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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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探り合いの先制パンチ

 いい感じに脅しが効いてきたと思いきや、まさかの魔道具ギルド支部長から横やりが入ってしまった。

 お飾りの支部長だと思ってたのに、どうにも食えない奴らしい。なにしろロスメルタですら、黒幕の存在は見破れてなかったんだ。


 いや、これまでの部門長の悪事を見る限り、支部長は黒幕ってよりも単純に黙認してたってのが正しいのかな。

 トップとして悪事を見逃し、また揉み消す手伝いをする代わりにアガリを掠め取る。自分の手を汚さず、表に出ることもなく利益だけを得る。地味だけど目立つことを避けるなら上手いやり方だ。それに加えて、いざって時には尻尾を切り落とすだけで済むのもお手軽だ。


 ただ、子分からのアガリを徴収できなくなると支部長も困ったことになるのかもしれない。それで重い腰を上げてロスメルタとの直接交渉に乗り出した、といったところかな。


 性格的にも思い切ったことのできる奴のようだし、ロスメルタがやり難そうにしてるってことは手強い相手だ。

 大国ベルリーザの貴族ってのは想定外の事でもあるし、交渉は難航しそうね。


「交渉はいつやるの? 私も同席する?」


 余計な口を出さずに任せた方がいいだろうけど、暴力は交渉を有利に運べる決定的な要素になり得る。自分で言うのもなんだけど、私の威圧感は誰に対してもそれなりの効力を発揮するはずだ。


「交渉は今夜早速よ。こちらに準備の時間を与えないつもりのようね。せっかくだからユカリノーウェには同席してもらいましょう。フランネルも連れて行くつもりよ。ヴァレリアちゃんにはわたくしの騎士団と周辺の警戒をお願いしてもいいかしら?」

「あんたがそこまで警戒する相手なら、どんな仕掛けを用意してるか分かったもんじゃないしね。周辺警戒と対処なら、ヴァレリアに任せて大丈夫よ」


 魔道具ギルドなんだから、もし荒事になるなら魔道具を使った戦法を取るだろう。

 だけど魔力感知に優れる私たちは隠された魔道具を見抜く事は容易にできるし、発動のタイミングもいち早く察知できる。周辺に戦力を配置されたとしても、それだって動く前に察知できるんだ。ヴァレリアの実力なら、一人でも百人分働ける。


「頼りにしているわね」

「最低でもあんたの身の安全は私が保証するわ。フランネル団長もいるなら万全よ。それで肝心の場所は?」

「中心部にあるホテルの一室よ。中立的な場所……と言いたいのだけど、おそらく仕込みがあるのでしょうね」

「向こうの指定した場所? よく乗っかったわね」

「これも交渉のうちよ。先に譲歩するのだから、貸し一つといったところかしら」


 どんな罠があろうと食い破れる自信があるなら、そこに飛び込んで見せるのも一つの手か。

 相手が有利な状況で何かあったとしても、それを乗り切って見せれば相手は確実に不利になる。それを込みってことみたいだけど、フランネル団長と私への信頼と考えていいのかな。


 あんまり時間がないってことで、ロスメルタと話を詰めておく。

 私が伝えるべきは、キキョウ会としての要望だけで他にはない。それをロスメルタが交渉の中でどう進めるかは任せるしかないわね。

 相手は大国の貴族、そして超大手ギルドの支部長なんだ。思惑通りにはいかない確率のほうが高いと想像すれば、高望みはできないかもね。



 夕食後の時間になると、交渉に向けて出発だ。

 場所は王都中心部に近い高級ホテル。そんな場所に物々しい武装をした連中を大挙して連れ込むわけにはいかないから、大半は外で待機してもらう事になる。相手側も同じような感じだろうけど、舐められないためには準備しているぞという姿勢を見せることはとても大事だ。


