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建設局の新たなお仕事

「闘技場の経過は分かったわ。そこでプリエネたちには新しい仕事をやって欲しいのよ。フレデリカたちには、そのサポートをしてもらうことになるわね」

「予定は空けとけって話でしたからね! 建設ギルドからの依頼も小さいのしか受けられないって話はしてますよ!」

「こちらもサポートくらいであれば、新人教育にもちょうど良い仕事と思います。それでなにを?」


 前から考えてたし、みんなも思ってたことだと思う。


「この本部さ、手狭になってきたと思わない?」


 見習いから正規メンバーへの大量昇格はこれからも続く見込みだ。このままだと近いうちに色々と入りきらなくなる。

 事務局や情報局の仕事場としてもそうだし、寝泊まりする部屋はとっくの昔に枯渇してる状態だ。ついでに倉庫も狭いし、地下訓練場だって人数に比してかなり狭い。


「それでプリエネの出番ですか。新居を建てるのですね」

「おおっ、そいつは腕がなりますよ!」


 この本部にはそれなりの思い入れはある。ここを切っ掛けにして私たちはキキョウ会になったんだ。

 商業ギルドのジャレンスに勧められて購入を検討し、ここを欲しがってたブルーノ組の介入を退けた結果、キキョウ会を当時のメンバーで結成した。

 同じく初期メンバーのフレデリカだって、思い入れはあるだろう。


「手放す気はないから、支部として使い続けるけどね。でも私たちはマクダリアン一家を倒した、今や押しも押されぬ有力組織であり、その象徴としての意味でも新本部を作り上げたいと思ってる。どっちみち実務面でも必要だったんだし、プリエネたち建設局のメンバーが実力を伸ばした今、これを実行するにはいいタイミングじゃない?」


 建設局は時を経る中で十分な経験を積んだと太鼓判を押せる。メンバーも増えてるし、ギルドの仕事を通して足りない部分を補うコネも十分にある。内装は専門家の手が必要だけど、基礎や建物の大部分は建設局のメンバーでほぼやれるはずだ。

 事務局には経費の支出、資材の購入にサポートを頼みたい。あとは家具類の調達もかな。


「ここが本部でなくなるのは少し寂しいのですが、たしかにタイミングは今でしょうね。初期メンバーには、わたしから内々で話しておきます。当時の購入費用も、今なら問題なく精算もできますからそれもしてしまいましょうか」

「あたしらも気合入れてやりますけど、どこに造るんです?」

「もちろん、マクダリアン一家の本拠地よ。今あるのを潰して、ゼロからやってもらうわ」


 建物をそのまま使ったんじゃ、キキョウ会の象徴にはならない。

 あそこはいかにも悪党の大物が住んでますって感じの、金が掛かってそうで小奇麗で、昔ながらの悪徳政治家の屋敷って感じだ。ウチのカラーには合わない。

 ああ、そういえばあそこは戦いの痕跡が残ったままの荒れ放題だったかな? なんにせよ潰すからどうでもいいんだけど。


 それに我がキキョウ会は女所帯であっても、武で名を馳せる組織だ。

 本部の姿かたちからして、それを高らかに主張したい。

 見ただけで強大さを想像し、軽々に手を出せない、そんな雰囲気が新本部には欲しいと思う。


「イメージとしては、前に王都で拠点を作ったわよね? あれを今のプリエネたちの実力で超えて欲しいと思ってるわ」


 要塞のような拠点だった。あそこはロスメルタに譲ってやったけど、ウチの本部がそれに劣るわけにはいかない。

 圧倒的な威圧感と防御力を実現して欲しい。悪の組織の本拠地に相応しい威容を求める。


「お、おおっ! あの感じでいいんですね!? 任しといてくださいよ!」


 プリエネや結成前の建設局メンバーにとっては、あれが初仕事だった。あの仕事を切っ掛けにして建設局を作ったこともあるし、当時に勝る要塞を築き上げろってのは、いい目標にもなるだろう。


