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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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続・幹部会でのお話合いと……

 本当に普通の魔道具でいいのか。

 生活用の魔道具は別にいいけど、問われてるのは警備に関する魔道具だ。それが普通の市販品で良いかと改めて問われてしまえば、考えてしまう。

 市販品をキキョウ会が使ってるともし敵に知られてしまったら、敵性存在は同じ物を手に入れて穴を探すべく研究するかもしれない。

 かといって、特注ってのもそれはそれで難しい話なんだ。


 魔道具の特注品を作るとなると、普通なら魔道具の販売店を通じて頼む形式になるだろう。

 具体的な要望を伝えて可能かどうかの是非、詳細な仕様確認、想定される製作期間の確認や費用の見積もりなど、とてもじゃないけど一度のやり取りでできるもんじゃない。それに秘匿性を高くしたい場合には代理店を通じたやり方じゃ、あんまり意味もなくなってしまう。


 つまりは中間に入る業者や人を排して、魔道具技師に直に頼むのがベストになる。

 だけど魔道具技師ってのはギルドに強固に守られてて、簡単には接触できないようになってるのが厄介なんだ。

 何か用があるならまずはギルドに話を通さないといけない。そんでもってそのギルドはエクセンブラにはないってのもまた輪を掛けて面倒なんだ。


 そもそも魔道具ってのは色々とあるけど、深く切り込んでいくとその『核』を意味する。魔道具として機能させるための核を作るのが魔道具技師だ。これを心臓部として、外装まで含めたすべてを魔道具技師が作る場合もあるけど、それは一部の高級品に限られる。

 例えばドミニク・クルーエル製作所のドクはバイクを作ってるけど魔道具技師じゃない。ドクは魔道具として機能させるための核を代理店で購入し、それを組み込むことによって魔道具としてのバイクを作ってる。家庭で日常的に使う魔道具やアクセサリー系の魔道具も大体これに相当する。

 逆にメデク・レギサーモ帝国の王子が使ってたような特別な魔道具は、全部が魔道具技師によるお手製だろう。あそこまでの魔道具だと、核だけを組み込んだ程度じゃ無理な性能だ。


 当然ながら核にも使用目的に合った物が用途別にあって、家庭用の物と兵器じゃ全然違うからね。核そのものだって、色々と存在することになる。

 詳しいところは秘匿されてるから不明だけど、単に魔道具といっても色々と複雑なんだ。


 とにかく設置型の警備用として市販品とは違う魔道具を求めるなら、肝心要の核からオーダーしないと特別にはならない。外側だけオーダーで作っても本質的な機能自体は変化しないからね。ドクのような腕利きで、違法に改造できてしまう職人なら話は変わってくるけど、警備用魔道具の職人でそういう知り合いはいないと思う。


 そして一筋縄じゃいかないのが、魔道具ギルドだ。私でも思うところはある。

 魔道具技師が所属するギルド、そこは魔道具技師ギルドやら魔道具ギルドやら、略称は色々だ。

 ギルドってのは正式名称が長ったらしい。それは冒険者ギルドやら商業ギルドやらもそうで、これは単なる通称だ。

 たしか魔道具技師の所属するギルドの正式名称は、『魔道具の重要性と存在意義の啓蒙と適切な使用を推進する魔道具技師の相互利益及び権利確保を目指す世界ギルド』とか何とか、だったような。ちょっと間違ってるかもしれないけど、大体そんな感じの名称だ。そりゃあ略称を使うに決まってる。


 考えてみれば『冒険者ギルド』や『鍛冶師ギルド』ってのは人を示してるのに、『商業ギルド』や『建設ギルド』はちょっと違う。統一感がない。

 この理由は正式名称が長ったらしくて誰もが略称を使うからであって、なんとなく呼びやすい名称で呼んでるからってことが挙げられる。

 まあ雰囲気で分かればオッケーって感じよね。


 ほぼ全てのギルドの略称は統一されてる傾向にあるけど、魔道具技師のギルドは珍しく意見が分かれる。

 魔道具技師ギルド派と魔道具ギルド派だ。

 凄くどうでもいいしどっちでもいいってことで、キキョウ会的には短いワードの魔道具ギルド呼びが普通ってことにしてる。誰がどっちを使っても良いけど、私は魔道具ギルドって呼ぶ。


