく雪の中でデモンストレーションだ。一旦、みんなで車両から下車する。

 魔法は大抵の不可能を可能に変えてくれるからね。みんなも魔法を使った除雪くらいは経験あるけど、ここは手本を見せて進ぜよう。


「まずは魔力感知で誰かいないか探ること。一応ね」


 東門から出て向かうのは王都方面だ。王都の中にまでは立ち寄らないけど経由して北西に向かっていく。王都から先は雪で街道は埋もれてるから、それをなんとかしないといけない。練習台として王都とは別方向の街道に向かって魔法を使ってみる。

 雪で埋もれた街道に通行人はいないと思ってるけど、変わり者が絶対にいないとは限らない。誰かいないかを確認しておかないと。


「使う魔法は火だと街道焦がすわね。威力が必要だけど風が無難かな。車両の幅よりも広く、目視よりも魔力感知で探ったポイントまで一気に片付けるイメージで。行くわよ!」


 街道があると思わしき道に沿って魔力感知の網を広げ、余計な対象物がない事を確認する。

 そうしたら魔力に物を言わせた力任せの突風を解き放つ。

 結果、雪の塊を押し退けて進む風が、街道上に降り積もった雪を盛大にぶっ飛ばす。どこまでも遠く、私の魔力感知の及ぶ範囲まで。

 地を這うように進んだ風の魔法は、地平の先の先まで進んでようやく止まった。


「こんな感じね。先頭車両に乗ったメンバーから後でやってみなさい。無駄のない魔法行使は、ちょっとした腕の見せ所よ」

「わたしもやります!」

「あたしじゃ、あそこまでの距離は無理だな。リリアーヌならもっといけるか?」

「風魔法適性持ってますからね、得意ですよ。王都から先の除雪は、まず第九戦闘団から行かせもらいましょう」

「任せるけど先は長いからね。疲れたら順に変わっていこう」


 王都までは普通に進み、そこを過ぎたら強行軍の本番だ。街道上の雪を魔法で吹っ飛ばし、リミッターを解除した車両のスピードでどんどこ進んでいく。強引な突破も実力があればこそ。


 可能な限りを突き進んでは車中泊を繰り返し、数日かけてドンディッチの国境付近にまで至った。



 国境と言っても、有事じゃなければ大した警備はない。割と普通に抜けられる。

 私たち程度の集団なら旅の女傭兵団と言えば通じるだろうし、季節柄のおかしさを除けば妙なところはないと思う。昨今は発展するブレナークの王都やエクセンブラを目当てに、大陸北部から人の行ったり来たりが激増してるから、いちいち細かいやり取りは発生しないとも聞いてる。往来のお陰でドンディッチも恩恵を受けてるから、おかしな難癖をつけられることはないと思われる。


 だけど、私たちは堂々とキキョウ紋を掲げる集団で、キキョウ会の名は大陸東部だと少しは聞こえた名前のはずだ。国境警備を何のお咎めもなしに抜けられる気はしない。

 抜ける事自体は可能かもしれないけど、マークはされるだろう。そうするとタンベリーの街でゴタゴタが起こった後で、私たちの関与が疑われる可能性は当然のように生じてしまう。帰り際に足止め食うなんて面倒はゴメンだ。


 そんな事情で検問のない道なき道を行く。途中からは街道を大幅に外れ、雪をぶっ飛ばしても舗装のない原野を進んだ。

 多少の起伏はあっても基本的に平原が続くから進むことには問題ないし、普通じゃ進めない場所があっても魔法でどうにでも解決できるから、やっぱり特に問題ない。


 ドンディッチ入りしてから、さらに雪深い道なき道を進んでいく。

 初めて見る風景の上に辺り一面は雪塗れだ。普通なら迷いそうなもんだけど、方向感覚さえしっかりしてれば、どうにかなる。地形や星を頼りにした進行も、みんながいれば大丈夫。私だけだったら完全に迷子になりそうだけどね……。


 そうした小さな冒険のような道程を経て、私たちはタンベリーの街にたどり着いた。



 遠目に見えるのはブレナーク王国と少し印象の異なる造りの街門だ。なんだろう、漠然とだけどちょっと古臭いデザイン? そんな事はどうでもいいとして、日暮れ間近の街門は開かれた状態だ。久しぶりの人里だからか、まるで私たちを歓迎してくれるかのように思えてしょうがない。

 そして印象的なのは日の光だ。春の近さを思わせるほんの少しだけ強さを増した日の光。

 アングル的に街門の上に輝くその鮮烈な落日の光は、空を赤く燃やし焦がすかのようだ。不思議と血の沸き立つような気持ちにさせる。

 まったくもって、早く暴れたくて気が逸る。


「あそこに見える南の街門は買収済みです。キキョウ紋を見せれば素通りできる手筈になってますし、時間もいい頃合いなんでこのまま行きましょう」


 私たちが先頭車両として門にゆっくり近づくと、門番の手前で停止する。案内役のメンバーが窓からキキョウ紋バッジを示し、手筈通りに問答なく街に入れた。思い通りに行くってのは気分がいいわね。

