山の誕生!
ブルームスターギャラクシー号をぶっ飛ばしてエクセンブラに戻ってさっそく、また忙しくなるぞと事務所にいたメンバーに話をする。
幹部会で改めてメンバーには共有するつもりだけど、まずは今いるメンバーで準備をさくさく進めてもらうつもりだ。
変なところから情報が漏れて噂が広まるよりは、私たちからエクセンブラ関係者に伝えておきたい。
「そんなわけで魔道具ギルド支部がエクセンブラにもできるわよ。まだ決定じゃないけど、ほぼ決まりだから準備は進めといて」
「あの、ユカリ。警備用の魔道具を発注しに行ったはずがどうしてそうなるのですか……?」
呆れた顔のフレデリカが代表してって感じで言う。心外ね。
「ロスメルタから伝言があったはずよ? 問題の多いギルドにちょっとばかし焼きを入れるって。あとはあの女の口車よ」
「しかし、さすがはロスメルタ様とユカリ殿だ。ギルド支部を引っ張ってくるとは予想以上もいいところではないか。なぜそうなるのか意味不明だが、とにかく上出来どころではない成果だ」
「ああ、意味分かんねえが面白そうな事してきやがって、あたしも行きゃ良かったぜ」
「お姉さまの活躍の賜物です」
副長のジークルーネが手放しで褒めてくれて、副長代行のグラデーナも面白そうにしてる。
当事者の一人であるヴァレリアも嬉しそうにしてるけど、事務方はこれからやらなければならない事を考えてか、どこかしんどそうだ。
「経緯は幹部会で詳しく話すとして、手始めにやっといて欲しいのは関係各所への伝言とギルド支部の準備よ。フレデリカとエイプリルにはエクセンブラ側の人たちへの根回しとして、何回か動いてもらうくらいじゃないかな。ジークルーネとグラデーナには、魔道具ギルド側の人間が訪れた時の折衝役をやって欲しいわね」
他人事にしてしまって悪いけど、事務局全体としての負担はそれ程じゃないと思ってる。
クラッド一家とアナスタシア・ユニオンに状況を説明しておき、一緒に魔道具ギルドを上手いこと利用する算段を付けてもらうくらいだ。ギルド支部として貸し出す箱物だって、内装までこっちで手掛けるわけじゃない。
諸々の手続きには時間を要するはずだから、箱物を整える時間も作戦を練る時間も十分にあると思う。
特注品を作ってもらう以外の活用方法は、元詐欺師のメンバーなど悪だくみが好きなメンバーに任せるつもりだ。他の組織と手を組んで一緒に魔道具ギルドを利用するってのもアリだしね。色々な可能性を考えてもらいたい。
「まずは手紙で状況を説明するようにしましょうか。最初から突っ込んだ話をする前に心構えも必要でしょうし」
「その辺は任せるわ。どう転んでも拒否されることはないだろうしね」
「こっちも任しとけ。悪の巣窟にようこそって感じで迎え入れてやろうぜ、なあジークルーネ」
「ああ、その日が今から楽しみだ」
うん、頼もしい限りだ。
警備用魔道具関連も建設局や警備局のメンバーに任せるとして、問題が起こらない限り私の手は放していいだろうね。
「思った以上に王都に長居したけど、私が不在の間になんかあった?」
戻ってすぐにやって欲しいことを手早く伝えてしまったけど、我がキキョウ会の状況把握もしなければ。
「つい昨日のことだが、シャーロットが王都に向かったぜ。途中で会わなかったのか?」
「昨日? 入れ違ったみたいね。でもなんで今? 修行に行くのは秋の終わりだったはずよね?」
研究開発局長のシャーロットは刻印魔法の修行のため、王都に行く予定があった。いつ出発するかは任せてたけど、まだ夏の終わりの時期だし早すぎる。
「受け入れてくれた大工房に、今のうちから挨拶しときたいらしいぜ。上級刻印魔法使いがやってくんのと同じ時期に工房に行ったんじゃ、修行よりも先に人間関係のあれこれで集中できねえかもって話だ。真面目だよな、あいつも」
「なるほど。修行に集中するための根回しを今からやっとこうってわけね」
「ああ、向こうにいる刻印魔法使いとも交流してくるらしいぜ。四、五日くらいの予定で帰るってよ」
元貴族だけあって、その辺の対応が丁寧ね。