 戦力を街中に連れて行くなんてのは、もちろん目立ってしまうけど、表向きの名目があれば問題にはならない。

 公爵夫人が魔道具ギルドの支部長と会談を持ったところで何も不自然なことはないからね。護衛がいることだって、ちょっと規模が大きいのがアレだけど、まあ許容範囲と思う。


 そんな感じで現地に行くのはそれなりの人数になるけど、相手に会うのは少数だ。

 交渉する当人のロスメルタとお付きの秘書、護衛にはフランネルと私、この四人だけで相手との面談を行う。この人数についてはそういう話になってるらしい。

 外ではヴァレリアとフランネルの部下が二十人ばかり待機する。この戦力には近くに控えてもらい、敵が戦力を配置してれば先に倒す手筈だ。ある程度の過激さも交渉のうちってね。


 フランネルの運転する車両が遅刻気味にホテルに到着すると、さっそく仕事の開始だ。


「……あそこに停まってるトラック、怪しいわね。中に四人いるわ。それと向こうにも同じく四人よ」


 即座に見破って言うと、フランネルも確認したのか部下を動かす。

 可能性としては魔道具ギルドと無関係の線はあるけど、この際そんな事は気にしない。守るべきは公爵夫人様だからね。紛らわしい事をするほうが悪いんだ。


「先に仕掛けろ。ここがブレナーク王国の王都だということを思い知らせてやれ」

「了解!」


 まだ正式に発足してない仮の騎士団らしいけど、数人は頼りにできる人を揃えてるらしい。そいつらを小隊長にしてさっそく行動開始だ。

 そうだ。ここはブレナーク王国の王都。そこを実質的に仕切るのがオーヴェルスタ公爵夫人のロスメルタ。彼女の意向に逆らえる奴なんて基本的には存在しない。高級ホテルの駐車場で少々暴れたからって、誰にも文句なんか言わせない。

 むしろ、こうして力を見せつける機会そのものを良しとしてる。ほかの見物人へのメッセージ含めてね。そういうことだ。


「ヴァレリアは攻撃的魔道具の探知と、もしあればそれの破壊を。ホテル側で準備してる警備用の魔道具との見分けが難しいと思うけど頼むわね」

「はい、お姉さま。問題ありません」


 敵戦力は主にホテルの外だと思われる。ホテルの中にあれこれと魔道具を設置したり、大々的な戦力は配置し難いだろうからね。

 もし見つけたら都度ぶっ壊す。交渉はもう始まってると考えていい。


「ふふっ、頼もしいわね。行きましょう」


 ロスメルタが笑顔で言い、秘書を先頭にしてホテルに入った。

 超VIPの訪問だけど、ホテル側もあらかじめ承知してたみたいで混乱なく支配人が応対に出た。


「ようこそお越しくださいました、レディ。先方がお待ちですので、早速ですがご案内いたします」

「ありがとう。だけど部屋の場所だけ教えてくださる? 少々騒がしくなるかもしれないから、支配人にはもしもの時の備えをお願いしたいわね」

「……左様でございますか。承知いたしました」


 内心じゃ、荒事は勘弁してくれよって感じなんだろうけど、嫌な顔一つ見せずに応じて見せた。さすがは高級ホテルの支配人ね。プロだ。


 四人でエレベーターに乗って向かったのは、最上階のロイヤルスイート。聞くところによれば複数の寝室に複数の風呂やトイレ、だだっ広いリビングにバーカウンターまであるようなアホみたいに豪華な部屋だ。

 話し合いのためだけにそんな部屋を用意する意味がよく分からないけど、こういう見栄の張り方も貴族ってことなんだろうね。

 エレベーターを降りたところで魔力感知を実行、結果を教えておく。


「ロスメルタ、相手の準備は万端みたいよ?」

「やっぱり罠でも仕掛けているのかしら」

「戦闘力が無さそうなのが二人、これが支部長と秘書みたいなポジションの奴かな。同じ場所にそこそこ強いのが二人いるわ。こいつらが私たちと対面する奴らだと思う。これとは別に、近くの部屋に八人潜んでるわ。どいつもこいつも完全武装よ」