 どうでもいいことを思い出してると、進行を務めてるジークルーネがこっちを見た。


「ユカリ殿、どう思う。プリエネに改めて指摘されると、わたしとしても再考の余地はあるかと考えてしまうのだが」

「……たしかにね。工夫次第で市販品でもそれなり以上の効力は持たせられると思うけど、新本部でいきなり妥協してもいいのかと言われると、それは許容し難いものがあるわよね」


 本当は十分なはずなんだ。元々はそれで話が進んでたんだし、プリエネも含めてみんなで納得した経緯があったはずだ。

 でもプリエネは新本部造りの指揮者で、実際に進めてくなかで懸念を抱いたってことなんだろう。その時じゃないと見えない事だってある。


「気持ちは分かりますが、特注となると現実にはハードルが高いですよ。元々話していたことでもありますし、費用面でクリアできていても、魔道具ギルドは一筋縄ではいきません」


 上を見ればキリがない。だけど、キリのない上をどこまでも目指すのが我がキキョウ会だ。

 新本部の建設で妥協したとあっては、名折れもいいところよね。うん、プリエネの指摘は心に刺さる。


「ちなみに魔道具ギルドって、王都にはあったわよね?」

「ええ、旧王国時代の最後に壊滅してしまいましたが、昨年になってオーヴェルスタ公爵家が再誘致しています。コネを使えば、魔道具ギルド支部上層部にも話を持っていけるのかもしれませんが……」

「あんまりロスメルタに借りを作りたくないんだけどね」


 普通に王都まで行って魔道具ギルドの門を叩いた場合、交渉はたぶん難航する。

 魔道具の有用性は今さら誰が語るまでもない。ちょっとした生活を便利にしてくれる物から、軍事的なものまで幅広いんだ。誰もが恩恵に預かってる。当然ながら魔道具ギルドの権威は凄まじいものがあるし、権力だって想像以上にあるに違いない。

 そんなところにキキョウ会ですが~と行っても、門前払いすらされかねない。私たちキキョウ会の看板は王都でも少しは通用するかもしれないけど、高い確率で望みが叶えられるのはエクセンブラだけなんだと肝に命じるべき。謙虚にね。


「あの人なら、またユカリに無理難題を押し付けられる口実ができたって大喜びするかもな」

「それが冗談じゃ済まないのが、大公爵夫人様ってやつよ……まあいいか。聞くだけ聞きに行ってみるわ」


 ブルームスターギャラクシー号があれば、王都なんてちょっとしたドライブ感覚で行けるんだ。移動における負担は少ない。


「あ、ユカリさん。お土産を持って行ってみたらどうですか? まだ倉庫で埃をかぶっていますよね、例のアレ。ギルドへの紹介料どころではない価値があると思いますけど」


 ミーアが思わせぶりなことを言う。でもたしかに。アレは貴重品過ぎて、むしろ使い道に困ってた代物だ。ロスメルタに少しばかり渡すくらいなら惜しくはない。ああ、そうすると魔道具ギルドへの土産としても有用かもね。


「アンデッドドラゴンの金の骨と漆黒の鱗のことね。みんなが良ければここで少し使うけど」

「いいんじゃねえか? あれは硬過ぎて普通の職人じゃ扱いきれねえし、たぶんブレナーク王国じゃ加工は無理だ。もしあれで装備やなんかを作れるとしたら、特殊な設備のあるベルリーザの工房くらいだろうな」

「魔道具ギルドとのコネはお金では買えないですからね。ロスメルタ様からの紹介があっても通常ならそれっきりになると思いますが、貴重な特殊素材をエサにすれば大いに期待できますよ」


 グラデーナとジョセフィンが見解を述べながら賛意を示すと、みんなも特に反対意見はないらしい。


「金がいくらあっても手に入れられない素材をエサにできるから、交渉次第で今後にも繋がるか。もし特注品を好きなだけ作って貰えるような関係性に発展できたとしたら……ヤバいわよね?」


 問いかけると、みんなの目の色も変わる。


「ヤバいっすね。警備用の設置型だけじゃなくて、個人の装備品まで気軽に頼めるようになったとしたら、本当にヤバいっす」

「装備といえば、メデク・レギサーモ帝国の王子が魔道具の装備をたくさん使っていました」

「あの《雲切り》の剣もたぶん、魔道具だって話ですよね?」

「ウチは防具に関しちゃ、ユカリの素材とブリオンヴェストの加工、それにシャーロットの刻印魔法ですげえことになってるが、武器は上質でも並の域からは出てねえからな。もし《雲切り》が持ってるみてえな武器が手に入るなら、そりゃあ誰だって欲しいぜ」