「とりあえずは、建設局で具体的な案を作っといてくれる? 次の幹部会で披露して、みんなの意見も盛り込みたいわ」

「それはいいですね。本拠地機能として、ここでは難しかったことも実現できそうです。事務局としても要望を考えておきます」

「こいつは俄然、楽しくなってきましたよ!」


 頼もしい返事だ。

 建設局のメンバーはそのほとんどが土魔法の魔法適正を持つ。私の鉱物魔法とは似て非なるものだけど、ハイレベルに至ったメンバーたちにはできることも多い。金属や宝石、魔導鉱物を生み出すような真似はできないけど、それ以外ならベテラン勢は私にも迫るレベルにある。

 最後の最後で極限の防御力を付与するのは私の役目になるけど、基礎のレベルが高ければ改造の負担は少なくなる。今のみんなの仕事なら、無駄な修正作業が発生しないからね。気合も実力も頼もしい。


 将来に向けた重要な一歩、その話を終えるとそれぞれの仕事に戻った。




 新たな本拠地の相談を終えて数時間後。

 旧マクダリアン一家の未支配領域の状況について情報局のメンバーに話を聞いてた時だ。私宛に手紙が届いたというので情報局員を帰らせ、中身を検めることにした。

 話を後日にしてまで手紙を優先したのは、差出人が大物だったからだ。


「バルジャー・クラッドか。また面倒なことを言い出さなきゃいいんだけど」


 互いに忙しい身だ。まさか遊びの誘いじゃないだろう。

 情報交換を名目にしたパーティーくらいなら、仕事を兼ねた息抜きでちょうどいいかもしれないけど。

 どれどれと読んでみると、なるほどね。


 内容を理解すると我が副長、ジークルーネの部屋に行く。今の時間なら私室にいるはずだ。


「私よ、ちょっといい?」

「ユカリ殿? 入ってくれ」


 いつも綺麗に整えられ、余計な物がないジークルーネの部屋は居心地がいい。

 余計な物がないと言っても殺風景じゃなく、品よく調度品があるといった感じだ。

 特に飾られた花瓶や絵画は季節によって変わるこだわりまである。花瓶には常に花が挿されてるし、爽やかな彼女の心を表すかのような部屋だ。


「どうしたのだユカリ殿。酒を飲みにきたという感じではないようだが」


 勧められたソファーに腰かけつつ、バルジャー・クラッドからの手紙をテーブルに乗せた。

 ジークルーネは受け取ってそのまま文面を読むと、なるほどといった顔を向ける。


「総会、のようなものと考えればいいのか。わたしとユカリ殿で出席のようだな」

「うん、総会ほど仰々しい感じじゃないらしいし、単純に三者会合よね」


 バルジャー・クラッドからの提案は、クラッド一家とアナスタシア・ユニオン、そしてキキョウ会の三者を集めての会合だった。

 今のエクセンブラで圧倒的な力を持つ三者だ。

 私たちキキョウ会は組織の規模でこそ奴らに劣るけど、一人ひとりが一騎当千や百人力の実力派だ。どこの誰にとっても、もう無視できる勢力じゃない。声をかけるのは当然と自信を持っていい。


「具体的な話の中身については書いてないけど、想像はつくわ。たぶん同じことを考えてるんだと思うし、それを明確に合意としておきいんだと思う」

「ああ、それと情報交換会の意味合いも強いだろう。互いに各陣営の詳細まで追っている余裕はないのと、闘技場関連の利権の話もあるかもしれない」

「そっちもあるか。まあ気軽に集まれる面子でもないし、ついでに議題に上がるかもね。すでに利益分配の話は詳細まで詰めてるはずだから、最終確認だけになるとは思うけど」

「ドン・クラッドと総裁であれば、つまらない話になることもないか。とにかく承知した、その日の予定は空けておこう」

「なんか予定あった?」

「大したことではないさ。我らの支配が及んでいない地域の視察をしようとしていたのだが、特には急がない」

「ああ、そういうこと。さっきまで情報局のメンバーに聞いてたけど、色々とあるみたいね。その機会には私も同行するわ」


 ジークルーネとはこうした打ち合わせはよくやるけど、外で一緒に行動する機会は少ない。会長と副長は一緒に行動するよりも、別々に仕事を片付ける場面がほとんどだ。

 だから一緒に外で仕事をする機会は互いに楽しみでもある。




 三者会合の提案を受け取ってから数日、約束の当日となった。

 場所は中央通りの高級レストラン。提案者であるクラッド一家がケツ持ちしてる店だ。

 主催者の都合でランチやディナーの時間帯を外れるから、料理は軽いツマミが出る程度だろう。別に不満はないけど、じゃあなんでレストランなのかと言えば、密談に適した部屋の用意があるし、中央通りなら三者が集まりやすい場所だからということだろう。