「魔道具は分かるか?」


 フランネルも敵の人数くらいは分かってるだろうけど、魔道具の感知とそれを見分けることまでは難しいらしい。


「……そうね。細々とした生活用の魔道具は多いし護衛の装備は別として、怪しいのはたぶん一つだけ。ドアから入ってすぐの所に設置されてるわ。いきなり攻撃してくることはないと思うけど、効果までは発動されてみないと何とも」

「分かった。俺が最初に入ろう」


 短くまとまめると、フランネルを先頭に秘書、ロスメルタ、私と続く。

 各自、防御用の装備やら魔道具やらは準備してると思うけど、公爵夫人を守るためには万全を期して臨む必要がある。


 ホテルの部屋とは思えないような立派なドアの前で呼び鈴を押すと、部屋の中で移動する気配がある。

 そのまま待ってると、ドア越しの応対もなくそっと開かれた。


「……お待ちしておりました。ロスメルタ・ユリアナ・オーヴェルスタ様」


 相手側の秘書ポジションの奴だろう。

 恭しい態度にほんの少しばかりトゲを含んでる。


「お待たせしてごめんなさいね」


 こっちはちょっと遅刻してるからね。わざとだけど。

 ロスメルタは笑顔でちっとも悪気が無さそうに言う。なんとも軽い調子だ。

 さらには無言でさっさと中に入れろといった圧力まで放ってる。

 秘書が公爵夫人を入り口で立たせたまま文句を言うわけにもいかず私たちは奥に通されたけど、ちょっとしたやり取りを見るだけでも胃が痛くなりそうな感じだ。私は気楽な身分で良かったとつくづく思う。


 部屋に入ったタイミングで魔道具が発動したけど、どうやら探知系の魔道具らしい。

 なにを探知されたのかまでは不明だけど、例えば変身の魔道具を看破するとか爆発物を持ってたら警告するとか、そういった用途と想像した。

 そのままにしておくのは気になるんで秘書が後ろを向いた瞬間に鉄串を天井に向かって投擲し、ぶっ壊しておいた。不審な物音は咳払いで雑に誤魔化す。

 フランネルと一瞬だけ目を合わせて問題ないと確認して、そのまま奥に進む。


 近くの部屋に潜んだ戦力に今のところ動きはない。ただの備えか、使うつもりなのか知らないけど動くまでは放っておこう。


「これはこれはレディ、お忙しいところご足労いただきまして申し訳ない」

「いえいえ、アンダール卿。そちらこそとってもお忙しいなか、時間を取っていただいてありがとう。遅れてしまってごめんなさいね」


 たぶん、いきなり皮肉の応酬をしてるんだろう。

 普通のことを言ってるようにも聞こえるけど、支部長が「遅刻してんじゃねーよ」とパンチを打ったら、ロスメルタは「悪だくみに忙しいだけで大したことしてねーだろ、ちょっとくらい遅れたからってガタガタ言うな」と打ち返した感じに思える。あー、嫌だ嫌だ。