 私たちの武器の多くは貴重な魔導鉱物を使った極上品と称して良い物ばかりと思ってるけど、あくまでも普通の武器だ。刻印魔法による補助はあっても、ぶっ飛んだ特殊な機能はない。

 武器としての魔道具の恐ろしさは、メデク・レギサーモ帝国の王子にこれ以上ないほど教えられてるんだ。

 金に糸目をつけないようなレベルは無理でも、ちょっとした機能があるだけでも十分に切り札にはなり得る。


 それに警備用の魔道具にしても、市販品にはない機能を盛り込んだり、そもそも売ってない物を作って貰ったりね。

 頼みたいことを考えたら、それこそ山のように色々と出てくると思う。


「それじゃ、近いうちに私が話を付けてくるわ。いきなり押し掛けるわけにもいかないから、事務局からロスメルタに手紙だけ出しておいて」

「ええ、この後にでも手配します」

「プリエネ、現段階ではこれでいいな?」

「もちろんですよ! やっぱキキョウ会の新本部ですからね、こうでなくちゃ!」


 またやる事が増えてしまったけど、魔道具ギルドといい感じになれれば新本部の建設だけに収まらない巨大なメリットに繋がる。

 いい切っ掛けをくれたと感謝しておこう。



「ほかにはないか?」


 雰囲気が落ち着くと、ジークルーネがまたみんなを見ながら言う。


「あたしもいいかい?」

「カロリーヌか、管理局でも問題か?」

「ちょっとばかり地味な話で申し訳ないんだけどね」

「いや、構わない。言ってくれ」


 キキョウ会随一の色気を纏ったカロリーヌは、旧マクダリアン一家の色町を仕切ってる管理局の局長だ。

 ロスメルタの元で復興中の王都の色町を見事に復興、さらには発展させた功績がある。さらに元々は旧王国の王都で元締めをやってたくらいの女傑だ。ウチにきてくれてからも、その辣腕ぶりには感心するばかりだ。実際にその歓楽街がもたらすシノギは非常に大きい。


「それが良い話ではあるんだけど、近頃は色町にも働き手が増える一方でね。今の管理局の人員だけだと、どうにも手が足りないのさ。できれば臨時でも応援を頼めないかと思ってね」


 エクセンブラにはまだまだ人が多く集まってきてる状況だ。しかもカロリーヌが支配する色町は働き手の女たちに大変に評判が高い。夜の女たちがどんどん押し寄せてるといっても過言じゃないのかもしれない。


「いいか? 良ければあたしのところから人を出そう。警備局は優先的に新人を配属してもらっていることもあって、少しは余裕が出てきたところだ」


 すぐに応えたのは警備局長のゼノビアだ。元傭兵の実力派で、私とは収容所時代のトレーニング仲間でもある。

 戦闘団とは違って守備がメインの警備局だからあんまり目立たないけど、重要拠点防御の要として彼女が後方に陣取ってくれてることは、前に出るみんなにとっての安心材料として働いてる。


「警備局は闘技場の警備計画で忙しいんじゃなかったのかい?」

「闘技場が動き始める段階になったら忙しくなるだろうが、今は大丈夫だ。実際に闘技場を使わせてもらえることもあって、演習も十分に行えている。それまでの間に、少しばかり人を回すくらいなら問題ないさ」