 そのまま案内役のナビに従ってしばらく中心部に向かって進み、途中からは人の少ないほうにどんどん進む。すると放棄されたらしい、何かの工房のような敷地に入った。


「ここがアジトです。外観は悪いですが、居住性は確保してますんで」

「うん、案内ご苦労様」


 四台の車両を適当に停めると、案内役が魔力認証で開けたドアから手荷物抱えてみんなで中に入った。

 廃工房の中はがらんとして、元からあったのか運び込んだのか、椅子やテーブルが雑に置かれただけの空間だった。浄化魔法をばっちり使ってるみたいで、埃っぽくはない。


「……地下が騒がしいみたいね」

「会長、耳いいですね。上に部屋を用意してますんで、皆さんまずはそちらにどうぞ」


 元は住み込みで働ける工房だったらしく、狭いけど個室はたくさんあった。適当に各々が部屋に入って荷物を置くと下に集合する。


「私たちも地下に行こうか?」

「いえ、空気が悪いですからここで待っててください」

「地下がどうしたってんだ?」

「尋問中みたいよ。音で分かるわ」

「誰かいるのは分かってましたけど、よく音まで聞こえますね」


 地獄耳だからね。

 話してると地下から案内役含めて三人の女が上がってきた。


「会長、皆さん、出迎えが遅くなってすみません」

「仕事の途中で悪いわね。いきなりだけど、とりあえず状況報告を頼むわ」


 これまでの長い間の仕事を労いたい気持ちはあるけど、それは全てが終わってからでいい。


「それがですね、実は状況がさらに変化してます」

「さらに?」


 思わず聞き返してしまった。エクセンブラからやってきたみんなも同じ気持ちだろう。

 椅子に座った私たちを前に、立ったままの情報局メンバー二人が説明を開始した。


「代理人がユングベリ・ファミリーに消されたことはご存じと思いますが、それを皮切りに後釜との抗争が始まってしまってます。すでに双方、何人もの死者を出してまして、あっという間に泥沼化しました」

「本来、そういった事態を抑える街の有力者たちなんですが、ウチの買収が効いててほとんど街に残ってないんですよね。実際に街にいなければ、なにが起こっても知らぬ存ぜぬが通用しますし、冬の前にバカンスに出て行ったみたいです。そのお陰でもう野放しになってまして、もうやりたい放題ですよ」