でもたしかに、弟子入りする凄い人以外へも気を使う必要はあるか。シャーロットはお邪魔させてもらう立場なわけだしね。よく考えてる。
「分かったわ。ほかには?」
「あとはフウラヴェネタが進めている話が具体的に動き始めた。数日のうちに貴族の娘を見習いとして受け入れるそうだ」
貴族の娘でありながらも跳ねっ返りの問題児をウチに放り込んで性根を叩き直すって計画だったわね。有料で。
具体的な細かい条件なんかも詰め終わったんだろう。
「アイストーイ男爵と進めてた話ね。まあフウラヴェネタなら心配ないわね」
「並行して見学会の話も進んでいますよ。そちらはマーガレットと広報局が主体になって進めています。ユカリには見学場所の山を造ってもらわないといけないとからと、その件で話したいそうです」
そんな事も言ったわね。
「思った以上に早く話が進んでんのね。そんじゃ、まずはマーガレットに話を聞きに行こうかな」
「山を造んならあたしも見に行くぜ。たまにはデルタ号も走らしてやりてえしな」
「わたしも見に行きたいが、今日はこれからフウラヴェネタに講師を頼まれているな……それとヴァレリアにも戻ったら頼みたいことがあると言っていたが、どうする?」
「頼みたいことですか……分かりました」
妹分は私と一緒に行きたそうにしたけど、山造りには妹分の出番はないからね。
グラデーナを羨ましそうに見ながらも、仕事を優先した。成長したもんよね。
「それで、マーガレットはどこにいんの?」
「広報局のメンバーは見習いの施設で教導局と打ち合わせ中です。午後の早い時間には戻ると聞いていましたけれど」
「これからわたしとヴァレリアがフウラヴェネタのところへ行くから、マーガレットにはユカリ殿が戻っていることを伝えよう」
「そんじゃ、ついでにお願いね。もしほかに予定があるなら、別に今日じゃなくてもいいとも言っといて」
「了解した。ヴァレリア、準備ができたら行こうか」
伝言を頼んでマーガレットを待つ間に、昼食を済ませて少し休んだ。
食後に自室に引っ込んでると、数日ぶりの私的な場所とあって寛いだ気分になる。やっぱり自分の部屋は落ち着く。
荷解きを済ませて軽く掃除までしてしまうと、今度はリラックスし過ぎて眠くなってしまった。
さすがに人を待つ間に昼寝をする気にはなれず、事務所に移動して報告書に目を通しながら時間をつぶす。暇つぶしじゃなくて仕事だけど。
「戻りましたー。ユカリさん、お帰りなさい」
待ち人が戻ったらしい。メイクと服装でニュースキャスターに風に仕上がったマーガレットだ。
「うん、ただいま。ジークルーネから聞いてる?」
「さっそく山造りに動いていただけると聞いていますよ。これから大丈夫ですか?」
「私はいつでもいいわよ。グラデーナ、行ける?」
「おう! デルタ号出すから外縁部の倉庫まで乗っけてくれ」
超ド派手に改装された大型の装甲兵員輸送車をなぜ使うのか。今日の場面での必要性は皆無だけど、たまには動かさないとってことらしい。
マーガレットと広報局メンバー、私とグラデーナで適当な車両に分乗すると、まずはデルタ号の元に向かった。
倉庫に鎮座した、久しぶりに見る威容にはやっぱり度肝を抜かれる。
デカデカとしたペイントやライティングは余りにも派手派手しく、単純な物体としての大きさ以上の存在感が凄い。
「これが登れる山なら安心安全確実だろ」
「そう言う意味じゃ、それもそうね。あれ、でもよく考えると禿山じゃあ、雨が降ったら削れて行くわよね」
「まあな。風が吹いても徐々に削れるんじゃねえか?」
ダメじゃん。一回こっきりしか使わないなら適当でもいいけど、継続して使うならちゃんとした物にしたい。私がいちいちメンテするのは面倒だ。
「雨風に耐える山でしたら、草木を生やさないといけませんね。それか硬い岩山にしてしまうか」
ふーむ、岩でできた山なら雨風を心配するのは数千年後とか数万年後のレベルだ。
でも緑豊かな土地に突如として、でっかい岩山が出現したら目立ちすぎる。できれば普通の山がいいわね。
まあ、いきなり山が出現する時点で十分におかしいとは思うけど、多少はマシになる……はず。そうよね!