 局長のゼノビアがそう言うなら、なんの問題もない。あっさりと話はついた。


「では人員の調整は警備局と管理局に任せる。そろそろ新規の正規メンバーを少しずつ管理局に回すのもいいかもな。ほかにも要望が出てくるようなら、また話を聞かせてくれ」


 管理局の主な仕事は、色町の用心棒としてのトラブル処理や働き手や店の管理にある。

 ウチに隠れて商売をされると無用なトラブルが発生しやすいし、金だけじゃなく女の健康管理にだって不都合が生じるんだ。

 キキョウ会の支配下に収まって、大人しく管理されてさえいれば安全に商売ができるって寸法だ。


 管理局の仕事の性質上、特にトラブル処理は客相手ということもあって、新規メンバーには荷が重い場合が多い。

 これまでは中堅以上のメンバーから管理局に移籍させる方法を取ってきたけど、そろそろ管理局内で新人教育していくのもありだろう。


「ほかにはないか? なければ、これで今日の幹部会は終わりにしよう」


 この後、みんなでちょっとした晩酌をしてから今日を終えた。




 幹部会の翌日からもみんなは忙しくしてるけど、私はちょっと待ちだ。

 アイストーイ男爵との交渉は教導局に任せてしまったし、建設局に頼まれてたことも終わらせたばかりで追加の要望も今のところは特にない。

 ロスメルタにアポが取れたら王都まで行かないといけないけど、その返事が到着するには早くても四日から五日は掛かる。


 ブルームスターギャラクシー号の引き取りには、明日か明後日辺りに様子を見に行くことにして、今日はいつもの鍛錬に集中しよう。

 戦闘系セクションのトップには覚えるようにと課した闘身転化魔法。訓練に集中できる環境を用意しても、まだ誰も実現できてない。

 森に籠って訓練してきたヴァレリアやグラデーナでも無理だった以上、もう少し習得し易い方法を考えたい。

 今のままでも時間さえ掛ければ、その内に手が届くとは思ってるけどね。より分かり易くできるなら、それに越したことはないんだ。考えてみよう。


「……魔法はイメージ」


 そう、基本だ。より分かり易いイメージを私が提示できれば、それは近道となるはず。


 例えば呪文。そこまで大層なもんじゃなくても、キーワードの設定はどうだろう。

 キーワードを唱えるだけでも意識の切り替えとイメージの補強には一役買えるんじゃないかと思える。

 どうせならテンションの上がるキーワードを設定したい。


 ふーむ、言葉だけじゃ足りない気がする。付け足そう。

 そうだ、魔法の視覚化には大きな効力があると思える。分かり易さはイメージの強化に繋がり易いんだから、それはあったほうがいい。むしろ確実な効果が望める以上、私自身でもそれをやるメリットは大きい。


 特定のキーワードと視覚効果の設定。これをバッチリ決められれば、誰にとっても分かり易い。単純に魔法の効果上昇だってあるに違いない。

 今までは特に何もなくやってたけど、闘身転化魔法は特別な魔法だ。ぜひやってみようじゃないか。


「そうね……まず思い浮かぶのは、奥底から湧き上がるマグマのイメージかな」


 すると赤いオーラみたいなのが順当か。うん、これは誰が見ても分かり易いしイメージも簡単だ。

 色付けなんて単純で、私たちなら造作もなく可能だ。それに色の補強があるとパワーアップした感が増す。

 たぶん、これの色の濃度の上げ下げで出力のコントロールもやり易くなると思う。よし、見た目のインパクトも含めてこれに決めよう。


 次いでキーワードだ。

 これも色が決まった以上、それにちなんだのがいいと思える。


「マグマ、赤、赤系統……強力な赤ほど深い色……深紅、真紅、紅蓮、色のオーラ」


 オーラってのも悪くはないけど、ちょっと威圧感が足りない気がする。威圧感、威圧か。

 そんでもって、もうちょっと魔法発動のキーワードっぽくしたい。

 でも長いのはダメね、うーん。


「…………真紅のオーラ、紅蓮の威圧、殻を破って力を引き出す。うーん、こんな感じで最後にもう一声ってなると」


 しばらく考えて考えて、それっぽくてピンときたのを設定。

 実際にそれが実現できるか、調整しながら魔法を使ってみる。

 いくわよ……。


 奥底に眠ったマグマの如き力を引きずり出す。

 それこそが真の力、呼び覚ませ。


【――真殻撃砕レベルレイズ……紅蓮の武威(エクステリア)!!】


 カッと目を開くと、今まで以上の闘身転化魔法が発動できた。

 紅蓮の炎の如き赤いオーラを纏い、おぞましいほどの力を発現したこの姿。

 よし、完璧だ。

話し合いだけで終わるのもなんだと思いましたので、最後に新魔法のシーンを入れました。

"エクステリア"は外装的な意味合いの言葉を探していて、単純に響きがカッコ良かったので採用しています。

魔法自体は内側から力を引き出すものですが、見た目上は身に纏ったように見えているので、あえてそうしている感じです。

色々と考えて悩んだのですが、魔法の名称って難しいですよね……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >あんまりロスメルタに借りを作りたくない 仲は良いものの依存はせず、なぁなぁにも成らない この辺りの関係性とロスメルタの油断ならない感じが さすがの大公爵夫人で王都復旧の立役者として良い…
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