「まあ、そこまでならまだ良かったんですけど……」

「問題はここからで、第三勢力が出しゃばってきやがったんですよ」


 へえ、別の組織とはね。


「なんの脈絡もなく、いきなりそうした勢力が現れるわけないですよね。引き入れたのは権力者の誰か、ということになりますか」

「はい、リリアーヌ団長。第三勢力のタイミングが良すぎます。不意を衝いた奴らが現状だと圧倒的優位に立ってますし」

「このままそいつらが勝てば、引き入れた権力者が他を出し抜いて一人勝ちの状況に持っていけるって寸法みたいですね」

「つーことは、ウチの買収工作が利用されたってことか? ふざけた話じゃねえか」


 まさしくそうだ。

 街で騒ぎが起こっても権力者に介入させないために工作を仕掛けてたんだ。それを裏切り利用し、一人勝ちを収める絵を描いた奴がいるっぽい。まあ一人とは限らないけど。


「ユングベリ・ファミリーのほかにも標的が増えたってことみたいね」

「ああ、裏切った奴からケジメ取らねえとな。代理人のおっさんも浮かばれねえぜ」

「それで、第三勢力というのは判明したんですか?」

「地下にいるのが一味の野郎です。どこのもんで、何をしようとしてんのか、ちょうど尋問中だったとこでした」


 ふーむ、まずは第三勢力が何なのか知りたい。

 どのくらいの規模の組織で、何人くらいの兵隊でやってきてて、指揮官はどんな奴か、アジトはどこでタンベリーの街の誰と繋がってんのか。


「とりあえず今の状況は理解したわ。ほかのメンバーは?」

「調査に出てるのが一人と、代理人の部下たちへの護衛に一人付いてます。戻るとしても遅くなると思いますよ」

「そっちから掴める情報にも期待したいわね」

「はい。あたしたちは地下で続きやってきます」

「うん、頼むわ」


 外からきたばかりの私たちにできることは少ない。

 ユングベリ・ファミリーの連中については、ある程度の情報を知ってる状態なんだけど、今の状況で奴らに手を出すのは第三勢力を利するだけだろう。


 元の鞘に納めるには最初に邪魔な第三勢力を撃退し、裏切り者の権力者を逃げられる前に確保、それから当初の標的のユングベリ・ファミリーを排除すること。この順番がいい。

 まったく、余計な手間が増えたわね。



 すでに日の落ちた時間とあって、夕食の準備をみんなでやる。

 そうしてるうちに尋問を終えたメンバーが戻り、食べながら話を聞いた。


「――そうすると、第三勢力ってのはユングベリ・ファミリーと同程度の組織と考えて良さそうね」

「随分と前から、タンベリーへの進出を狙ってたみたいです。この街を取れれば、西ドンディッチでひと際大きな組織として名乗りを上げられるといった目論見みたいですね」

「この街の勢力同士をぶつけて弱らせ、そこに割って入ってかすめ取ろうってか。ウチの仕掛けがいい切っ掛けだったんだろうが、都合よく利用されたな」

「舐められてますよねえ」


 しょうがない。ここは他国でエクセンブラとは違うし、代理人はキキョウ会の名前を大々的に使った交渉をしてない。

 もしウチの名前を前面に出してたとしても、他国の悪党を名前だけでビビらせることなんて無理だ。


 そもそも喧嘩は名前でするもんじゃないし、喧嘩上等な私たちとしては受けて立つのが道理というもの。舐められてるってのは、やっぱりムカつくもんだけどね。名前を出してるとか出してないとかに関わらず、実際に他国じゃまだまだこんなもん。

 特に悔しいとは思わない。むしろそうした舐めた奴らをぶちのめすのは、爽快じゃないかと思うくらいだ。


「ただ賄賂が効いてるから、少々の騒ぎはお咎めなし。これだけは準備しといて良かったわね」

「ああ、面白くなってきやがった」

「敵が二倍に増えて、楽しみも二倍! 結構なことじゃないですか」


 ポーラとリリアーヌの笑みが深まる。さすが、分かってるわね。

 私たちにとってはストレス発散できる相手が増えたにすぎない。これがラッキーでなくてなんなのか。

 初めて訪れたせっかくのドンディッチなんだ。楽しんで行こう。


「んじゃ、さっそくだけど今夜から動こうか。なにか情報は?」


 焦りはしないけど、ゆっくりのんびりとなんかするわけない。


「ハルムスタッド・ファミリーは今夜も襲撃かけるみたいです。見物に行きますか?」


 第三勢力の名前がハルムスタッド・ファミリーらしい。どうせすぐに潰れるんだから、いちいち覚えないけどね。

 見物の提案に当然と頷く私たち一同は、案内に従って夜の町へと繰り出した。



 不穏な情勢の夜間に出歩く人はほとんどいないらしい。

 しんとした雪道を車両でしばらく進むと、街の中心部と思われる大きな建物が目立つ場所に到着した。

 車両を適当に停めて番を任せ、その他のメンバーでビルの屋上に上がる。もちろん無断侵入だ。


「始まってるみたいですね」

「おー、派手にやりやがったな」


 夜間にもかかわらず、遠くのほうの空が赤く染まってる。炎の光だ。激しい燃え方からして、油か何らかの薬品を使った上での火付けだろう。


「放火とは思い切ったことをします」

「勢いだけでなんにも考えてないんじゃないですか?」

「やられてんのはユングベリ・ファミリーでいいのよね?」

「そうです。あの様子だと全焼ですね。夜間の襲撃は普通に殴り込みだと思ってましたけど、こうきましたか」


 しかも燃えてるのは本家らしい。私たちが殴り込む予定だったのに、余計な事をしてくれるもんだ。


「お姉さま、まだ終わってないみたいです」


 燃え盛る建物を呆然と見てるのは、ユングベリ・ファミリーの構成員たちだろう。逃げ延びたと思わしき恰好の奴らが大勢いる。ファミリーの本家らしく構成員の家族、女や子供までいるみたいだ。

 そんなところに襲いかかる連中がいたんだ。


「うわあ、容赦ないですね。ハードコアですよ」


 燃える屋敷を見つめる連中の背後から、何十人もの男たちが魔法をぶっ放しながら走り寄る。

 不意打ちで魔法を食らわせるだけじゃなく、斬りかかって止めを刺すとはなかなかの念の入りようだ。非戦闘員までまとめて皆殺しとは、私たち以上の外道じゃないか。


「気合入りすぎだろ、なんか恨みでもあんのかもな」

「そうかもね。でも火遊びが好きな連中みたいだから、私たちもその線で行ってみようか。きっと喜ぶわよ」

「ははっ、違いないです! それじゃ、奴らのヤサが割れたら早々に行きますか」


 高みの見物は終わりだ。

 私たちはもっともっと大空を赤く派手に染めてやる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >キキョウ会の名は大陸東部だと少しは聞こえた名前のはず 以前王都にデバった際は、まだキキョウ会もキキョウ紋も 全然メジャーじゃなかったですが、段々名前が売れて来てますねぇ >実際に他国…
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