「はっはっはっ、愉快な御方だ。まずはお掛け下さい。珍しいボトルを手に入れましてな。話の前に一杯いかがでしょう」

「いいですわね。ぜひ、いただきましょう」


 うーん、面倒ね。さっさと話して終わって欲しいんだけど……。

 トップ同士が席に座って話すけど、秘書と護衛は立ったままだ。

 相手側の秘書のおっさんは目を閉じてじっとし、護衛の一人は威嚇のつもりか身体強化魔法の出力を増大させてる。


 貴族同士の嫌味な会話は無視して、その護衛のほうに意識を向ける。

 フランネルは挑発を完全に無視して、ロスメルタを守ることのみに集中してるらしい。密かにだけど、いつでも動けるような態勢だ。


 私はいつもの黒の戦闘服姿にティアドロップのサングラス、髪はストレートに下ろしたスタイルで、見た目だけは厳ついけど身体強化魔法は外に漏れない形で発動中だ。

 そんじゃまあ、お仕事開始と行こうか。

 雰囲気的には、退屈しのぎに挑発に乗ったような感じで、少しずつ力を外に漏らしていった。


 無の状態から徐々に力を漏らしていき、挑発してる野郎と同等にしてみると、相手はムキになって出力を上げていく。

 追随するように私も相手に感じられるように力を漏らすと、相手のほうが一枚上といったところでそれを止めてみた。

 バカは勝ち誇ったように笑うけど、振り絞るような力の行使に護衛その一の力の底を見た。

 うん、やっぱり大したことない。護衛その二のほうも誤差の範囲だろう。


 調子に乗らせると面倒なことになるから釘を刺す。ずぶっとね。これは事前に想定してたことだから、このタイミングでやってしまう。


 隠してた身体強化魔法のベールを少しずつ剥がしていく。

 少しずつ少しずつ上昇するそれは、相手の限界をあっさりと上回り、さらにさらに上昇していく。

 どこまでも際限なく膨れ上がるような力は底を悟らせるようなもんじゃない。


 まだ行くのか、どこまで行くのか。脅威に感じるレベルを超えて恐怖を抱いても、さらに濃密な力は増すばかりだ。

 下手に力を感じ取れてしまうばかりに、格の違いを思い知ることになる。


「はあっ、はあっ、はあっ、ぐっ」


 荒い息に大量の汗をかいた護衛の二人は、明らかに異常だ。さらには隣室から僅かにものが倒れる音がした。隠れた奴らも私のプレッシャーを感じて苦しんでるのかもしれない。

 この異常には支部長もさすがに気づく。


「どうした? まさか体調不良でもあるまい」


 護衛が二人同時に変調をきたすなんて普通じゃない。とっさに私とフランネルに視線を送るも、こっちは知らん顔だ。

 フランネルは泰然自若とし、私はポケットに手を突っ込んだままサングラス越しに見返すだけ。

 ただ力を感じさせてやってただけで、別になにもしてないからね。それに先に挑発したのは向こうなんだ、文句を言われる筋合いはない。


「も、申し訳ありません。き、貴様」


 言いがかりは止めてもらおうか。

 文句を垂れようとした護衛その一だけに向かって、叩きつけるような形で魔力を放つと、奴はそれだけで気を失った。


「そのくらいにしてもらえないか。非礼は詫びる。アンダール卿、申し訳ないがこいつは下がらせます」


 担がれて隣の部屋に行く護衛を見ながら、支部長が怒りを堪えるような視線をロスメルタに向ける。


「……レディ、どういうことか説明してもらえますかな? 今日は交渉の場と思っていたのだが」

「それについてはこちらも同感ですわね。なにが起こったのかはわたくしにも分かりませんわ」

「とぼけるつもりか?」

「いえいえ、そんなつもりはありません。フランネル、説明できる?」


 密かな力比べはロスメルタも把握できてないから、代わりにフランネルが答える。


「はい、レディ。そちらの護衛の一人が力を誇示してきましたので、ユカリノーウェが対抗して見せました。それだけのことです」

「そうですか。格の違いに恐れおののいたということですね」

「そのとおりです」


 想定した展開だ。流れるように理解し、相手を挑発するように口にも出す。歯に衣着せぬどころじゃない言い方よね。

 まあ力比べで勝つのはいいとして、これはほんの前哨戦だ。交渉はここから。

 ロスメルタのための下地は上手いこと作れた。あとは任せたわよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >魔道具ギルドと無関係の線はあるけど、この際そんな事は気にしない。 >ここがブレナーク王国の王都だということを思い知らせてやれ >誰にも文句なんか言わせない ヤバイ!怖い!えげつない! …
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