「まさか誰もいないとは……」

「紳士としてのマナーのなってない奴らね。いや、紳士と思うほうがバカだったか」


 少し遅れる程度の時間に行ってみると、まだ誰もきてなくて結局一番乗りで待つことになってしまった。ふざけた奴らだ。

 店の中や周辺にはクラッド一家の構成員がたくさんいて物々しい雰囲気だけど、ボスはまだ到着してなかったらしい。


 案内された奥まった部屋で待ち、腹いせに一番高いボトルでも入れてやろうかと思う。もちろん遅刻した奴らの奢りで。


「ユカリ殿、ご到着らしいぞ」

「ったく、仲良く一緒にご登場?」


 魔力感知で個人まで識別することは難しいけど、力の大小は分かる。特に総帥のような実力者であれば、力を隠してなければユニークな波長のようなものまであって丸分かりだ。

 それに店に到着した人数が多いことから、アナスタシア・ユニオンが大挙して乗り込んできたとは考えにくい。バルジャー・クラッドも一緒だと思われる。


「この感じだと《雲切り》はいないみたいね」

「彼は護衛として最強クラスだが、会合の提案者はドン・クラッドでもある。そのような戦力はあえて連れてこなかったと考えるべきかもしれないな」

「一応の礼儀ってわけね。まあ今の状況で下手なことをするわけがないってのもあるかな。総帥と一緒に登場ってことは、すでにあいつらは同盟組んでるようなものと思ってもいいのかもしれないわね」

「そうすると、我らとも同盟の流れになるのかもしれないな。同盟というと大げさだが、少なくとも以前のような不可侵協定のような話が出ても不思議ではない」


 それが本題で、もし想定外や突発的な問題が起こった場合の対処法なんかを話すんだと思ってる。


 二人で大人しく待ってると、ようやく待ち人が部屋に入ってきた。


「待たせたな、ニジョーオーファシィさんに副長のジークルーネさん」

「遅れたのは俺のせいではないからな」


 さん付で呼ぶのがバルジャー・クラッドで、言い訳をしたのがアナスタシア・ユニオンの総帥だ。

 それぞれお供を一人だけ連れた状態だ。


「待たせた詫びは別の機会に受け取ることにするわ。それで、見た顔と初めて会う顔がいるようだけど」


 バルジャー・クラッドのお供は前に見たことのある奴で、語り部チックなしゃべりをする初老のおじさんだ。


「ご無沙汰でございます。改めまして、わたくしめはバルジャー・クラッド様の秘書を務めます、クロードと申します」


 うん、名前までは完全に忘れてたけど、その語り口調には覚えがある。大陸西部に遠征する前の会合、たしかエピック・ジューンベルでロスメルタまで参加した会合でこいつには会ってる。その際には状況の説明役のようなことをしてたはずだ。


「こっちはつい最近、ベルリーザからやってきたダネルだ。お前たちに興味があるらしくてな、顔合わせの意味も含めて連れてきた」

「あなたがユカリノーウェ会長、そっちがジークルーネ副長だね。あたしはダネル、よろしく」


 総帥のお供は女だ。種類は不明だけど特徴的な耳が目立つことから獣人で、放つ気配が強者のそれだ。武闘派のアナスタシア・ユニオンらしい雰囲気ね。


「私たちの自己紹介は不要みたいね。興味があるならいつでもウチを訪ねるといいわ。外部の訓練相手は刺激になるからね」

「いいの? じゃ、近いうちに」


 分かりやすい態度にはむしろ好感が持てる。互いに値踏みをしながら、それでも友好的にやって行けそうな気がする。

 新顔含めて無駄に敵対的な奴がいないことから、このメンツなら話もスムーズに進みそうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新本部! 新居! 新しい基地! 良いですねぇ! 現在の本部には幹部だけでなくイチ読者としても思い入れが有りますが 軽~くリフォームした中古住宅から、真っ新な新築ですからね! >キキョウ会…
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