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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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狩猟採集生活

 今日から私たちは狩りを始める。

 そのため、出かける前に雑事を済ませてしまう。雑事とは言え、大事な用事だ。

 まずは行政区。これは商業ギルドの根回しがあったらしく、住民登録は驚くほどスムーズに終わった。これで街への出入りが楽になる。


 出発の前には、念のため商業ギルドに素材の売買について確認しておいた。すると私たちの目的である魔獣狩りや素材採集に対しては、大きな期待を寄せられてしまった。

 特に魔獣退治は感謝すらされる勢いで、獲得した素材は高く買い取ると言われるほどだった。こうなれば、やる気も上がるってもんだ。

 何がより高く売れるのかは知らないけど、そこはジークルーネやジョセフィンがある程度は知ってるだろう。ま、そこはあくまでもついで。私の本命は森での鍛錬にある。


 街で必要なことをさっさと済ませ、昼すぎには意気揚々と北東の森へ向かった。


 森までは道なりに進んでいけばいいだけで、これといったトラブルもなし。

 目的地はエクセンブラ周辺じゃ名の知れた採集地らしく、採集や狩り目的で誰かいる可能性は大いにある。でも昨今の状況からして、獲物を巡って争うことはない。十分以上にあるんだからね、まさか横取りするようなバカはいないだろう。


 誰も見かけない道を走って森の手前に到着したら、車両を停めて班分けだ。

 積極的に魔獣を狩るアクティブ戦闘班に、植物を中心とした森の恵みの素材採集班だ。それと採集班を守る護衛班も。


 単独行動は厳に慎むようにし、念のため全員に回復薬を持たせる。

 森の奥のほうには結構強い魔獣が出るらしいんだけど、戦闘班なら敵わない強敵がいたとしても逃げるくらいはできるだろう。

 そんなわけで適当な時間に私が合図を送るまではそれぞれで自由行動だ。


 今日の私は護衛班として、ソフィさんたちを守りながら周囲を警戒する。

 ここは鬱蒼うっそうとした感じはなく、気持ちのいい森に思える。そんな中で始まった採集作業。私としては具体的に何を採るのか知らないから、なかなか興味深い。

 ソフィさんやジョセフィンが中心となって、サラちゃんたちにその辺に生えてる草だとか、木の実を集めるように指示を出すのを見守る。暇だから口も出す。


「それって何に使うの? あれもこれも、バンバン採ってるわね」


 知識がないと雑草にしか見えない草が多い。木の実も見分けがつかないドングリみたいのが多いし。


「この辺りの植物は魔法薬に使える物が豊富にありますね。魔道具の材料になりそうな物もありますし、色々採れそうですよ」


 ソフィさんがホクホク顔で説明してくれる。子供の頃には近所の森でも、こうして素材集めをしたことがあるらしい。


「へー、魔法薬か」


 魔法薬は治癒魔法の派生形である薬魔法とは、まったく異なる系統のものだ。

 当然、作成には治癒魔法適正を必要としない。ただし回復薬とは違って魔力だけじゃなく、素材が必要になるのが面倒なところだ。魔法の適正じゃなく、素材や調合に関わる知識や技術が必要な分野で、それなりに難易度が高い。


 ところがだ。私の魔法適正である薬魔法はかなり応用が利く。

 実は魔法薬の範囲も全部とは言わないけど、大幅にカバーできてしまうのは実験済みだ。さすがは薬に関する特化型魔法と言える。

 言えるんだけど、私は実際の魔法薬を見たことや試したことがないし、私が作る薬は私のイメージにどうしても左右されてしまう。だからこの世界の魔法薬と同じものにはならないだろう。


 なんとなしに見てる間にも採集は順調に進み、当初考えてた以上のペースでみんな調子よく集めてしまう。そうして用意した籠がすぐに一杯になってしまった。私の麻袋も投入して、採集の鬼と化したソフィさんはどんどん指示を下しながら、自分でも袋に詰め込んでいく。