「こうなったらリリィに助力を頼もうか。悪いけど呼んできてくれる?」
「はい、エレガンス・バルーンに行ってみます」
広報局のメンバーに連れてきてもらうことにした。
「マーガレット。待ってる間に聞いときたいんだけど、見学会の話は具体的に進んでんのよね?」
「教導局と連携して、もう予定も組んでいます。現時点ですでに四十名以上の見学希望者が集まっていますよ」
「そんなに? 安い見物料じゃなかったはずよね?」
「アイストーイ男爵のお知恵も拝借して高額料金を設定していますので、庶民感覚では決して安くないです。解説付きですが、一人あたり三十万ジストになっています」
ぼったくりか。
「まあ、金持ち限定の商売と考えればそんなもんなのかな」
「相手は貴族かそれに付き合いのある商人ばかりですからね。プレミア感を出すためにも、高いほうがむしろ喜ばれるとかなんとか。その分、解説役は頑張らないといけないですけど」
「でも凄いわね。三十万ジストで四十人以上も集まったんなら、いきなり一千万以上の儲けよ? 悪くない臨時収入になりそうね」
「この一回目が成功できれば、二回目、三回目と継続していけると思っていますので、やはり最初が肝心ですね。少し緊張します」
まだ見学者は募集中らしく、さらに増える見込みもあるらしい。
なにかと話題を提供し続けるキキョウ会が、わざわざ見学会なんてやるわけだしね。興味を惹かれる連中がそれなりに多いのは分かる気がする。
それにしてもやっぱり金儲けってのはいいもんだ。教導局や広報局の予算が増えるし、関わったメンバーに少しでもボーナスが出せればみんなの意気も上がる。
ついでに見学した連中にウチの恐ろしさの一端でも見せつけられれば、一石二鳥どころじゃない成果だ。
金の話だけじゃなく見学させる内容なんかの話も聞いてると、ジープが倉庫に入ってきた。
停止した車両から降りたのは、月白のローブのような外套に同色の三角帽子。魔女ルックの各所を彩るのは綺麗な生きた花の飾り。
花魔法を適性に持つ、非常にユニークなメンバーだ。そんな彼女は研究開発局の副局長でもある。
「よくきてくれたわね、リリィ」
「オーキッドリリィ、お呼ばれしました~。道中で~、お話は聞いてますよ~」
「できる?」
「ふふふ~、新しい試みにワクワクが止まりませんよ~」
のんびりとした口調とは裏腹に頼もしい女だ。これなら問題なくやれそうね。
「そんじゃ、さっそく山造りに行こうか。グラデーナ!」
「おう! 行こうぜっ、早く乗れ!」
デルタ号を運転できるのが嬉しいらしく、グラデーナもやる気満々だ。まあそこは別にどうでもいいけど。
装甲兵員輸送車にみんなで乗り込むと、北東の森を目指して出発した。
現地に到着すると山造りの場所はマーガレットが指定した。これも私が不在の間に考えてくれてたらしい。
北東の森まで続く道から途中で逸れると、そのまま数キロほど移動を続ける。この道も事前に建設局がこさえたらしい。
行き着いて降りた場所は森近くの何もない草原だ。
「ここでいいのね? じゃあ始めるわ。まずは適当な土の山を造ってみるかな。高さと広さを調整しながらだから、みんなも意見があれば教えて」
車両で登ることを考慮して、裾野の広いなだらかな山を徐々に盛り上げるようにして造っていく。
身体の中にある超高密度の魔力を土に変換し具現化する。硬く固めて簡単に崩れたりしないように。
森の樹々よりもだいぶ高くなった時点で、一回みんなで上まで登ってみた。
「お~、高いです~」
「すげえもんだぜ。あたしも土魔法をもうちょい鍛えりゃ、山ぐらい作れるか?」
「規模はデカいけど、言ってしまえば盛り土だからね。細かい部分を気にしないなら、単純に魔力量が物を言うと思うわよ。私は魔法適性のお陰で効率よくやれるから苦労は少ないけど、汎用魔法でもできないことはないわ」
簡単じゃないけど、不可能とは思わない。
「見晴らしいいですね。でももう少し高いほうがいいかもしれません。試験会場はかなりの奥地ですから」
「じゃあ、このまま嵩を増してくから、ちょうどいいと思ったところで言って」
言うなり、みんなが山の上にいる状態で高さを上げていく。
「あーっと、もういいと思います。山頂の広さはもっと広げられますか? 車両を停めるスペースを考慮したいです」
なるほど。何十人もの参加者が各自の車両で山を登るなら、それを停めておけるスペースも必要だ。
ついでに休憩所としてテントなんかを設置もするだろうし、それなりの広さは確保しておこう。
どどんと広げていき、車両通行のためのルートも整備する。
道は広めに取り、通路は土の地面じゃなく石にしてしまう。微調整や改善点があるなら、また後でやろう。
大雑把に形を整え終えたら、あとはリリィの出番だ。
「いきますよ~、枯れ山に花を~咲かせましょ~」
高さはそれ程でもないけど、山頂が広く平らな山は山肌の面積がかなり大きい。
そこを覆うようにしてまずは草が生い茂った。
「おお、凄いですっ」
さらには若木が生え、下草には花が咲きといったところで、リリィの魔力が切れたらしい。
「……ちょ~っと、広すぎますね~。一度ではこんなところでしょうか~」
「上出来よ。あとは自然に育つのを待つだけでも十分だと思うけど、その辺はどう?」
「そうですね~、あと数回やれば~、根っこががっちりと張れますので~」
金持ちに登らせる山だから、安全性は万全にするべきね。判断はリリィに任せよう。必要があれば私や建設局でも補強はやる。
「今日のところはこんなもんにしとこうか。マーガレット、リリィと一緒に完成まで頼んだわよ。私の出番があればいつでも言って」
「はい、その時はお願います。リリィさんもありがとうございました」
山道もデルタ号が通れるなら、どんな車両でも問題ない。テスト用としてはこれ以上ないわね。
具体的に話も進んでるみたいだし、その時が楽しみだ。
新年感ゼロのエピソードですが、劇中では秋に入りかけくらいの季節なので……。山は多少、縁起が良い感じはありますかね。
今年もよろしくお願いします。