 護衛としては暇で魔獣が襲ってくることはなく、たまたまなのか採集や狩りに訪れた他人にも全然遭遇することなく時間が経過した。

 いくら人手不足とはいえ、数人くらいは見かけると思ったんだけどね。まあいい。

 日も傾いてきたし、そろそろ時間かな。


「ソフィさん、今日はそろそろ終わりにしよう。合図打ち上げるから、片付け始めて」

「はい、そうしましょうか」


 撤収の合図に魔法の閃光弾を複数打ち上げてしばらく待つ。

 どこまで行ってたのか結構な時間が経ってから、ガヤガヤと戦闘班が楽しそうに帰ってきた。うん、聞くまでもなく大猟だ。


「また随分たくさん狩ってきたわね」

「いやな、間引きされてないだけあって、森の奥のほうに行くと出てくるわ出てくるわ。これでも厳選して運んだんだぜ」


 楽しそうなのは結構なんだけど、戦果が多すぎる。ジープに載せきれるかどうか。

 無駄にするのは嫌だし、なんとかするしかないか。



 みんなで獲物と採集物を無理やり積み込んで、狭苦しい車内に乗って街に帰還した。

 門番に呆れられながらも感謝されるという不思議な一幕があってから、この大荷物を処分すべく商業ギルドに向かう。

 色々な素材が街では不足気味らしいし、これだけあれば喜ばれるだろう。


 立ち寄った商業ギルドではあらかじめ話してただけあって、スムーズに取引できた。思った以上にいい結果でだ。

 色々持ってきたから、いくつかは買い取り拒否や捨て値で買い叩かれる物もあると思ってたんだけど、そんなことはなく望外の報酬を得てしまった。


「はっはー! 笑いが止まらねえ!」

「だなっ! めっちゃ高値で売れたな」


 魔獣素材だけじゃなく、植物の採集素材の量が多かったこともあって、予想以上の高額報酬になった。まさにみんなの成果だ。

 この調子だと狩猟、採集だけで生計が立てられてしまう感じだ。もちろん私たちの戦闘力があってこそだし、人の出入りが少ない時機だからこその成果で、言うなればボーナスステージ状態なんだろうけどね。


 ともかく報酬は山分けして、今日の夜は自由行動とした。


「多少、羽目を外すくらいならいいけど、トラブルは避けなさいよ」

「大丈夫ですよ。ちょっと贅沢しに行くだけですから」

「分かってるって! 気持ちよく飲んで食うだけにしておくからよ」


 私の注意を聞き流しながら、元収容所組のロクデナシどもは意気揚々と酒場に向かっていった。

 いや、ホントにトラブルは勘弁して欲しいんだけどね。大丈夫かな。



 いまは必要以上に自重してる私はキキョウ会の良心、元村人組のソフィ、サラ、メアリー、ジークルーネとヴァレリアを伴って、大通りのちょっとお高いレストランに行ってみた。

 元村人組の彼女たちもいつの間に買ったのか、収容所の作業服じゃなく普通の街着に着替えてる。

 私とジークルーネ以外は高級店に慣れない様子で居心地が悪そうだ。ヴァレリアとサラちゃんは借りてきた猫のように行儀よく座ってる。


「緊張しすぎじゃない? 別にちょっと行儀が悪いくらいで怒られたりしないわよ」

「こういう店は初めてです、お姉さま」

「なんかムズムズする」

「ええ、なにかこう、落ち着かないですね」

「はははっ、普通にしていれば大丈夫だ。メニューを見てもよく分からないだろうから、食べたいものを教えてくれないか。わたしが適当に注文しよう」


 正直なところ私もメニューを見てもさっぱりだから、ジークルーネにおすすめを適当に頼むよう任せた。

 いわゆるコースじゃなく、単品で注文できるみたいだったから種類は多めに。健啖家の私はたくさん食べるんだ。

 そうして次々と運ばれた料理をみんなで平らげ、最後にはデザートで締めくくった。


 結論。高いだけのことはある。

 ソフィさんたちは美味しさのあまり感動し、いかに美味しいかを力説する始末だった。それを見てたらしい亜人のシェフが誇らしげにお見送りにきてくれて、こっそりとクッキーをお土産に包んでもくれた。受け取ったサラちゃんが嬉しそうで、私たちはいい気分で店を出る。


「ぜひまたお越しください。本日はありがとうございました」

「ええ、また必ず」

「おじちゃん、クッキーありがとう!」


 値段はともかく、味と料理人の人格、アフターサービスと申し分ないどころか素晴らしい。こういう店には繁盛して欲しいもんだ。

 今回は商業ギルドの受付嬢からお薦めされた店だった。あの受付嬢にはその内に贈り物でもしてあげよう。


 ちなみに店によっては女のみの客だと、お断りされる場合があるらしい。そんな店に間違って入って不愉快な思いをしたくないし、させたくもない。

 私だけの時ならともかく、誰かを誘って行った時なら最悪だからね。リサーチ大事。



 翌日も意気揚々と森での狩猟採集生活だ。

 今日の私は護衛班じゃなく、アクティブ戦闘班として動く。

 必要になるかどうかはさておき、森での戦闘経験を積むいい機会だ。足元も視界も悪いし、改めて考えてみると戦いにくい環境だと思う。

 本当は一人で気ままに狩猟をしてみたかったけど、単独行動を慎むように言ってるのは私だ。範を示すためにも、パートナーと一緒に行動しないといけない。例によって同行者はヴァレリアだけど、そこに不満はない。


 しばらく行動を共にして狩猟をやってみれば、ヴァレリアと一緒で良かったと改めて思う。

 ヴァレリアは狼獣人らしく森での活動はお手の物で、その動きや嗅覚にはとても敵いそうにないレベルにある。立ち回りや気の配り方は見てるだけで、大いに参考になった。勉強家の私にとっては学ぶべき素晴らしいパートナーだ。


「ヴァレリア、さっきの動きだけど、こんな感じかな?」

「さすがお姉さまです!」


 私がじっと観察したり、時折質問したりするからか、ヴァレリアは大いに張り切ってる。楽しそうでなにより。私も楽しいけどね。


 立ち回りや気配の感じ方、消し方は時間と経るごとに、どんどん上達する実感があった。

 いまも三角跳びの要領で襲撃し、魔獣を仕留めたところだ。

 直接攻撃するだけじゃなく、投擲も面白い。変化球での狙い撃ちや跳弾による間接狙撃とかね。

 なんでも試してみれば、やれることが増えていく。

 いやー、狩りって楽しい。



 充実の狩猟活動を夢中になってしばらく続けたところで、護衛班から撤収の合図が上がった。もうそんな時間か。


「お姉さま、もう時間みたいです」


 楽しい時間の終わりに残念そうなヴァレリアだ。

 微笑みながら私も楽しかったと撫でてあげると、途端に嬉しそうになるから現金なものだ。


「獲物は厳選して持って帰ろう」

「はい、少し狩りすぎたかもしれません」


 魔獣はどんどん間引いて欲しいと言われてるから問題はないけど、もったいない症候群が首をもたげる。それでも全部は持っていけないから、高く売れる魔獣や部位を適当に集めて集合場所に移動した。

 集合場所に戻ってみれば、私たちが最後で全員が揃ってる。


「なんか問題あった?」

「今日も特に問題ありませんね。昨日とは違って何組か冒険者らしき人を見かけたくらいでしょうか」

「へー、いたんだ。こっちは見かけなかったわね」

「トラブルでもなければ、不干渉が基本だからな。ユカリたちの戦闘音が響いていれば、まともな奴なら近寄らねえだろ」

「そういうもんか。けど、もしほかの誰かと問題が発生したら、すぐに合図を送ること。いいわね、みんな」


 こっちは女だけの一行だからね。不届きな輩がいてもおかしくない。気を付けねば。


「ああ、そうしよう。それにしても、今日も大猟だな」


 ほかの戦闘班や採集班も昨日と同じくらい大量に集めたみたいで、積み込みが大変だ。

 よし。街に戻ったら、今日も美味しいものを食べるとしよう!

もう少し日常回が続きます。

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